全身麻酔下の胸腔鏡検査:何がわかるの?どんな時に必要?痛みはない?安全性は?
更新日:2020/11/11
- 呼吸器学会指導医の馬場智尚と申します。
- このページに来ていただいた方は、胸腔内の腫瘍や、原因がわからない胸水、胸膜炎などがあり、全身麻酔下胸腔鏡検査を勧められ、どのような検査なのか知りたいと考えられているかもしれません。
- 局所麻酔下胸腔鏡と異なる点を中心に解説し、安心して検査を受けていただけるようにまとめました。
目次
まとめ
- 全身麻酔下胸腔鏡検査とは、全身麻酔を行って胸の中に胸腔鏡【きょうくうきょう】というカメラを挿入し、胸腔(肺を入れている筋と骨からなる空間)に余分に溜まった胸水【きょうすい】の原因を調べたり、胸腔にできた病変を摘み取って調べたりするための検査です。
- 全身麻酔で行うため、検査中に苦痛を感じることはありません。
- 検査時間は1時間前後ですが、肺を覆う膜が強くくっついていると時間がかかることがあります。
- この検査には、出血、気胸、術後の疼痛などのリスクがあります。
- 胸の中にたまった膿を掻き出したり、くっついてしまった胸膜をはがすなど、治療的な処置のために行うこともあります。
全身麻酔下の胸腔鏡検査ってどんな検査?
- 全身麻酔で行う胸腔鏡検査【きょうくうきょうけんさ】は、胸に溜まった液体(胸水【きょうすい】といいます)の原因を調べるため、また、胸の中にできた病変を小さく摘み取って診断をする、治療方針を決めるために行われます。
- また、肺の周りに膿【うみ】が溜まる膿胸【のうきょう】という病気の場合、たまった膿を掻き出すために治療として行います。
- 検査は全身麻酔をかけ、胸の皮膚を小さく切り開き、そこから胸の中に細長い胸腔鏡【きょうくうきょう】を挿入して行います。
- 全身麻酔で行うため、患者さんが検査中の痛みを感じないで済む、胸の中を十分に観察できる、炎症などで胸膜がくっついていた場合も対応できる、胸水がない患者さんでも実施できる、検査のための病変を採取することができるといったメリットがあります。
胸水って何?
- 肺の表面と胸の内側はそれぞれ胸膜【きょうまく】という膜でおおわれており、胸膜の間には胸腔【きょうくう】という空間があります。
- 胸水は、胸腔に溜まる液体のことです。肺が正常にはたらいており、胸の中いっぱいに膨らめるとき、胸腔の空間はほとんどなくなります。胸水もわずかしかありません。
- ところが何らかの原因で胸水が増えると、肺が圧迫されて呼吸が苦しくなります。
どういう人がこの検査を受けるべき?
- 胸腔の病変を診断する場合、とくに局所麻酔での胸腔鏡検査が不可能な場合や、膿が溜まっている場合の十分な治療を目的として、全身麻酔下胸腔鏡検査が行われます。
全身麻酔下胸腔鏡検査がすすめられる方
- 診断目的での検査:胸水が溜まる原因がはっきりしない方、胸腔に腫瘍がある方
- 局所麻酔では検査ができない方:胸腔に腫瘍があるが胸水が溜まっていない方、肺の表面をおおっている胸膜に病変がある方、胸膜どうしが強くくっついていることが予想される方
- 胸に膿が溜まっている方:局所麻酔よりも確実に膿を掻き出すことができます
実際には、どんなことをするの?
- 検査は手術室で行います。全身麻酔をかけたら、検査を行う方の胸を上側にして横に寝ます。
- 胸水の場合、超音波検査等で胸水がある位置を確認した後、皮膚を消毒して、1~2cm切り開きます。
- 内視鏡や処置具を出し入れするための短い管(ポートといいます)を皮膚に差し込みます。検査の目的や部位によって、ポートは1~3箇所使います。
- ポートから管を入れて溜まっていた胸水を抜いた後、胸腔鏡のカメラで胸の中を観察します。
- 病変の一部を摘み取ります(生検【せいけん】といいます)。肺や肺を包む胸膜に病変がある場合、摘み取った部分から空気が漏れないよう、自動で創部を縫い合わせる器具を使いながら行います。
- 検査が終わったら、ポートをとります。創部を洗った水などを体の外に出すための管(ドレーンといいます)を1本残して、皮膚を縫い合わせます。
- 患者さんを麻酔から覚まして、病室に戻っていただきます。
検査にかかる時間は?痛みはある?
- 検査は1時間前後です。胸膜がくっついていたりすると、より時間がかかることがあります。また、全身麻酔で行うため、麻酔をかけるための時間や、麻酔から醒ますための時間も必要です。
- 全身麻酔で行いますので、検査中に痛みを感じることはありません。ただし、検査後にポートを入れた創部やドレーンを入れているところに痛みを感じることがあります。
他にどのような検査法があるの?
- 胸腔鏡検査は局所麻酔でも行うことができます。簡単に行えますが、検査による痛みをしっかりコントロールできない可能性があります。また、胸水が貯留していない場合や、胸膜が強くくっついていると予想される場合、局所麻酔では実施できません。生検で摘み取ってくる病変も小さくなります。
- 胸腔の中にできた腫瘤であれば、CTで確認しながら針を刺す生検(CTガイド下生検といいます)でも診断が可能です。しかし、CTガイド下生検で診断が確定できなかった場合、CTガイド下生検が難しい厚みの少ない胸膜の病変の場合は、全身麻酔下胸腔鏡検査が使われます。
理解しておきたい リスクと合併症
- 胸腔鏡検査自体のリスク・合併症は、局所麻酔で行う場合とほぼ同じです。そのほか、全身麻酔によるリスクと合併症が加わります。
- ただし、全身麻酔で検査を行うため、検査中に合併症が起こった場合でも、すぐに対応することができます。
局所麻酔で行う場合と同等のリスク
- 出血に関わるリスク:胸膜どうしが強くくっついていた場合は検査を途中で中止することがあります。また、抗血小板薬・抗凝固薬を内服されている場合は検査前に一定期間、お薬を中止していただく必要があります。
局所麻酔で行う場合と同様の合併症
- 麻酔薬によるアレルギーや中毒:ショック、けいれん、不整脈、興奮などを起こすことがあります。
- 出血:輸血や外科手術が必要になるような大量の出血が起きることは極めて少ないです。
- 痛み:検査後に、ドレーンを入れた創部が痛む場合があります。
- 低酸素血症:検査中は一時的に酸素が不足して低酸素血症になります。
- 気胸:検査中に肺の表面をおおう胸膜を傷つけてしまい、肺から空気が漏れてしまうことがあります。
- 再膨張性肺水腫:大量の胸水を抜いたあと、肺にむくみが生じて酸素が取りこめなくなることがあります。
- 血圧低下・不整脈:大量の胸水を抜いた直後や、注射などの刺激に対する反射のために、血圧が一時的に低下したり、不整脈がでたりすることがあります。
- 血栓・塞栓症:抗血小板薬・抗凝固薬を飲むのを検査のために中止されていた方では、脳梗塞、心筋梗塞などが起こることがまれにあります。
- 発熱:検査後に数日間、熱が出ることがあります。
- 創部の感染・膿胸:まれにドレーンを挿入した部分に感染が起こったり、細菌が創部から胸腔に入り込んで膿が出ることがあります。
- 腫瘍の胸壁播種:胸水ができる原因が悪性腫瘍だった場合、胸腔鏡を差し込んだ創部から胸壁に腫瘍が広がってしまうことがあります。
- 死亡:この検査が原因の死亡率は0.01~0.34%と報告されており、非常に低いです。ただし持病があるなど、患者さんの全身状態によっても異なります。
全身麻酔によるリスク・合併症
- 人工呼吸器のチューブによるリスク:歯が欠ける、のどが痛む、声が枯れる、喘息の発作、喉頭のけいれん、肺炎などが起こることがあります。
- 全身麻酔薬による悪性高熱症:悪性高熱症とは、筋肉のこわばりと高熱が出る、深刻な遺伝性疾患です。全身麻酔がきっかけでこの病気があらわれることが、極まれにあります。
- その他:心筋梗塞・脳梗塞・脳出血や、エコノミークラス症候群ともいわれる肺塞栓症なども、まれに起こります。
検査後にこんな症状があったらスタッフに伝えてください
- ドレーンを創部から挿入しているので、痛みがあるかもしれません。痛みがある場合はスタッフに相談してください。必要に応じて鎮痛剤を処方いたします。
- ドレーンを挿入している部分に赤みや腫れがあったら、細菌に感染している可能性があります。早めにスタッフにお知らせください。