胃食道逆流症(GERDとNERD):どんな病気? 症状は? 検査や治療は? 治療後に気をつけることは?
更新日:2020/11/11
- 消化器内科専門医の樋口 和秀と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が胃食道逆流症/逆流性食道炎になっている?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察のなかで、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 胃食道逆流症は命にかかわるような病気ではありませんが、症状により日常生活に影響をおよぼし、生活の質をおとすことがあります。
- 早くに正しい診断を受け、適切な治療を受けることが大事です。
- 胃食道逆流症は生活習慣を見直したり、適切なお薬を服用することで多くの方は症状が解消され、精神的、社会活動を含めた総合的な活力、満足度の改善がえられます。
胃食道逆流症は、どんな病気?
- 胃食道逆流症は、主に胃の中の酸が食道へ逆流することにより、胸焼け(みぞおちの上の焼けるようなジリジリする感じ、しみる感じなど)や呑酸【どんさん】(酸っぱい液体が上がってくる感じ)などの不快な自覚症状を感じたり、食道の粘膜がただれたり(食道炎)する病気です。
- よく耳にする「逆流性食道炎」は胃食道逆流症のなかの分類で、実際に食道に炎症が起こっている状態をさします。
- 胃食道逆流症のなかの分類で、逆流症状はあるけれども食道にびらんがない病態を「非びらん性胃食道逆流症」とよび、英語の表記からNERD(ナード)ともよばれます。
医療従事者向けコラム:胃食道逆流症の英文表記
- 胃食道逆流症の英語表記はGastro Esophageal Reflux Diseaseです。頭文字をとるとGERD(ガード)ですね。
- 非びらん性胃食道逆流症の英語表記はNon-Erosive Reflux Diseaseです。頭文字をとるとNERD(ナード)です。
胃食道逆流症と思ったら、どんなときに病院へ受診したらよいの?
- 基本的に胃食道逆流症は命にかかわるような緊急性を伴う病気ではありません。
- ただし、胃食道逆流症と同じ症状をもつ病気として、がんや心臓病など命にかかわるものがあります。受診して必要に応じて正しい検査を受けるようにしてください。
胃食道逆流症と同じ症状をもつ病気の例
- 胸痛:心筋梗塞【しんきんこうそく】、大動脈解離【だいどうみゃくかいり】
- 胸がつかえる感じ、しみる感じ:食道がん、胃がん
よくなるために病院を受診する前に自分でできることは?
- 胃食道逆流症の症状の改善を目的に下記のことを行うことで症状が改善する可能性があります。
胃食道逆流症の症状を改善するために自分でできること
- 腹部を締めつけるようなきつい服装を避ける
- 食べすぎないようにする
- お酒をひかえる
- 油っこい食事(高脂肪食)を避ける
- 食後すぐに横にならない
- 寝る前3時間は食事をとらない、水分は可
- 就寝時は左側を下にして寝る
胃食道逆流症になりやすいのはどんな人? 原因は?
- 近年日本では胃食道逆流症の患者さんが増加しており、現在、成人の10~20%がこの病気にかかっていると推測されています。
- 原因として、食生活の欧米化(脂肪を多く含んだ食事など)が指摘されており、「肥満」との関連も指摘されています。
- 胃がんや胃潰瘍の原因とされる「ヘリコバクター・ピロリ菌」は、上下水道の完備により感染者が減少しました。その結果、日本人の胃酸の分泌が高くなっていることも、胃食道逆流症の患者さんが増加している一因といわれています。
- 「食道裂孔ヘルニア」は食道と胃のつなぎ目が物理的に上にせりあがった状態で、本来の逆流防止機能が弱まるため胃酸が食道に逆流しやすく、胃食道逆流症になりやすくなります。
- 「脊柱後弯症【せきちゅうこうわんしょう】(亀背【きはい】/円背【えんぱい】)」は、いろいろな原因により背骨が後方に凸に変形し背中が丸くなる状態で、食道裂孔ヘルニアを誘発しやすいとされています。
どんな症状がでるの?
- 胃食道逆流症の症状は「食道症状」と「食道外症状」の2つに大きく分類されます。
- 胃酸の逆流は食後2~3時間までに起こることが多いため、食後に症状を感じたときは胃酸の逆流が起こっている可能性を考える必要があります。
- 典型的な症状は以下のとおりですが、実際には表現するのに困るような感覚の症状をとることもあるため、かかりつけ医に相談してください。
典型的な食道症状
- 胸焼け:みぞおちの上の焼けるようなジリジリする感じ、しみる感じ
- 呑酸:酸っぱい液体が上がってくる感じ
- ものを飲み込むとつかえる感じ
典型的な食道外症状
- 胸が詰まるような急激な痛み(非心臓性胸痛といいます)
- 慢性的に咳が続いている
- 慢性的にのどの違和感が続いている
- 喘息:咳・たん・息苦しさ・喘鳴【ぜんめい】(息がヒューヒュー,ゼーゼーと音がする)
- 睡眠障害:就寝中に咳き込みや胸焼け症状を認める
- 虫歯
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- お医者さんに行くと、胃食道逆流症を診断するために次のような検査が行われます。
- 胃カメラ(上部消化管内視鏡検査):食道炎の程度を確認します。
- 問診票を用いた診断・治療のお薬を服用しての症状の変化による診断:胃カメラができない場合や症状が典型的な場合に行います。ただし、胃食道逆流症と同じ症状でもがんや潰瘍など重い病気が隠れていることがあるため、なるべく検査を受けるようにすすめられます。
難治性の方の検査
- 治療のお薬がききにくい“難治性”と呼ばれる方には以下のような検査が行われます。専門的な検査になるため、大学病院などの専門医療機関への受診が必要となります。
- 食道インピーダンス・pHモニタリング:細いカテーテルセンサーを鼻から胃まで挿入して普段の生活を行いながら24時間かけて測定します。胃から食道への逆流の回数や性状、症状との関連性を多角的に分析します。
- 食道内圧検査:カテーテルセンサーを鼻から胃まで挿入して食道の圧力を測る30分ほどの検査です。食べたものや逆流したものが正常に胃の中へ運べているかをみていきます。
どんな治療があるの?
内科的治療
- 胃酸の分泌を抑えるお薬が有効で、プロトンポンプ阻害薬(PPI)とよばれる薬がよく使用され、8週間の内服で多くの自覚症状や食道炎を治すことができます。
- PPIの8週間投与で効果が乏しい場合はお薬の増量や、飲み方の変更を行います。
- PPIに併用して、制酸剤【せいさんざい】、アルギン酸塩、消化管運動改善薬、漢方薬(六君子湯【りっくんしとう】)といったほかのお薬が使用されることがあります。
外科的治療
- お薬を使った内科的治療で効果が得られない場合や長期服用が必要となる場合、大きな食道裂孔ヘルニア(前述した食道と胃のつなぎ目が物理的に上にせりあがった状態)のある場合は、「噴門形成術【ふんもんけいせいじゅつ】」という手術が必要となる場合があります。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは? 治療の副作用は?
- 生活習慣の改善だけで症状の改善が得られるケースがありますので、詳細は次項の「予防のためにできることは」を参照ください。
- 治療のお薬のPPIはガイドラインで安全性は高いとされていますが、次のような副作用も懸念されています。
- 確定的な因果関係は証明されていないため、過度な心配は必要ありませんが、必要最小限の用量での加療が大切と考えます。
プロトンポンプ阻害薬の副作用
- カルチノイド
- 消化管感染
- 骨折
- 肺炎
- 消化吸収障害
- 認知症
- 慢性腎障害
- 心筋梗塞
予防のためにできることは?
- 日本では食生活の欧米化により胃食道逆流症の患者さんが増加しています。予防には次のような生活習慣に気をつけることが大切です。
予防のために日常生活で気をつけたい生活習慣
- お腹の締めつけがきつい服をさける
- お腹に力が入るような重い荷物をもたない
- 前かがみの姿勢をさける
- 食べすぎない
- 食べてすぐ横にならない
- 寝る3時間前は食事をとらない
- からだの右側を下にして寝ない
- 頭を高くして寝る
- 体重を減らす(適度なダイエット)
- 禁煙
予防のためにさけたい飲食物
- 高脂肪食
- 甘いもの
- アルコール
- チョコレート
- コーヒー
- 炭酸飲料
- 柑橘類
治るの? 治るとしたらどのくらいで治るの?
- 治療のお薬は8週間服用すれば効果が判定できます。
- 重症の場合は、お薬をやめると食道から出血したり、食道が狭くなったり(狭窄【きょうさく】)するため続けることが必要です。
- 軽症の場合は、一般的に重症化することは少なく、自然に治る人もいます。
- 患者さんの判断で、症状が出そうと感じた時点でお薬を飲み始め、よくなったら中止する「オンデマンド療法」という服用方法もあります。
- 自分の症状にあった治療法を主治医の先生と相談してください。
もっと知りたい! 胃食道逆流症
最新の治療法はありますか?
- 保険診療ではない治験レベルの段階ですが、抗うつ薬・抗不安薬の一部が食道の知覚過敏を改善することにより症状を緩和する可能性があると報告されています。
- 内科的治療に効果が乏しい「難治性胃食道逆流症」とよばれる患者さんのうち、適応・希望に応じて外科的治療を行うのではなく胃カメラ治療による噴門形成術が治験として行われています(現在、当科でもESD-Gという手法で治験を行っています)。
胃食道逆流症は子どもにも起こるの?
- 一般的に生まれたばかりの赤ちゃんはもともと逆流を防止する機構が未熟なため、胃の内容物が食道へ逆流する逆流現象はよく起こっています。
- 多くは成長とともに逆流防止機構が完成されるために改善しますが、ひどい場合は肺炎を起こしたり、心臓の拍動に影響を及ぼしたりすることがあります。
- 特に赤ちゃんは言葉で訴えることができないため、以下の症状を認める場合には小児科の先生と相談してください。
小児科医との相談が必要な症状(1歳未満)
- 食事を食べない
- 嘔吐を繰り返す
- 異常な体重減少
- 睡眠障害がある
- よく咳き込む、呼吸音が異常
小児科医との相談が必要な症状(1歳以上)
- 腹痛/胸やけ
- 嘔吐を繰り返す
- 食べ物の飲込みが悪い
- 喘息:呼吸するときにヒューヒュー、ゼーゼーと音がする。
- 肺炎を繰り返す
- 慢性的に咳がでる