胸腔ドレーン:どんな治療?どんな時に必要?痛みや苦痛は?安全性は?
更新日:2020/11/11
- 呼吸器専門医の飛野 和則と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご本人またはご家族が胸腔ドレーンを提案され、お悩みであるのかもしれません。
- 胸腔ドレーンは、きちんと適応を守れば安全な処置で、すぐに息切れなどの症状が取れるだけでなく、再び同じことが起こらないようにするための追加治療を行うこともできます。
- 私が日々の診察の中で、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしいこと」、「検査の前に患者さんから医療スタッフに伝えておいてほしいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 胸腔ドレナージとは、胸(肺と胸壁の間、胸腔【きょうくう】といいます)にチューブを挿入し、溜まった液体や空気を抜く処置です。
- 胸腔内に挿入するチューブを胸腔ドレーンと呼びます。
- 通常は30分以内に終わる処置で、息切れがつらいときに行うことが多いです。また、胸腔ドレーンはお薬を注入する治療にも使えます。
- あまり多くはありませんが、脈が遅くなって血圧が下がる、挿入部が痛む、胸腔内に血が出る、肺が傷つくなどの合併症を起こすことがあります。
- 必要性とデメリットをご理解いただいた上で、処置を受けるかどうか医師やご家族とよくご相談ください。
どんな治療?
- 肺と胸壁の間には胸腔【きょうくう】と呼ばれる空間があります。肺が破れたり、胸壁の膜に炎症が起きたりすると、胸腔に空気や液体(胸水【きょうすい】といいます)が溜まってしまいます。
- 胸腔ドレナージとは、胸腔にチューブを挿れて、溜まった液体や空気を抜く処置です。胸腔内に挿入するチューブを胸腔ドレーンと呼びます。
- 胸腔ドレーンを入れるときは通常、局所麻酔で行います。処置後は入院が必要ですが、特殊なキットを用いれば、外来でも管理できることがあります。
この治療の目的や効果は?
- 胸腔ドレナージの目的は、胸水や空気を抜くことで、息切れや胸の痛み、咳などの症状を改善することです。
- 感染症で胸腔に膿が溜まってしまった場合(膿胸【のうきょう】といいます)、膿を抜くこと自体が重要な治療になります。
- 怪我などで胸腔に血液が溜まってしまった場合(血胸【けっきょう】といいます)、血液を抜いて出血量を計測したり、血液で肺が圧迫されることを防ぎます。
- なかなか治らない気胸や胸水の場合、胸腔ドレーンから薬液を胸腔に注入して治療することがあります。たとえば膿がかたくてうまく抜けない場合などに、膿を溶かすお薬や生理食塩水を流し込んで溶かすことができます。
どういう人がこの治療を受けるべき?
- 下記のような方は、胸腔ドレナージの適用となります。
胸腔ドレナージの適用
- 大量の胸水が溜まり、胸腔に針を刺すだけでは改善しない場合
- 中等度以上の気胸の場合
- 感染症に伴う胸水で、抗生物質の投与のみで改善が見込めない場合
- 血胸がある場合
実際には、どんなことをするの?
- 事前の検査と患者さんのご準備、実際の流れを簡単にご説明いたします。
事前の検査
- まず、最も安全に穿刺できる位置と姿勢を決定するため、画像検査を行います。
- 胸水の場合は主に超音波を用いますが、CTが必要になることもあります。気胸の場合はレントゲンで十分な場合が多いですが、超音波やCTを用いる場合もあります。
- 胸の横(側胸部)から行うことが一般的ですが、安全に処置ができ、期待できる治療効果のバランスで決定します。
患者さんのご準備
- トイレを済ませていただいた後、血圧や脈拍などを測定し、ベッドまたは椅子で穿刺しやすい体勢を取っていただきます。また、パルスオキシメーターを装着し、酸素飽和度をモニタリングします。
胸腔ドレナージの実際の流れ
- 皮膚消毒後、胸に細い針を皮膚に刺し胸腔までを局所麻酔を行います。
- 麻酔が効いたのを確認し、メスで2cmほど皮膚を切開します。肋骨と肋骨の間の皮下組織を少しずつ広げていき、胸腔まで開通させます。
- この経路を通じて胸腔ドレーンを胸腔内に挿入します。適切な方向・深さで胸腔ドレーンを皮膚に固定します。この際、固定のために2~3針程度皮膚に縫いつけます。そして、再度皮膚を消毒し、ガーゼなどを上に被せます。
- 胸腔ドレーンは吸引ボトルにつなぎます。胸腔ドレーンが正しく配置されたかどうか、胸部レントゲン写真を撮影します。
- 処置にかかる時間は通常30分程度です。通常は処置室や病室で行いますが、挿入が難しいケースでは手術室で行う場合もあります。
他にどのような治療があるの?
- 胸腔にたまった空気や液体を抜くのに、胸腔ドレナージ以外の方法はありません。
- 気胸の場合は、患者さんによっては入院せずに胸腔ドレナージを受けることもできます。
治療を受けるにあたって注意することは?
- 処置当日または処置前数日間は、血液がサラサラになるお薬(抗凝固薬、抗血小板薬など)の内服を中止するよう指示されることがあります。出血のリスクがありますので、きちんと指示を守るようにしてください。
- 以前に歯科治療などで局所麻酔を使用した際に気分が悪くなった経験がある方は、その旨を事前に医療スタッフにお伝えください。
- 比較的若い方で、緊張や痛みから脈が遅くなり血圧が下がる迷走神経反射を起こす事があります。以前にそのような経験がある場合は、事前に医療スタッフにお伝えください。
理解しておきたい リスクと合併症
- 局所麻酔薬による気分不良を起こすことがあります。
- 比較的若い方で、緊張や痛みから脈が遅くなり血圧が下がる迷走神経反射を起こすことがあります。
- 胸腔ドレーンを挿入した部分が痛む、胸腔内に出血する、肺や横隔膜が損傷する、皮下組織に出血や空気が漏れる、胸腔内や皮下組織に感染症が起こることなどがあります。
- あまり確実なデータはありませんが、急激に大量(1回に1500ml程度)の胸水を抜いた場合に、一気に膨らんだ肺の中に体液が染み出してくる肺水腫と呼ばれる状態になることがあります。その際には、強い咳や呼吸困難が起きます。
- 胸腔ドレーンの中が液体や血液で詰まることがあり、その際は入れ替えが必要になることもあります。
- 胸腔ドレナージを行った後に痛みや呼吸困難などが現れたらすぐに担当医に伝えてください。
治療後に気を付けることは?
- 胸腔ドレーンを挿入した後、麻酔が切れると痛みが出ることが多いです。痛み止めで対応できますので、痛みがあればすぐに医療スタッフにお伝えください。
- 胸の痛みや息切れが悪化する場合は、合併症が起きている可能性がありますので、すぐに医療スタッフにお伝えください。
- 胸腔ドレーンを挿入している間も、吸引ボトルをカートに乗せて歩くことは可能です。
- 原因となった病気が改善したら胸腔ドレーンを抜きます。気胸は空気漏れがなくなってレントゲンで肺が広がったことが確認できたとき、胸水の場合は1日100mL以下になったときが目安です。
- 抜去後の傷は10日前後でふさがりますので、それまではシャワー程度で入浴を済ませるようにしてください。
よくある質問
どのくらいで胸腔ドレーンはとれますか?
- 若い方の気胸の場合、1週間以内のことが多いです。それ以上かかるような場合は手術を行うことが一般的です。
- ご高齢の方の気胸の場合、時間がかかることが多いです。
- 胸水の場合は症例ごとに大きく異なるので、主治医とご相談ください。