上腕骨の骨折:どんなけが? 大人と子どもは異なるの?症状は?治療法やリハビリは?完治するまでの時間は?
更新日:2022/05/20
- 整形外科のなかでも上肢を担当しています助川浩士と申します.
- このページに来ていただいたかたは,もしかすると「自分がけがをして上腕骨を骨折してしまったのでは?」「けがしたあとに子どもがひじや腕を痛がっている・・・」と不安を感じておられるかもしれません.
- いま不安を抱えている方や,まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました.
目次
まとめ
- 上腕骨の骨折とは,肩からひじまでをつなぐ骨(上腕骨【じょうわんこつ】)が,けがなどで折れてしまうことです.
- けがの後に腕,ひじ,肩の周りに痛みを感じた場合には,上腕骨を骨折している可能性があります.
- 特にお子さんの場合は骨折後に合併症を起こしやすく,後遺症も残りやすいので,骨折した?と思ったら早急に整形外科を受診してください.
上腕骨の骨折とは?
- 上腕骨の骨折とは,けがによって肩からひじまでつなぐ骨(上腕骨【じょうわんこつ】)が折れることです.
- 上腕骨は部位別に名前がついており,折れた部位で区別しています.肩の近くは近位部【きんいぶ】,ひじの近くは遠位部【えんいぶ】,肩とひじの間は骨幹部【こっかんぶ】とよびます.
上腕骨の骨折にはどんな種類があるの?
- 成人と子どもでは骨折しやすい部位や原因が異なるため,上腕骨の骨折にはいろいろな種類があります.
成人の場合
- ご高齢の方が転んだりすると,上腕骨の肩に近い部分が折れることが多いです(上腕骨近位部骨折).
- 腕相撲やスポーツの投球時によるエネルギーで,上腕骨の真ん中が折れることもあります(上腕骨幹部骨折).
- 高所から転落したときの衝撃で,上腕骨のひじに近い部分が折れることもあります(上腕骨遠位部骨折).
子どもの場合
- 鉄棒やうんていから転落したときに手をついて,上腕骨のひじに近い部分が折れることが多いです(上腕骨顆上骨折,上腕骨外側顆骨折).
上腕骨を骨折すると、どんな症状がでるの?
- 上腕骨を骨折すると,肩から手首にかけて下記のような症状が出ます.
上腕骨を骨折したときの症状
- 痛みがでる(多くの場合,激痛です)
- 腫れる
- 変形する
- 皮膚が赤や紫色に変色する
- 傷から出血する
- 手首や指が動かしにくい,しびれがある
- なお,傷口から骨が見えているような場合(開放骨折といいます),手が動かしにくい場合,お子さんでずれが大きい骨折の場合は緊急手術をすることが多いです.
医療従事者向けコラム:小児の骨折にはご注意を!
- 小児の骨折は合併症を起こしやすく,後遺症が残った場合に,日常生活やスポーツ活動に制限が出る可能性もあります.特に上腕骨顆上骨折と上腕骨外側顆骨折,この2つの骨折は注意が必要です.
- 上腕骨顆上骨折:小児の上肢骨折で最も多く,合併症として,神経や血管の損傷,血流障害(コンパートメント症候群)があり,合併症を防ぐためにも早急に手術の必要があります.血流不良を放置すると前腕の筋肉の壊死と神経麻痺(フォルクマン拘縮)がおこります.治癒後にひじの変形(内反肘)が残ることがあり,しばらくしてから神経麻痺を起こすことがあります.その際には追加で手術が必要なこともあります.
- 上腕骨外側顆骨折:2番目に多い骨折で,筋肉の牽引により骨折が離開しやすいため,骨癒合不全(偽関節)になりやすく,少しのずれでも手術を行うことがあります.治癒後にひじの変形(外反肘)を残こることがあり,しばらくしてから神経麻痺を起こすことがあります.その際には追加で手術が必要なこともあります.
救急車を呼ぶ必要はあるの?
- 傷があってそこから折れた骨が見えているような場合(開放骨折)や,高い所から落ちて大けがが予想される場合,命が危ぶまれる場合はすぐに救急車を呼んでください.
- 専門的な骨折治療が行える病院を受診していただく必要があります.
- ご自身で歩ける場合は,骨折したところを刺激しないよう準備していただき,できるだけ早く整形外科を受診してください.
お医者さんを受診するまでにできることは?
- 上腕骨を骨折したと思ったら,まずは骨折部に刺激をあたえないように添え木や包帯,スカーフなどの布(三角巾の代わり)で肩やひじを安定させてください.
- 氷のうで冷やすと,痛みをやわらげたり,腫れを予防するのに有効です.凍傷にならないよう,氷のうはタオル等でくるんで使ってください.
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 病院では下記の検査をすることになります.
検査の種類
- X線検査:どこの部位が折れているか,どのように折れているかを調べます.多くの場合は,X線検査で診断がつきます.比較のためにケガしていない側のX線検査を行うことがあります.
- CT検査:X線検査で診断がつかない場合や骨折の詳細を知りたい場合などに行います.
上腕骨を骨折したときの治療方法を教えてください
- 大きく分けて保存療法と手術療法の2種類があります.骨折した部位や程度,年齢,骨折による合併症を考慮し,患者さんとご家族との話し合いで決まります.
治療の種類
- 保存療法:骨折部位のずれが少ない場合,引っ張ってずれた部分を正しい位置に直します.そのあと,ギプスなどを用いて骨折した部位を動かないようにし,骨がくっつくのを待ちます.
- 手術療法:骨折部位のずれが大きい場合や骨が砕けている場合に行います.骨折部位をできる限り元に近い状態にし,プレート,スクリュー,鋼線などで固定します.
治療のあとに気を付けることは?
- ギプスなどで固定した場合,きつすぎたり,腫れが生じて手の先まで血液が行き渡らない場合があります.爪の色が普段より白かったり,赤黒かったりしたら,担当医に相談してください.
- 手は常に心臓より高い位置で保ってください.三角巾などで固定するとよいでしょう.
- 指や肩の運動が許可されたら,リハビリのスタッフの指導を受けていただきながら,積極的に動かしてください.手指がかたくなることの予防,むくみ予防になります.
- なお,骨折した部位のリハビリの開始時期など詳細なスケジュールは,治療方法や手術方法によって異なります.担当医の判断に従ってください.
どれくらいで治るの?
- 骨がくっつくまでの期間は子どもと大人で異なります.
- 子どもの場合は治療後3-4週で,大人の場合は6-8週で骨がくっつき始めます.3-6か月経過すると,強度も元に戻るとされています.
- 骨折した部位や程度,年齢,治療方法,生活習慣(喫煙,アルコール多飲)などによって,骨がくっつくまでの時間に差がでることもあります.
- なお,骨がくっつくのが遅い場合,くっつくのが止まってしまった場合は,骨移植術などの追加手術が必要なこともあります.
- 子どもの場合,その後の成長に障害を来すこともあります.
追加の情報を手に入れるには?
- 一般社団法人 日本骨折治療学会 ホームページ
- https://www.jsfr.jp/ippan/index.html