前立腺肥大症の手術:どんな治療?入院期間や費用は?術後の合併症は?
更新日:2020/11/11
- 泌尿器科専門医の舛森 直哉と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご自身またはご家族、お知り合いの方が前立腺肥大症と診断され、どのような治療法があるのかについて知りたいと考えておられるかもしれません。
- 前立腺肥大症に対する手術療法について理解するために役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
まとめ
- 前立腺肥大症に対する手術は、手術が絶対に必要である症例やお薬によって症状の改善があまり見られなかった症例に考慮されます。
- 肥大した前立腺組織を取り除くことにより、膀胱の出口における尿道(おしっこの通り道)の圧迫を改善し、おしっこに関する症状を改善します。
- お薬に比べると治療効果は高いですが、必ずしも症状が完全に回復するとは限りません。
- 手術中・手術後の出血や手術後経過観察中の尿道狭窄などの合併症があります。
- また射精障害が高い頻度で起こります。
どんな治療?
- 前立腺肥大症では、尿道に接する前立腺の移行領域(図1左)に、腺腫が発生し大きくなることで尿道を圧迫し(図1中)、おしっこに関する症状を引き起こします。
- 前立腺肥大症の手術は、移行領域に発生した腺腫を取り除くことで、おしっこに関する症状を改善させます(図1右)。
- 前立腺肥大症に対する手術は、前立腺がんに対して行われる前立腺を丸ごと取り出す根治的前立腺摘除術とは異なります。
図表1 前立腺肥大症の病態と手術
この治療の目的や効果は?
- 前立腺肥大症に対する手術療法の主な目的は、おしっこに関する症状を取り除いて、患者さんの生活の質を改善することです。
- 手術療法は、薬物療法に比べて、侵襲性 (身体にかかる負担)は大きいですが、高い治療効果が期待されます。
どういう人がこの治療を受けるべき?
- 前立腺肥大症に対する手術療法は、手術が絶対に必要である症例、お薬による治療によって症状の改善があまり見られなかった症例、に考慮されます。
手術が絶対に必要である症例
- 尿閉 (尿がピタッと出なくなり、お腹の下のあたりが張って苦しい)、肉眼的血尿(目で見てわかる血尿)、膀胱結石、腎機能低下、熱が出ている尿路感染症など、前立腺肥大症による合併症が起こった症例です。これらの合併症は、重症化して命にかかわることもあるので、症状の程度にかかわらず手術が必要です。
お薬によって症状の改善があまり見られない症例
- 前立腺肥大症に対するお薬には、肥大した前立腺を小さくするお薬(5α還元酵素阻害薬)と、前立腺内の筋成分の緊張を取るお薬 (α1遮断薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬)があり、尿道を広がりやすくします。
- これらのお薬を飲んでもおしっこに関する症状が改善しない場合、手術による治療が考慮されます。
実際には、どのような種類があるの?どんなことをするの?
- 前立腺肥大症に対する代表的な手術は、以下のように3つに分類されます。いずれの治療法も、麻酔をかけて痛くないようにして行います。通常1時間程度で手術は終了します。
経尿道的前立腺切除術
- 尿道から内視鏡(カメラ)を挿入し、内視鏡についている電気メスで、肥大した前立腺を内側から削りとります(図2左)。かん流液で出血を吹き飛ばしながら手術を行います。
- 全国でもっとも広く行われている手術です。
経尿道的前立腺核出術
- 大きくなった前立腺腺腫を、内視鏡に装着したレーザーを使用して外側からえぐりとります (これを核出といいます)。
- えぐりとった腺腫は、特殊な器械を用いて膀胱の中で細かく砕かれ、体外に排出されます(図2中)。
経尿道的前立腺蒸散術
- 大きくなった前立腺腺腫に内側からレーザーを照射して、組織を蒸発させます(図2右)。
図表2 前立腺肥大症に対する代表的な手術
理解しておきたい リスクと合併症
- 特に前立腺が大きな症例では、出血の危険性があり、まれに輸血を要します。また、かん流液の種類によっては、身体の中に水分が吸収され、体内の電解質バランスが崩れることがあります。
- 手術後は、数日間尿道に管が入っています。血尿が薄くなったら管を抜きますが、直後は前立腺のむくみにより排尿が円滑にいかなかったり、尿が近くなったり、排尿時に痛みを感じる場合があります
- 手術後1~2週間たってから、突然肉眼的血尿が出ることがあります。
- 手術後は、ほとんどの症例で射精障害が起こります。射精した感じはあるのですが、精液は膀胱の中に逆流してしまい、尿道の先からは出てこなくなります。しかし、身体に害はありません。
- 摘出した前立腺組織から、前立腺がんが発見されることがあります。この場合はさらに詳しい検査が必要になります。
治療後について
- 膀胱の働きが弱っている人では、手術を行ってもおしっこの勢いの改善があまり見られない場合があります。
- また、夜間頻尿(夜中におしっこに行きたくなる)などの症状が残ってしまう人もいます。
- 手術後、尿失禁(自分の意志とは関係なくおしっこが漏れてしまう状態)がしばらく続く人がいます。
- 手術療法の効果は長期間持続することが示されていますが、膀胱の出口の組織が硬くなったり (膀胱頚部硬化症)、腺腫が再発したり、尿道が狭くなったり (尿道狭窄)するなど、おしっこに関する症状が再び出てくる可能性もあります (図3)。
- 前立腺肥大症に対する手術を行っても、残った前立腺組織から前立腺がんが発生する可能性があります。
図表3 前立腺肥大症の再発・合併症