血管内レーザー焼灼術:どんな治療? 治療を受けるべき人は? 検査内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 血管外科専門医の古森 公浩と申します。
- このページに来ていただいた方は、ご自身あるいはご家族が大腿部や下腿部にできた静脈瘤の治療のために血管内レーザー焼灼術を提案され、耳なれない治療法に不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察のなかで、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 静脈瘤は、伏在静脈の中の弁が壊れて静脈が逆流し、血液がうっ滞して静脈が拡張、蛇行することなどにより生じます。
- 血管内レーザー焼灼術は、静脈瘤を伏在静脈全体にわたってレーザーの熱で焼き、静脈の壁全体に変性を起こして壊死させ、閉塞する治療です。
- レーザー焼灼により、静脈瘤により生じる下肢のだるさ、足のつりをはじめとするさまざまな症状の改善が期待されます。
- 大腿部の痛み、皮下出血、血腫、神経障害、血栓性静脈炎、皮膚のやけど、動静脈瘻、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの副作用があります。
どんな治療なの?
- 血管内レーザー焼灼術は、脚にできた静脈瘤を治療する方法で、弁が閉じなくなった静脈全体をレーザーの熱で焼き、静脈の壁全体に変性を起こして壊死させ、閉塞する治療です。壊死した血管は、やがてからだの組織に吸収されてなくなります。
静脈瘤って何?
- 静脈の弁が壊れると、血液が逆流して脚の静脈に血液がたまりがちになります。そうすると、静脈が拡張、蛇行し、太ももや膝から下の足の表面で静脈がこぶのように膨らみます。これを静脈瘤といいます。
- もともと静脈の弁はたくさんあるのですが、弁が1つ壊れて完全に閉じなくなる(弁不全といいます)と、血液の逆流によって静脈が太くなり、次々に残りの弁も閉じなくなってしまいます。そうすると、本来心臓にもどるべき血液が下肢にとどこおってからだをめぐらなくなり、痛み、だるさなどの症状を生じさせます。
コラム:静脈瘤が問題になる血管
- からだの表面近く、皮膚の下にある静脈を表在静脈といいます。
- 表在静脈である大伏在静脈、小伏在静脈で弁不全が生じると、静脈瘤につながります。
どんな目的や効果があるの?
- 静脈瘤はそのままにしておいても生命に危険がおよぶことは非常にまれですが、レーザー焼灼を行うことで次のような症状の改善が期待されます。
血管内レーザー焼灼術により改善される症状
- 静脈瘤が進むことにより生じる下肢のだるさ、足のつりなど
- 静脈うっ滞(血液の流れがとどこおった状態)症状が強くなると発生することがある、下腿~足部の皮膚炎や潰瘍
- うっ滞によって血液がかたまりやすくなり血栓がつくられることで生じる炎症や強い痛み(血栓性静脈炎)
実際にはどんなことをするの?
- 血管内レーザー焼灼術は、次のような手順で行います。
血管内レーザー焼灼術の手順
- まずエコー(超音波)で確認しながら、膝にある大伏在静脈あるいは下腿の小伏在静脈に針を刺し、頭の方向にシースとよばれる管を通します。
- 次に、エコーで静脈を確認しながら、その周囲にあまり強くない局所麻酔薬を全体にわたってしみ込ませます。
- この麻酔薬は痛みを感じないようにするためだけではなく、静脈をしぼませて血管の中の血液をなくし、レーザーの熱によって周囲の組織を傷つけるのを防ぐために使用します。
- その後、レーザーを出すファイバーをシースの中に通し、より深い部分の静脈を傷つけない位置から静脈全体にわたってレーザーの熱で焼きます。
- これにより静脈の壁全体が熱変性を起こし、壊死して閉塞します。壊死した血管はやがて組織に吸収されてなくなります。
- ファイバーを抜いた後、焼灼した静脈が閉塞していることと深部静脈が傷ついていないことをエコーで確認します。
- 場合によっては、小さく皮膚を切開し、下腿静脈瘤を切り取ることも同時に行うことがあります。
どんな効果が期待されるの?
- 血管内レーザー焼灼術を受けていただくことで、静脈瘤が経過とともに縮小する可能性があります。静脈瘤に伴うだるさや痛みなどの症状が軽くなることが期待されます。
- ただし、深部静脈と表在静脈をつなぐ血管(交通枝といいます)に逆流があり、そこが残ってしまった場合などは、一部の静脈瘤がよくならない可能性があります。
- また、皮膚の色素沈着は消えません。
どんな副作用があるの? その対処法は?
- 血管内レーザー焼灼術には、太ももの痛み、皮下出血、血腫、神経障害、血栓性静脈炎、皮膚熱傷、動静脈瘻、深部静脈血栓症、肺塞栓症、EHITなどの合併症があります。
皮下出血
- 静脈壁の過剰な熱変化で静脈壁に穴があくため、半数以上の方に皮下出血が見られます。
静脈血栓塞栓症
- 治療の必要のある静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症や肺塞栓症)がおこることは、血管内レーザー焼灼術において比較的まれです。
- ただし、重症になる場合もありますので、予防のために弾性ストッキングを履くことや、できるだけ早くから起き上がって歩くことが重要です。
EHIT
- EHIT(endovenous heat - induced thrombus)とは、血管内レーザー焼灼術後、血管内皮が熱で傷つくことによって、深部静脈とつながる部分に血栓が発生することを言います。
- 重篤な場合、静脈血栓塞栓症の原因になることもあります。
この治療を受けなかった場合はどうなるの?
- 静脈瘤を放置しても生命に危険がおよぶことはほとんどありませんが、症状が悪化する可能性があります。
ほかにどんな治療があるの?
- 静脈瘤の代表的な治療法としては、ほかに次のようなものがあります。
そのほかの治療法
- 圧迫療法(弾性ストッキング装用):弾力のあるストッキングを履いていただき、血管を圧迫します。手術をしないで症状をやわらげる、保存的な治療です。
- 高位結紮+硬化療法:血液が逆流してこないように大伏在静脈をしばり、残った静脈瘤に硬化剤というお薬を注射して、まわりの血管をふさいでしまう治療法です。
- 大伏在静脈抜去術(ストリッピング手術):小さく皮膚を切開して大伏在静脈に金属のワイヤーを入れ、静脈瘤とともに抜き取ってしまう治療です。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 日本静脈学会による「下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術のガイドライン2019」が、以下のホームページでご覧になれます。
- http://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2019/07/下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術ガイドライン2019-.pdf