甲状腺機能亢進症って何? バセドウ病と同じ? 原因は? 治療方法は?
更新日:2020/11/11
- 甲状腺・内分泌代謝科・総合内科専門医の田上 哲也と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が甲状腺機能亢進症になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 甲状腺機能亢進症とは、甲状腺の働きが過剰になっている状態をいいます。
- 甲状腺ホルモンの主な働きは新陳代謝を活発にすることです。甲状腺ホルモンが多すぎると、体の働きが活発になります。
- 症状としては胸がドキドキする、息苦しい、暑がり、手のふるえ、食欲はあるのに体重が減ってしまう、下痢などがあります。
- 甲状腺機能亢進症は甲状腺異能が亢進している病気の総称であり、有名なバセドウ病は甲状腺機能亢進症の一つです。
- 治療が必要かどうかは、甲状腺機能が活発となる原因の病気によって異なります。
- 普段と違って、暑がりになったり、胸がドキドキするようなときは病院を受診してください。
甲状腺機能亢進症とは?
- 甲状腺機能亢進症とは、甲状腺の働きが過剰になっている状態をいいます。
- 甲状腺は、のど仏の下の方にあるチョウチョの形をしている臓器で、甲状腺ホルモンという身体の活動を活発にするホルモンをつくっています。
- 何らかの原因で、甲状腺の働きが亢進し、血液中の甲状腺ホルモンが過剰になってしまうことがあるのです。
甲状腺機能亢進症はバセドウ病と同じ?
- バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の原因となる病気で、最もよくみられます。
医療従事者向けコラム:その他の甲状腺亢進症
- ほかに甲状腺機能亢進症になるものに、橋本病(無痛性甲状腺炎)や亜急性甲状腺炎,プランマー病,妊娠に伴うものなどがあります。
甲状腺機能亢進症の症状は?
- 甲状腺ホルモンの主な働きは新陳代謝を活発にすることです。甲状腺ホルモンが多すぎると、体の働きが活発になりすぎて、次の症状が出ます。
甲状腺機能亢進症の症状
- 胸がドキドキする、息苦しい
- 暑がり、汗かき
- 手のふるえ
- 食欲はあるのに体重が減ってしまう
- 便がやわらかい、下痢
- イライラする
- だるい、疲れやすい、集中力の低下
- 力が入らない
- 髪の毛が抜ける
- (バセドウ病の場合)目がとび出る
- (女性の場合)生理の乱れ
自然に治りますか?
- 甲状腺機能亢進症の中にはさまざまな病気が含まれており、自然に治るものと治らないものがあります。
- 橋本病による無痛性甲状腺炎は、甲状腺の一時的な炎症により、蓄えられていたホルモンが血液中に出てしまうものなので、炎症がおさまれば自然に治ります。ただし、橋本病自体は治りませんので、将来、逆に甲状腺機能低下症になることがあります。
- 亜急性甲状腺炎はウイルス性の甲状腺炎で、炎症がおさまれば元に戻ります。発熱や痛みを伴いますので、治るまでは痛み止めや解熱剤を飲んでもらうことになります。
- 妊娠に伴うものは、中期以降に自然におさまります。
- プランマー病は甲状腺に出来たポリープが過剰にホルモンを出すことによる病気のため、手術で取り除く必要があります。
- バセドウ病は自然には治りません。お薬で甲状腺の働きをおさえたり、刺激で大きくなった甲状腺を放射線や手術で小さくしたりすることになります。
甲状腺機能亢進症では日常生活にどのような注意が必要ですか?
- 甲状腺機能亢進症では安静にしていても常時運動しているような状態にあります。したがって、下記のようなことに気をつけましょう。
日常生活で気をつけること
- 規則的な生活を行い、十分な睡眠をとる
- ホルモンが落ち着くまで、激しい運動や手術、抜歯や侵襲を伴う検査は避ける
- ストレスになるようなことも出来るだけ避ける
- 禁煙 (特にバセドウ病の方)
- 喫煙は眼球突出(目がとび出てくること)の悪化の原因になります。
- 食事内容に制限はありませんが、甲状腺機能が落ち着いても同じ量を食べていると体重が増えますので、食べ過ぎに注意してください。
- 日常のヨウ素摂取は特に制限する必要はありません。
甲状腺機能亢進症の治療方法は?
- バセドウ病は体質によって、自分の甲状腺に対する抗体ができ、その抗体が甲状腺を無制限に刺激して、甲状腺機能が活発になってしまう病気です。
- 自然には治らないので、下記のようなお薬、放射線や手術をして治療します。どの方法を選ぶかは、医師と相談してください。
お薬
- 甲状腺がホルモンをつくるのを抑えるお薬を飲みます。「メルカゾール」か「チウラジール」、「プロパジール」という名前のお薬です。
手術治療
- 甲状腺機能亢進症の原因はさまざまありますが、甲状腺を刺激する物質がつくられていることがあり、それにより甲状腺が大きくなります。大きくなった甲状腺の一部または全部を手術で取ることで、甲状腺ホルモンをたくさんつくれないようにします。
放射線治療
- 甲状腺ホルモンの材料になるヨウ素に、放射線を出す物質をくっつけたカプセルを飲みます。甲状腺だけに取り込まれるため、甲状腺内で放射線を発し、大きくなった甲状腺を小さくすることができます。
お薬の副作用は?
- お薬にはメルカゾールとチウラジール(プロパジール)があります。どちらも古くからある薬でその安全性についてはよくわかっていますが、特に注意が必要な副作用が2つあります。
- まれにばい菌をやっつける細胞が減ってしまうことがあります。急に高熱やのどの痛みが出たら、すぐに病院を受診してください。かぜではなくお薬の副作用であることが分かったら、お薬を中止します。お薬をやめると良くなります。
- まれに肝臓の機能が大きく障害されることがあります。症状が出にくく自分では気づきにくいため、定期的に血液検査をして、肝臓の機能を確認します。
- この他の副作用として、じんましんがよくあります。じんましんが出た場合、かゆみ止めを一緒に飲むことが多いです。
バセドウ病は遺伝しますか?
- バセドウ病の原因を引き起こす遺伝子の異常はまだ解明されていません。
- しかし、お母さんがバセドウ病の場合、お子さんもバセドウ病になる確率は高まることが分かっています。さらに、お母さんがバセドウ病になった年齢よりも早く発症することがあります。
- お子さんが小学生以降に、落ち着きがなくなったり、学校の成績が急に落ちたり、体重の増加がとまったりしたときは、かかりつけ医に相談してください。首が腫れてきてないかもチェックしてみてください。
甲状腺機能亢進症でも妊娠・出産は可能ですか?
- 甲状腺機能がきちんとコントロールされていれば、安全に妊娠・出産が可能です。
- 妊娠の予定がある方は甲状腺専門医の治療を受けてください。妊娠中に病気がわかった場合も、専門医による治療が必要です。
妊娠中はお薬を飲み続けても大丈夫ですか?
- メルカゾールというお薬は、妊娠中に飲んでいたお母さんから奇形の赤ちゃんが生まれたという報告があります。ただ、お薬を飲まずに甲状腺機能亢進症を放っておくと、流産・早産が高い確率で起こります。
- 一方で、奇形はお薬を飲んでいない方でも一定の割合で起こります。
- 「チウラジール」「プロパジール」といったお薬に変えることができます。今後妊娠を考えている方は、主治医と相談してみてください。
赤ちゃんへの影響はないのですか?
- バセドウ病の原因である甲状腺を刺激する物質は、胎盤を通して赤ちゃんにも届くのですが、お母さんが飲んでいるお薬も胎盤を通して赤ちゃんに届きます。ですから、お母さんのおなかの中にいる間は、お母さんのバセドウ病を治療することで、赤ちゃんの治療も一緒に行っていることになります。
- 甲状腺を刺激する物質はお薬よりも長く赤ちゃんの体に残るので、生まれた後しばらくは赤ちゃんが甲状腺機能亢進症になることがあります。ですが、数ヶ月以内にその物質が消えると、自然によくなります。
妊娠中は落ち着いていた甲状腺機能が出産後に悪化しました。再発でしょうか?
- バセドウ病では妊娠中に落ち着き、産後は妊娠前の状態に戻ることが多いです。
- ただ、妊婦さんの3人に1人は、産後に甲状腺が一時的な炎症を起こすことがあり、どちらであるかの判断は難しいです。主治医に相談するのが良いです。
治療中ですが、授乳は可能ですか?
お薬
- メルカゾールなら1日2錠まで、チウラジール,プロパジールなら1日6錠まで授乳して大丈夫です。
放射線被爆が問題になっていますが、アイソトープ治療は安全ですか?
- アイソトープ治療は80年の歴史があり、安全であることが分かっています。治療を受けて、癌になりやすくなるということはありません。
- ただし、妊娠中や授乳中は受けられません。また、治療を受けたあと半年間は避妊が必要です。
- 将来、甲状腺機能低下症になることがありますが、副作用のない甲状腺ホルモン薬をのむだけで健康な状態が維持できます。
アイソトープ治療はいつでも可能ですか?
- 妊娠中や授乳中は、受けることができません。それ以外の期間なら、基本的に可能です。
治療を受ける際の注意
- 治療前1~2週間は、ヨウ素を多く含む海藻類などを食べないようにします。
- 治療後半年間は、妊娠しないようにしていただきます。
- 甲状腺を壊すことで、甲状腺を刺激する物質が一時的に増えるので,一時的に眼球突出(目が飛び出ること)が悪化することがあります。事前に治療を受けておかれることをお勧めします。
手術の合併症は?
- 首にある甲状腺のまわりには、血管や神経がたくさん通っています。とくに、声を出す神経が傷つくと、術後、一時的に声が出なくなることがあります。
- 甲状腺の裏側には、血液中のカルシウムの量を調節する、副甲状腺という臓器があります。これが傷つくと、カルシウム不足になって、手足がつったりします。ビタミンDの補充で治ります。
手術の傷跡は目立ちますか?
- できるだけ目立たないように工夫されています。
- 施設によっては、傷口をわきの下にしたり、内視鏡(カメラのついた細い管)を使う方法で傷を小さくしたりしています。
- 通常の方法(首元を切って、甲状腺を取ります)でも、ネックレスで隠せる程度の傷ですみます。