胃・食道の内視鏡的粘膜切除術(EMR)(ESD):どんな治療?治療を受けるべき人は?治療内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 内視鏡専門医の田邉 聡と申します。
- 胃や食道の内視鏡的切除はマスコミなどでも良く目にする治療法です。身体への負担が軽いことから、内視鏡的治療を希望する患者さんも増えています。
- 私が日々の診療の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「きちんと理解してほしいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 内視鏡的切除術は、胃や食道の早期の腫瘍を取る治療で、臓器は治療前のままに温存されます。
- 身体への影響が少なく、日常生活への復帰も早いです。
- 内視鏡的切除術は転移のない胃・食道の早期がんに対して完治を目的として行います。
- 適応に関しては主治医と良くご相談ください。
- 内視鏡的切除には、EMRとESDの2つがありますが、現在ではESDが主流で行われています。
- 内視鏡切除の合併症には、出血と穿孔があります。
- いずれも、内視鏡治療により対応が可能ですが、極まれに外科的治療が必要な場合があります。
- 切除した病変が取り切れているか、転移しない条件を満たしているかの評価が重要です。
- 内視鏡治療後も定期的に内視鏡検査を行い、再発の有無、異なる場所に新たな病変が発生してこないかを経過観察していきます。
どんな治療?
- 内視鏡的切除術は、胃や食道の早期の腫瘍の部分だけを取る治療です。
- 臓器は治療前のままに残されます。
- 治療後は食事が十分摂取できない、食後に嘔気や痛みがあるなどが発生せず、身体への影響が少ないです。
- 日常生活への復帰も早いです。
どういう人がこの治療を受けるべき?
- 内視鏡的切除術はあくまでも局所治療であり、がんの転移(リンパ節転移など)に対してはまったく無力です。
- したがって、転移のない早期がんの人に対して完治目的として行います。
- 胃がんと食道がんでは転移をするかどうかの条件が異なります。
- 主治医とよく相談して内視鏡的切除術の適応を決めることが重要です。
- 内視鏡的切除後の、その組織を調べる検査で転移の可能性がある病変の場合には、胃では追加の外科治療、食道では追加の外科治療あるいは化学放射線療法(抗がん剤と放射線の併用療法)などが必要となります。
実際には、どんなことをするの?
- 内視鏡的切除には、EMRとESDの2つの術式がありますが、現在ではESDが主流で行われています。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
- 胃・食道いずれも2cm以下の小さな病変が対象となります。
- 短時間での治療が可能です。
- EMRにはストリップバイオプシー法とキャップ法の2つの方法があります。
- ストリップバイオプシー法は、病変の下に薬液を局注して病変を拳上し、把持鉗子で病変を引っ張りながら、スネアと呼ばれるワイヤーで絞扼切除します。
- キャップ法は内視鏡の先端にキャップを装着し、薬液を局注して膨隆させた病変を吸引し、スネアと呼ばれるワイヤーで絞扼切除します。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
- 胃では2cmを超える病変、潰瘍を合併するような病変に対して、病変の大きさに合わせて一つの標本で切除することができます。
- 食道についても、2cmを超える病変を切除することができます。
- 病変の周囲に印をつけ、病変周囲に薬液を局注して膨隆させます。
- 特殊な高周波ナイフを用いて、マーキングの外側の粘膜を切開し、その後粘膜下層を剥離して病変を切除します。
- EMRと比較すると手技が複雑で操作が難しい面がありますが、病変の大きさに合わせて確実に切除することができます。
- ESDは病変を取り残しなく切除が可能な方法で、広く普及しています。EMRと比較すると治療時間が長い傾向があります。
理解しておきたい リスクと合併症
- EMR、ESDいずれも術中の出血、穿孔があります。
出血時の対応
- 術中出血は高周波止血鉗子で止血をします。
- 食事の開始後に出血がおこることがあり、その場合には再度内視鏡検査を行い、内視鏡的に止血処置が必要な場合があります。
- ごく少数ですが、輸血が必要な場合があります。
穿孔時の対応
- 術中穿孔については、クリップで縫うことで対応が可能です。
- 穿孔した場合には、食事の開始が少し遅れます。
- ごく少数ですが、緊急の外科的治療が必要になることもあります。
- 食道の大きな病変を切除した場合には食道の内腔が狭くなり、食事がスムースに通らなくなることがあります。
- 最近では、狭窄予防のための薬剤局注法や内服薬などの開発が進められています。
- 施設によって異なりますが、胃・食道の内視鏡的切除術では1週間前後の入院が必要となります。
治療後について
- 切除した場所には胃潰瘍・食道潰瘍ができます。
- 後出血の可能性が切除後2週間あるので、その間は下記のことに気をつけてください。
術後2週間気をつけること
- 刺激物を避けた消化の良い食事
- 飲酒を控える
- 激しい運動は控える
- 切除後の潰瘍が治るのには2ヵ月かかりますので、抗潰瘍薬を服用していただきます。
- 食道の大きな病変を切除した場合には、狭窄により食事がスムースに通過しない症状が発生します。我慢せずに、主治医にご相談ください。
よくある質問
治療後の経過観察はどのようになりますか?
- 治療後に切除した病変が転移しない範囲の病変であり、取り切れていたかどうか(治癒切除)の判定を行います。
- 治癒切除が確認されれば定期的に内視鏡検査を行い、治療部位の再発、他部位に新病変が出てこないかを見ていきます。
- 転移の可能性がある範囲の病変、あるいは取り残しがある場合には、内視鏡的な追加治療、あるいは外科的追加治療が必要かを検討します。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 胃癌治療ガイドライン2018(金原出版)、食道癌診療ガイドライン2017(金原出版)が参考になります。