経皮的酸素飽和度測定法とパルスオキシメーター:どんな検査?検査を受けるべき人は?代替手段やリスクは?
更新日:2020/11/11
- 呼吸器専門医の古藤 洋と申します。専門は喘息やCOPD、慢性および急性呼吸不全です。
- 息苦しさを感じる患者さんが多い領域ですので、パルスオキシメーターについて患者さんから尋ねられることが多く、「手に入れてご自分で測ってみたい」と希望されたり、すでにお持ちの患者さんが「値が少し下がった」と慌てて電話してこられることもしばしばです。
- このページを見ていただいている皆さんも、同じような希望や疑問・不安をお持ちではないかと考え、簡単に情報をまとめてみました。
- 測定は簡単ですが、結果を正しく解釈して治療に役立てたり過剰な不安を感じないようにするには、それなりの基礎知識が必要なのです。正しい知識を身につけて、日本人が発明したこのすばらしい器械の良さを最大限に発揮しましょう。
目次
まとめ
- 経皮的酸素飽和度測定法とは、パルスオキシメーターという器械を使って、動脈の血液に含まれる酸素の量を推定する検査です。
- ご自身にパルスオキシメーターが必要かどうか、また、自分が安定している状態の値や目標値について、主治医の先生とよく相談してください。
- 測定値が予想より低ければ、早めに医師に相談してください。測定値が変でも、体調がかわらなければ慌てずに、うまく測定できているかをチェックしてください。
経皮的酸素飽和度測定法ってどんな検査?
- 経皮的酸素飽和度測定法とは、針を刺さずに動脈の血液に含まれる酸素の量を推定する検査です。一定時間測定して、その平均値が示されます。
- パルスオキシメーターという器械を使います。測定部分のセンサーには、指先を挟み込むようなクリップや、皮膚に貼り付けるばんそうこうタイプのものがあります。
- 針を刺さないので、医療関係者でなくても測ることができますが、簡易検査ですから血液を採取して行う検査と比べれば酸素の量に関する情報量は若干劣ります。また、二酸化炭素もパルスオキシメーターでは測定できません。
- 検査のメリットを十分に活かすために、繰り返して測定することが重要です。
コラム:パルスオキシメーターの測定原理
- 血液中で酸素を身体の各所に運搬している主役は、赤血球の中にあるヘモグロビンという分子です。ヘモグロビンに酸素がつくと鮮やかな赤い色(動脈血の色)になり、酸素を手放すと暗赤色(静脈血の色)になります。
- この色の違いを利用して、動脈血液中のヘモグロビンのうち何%が酸素とくっついているかを測定するのがこの検査です。この値をヘモグロビンの酸素飽和度(略語ではSpO2【えすぴーおーつー】)と呼びます。
- 動脈血の色だけを取り出すため、脈を打って流れている成分を抜き出して測定するところに工夫があります。ですから、ほとんどの器械で脈拍が同時に表示されます。脈拍数が一定せず大きく変動したり、脈を示す表示の振幅が小さいなどの場合はSpO2の測定値は信頼できません。
どういう人がこの検査を受けるべき?
- 下記のような方は、パルスオキシメーターの購入とご自宅での実施を検討していただくことがあります。
パルスオキシメーターを受けていただく人
- 自宅で酸素を吸入している(在宅酸素療法)方
- 動くと酸素の値が下がる恐れがある方
- 慢性の呼吸器の病気があり、体調の変化で酸素が低下する可能性がある方
- なお、睡眠時無呼吸で、寝ている間の酸素の下がりが知りたい場合は、測定値を長時間記録して後日コンピュータで読み出す必要があります。この器械を使用したい場合は病院や在宅酸素療法業者が貸し出してくれますので相談してみてください。
必要のない方
- 健康な人にとっては必要ありません。SpO2は96〜99%の範囲で値が出るだけで、特に健康状態の指標にはなりません。
- 喘息の発作で調子が悪い時にのみ酸素を吸うことがある方の場合、通常は治療で発作を遠ざけることができるので器械を買っていただく必要はありません。
- 同じように、もともと呼吸器に病気のない方が肺炎にかかり、入院中は酸素を吸ったが良くなって酸素なしで元気に退院したという場合も器械を買う必要はないでしょう。
実際には、どんなことをするの?
- 指先を挟み込むクリップタイプのパルスオキシメーターについて、ご説明します。
パルスオキシメーターの使い方
- 器械の電源を入れます。器械によっては指を挟むと自動的にオンになるものもあります。
- 通常は手の指にセンサーを付けます。赤い光が出ている側が爪側で、反対が指の腹になります。わかりやすいように絵が描いてあることも多いです。
- 脈拍を示す波形が安定して測定できているかをチェックします。脈拍が安定して測定できるようなら、少し(20〜30秒)待って値を読み取ります。
運動中に測定したい場合
- 運動中に測定したい場合は、パルスオキシメーターを装着した指を激しく振らないように気をつけてください。ずれにくいようにテープで留めても良いですが、強く締め付けるとかえって測定が不正確になるので、軽く留めるようにしてください。
- 運動後に値が回復していく経過をみることも有用です。
うまく計測されない場合の対処法
- 脈がうまく表示されない場合や脈拍数が大きく変化する場合は、測定する指を替えてみてください。
- また、パルスオキシメーターの測定原理から、次のようなことがあると測定がうまくいきません。
計測がうまくいかない原因
- 指先に血が十分に通っていない場合
- 爪が変色していたり、マニキュアを塗っていたり、強い変形がある場合
- 指先が動き続けている場合
- 指に強い光が当たっている場合
結果の解釈
- 普段よりも動いたときのSpO2低下が強いとき、例えば安静時には安定して90%を越えている人が、家庭内の移動でも90%を大きく下回るようになったら、医師に連絡が必要かもしれません。
- 運動後、安静時の値に戻るのにいつもよりも時間がかかるような場合も要注意です。
検査にかかる時間は?痛みはある?
- 器械の取り扱いに慣れれば、測定は1分以内で終わり、痛みもありません。
- ただし、センサーを長時間つけっぱなしにすると皮膚に潰瘍が出来るおそれがあります。自分でつけたり外したりできない患者さんの場合はご家族が気をつけてあげてください。
- 測定することによるリスクはそれほどありません。むしろ測定値を気にしすぎて一喜一憂することが、精神衛生上は良くないのではないでしょうか。そもそも器械を買って自宅で測定する必要があるかどうかも、主治医とよく相談をしていただく必要があります。 「あなたの病状なら必要ないよ」と言われたらひと安心ですね。
他にどのような検査法があるの?
- 動脈血を採血して、その中の酸素や二酸化炭素の圧、pH【ぴーえいち、ぺーはー】を測定する動脈血液ガス分析があります。SpO2と類似の指標として、計算で求めた動脈血酸素飽和度(SaO2)が表示されます。
- 動脈血液ガス分析を行うには、医師が動脈血を採血することが必要で、痛みや皮下に血液が漏れるリスクがあります。そのため、気になったときにすぐ、何度も行うことは困難です。
- パルスオキシメーターではすぐにSpO2を測れますが、この値では動脈血の酸素の圧を逆算することができません。また、測定できる値がSpO2のみで、二酸化炭素の値がわからないのも大きな制限です。患者さんによっては、酸素よりも二酸化炭素の値のほうが重要なこともあるからです。
- 血液中の二酸化炭素を皮膚を通して測定する器械もありますが、少し特殊で、主に病院で使用するものです。現時点では、ご自宅で使用されることはないでしょう。
そもそも、値はいくつあればよいの? 検査結果を正しく利用するには?
- SpO2の正常値は96〜99%です。ただし、この測定を必要とするような慢性の呼吸器疾患の患者さんでは、必ずしも正常値を保つ必要はありません。
- 多くの場合、脳や心臓などに不調をきたさないためには、90%くらいが必要です。ご自身の調子が安定しているときの値を知り、主治医と相談して目標値を定めておくとよいでしょう。
症状が落ちついていたら、低い値が出てもあわてずに
- パルスオキシメーターの測定値は、その測定原理から、さまざまな原因で不正確になることがあります。ですから、症状が落ち着いているならば、低い値が出てもあわてずに、次のことを確認してみてください。
- 指先の血液の流れが悪い?:もともと手足が冷えやすかったり、病気のために指の血流が悪い、むくみがあるような時も測定値は不安定になります。度々測る必要があれば、マニキュアはつけない方がよいでしょう。なお、熱が上がりかけて震えが起こるような時も血液の流れが悪くなることがあります。この時は熱のほうが大事な情報なので、熱がでたことを医師に連絡してもよいでしょう。
- センサーがうまく装着されていない?:センサーを装着し直したり、指を替えてみたりしてください。
- センサーを装着した直後?:センサーを装着してすぐの値は不正確です。20〜30秒待って、値が上がらないか様子をみてください。
- 器械の故障?:器械が怪しければ、ご家族など、健康なほかの方も試しに測ってみていただくとよいでしょう。
緊急の場合
- 次のような場合は急いで対処しなければなりません。救急車を呼ぶことも検討してください。
緊急事態
- 症状が明らかにいつもと違い、かつ測定値が低い場合。
- 強い息苦しさがあったり、意識がぼんやりしていて値が低い場合。
- 在宅酸素療法の患者さんで、いつもどおりに酸素を吸っているのに、値が低い場合
早めに主治医に連絡したほうが良い場合
- なんとなく体調が悪く、安静時の値が何度測ってもいつもよりも低い場合。ただし、測定値には数%の誤差がありますので、1%の上下を気にする必要はありません。
- 動いた直後の値がいつもよりも明らかに悪かったり、回復に時間がかかる場合。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 日本呼吸器学会編「よくわかるパルスオキシメータ患者編」を以下から無料でダウンロードできます。イラスト入りで、わかりやすく解説されています。
- http://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=68
もっと知りたい! 経皮的酸素飽和度測定法とパルスオキシメーター
酸素不足が示すこと
- 人間の身体には、悪い状態を改善する「予備能力」という機能があります。とくに酸素不足は重大な障害につながるので、動脈血の酸素が下がりそうになると、心臓が頑張って動いたり、呼吸をたくさんするなど、通常は自動的に他の臓器が補ってくれています(これを代償作用【だいしょうさよう】といいます)。
- 逆に言えば、明らかに酸素が下がった状態というのは、この代償作用が効かないほど呼吸器や心臓の状態が深刻だということです。
- ですから、軽症の方の場合、パルスオキシメーターの検査では病状の細かな変化は捉えにくいのです。酸素が下がらなくても息苦しさにつながる病気は多いので、病状が軽い間はほかの検査(例えば喘息のピークフロー測定など)のほうがずっと役に立ったりします。
- 逆に息苦しさの感覚が鈍い人、症状を適切に訴えることができない赤ちゃんや全身麻酔中の患者さんにとっては、不測の事態による酸素不足という重大な事態をできるだけ早くチェックするために、かけがえのない測定だといえます。