関節穿刺:どんな検査?検査を受けるべき人は?検査内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 整形外科のなかでも、関節の病気を専門にしている重村 知德と申します。
- このページに来ていただいた方は、関節の痛み、腫脹【しゅちょう】(腫れていること)、変形などがあり、それらに対して、どのような検査、治療があるのかについて知りたいと考えられているかもしれません。
- 検査方法の1つである関節穿刺【かんせつせんし】について理解する上で役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察のなかで、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 関節穿刺は、関節の近くから、関節の中に針を刺すことです。
- 関節穿刺の主な目的は、関節液【かんせつえき】を抜くこと、抜いた関節液の性状を観察すること、そして造影剤を注入することです。また、液状のお薬を注入することで治療としての役割も果たします。
- 外来で行うことができる手技で、入院の必要はありません。
- 針を刺すので痛みを伴います。
関節穿刺はどんな検査なの?
- 関節穿刺は、関節近くのからだ表面から針を刺して、関節内に針先を到達させることです。
- 関節液は関節の潤滑油【じゅんかつゆ】としての役割を果たしますが、炎症【えんしょう】が起こると関節液が増えて関節が腫れ、関節液を抜くことで腫れが改善します。
- 抜いた関節液を観察することで、病気の診断につながります。
- 造影剤を注入することで、病気を描出することができます。
- 液状のお薬を関節内に直接注入することが可能です。
どんな人がこの検査を受けるの?
- 関節穿刺は、膝【ひざ】の関節に対して行われることが多いので、膝関節についてご説明します。
- 膝関節の痛み、腫脹(腫れている)、変形がある人に対して行います。
- レントゲン検査、CT検査、MRI検査などと組み合わせて行われます。
変形性膝関節症
- 骨の表面にある軟骨がすりへり、骨が変形してきます。
- 痛みを伴い、関節の動きが悪くなります。
- 炎症を起こすので、関節液がたまり、関節の腫脹が生じます。
- 変形性膝関節症の人の関節液は、ほとんどが黄色がかった透明です。
- 関節穿刺後に、ヒアルロン酸を含む液薬をそのまま注入することも可能です。
化膿性【かのうせい】膝関節炎
- 膝関節の中に、細菌が付着している状態です。
- 関節液は、黄色や白色ににごります。
- 関節液を培養(ばいよう)すると、細菌が増殖するので、診断が確定できます。
骨折を疑った場合
- 関節液の中に、血液と脂肪滴【しぼうてき】を認めた場合、骨折していると診断できます。
- レントゲン検査で骨折が判明しない場合に有効です。
結晶沈着性【けっしょうちんちゃくせい】関節炎
- 関節液を顕微鏡で観察して、ピロリン酸カルシウムという物質を認めることで診断ができます。
- 痛風【つうふう】と症状が似ているので、偽痛風【ぎつうふう】ともよばれます。
半月板【はんげつばん】損傷
- 半月板は、その名のとおり、半月の形をし、膝の内側と外側に存在して膝の安定化や、衝撃吸収などのはたらきをします。
- スポーツやけがなどで損傷することが多いのですが、生まれつき損傷しやすい形をしている人もいます。
- 造影剤を関節内に注入し、損傷した部位に造影剤が入り込むことで診断が可能です。
- 最近は、MRI検査が利用しやすくなったので、造影検査を行うことは少なくなりました。
検査ができない場合
- 次のような人は、関節穿刺を避けたほうがよいです。
関節穿刺を避けたほうがよい場合
- 皮膚のかぶれやアトピー性皮膚炎などがある人:関節穿刺を行うことで感染症を起こす可能性があります。
- 人工関節置換術などを受けた人:ただし、人工関節置換術後の感染症が疑われる場合は、細心の注意をはらったうえで行います。
実際には、どんなことをするの?
- 膝関節穿刺について説明します。
検査前の処置
- 診察台の上に、あおむけに寝ます。
- ズボンをまくり上げて膝をよくみえるようにし、関節穿刺をする側の膝を露出します。
- ズボンは柔らかい素材で、しっかりまくれて膝が見えることができるものがのぞましく、女性はスカートでもかまいません。
- 膝の下に枕や、タオルを入れて、膝を軽く曲げた状態にします。
- 針を刺す部分をアルコールや、イソジンなどで消毒します。
- 基本的には麻酔はしません。
- 膝の外側から刺すほうが安全ですので、膝の外側から針を刺します。
- 針が関節内に到達したあと吸引すると、関節液が抜けます。
- 関節穿刺のあとに、関節造影をする場合は、針を入れたままで、造影剤を注入します。
- また、ヒアルロン酸を注入する場合も、針を抜かずそのまま薬液を注入します。
検査後の処置
- 関節液の排出が終わったら、針を抜き、針を刺したあとに小さなテープをはります。
- 出血することがあるので、その日ははったままにしておき翌日にはがします。
- 造影剤、ヒアルロン酸を注入した場合も同様です。
検査にはどれくらい時間がかかるの? 痛みはあるの?
時間
- 関節穿刺自体は数十秒程度の時間で終わります。
- 検査前・後の処置を合わせても、数分で終了します。
痛み
- 針を刺すので痛みはあります。
- 注射針の太さはゲージ(G)という単位で表されますが、Gの数値が小さいほど、針は太くなります。
- 目的によって針の太さは異なりますが、静脈から血液を採取する場合は一般的に21〜23G程度の針を使用します。
- ワクチンなどをうつ場合は26〜27G程度の細い針を使います。
- 関節液に粘り気があり細い針だと引けないことがあるため、関節穿刺では18〜19Gの比較的太い針を使用します。
- 痛みの感じ方には個人差があると思いますが、一般的に行われる採血より少し痛い程度です。
関節の検査にはほかにどのような方法があるの?
レントゲン検査
- 放射線を利用する検査です。
- 照射した放射線がからだの組織を通り抜けるときの、通過しやすさの違いを利用した画像検査です。
CT検査
- レントゲン検査と同様に、放射線を利用する検査ですが、レントゲン検査よりも放射線の照射量が多くなります。
- レントゲンに高度なコンピュータを組み合わせることで、からだの断面を撮影することができます。
MRI検査
- 放射線を使わず、磁場が発生する空間に入っていただきます。
- 強い磁場により人のからだの水素原子に共鳴現象を起こさせて得られた情報を画像化します。
超音波検査
- 放射線を利用しません。
- 人のからだに超音波を当てて、その跳ね返ってきた波を画像化したものです。
関節穿刺にはどんなリスクや合併症があるの?
- 検査によって引き起こされる望ましくない現象を合併症といいますが、次に関節穿刺の代表的な合併症をあげます。
感染症
- 穿刺する際に細菌が関節の中に混入することで起こります。
- もともと関節は無菌状態ですので、混入した細菌にとっては増えやすい環境です。
- 感染症が起こると、関節破壊が生じます。
- 感染症になる頻度は少ないですが、一度発症すると治療に時間がかかりますので、非常に重要な合併症です。
- お薬(抗生物質【こうせいぶっしつ】)の投与が行われますが、手術などの外科的処置が行われることが多いです。
軟骨損傷
- 穿刺する際、誤って軟骨を刺してしまうことで起こります。
腫脹
- 穿刺した後、ふたたび関節が腫れてくることがあります。
- 癖【くせ】になったのではないか? と心配する人がいますが、そうではありません。
- 炎症など関節液が増える原因がとりのぞかれないため、ふたたび関節液が増えて腫れているのです。
アレルギー
- 造影剤を使用する際に起こる可能性があります。
- アレルギーが起こることはまれです。
- 吐き気、嘔吐、掻痒【そうよう】感(からだがかゆいこと)、じんましんなどが生じます。
- ひどい場合は、血圧がさがりショックを起こすこともあります。
- 過去にアレルギーを起こしたことがある方は、事前に担当医師にお伝えください。
ヒアルロン酸注射に関連する合併症
- 肝臓の機能障害がある場合、悪化させることがあるといわれています。
- 投与した関節の痛み、腫脹、こわばり、灼熱感【しゃくねつかん】(焼けつくような熱感)などが数%の割合で起こることが報告されています。
- 関節周囲のしびれが数%の割合で起こることが報告されています。
- じんましん、かゆみ、むくみなどが数%の割合で起こることが報告されています。
- ショックなどの重篤なアレルギー反応を起こすことがごくまれにあります。
検査後の注意は?
- 日常生活で必要なことであればかまいませんが、当日は激しい運動などは避けてください。
- 当日は、お風呂に入らないでください。
検査の後にどんなことに注意したらいいの?
- 検査の後に感染症を疑う次のような症状があった場合は、早急に病院に連絡してください。
- 関節破壊を防ぐために、早急に診断をして治療する必要があります。
感染症を疑う徴候
- 穿刺した関節が熱をもっている
- 痛みが強くなった
- 発赤(表面が赤いこと)
- 腫れている
- 検査の後にアレルギーを疑う次のような症状があった場合は、早急に病院に連絡してください。
アレルギーの徴候
- 吐き気
- 嘔吐
- 掻痒感
- じんましん
- 数時間してから起こることもあります。
- 検査の後に穿刺した部位から血が出てくることがありますが、多くは圧迫することで止まります。
- 圧迫した後も出血する場合は、病院に連絡してください。