ワルファリン:どのような作用があるの?食事など気を付けることはある?
更新日:2020/11/11
- 循環器専門医の志賀 剛と申します。
- このページに来ていただいた方は、ワルファリンという薬を病院で処方され、どのようなお薬か知りたいと考えておられるかもしれません。
- ワルファリンを飲み始めるにあたり、それがどのような薬であるのかについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- ワルファリンは血をさらさらにする薬です。身体の中で、血のかたまり(血栓といいます)ができないようにします。
- 血栓が血管に詰まって引き起こす脳梗塞や肺梗塞を予防します。
- 医師が処方する薬です。
- ワルファリンには副作用があり、出血が最も多いです。他に肝障害、脱毛、皮疹・色素沈着や、また非常にまれでありますが重篤な副作用として皮膚壊死があります。
- 赤ちゃんに奇形を起こす可能性(骨形成異常や鼻形成不全など)があり、妊婦さんには使えません。
どんなくすり?おおよその値段は?
- ワルファリンは、血をさらさらにする薬です。身体の中で血のかたまり(血栓といいます)ができないようにします。これを抗凝固療法といいます。
- 肝臓でビタミンKに働き、血を固める物質(ビタミンK依存性凝固因子)を抑えるため、ビタミンK拮抗薬(vitamin K antagonist:VKA)ともいわれます。
このお薬が使えない人
- 妊婦・産婦、新生児(ビタミンKが足りないとき)
- 重度の非代償性肝硬変の人
- ビタミンK製剤を使用しなければいけない人
コラム:ワルファリンの値段
- 1錠9.6円です(0.5mg錠、1mg錠)。5mg錠は1錠9.9円です。後発品も同じ値段です。
- 顆粒0.2%は1g 8.3円、後発品は1g 7.9円です。
どんな目的で飲むの?
- 血管や心臓のなかでできた血のかたまり(血栓)が、血流にのって運ばれ、脳や肺など重要な臓器の血管に詰まって引き起こす血栓塞栓症の治療および予防に用いられます。
- 人によって薬の量や飲む期間が異なりますので、主治医や薬剤師によく聞いてください。
- 次に、ワルファリンを処方されることが多い病気についてご説明します。
心房細動
- 脳梗塞のリスクがある心房細動の患者さんは、ワルファリンを処方されます。
- 心房細動とは、心臓の心房という部屋が300~600/分と不規則に動く不整脈です。心房細動が起こる原因には、弁膜症、冠動脈疾患、心不全、心肥大、甲状腺機能亢進症などの病気に伴うものや、加齢、ストレスなどもあります。
- 心房細動があると、心房の中の血流低下や乱流などから血栓が作られやすい環境になります。血栓が心臓から血流に乗って飛んでいくと、その先の血管をふさいでしまうことになります。
コラム:脳梗塞リスク
- 心不全(1点)、高血圧症(1点)、75歳以上(2点)、糖尿病(1点)、脳梗塞・一過性脳虚血発作の既往(2点)、血管疾患(心筋梗塞の既往、末梢動脈疾患、大動脈プラーク)(1点)、65歳以上(1点)、女性(65歳以上1点)の合計が2点以上。(CHA2DS2-VAScスコア)
- 他に僧帽弁狭窄症、人工弁置換術を受けている人、肥大型心筋症などがあります。
心臓弁置換術後
- 心臓の弁が悪くなる弁膜症の患者さんで、機械弁や生体弁など人工の弁に手術で置き換えた方は、ワルファリンを処方されます。
- とくに、機械弁置換術を受けた方は、そのままですと1年で20%以上という確率(2か所以上の複合弁では90%)で血栓塞栓症が発現するため、抗凝固療法は必須です。
心筋梗塞後、心内血栓
- 心筋梗塞などにより心臓の動きが悪い方は、ワルファリンを処方されます。
- 心筋梗塞とは、心臓につながる冠動脈という血管が完全につまり、血流が一定時間なくなって、その先の心筋細胞が死んでしまった(壊死)状態のことをいいます。
- 大きい心筋梗塞だと、心臓の壁の一部が動かなくなり、その部分の血流低下や乱流などから血栓ができてしまいます。
- 心筋梗塞以外にも、心筋症で壁の動きが悪くなったり、心臓が通常より大きくなったりすると、血流低下や乱流などから血栓ができてしまいます。
深部静脈血栓症
- 深部静脈血栓とは、下腿静脈や大腿静脈などの足の静脈に血栓が生じたものをいいます。血液がかたまる過程に異常があることや、足の血流がうまく流れないことが原因で生じます。
- 肥満、心不全、妊娠、経口避妊薬使用、大手術、長時間寝たままや座ったままの姿勢でいること、外傷、脱水などが、深部静脈血栓症を引き起こす原因になります。
肺血栓塞栓症
- 肺血管内で血栓が生じたものを肺血栓症、他の静脈系で生じた血栓が流れてきて肺血管を詰まらせたものを肺血栓塞栓症といいます。
- 肺血栓塞栓症の80%以上が、下肢深部静脈血栓によるものといわれています。
- 内臓のがんなども血栓を作りやすくするといわれ、同じように静脈から肺血管に流れて、肺血管をつまらせることがあります。
どのように飲むの?
- 1日に1回飲みます。
- 薬の量を決め、効果を確認するためには採血が必要です。血液が固まるまでの時間(プロトロンビン時間国際標準比、PT-INRといいます)を指標にしています。
- ワルファリンは効果が出てくるまでに時間がかかる薬です。また、効き方も個人差が大きいので、薬の量や期間などは医師の指示に従ってください。
- ワルファリンは、食事の影響を受けやすい薬です。とくにビタミンKによって効果が抑えられてしまいます。
ワルファリンの効果をいかすために
- 偏食はできるだけしないようにしてください:ワルファリンの効果を抑えるビタミンKはいろいろな食品に含まれるため、偏食や食事内容のムラがあると、結果的にワルファリンの効果が不安定になってしまいます。
- 1日1回飲み続けてください:飲んだり飲まなかったりすると、薬の効果が安定しません。「飲んだらすぐ効く」という薬ではないため、飲まない日があると十分な効果が得られなくなります。
飲み始めるときの注意点は?いつまで使うの?自分でやめてよい?
- ワルファリンを処方されたら、ご自分の判断で勝手に薬を止めないようにしましょう。
- ワルファリンは基本的に、一生飲み続けていただくことが多いです。ただ、血栓塞栓症の原因が明らかで、それがなくなれば中止することもあります。
- 飲み始めはワルファリンが効いてくるまで時間がかかるため、早く効かせる目的で多めの量で数日間飲んでもらうこともあります。
- ワルファリンの効果が出るまで用量の調節を繰り返していきます。患者さんごとに事情が異なるので、よく主治医や薬剤師と相談しながら飲んでください。
- 皮下出血や鼻血などの副作用が出たら、主治医や薬剤師に相談してください。自己判断で中止することは避けてください。
副作用ってよく聞くけど、どんなことが起こるの?治療中の注意点は
- ワルファリンには副作用がいくつかあります。
- 血をさらさらにすることは、それだけ血が固まりにくくなるということです。このため、副作用としては出血が最も多いです。
- 肝機能障害はどの抗凝固薬にも共通して認められます。
- そのほか、脱毛、蕁麻疹、皮膚炎、皮膚壊死など、皮膚の症状が比較的多いです。
- 赤ちゃんに奇形をおこす可能性があり、妊婦さんには使えません。
出血
- 皮膚の出血、鼻血、おしっこに血が混じるなどの頻度が高いです。
- 消化管や、頭のなか、目、傷口、おなかの中にある後腹膜という部分で出血が起きると、大出血になる可能性があります。血を止めるための処置や、輸血が必要となる場合もあります。
肝機能障害
- 頻度は1%未満ですが、血清トランスアミナーゼ(AST、ALT)の上昇を伴う肝機能障害が認められます。
脱毛
- 頻度は不明ですが、ワルファリン使用中に脱毛が起こったという報告があります。ワルファリンを中止すれば改善します。
皮疹、過敏症
- 発疹、瘙痒症、紅斑、蕁麻疹、皮膚炎、発熱などの症状があります。
- ご高齢の方では、色素沈着が認められることもあります。
皮膚壊死
- 頻度は非常にまれですが、ワルファリンに特異的な副作用です。
- 飲み始めてすぐに皮膚や脂肪組織に壊死が起こります。一時的に血が固まりすぎることで、ちいさな血栓が形成されてしまうことが考えられています。
- 女性に多く、胸や太もも、お尻、足や手によくみられます。重篤な場合は、切除が必要になります。
催奇形性
- ワルファリンは胎盤から赤ちゃんに移行する度合いが高く、妊娠初期に骨の形成に関わるビタミンK依存性蛋白がワルファリンにより足りなくなってしまうことから、骨形成異常や鼻の形成不全が起こるとされています。
- また、妊娠中期以降には出血、中枢神経系の異常が認められ、赤ちゃんの発育がおくれたり、死亡してしまうことがあります。
- 妊娠可能な女性は、ワルファリンによる催奇形性(上記のような奇形が起こりやすいこと)をきちんと認識していただき、妊娠時あるいは妊娠希望の場合は、どのようにすればよいか主治医とよくご相談ください。
食事などとの飲み合わせは?
納豆、クロレラ、青汁は食べないで
- 納豆、クロレラ、青汁は摂らないでください。ビタミンKを多く含むため、ワルファリンの効果が抑えられてしまいます。
- とくに納豆は、納豆菌が腸内でビタミンKをどんどん作ってしまうため、3日間ほどワルファリンの効果が全くなくなることがあります。
緑黄色野菜、海藻類は大量に食べないで
- 緑黄野菜や海藻類を大量に摂らないでください。ビタミンKの含有量が多い食品を、「健康のために」などを理由に一度に大量に摂取すると、ワルファリンの効果が抑えられてしまいます。
- ただし、通常の量を摂取する分には大丈夫です。
野菜ジュースはビタミンKが少ないものを
- 野菜ジュースは一概にいえませんが、市販のものでビタミンKが多く含まれている商品もあります。
- ビタミンKの含有量が表示されているものもありますので少なければ飲んで構いません。
緑茶は抹茶や粉茶以外を
- 緑茶は飲んで構いません。
- ただ、茶葉にビタミンKが多く含まれるため、抹茶や粉茶を大量に飲むとワルファリンの効果が抑えられてしまいます。
サプリメントは主治医や薬剤師にご相談ください
- サプリメントは、ふくまれる成分の詳細が不明な場合もあり、安易に飲むことは勧められません。
- ビタミンKの含有量を確認され、主治医や薬剤師と相談してください。
一緒に飲む場合、気をつける薬はある?
- ワルファリンと一緒に飲むことで効果が強く出てしまったり、弱くなってしまうお薬があります。
効果が強まってしまうもの
- 解熱鎮痛薬:非ステロイド抗炎症薬など。ワルファリンの効果を強めます。頓用や短期使用ならいいですが、長期になる場合はワルファリンの用量を減らしたほうがいい場合があります。
- 抗菌薬:ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、クロラムフェニコール系、キノロン系など。ワルファリンの効果を強めます。数日の短期使用ならいいですが、長期になる場合はワルファリンの用量を減らしたほうがいい場合があります。
- 抗不整脈薬:アミオダロンはワルファリンの効果を強めるため、ワルファリンの用量を減らす必要があります。
- 高尿酸血症・痛風治療薬:アロプリノール、プロベネシド、ベンズブロマロンはワルファリンの効果を強めるため、ワルファリンの用量を減らす必要があります。
- 消化性潰瘍治療薬:オメプラゾール、シメチジンはワルファリンの効果を強めるため、ワルファリンの用量を減らしたほうがいい場合があります。
- 脂質異常症治療薬:フェブラート系、スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)の一部(シンバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン)は、ワルファリンの効果を強めるため、ワルファリンの用量を減らしたほうがいい場合があります。
- 抗悪性腫瘍薬、ホルモン製剤の一部:ワルファリンの効果を強めるなどの報告がある薬があります。ワルファリン服用中に他の薬を併用する場合は、主治医や薬剤師と相談してください。
- 抗リウマチ薬、真菌治療薬:イグラチモド(抗リウマチ薬)とミコナゾール(真菌治療薬)は、ワルファリンを効きやすくして出血など副作用が起きやすくなるので、使用しないでください。
効果が弱まってしまうもの
- 脂質異常症治療薬:コレスチラミンと一緒に飲むとワルファリンの吸収を抑えるため効力が減弱します。可能な限り間隔をあけて服用してください。
- 抗てんかん薬:カルバマゼピン、フェニトインはワルファリンの効果を減弱させるため、ワルファリンの用量を増やす必要があります。
- 抗結核薬:リファンピシンはワルファリンの効果を減弱させるため、ワルファリンの用量を増やす必要があります。
- 肺高血圧症治療薬:ボセンタンはワルファリンの効果を減弱させるため、ワルファリンの用量を増やす必要があります。
- 骨粗鬆症治療薬:ビタミンK2薬(メナテトレイン)は、ビタミンKがワルファリンの効力を抑えるので、飲まないでください。
飲み忘れてしまったときはどうしたらよいですか?
- 当日の服薬予定時間から半日(12時間)以内なら、服用してください。例えば朝飲み忘れた場合は、昼や夕方に飲んでも間に合います。
- なお、飲み忘れたからといって2日分を一度に飲むことは避けてください。すぐにワルファリンの効果が落ちる訳ではないので、12時間たってしまった場合は、翌日からいつもと同じ量を飲んでいただければ大丈夫です。
内視鏡の検査や歯を抜くときは、何日くらい止めればいいの?
- 抜歯や生検のない内視鏡検査は出血するリスクが低い手技とされ、基本的にワルファリンは中止しません。
- 出血するリスクが高いと判断された場合は、手技を行う4日前からワルファリンを中止します。そうすれば手技当日は血が止まりやすくなります。
- ただし、血栓塞栓症のリスクが高い方(血栓塞栓症の二次予防や機械弁置換術後などの方)は、ワルファリンを中止している間、ヘパリンを点滴から入れる必要があります。
手術のときは何日くらい止めればいいの?
- 手術を受けていただく時は、4日前からワルファリンを中止します。そうすれば手術当日は血が止まりやすくなります。
- 術後出血のリスクがなくなり、口からご飯が食べられるようになれば、ワルファリンを再開します。
- ただし、血栓塞栓症のリスクが高い方(血栓塞栓症の二次予防や機械弁置換術後などの方)は、ワルファリンを中止している間、ヘパリンを点滴から入れる必要があります。また、ワルファリンを再開して効果があらわれるまで、術後も点滴のヘパリンを一緒に使います。
事故にあったら血が止まらなくなるのでは?
- 出血を止めることは可能です。永遠に血が止まらないことはありません。
- どうしても止血しなければいけないときは、ワルファリンの効果を抑えるお薬(ビタミンK)を点滴で入れて使用します。急ぐときは輸血(プロトロンビン複合体濃縮製剤や新鮮凍結血漿)も使います。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
相互作用について
- エーザイが発行している適正使用情報が詳しいです。
- Warfarin適正使用情報 第3版(2019年3月 更新第9版)。エーザイのHPからHPPDFでも入手できます
- https://medical.eisai.jp/content/000004913.pdf
ガイドラインやより詳しい情報について
- より詳しい情報や最新のガイドラインなどについては以下のウェブサイトを参照してください。
- 日本循環器学会循環器病ガイドラインシリーズ
- http://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline/- series/
- 2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン(日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン) 班長:小野克重 掲載:ホームページ公開のみ
もっと知りたい! ワルファリンの基礎知識
ワルファリンとは?
- ワルファリンは分子構造が還元型ビタミンKに類似したクマリン誘導体です。
- 肝臓でビタミンK依存性凝固因子(プロトロンビン、II、VII、IX、X)が生成される最終段階は、前駆体であるPIVKA(protein induced by vitamin K absence or antagonist)のグルタミン酸残基が還元型ビタミンKを補酵素としてカルボキシル化され活性型凝固因子になります。一方、還元型ビタミンKはビタミンKエポキシドとなり、これが再び還元型ビタミンKになります。
- ワルファリンはこの還元型ビタミンKになる還元反応を抑制することで、有効な活性型凝固因子の生成を抑え、抗凝固作用を発現します。
- ワルファリンはS体とR体という光学異性体を有し、S-ワルファリンはR-ワルファリンより5倍の抗凝固活性を有します。
- S-ワルファリンはチトクロムP450 (CYP) 2C9で主に代謝され、R-ワルファリンは主にCYP1A2, 2C19, 3A4で代謝されます。
- 還元型ビタミンKになる還元反応を担う酵素で、ワルファリンの作用部位であるビタミンKエポキシドレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)の発現量やCYPの代謝活性には遺伝子的背景があり、個人差が大きいためPT-INRを指標に各人にあった用量を設定します。
- S-ワルファリンはCYP2C9で代謝され、これに酵素誘導として働く非ステロイド消炎鎮痛薬などを併用すると抗凝固効果が増強します。一方、酵素阻害に働くリファンピシンやカルバマゼピンなどを併用すると抗凝固効果が減弱します。
- ワルファリンの用量変化に係わる因子として、年齢、体重、併用薬、食事、VKORCの遺伝子多型、CYP2C9の遺伝子多型が挙げられます。ただ遺伝子多型の寄与は50%程度といわれ、生活上の要因が大きいです。
薬剤にはどのような種類があるの?それぞれの種類は?
- ワルファリンカリウムというものがあります。
- ワルファリン製剤にはカリウム塩とナトリウム塩があり、日本ではカリウム塩が販売されています。一方、欧米ではナトリウム塩あるいはカリウム塩が使われています。
- 内服後ほぼ100%吸収され、1-2時間で最高血中濃度に達し、半減期は約40時間と長い特徴があります。
- 蛋白結合率が97%と高く、アルブミンと結合します。低アルブミン血症では遊離体が増え、効果が強くなる可能性があります。