尿失禁:原因は?対処方法は?何科に行けばいいの?治療で良くなるの?
更新日:2020/11/11
- 日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本排尿機能学会専門医の?澤 剛、髙橋 悟と申します。
- このページに来ていただいた方は、尿失禁の原因、診断および治療に対して不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 尿失禁【にょうしっきん】とは、尿が自分の意思とは無関係に漏れてしまう状態をいいます。
- 女性に多い腹圧性尿失禁【ふくあつせいにょうしっきん】、切迫性尿失禁【せっぱくせいにょうしっきん】、混合性尿失禁【こんごうせいにょうしっきん】を鑑別して治療を行います。
- 溢流性尿失禁【いつりゅうせいにょうしっきん】は、必ず高度な排尿障害(尿をうまく出すことができない状態)を伴います。
- 超音波検査で残尿量(尿を出した後に膀胱に残っている尿の量)を測定して治療方針を立てます。
- 骨盤底筋訓練は腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、混合性尿失禁に有効です。
- 切迫性尿失禁はお薬による治療が有効です。
尿失禁は、どんな病気?
- 尿失禁とは、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまう状態です。
- 病態によって、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、混合性尿失禁、溢流性尿失禁、機能性尿失禁に分類されています。それぞれ治療が異なるので、正確な診断が必要です。
尿失禁と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 尿失禁の種類によって、病院の選び方が変わってきます。
- 腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、混合性尿失禁の場合は、お近くの病院にご相談していただき、最初の治療としてお薬による治療と日常生活で気を付けるべきことをお医者さんから教えてもらってください。それでも良くならない場合は、泌尿器科のある病院にご相談ください。
- 溢流性尿失禁や残尿が多く(50~100mL以上)、排尿障害の症状もある場合は、すみやかに泌尿器科のある病院にご相談ください。
尿失禁になりやすいのはどんな人?原因は?
尿失禁になりやすい方
- 女性の方
- 出産したことがある方
- 太っている方
- ご高齢の方
- 便秘がある方
- 骨盤内の手術を受けたことがある方
原因
- 膀胱が押されている:妊娠、肥満など
- 尿が出にくい:前立腺肥大症など
- 尿を溜める(我慢する)筋肉が弱い:骨盤内の手術を受けたことがある、出産経験がある、加齢
- トイレにいくことが難しい:認知症、歩けないなど
どんな症状がでるの?
腹圧性尿失禁
- 中高年の女性に多く、咳、くしゃみ、運動などお腹に力が入った時に尿が漏れる状態です。男性ではまれですが、前立腺手術により括約筋が傷ついてしまった場合に生じることがあります。
切迫性尿失禁
- 尿意切迫感(急に我慢できないくらい尿に行きたくなる症状)とともに尿が漏れる状態です。通常、頻尿(尿が近くなる症状)を伴います。
混合性尿失禁
- 腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が同時に存在する状態をいいます。中高年の女性に多くみられます。
溢流性【いつりゅうせい】尿失禁
- 前立腺肥大症などが原因となり、膀胱内に残る尿の量が増え、尿が持続的に漏れ出ている状態です。
機能性尿失禁
- 尿の通り道自体に異常はありませんが、身体運動機能・精神機能障害(認知症など)により、トイレまでの移動や正常な排尿行為ができないために、トイレ以外で尿をする状態をいいます。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
身体診察
- 男性では直腸診(お医者さんがお尻の穴に指を入れ、前立腺を触る)を行い、前立腺肥大症や前立腺癌の有無を確認します。
- 女性では台上診(お医者さんが腟に指を入れ、子宮を触る)を行い、骨盤臓器脱(膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤)の有無を確認します。
- どちらも患者様にとっては不快な診察になりますが、とても意味のある診察です。
診断
- 尿失禁の原因、症状について詳しくお話を伺います。
- 原因を把握するため、排尿時刻、1回排尿量、尿失禁時刻を記録する排尿日誌(3日間程度)をつけてもらいます。
- そのほかにも様々な質問票にお答えいただくこともあります。
検査
- 尿検査で、尿の中にばい菌やがん細胞、結石の成分が含まれていないか確認します。
- 1時間パッドテストで尿失禁の重症度を確認します。
- 尿流量測定(尿が出る時の勢いを測る)や残尿測定で排尿障害を評価します。
- そのほかにもどのタイプの尿失禁が疑われるかによって様々な検査を行う可能性があります。検査の詳しい説明は、泌尿器科の病院の先生からお聞きください。
どんな治療があるの?
骨盤底筋訓練
- 腹圧性尿失禁の軽症から中等症の方と切迫性尿失禁の方では、骨盤底筋を鍛えるリハビリを行います。
- 骨盤底筋は、膀胱に尿を貯めたり、尿を出したりするのに必要な筋肉です。
膀胱訓練
- 切迫性尿失禁の方で、尿を我慢して排尿時間を延長させるリハビリを行います。
お薬による治療
- 腹圧性尿失禁の軽症から中等症の方では、 β2作動薬という種類のお薬を使います。
- 切迫性尿失禁の方では、 β3作動薬あるいは抗コリン薬という種類のお薬を使います。
手術
- 腹圧性尿失禁で上記の治療が効かなかった方や重症な方では、尿道をテープで吊り上げる、尿道スリング術という手術をして、尿漏れしにくくします。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 抗コリン薬では、口の中の乾燥、便秘などの副作用があります。また、閉塞隅角緑内障がある方は、このお薬を飲むことはできません。
- 前立腺肥大症がある方では、抗コリン薬を飲むことにより、かえって症状が悪くなる可能性もあります。ほかのお薬も同時に飲みながら、残尿測定を適宜行う必要があります。
- β3作動薬は、上記の副作用もなく、抗コリン薬が飲めない方でも使用することができます。
予防のためにできることは?
- 尿失禁になってしまうこと自体を予防することはできませんが、症状を軽くするためにできることはあります。
- 腹圧性尿失禁をお持ちで太っている方は、体重を減らすことで症状がよくなります。
- 切迫性尿失禁をお持ちの方は、水、アルコール、カフェインの取りすぎに注意することで症状がよくなります。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 腹圧性尿失禁の軽症から中等症では、骨盤底筋訓練などによるリハビリを2~3ヶ月行いますと、60%の方で効果がみられます。また、リハビリおよび薬物療法が無効の場合、重症例で行う尿道スリング手術で完全に治る方は約90%です。
追加の情報を手に入れるには?
- 女性下部尿路症状診療ガイドライン2019
- 過活動膀胱診療ガイドライン2015
- 男性下部尿路症状/前立腺肥大症診療ガイドライン2017