手のふるえ:原因は?対処法は?病院受診のタイミングは?検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- とつぜん手がふるえて止まらなくなったり、ひどい手のふるえが何日も続いたりすると、心配になりますよね。何か悪い原因で起こっているのではないか?と心配されたり、「病院に行ったほうが良いかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、手のふるえの一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に説明したいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 手や足のふるえには、健康な方でも起きるふるえと、病気によるふるえがあります。
- 病気によるふるえには、神経系の病気によるものが多いです。筋肉、甲状腺機能の異常によるものなどもあります。
- ふるえがある場合、1人で悩んだりせずに、医療機関でみてもらうことが大切です。
ふるえとは?
- 手や足のふるえは、とくにご高齢の方ではよくみられる症状です。
- ふるえの症状は見かけ上も目立つだけでなく、日常生活のうえでも、手がふるえて字が書きづらい、コップをもっていると水がこぼれてしまう、などの不便が起きることがありますね。ふるえは手だけでなく、足、場合によっては首、体幹におきることもありますが、ここでは手のふるえについてご説明いたします。
健康な方でも起きる「ふるえ」
- ふるえは医学用語では「振戦【しんせん】」とよばれます。振戦がないように見える健康な方でも、センサーをつけて計測すると、細かいふるえが計測されることがあります。つまり、振戦は生理的(正常)な状態でも起こりうる現象なのです。
- 一部のふるえは、このような生理的な振動が大きくなったものと考えることができますが、そのような振戦を生理的振戦と呼んでいます。
交感神経の緊張による「ふるえ」
- 生理的振戦のほかに、普段の生活の中でふるえが起きることがあります。その一つは交感神経の緊張によるものです。
- スポーツの試合などで緊張したとき、あるいは強い怒りを感じたり、けんかをしようとするとき、あるいは強い恐怖を感じたときに、ふるえた経験がある人は多いでしょう。これは、体にとってストレスになる状況が生じると、アドレナリンなど交感神経の受容体を刺激する伝達物質が出て、これが筋肉などの交感神経の受容体に作用して手足のふるえを引き起こすのです。
- また、腕の筋肉を酷使した時に手がふるえることは経験したことがある人も多いでしょう。これは、疲労した筋肉をつかって筋力を出そうとするためのふるえと考えることもできます。
病気による「ふるえ」
- 「ふるえ」は健康な人にも出現しますが、その一方で病的なふるえもあります。これらは一つの病気によるものではなく、神経系の病気によるものが多いです。神経の病気がなくてもふるえることがあります。
ふるえの原因は?
- ふるえの原因は正確にはわかっていない部分もありますが、脳の神経細胞の活動に原因があるものが多いと考えられています。ふるえが起きているときに、小脳や脳幹、大脳皮質の神経細胞にそれと同じような活動を示す神経細胞があることが知られています。
- もうひとつの原因は、末梢の交感神経が刺激されて、その活動が上昇すると手足がふるえることも知られています。脳でなく末梢の側にも原因もあることがわかっています。
本態性振戦
- 神経細胞の活動に関連したふるえの中でも最も多いふるえです。
- 本態性振戦の多くは中年以降の高齢の方で出現しますが、もっと若いときから症状が出ることもあります。
- 本態性振戦は、動いているときや、じっとして安静にしているときには起きませんが、手などに力をいれたとき、ある姿勢をとったときなどに起こりやすいという特徴があります。例えばものをとったり、字を書いたり、細かいことをしようとしたときに手がふるえます。
- 1秒間に4-9回ふるえることが多く、パーキンソン病の振戦よりやや速い傾向があります。
- ふるえは経過とともに悪くなる場合もありますが、あまり変わらない場合もあります。最初は手だけにあったふるえが、首にひろがったり、人前で話すと声がふるえたりと、広がることもあります。
- なお、本態性振戦では、ふるえ以外の症状はでてきません。
パーキンソン病
- パーキンソン病は、脳の大脳にある黒質という場所にある神経の細胞が減り、神経伝達物質の分泌が減るために起きる病気です。パーキンソン病の患者さんの4分の3は、ふるえから症状が始まります。
- ふるえが手に出現するときには「丸薬を指で丸めるときの動き」に似ていて、その頻度は1秒間に4-7回です。
- 最初はふるえ以外の症状がない患者さんもいますが、進行すると手がふるえるだけでなく、動作がゆっくりになる、筋肉がこわばる、バランスがとりづらくなるなど、様々な運動症状が出てきます。
- 治療の観点からも、本態性振戦と区別することが大切です。
小脳の異常
- 小脳の病気があると、いろいろな動作をしたときにふるえが生じやすくなります。例えば、ものを取ろうとしたときに、そこにまっすぐ手がいかず、途中で軌道ががたがたと揺れることや、目標に到達する直前に、手がふるえてなかなか取れないといったこともあります。
- 動作をしようとしたときにのみ起こるふるえ(企図振戦といいます)が見られることもあります。他にも、ある姿勢をとったときに1秒間に2-3回揺れるゆっくりしたふるえが続くこともあります。
筋肉の異常
- 萎縮している筋肉に起きやすいふるえがあります。筋肉が萎縮すると、筋肉を構成する筋線維が細くなったり、筋線維の本数が少なくなるので、筋肉が同じ力を出そうとしたときに個々の筋線維に負担がかかりふるえるのです。
- 筋肉の萎縮の多くは、筋肉を支配している神経に障害がおきることによります。筋肉に達する神経が何らかの理由で死んでしまったり、機能障害を起こすと、それに支配されている筋肉も萎縮する場合があります。これは、神経が筋肉を栄養する因子を作っているからだと言われています。
コラム:神経と筋肉の関係
- 筋肉を支配している正常な神経が興奮すると、その興奮が軸索を伝わり、神経と筋肉の接合部のところに到達します。
- すると神経の末端からアセチルコリンという伝達物質が放出され、その刺激により筋肉に収縮が起きます。
シバリング(shivering)
- シバリングとは、例えばインフルエンザなどにかかってこれから熱があがるというときに、悪寒を感じて体がふるえることです。
- 風邪やインフルエンザなどにかかると、われわれの体は病原菌やウイルスを殺さなければならないので、炎症を起こして免疫系の機能を高めるため体温を上昇させます。体温を高めるためには筋肉を収縮させて、熱を産生させるのですが、このときに交感神経が働いているのです。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では、手が細かくふるえる、暑くないのに汗をかく、人前で話すと胸がドキドキするなどの症状がみられます。
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)などでもふるえがみられるのは、交感神経が関係しているといわれています。バセドウ病で多く分泌される甲状腺ホルモンは、アドレナリンに対する筋肉の感受性を高める作用があるとされています。
アルコール中毒
- 最も典型的なのは慢性のアルコール中毒によるふるえです。アルコールが脳に及ぼす影響によって、ふるえが生じると考えられます。
- また、とくにアルコールをやめた禁断症状としても起こります。飲酒中断48~72 時間後に落ち着きのない状態から始まり、興奮、ふるえ、発汗、幻視、幻聴などの症状が出てきます。
戦慄(せんりつ)
- 恐ろしくて体がふるえることを戦慄といいます。恐怖に伴い交感神経が活動することによると考えられます。
手のふるえに対して、よくなるために自分でできることは?
- ふるえは、普段の生活の習慣を変えることによって、ある程度コントロールできることもあります。以下に気を付けていただけることをまとめました。
- 症状が出た場合には、医師の診察を早めに受けていただくことも大切です。
ふるえを改善するために
- ふるえのある人は、コーヒーなどの飲料を飲みすぎないように気をつけて下さい。カフェインなどの刺激物はふるえを悪化させやすいです。
- アルコールを飲むと一時的にふるえはおさえられますが、ふるえを抑えるためにアルコールを多飲するのはもちろん良いことではありません。
- リラックスして、緊張をおさえるようにすると、症状の改善につながります。ふるえは精神的な影響を受けやすく、緊張したりすると悪化することが多いです。
ふるえがでたら、どんなときにどんな病院に行けばいいの?
- ふるえには、正常なものもあります。また、薬の副作用の場合もありますので、すぐに薬で治療しなければいけないかどうかは、ケースバイケースで考えなければいけません。
- ご自分で判断するのは難しいですから、1人で悩んだりせずに、医療機関でみてもらうことが大切です。
特に治療しないと困るふるえ
- だんだん症状が悪化してくるもの
- ふるえ以外の症状がでてくるもの
- 他の病気の症状のひとつとしてふるえが出現しているもの
お医者さんでおこなわれること
- 頭部CT、MRI撮影:本態性振戦、パーキンソン病では正常です。小脳の病気が原因になるときには、小脳に萎縮や病変がみられることがあります。
- 血液検査:甲状腺機能亢進症でもふるえをきたすことがあるので、甲状腺機能のチェックをすることがあります。本態性振戦では甲状腺機能は正常です。
- 表面筋電図:皮膚の上から貼り付ける電極で筋肉の活動を記録し、ふるえの様子を確認することがあります。
治療にはどのようなものがありますか?
- ふるえの原因によって治療はさまざまです。
脳神経内科の治療
- ふるえの原因には、大きく分けて、脳の神経細胞の活動によるものと、交感神経の刺激によるものの二つがあることを述べました。これら神経の病気にともなうふるえの治療は、主に神経内科という科で行われます。
- 本態性振戦の治療には前者に対応して、ふるえにかかわる神経細胞の活動をおさえるため、抗てんかん薬という種類の薬を使います。後者の治療としては、交感神経の働きを抑える薬が用いられます。パーキンソン病の振戦に対しては抗パーキンソン病薬による治療が行われます。
- ふるえの程度が重く、日常生活に著しく差し支える場合には、脳に電極を入れて微弱な電流を流す「脳深部刺激療法」という外科的治療が行われることもあります。
内科(内分泌科)の治療
- 甲状腺機能亢進症によるふるえは、内科(内分泌内科)を受診してください。
- 甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンが過剰に放出されることが原因ですから、甲状腺ホルモンの過剰な放出を抑える治療が基本になります。また、ふるえがつよい場合、あるいは症状が急激に悪化した場合には、交感神経の働きを抑える薬をあわせて飲むことがあります。
- 発熱時のふるえは、ふるえを止めること自体に意味はありません。熱がさがれば自然にふるえは治まりますから、発熱の原因となる感染症などを治療することが大切です。
もっと知りたい! 手のふるえのこと
ふるえにはどのようなものがある?
振戦の種類
- 振戦には大きく分けて、筋肉に力をいれずじっとしているときに起きる安静時(静止時)振戦と、ある姿勢をとったり(姿勢時振戦)、動作をしたりするとき(動作時振戦)に出現するものとがあります。
- 出現の仕方によって、原因となる病気がある程度推測できる場合があります。
コラム:振戦の種類と原因となる病気の例
- 静止時振戦:パーキンソン病に特徴的にみられます。
- 姿勢時振戦:最も頻度の多い振戦である本態性振戦でみられます。ある姿勢をとったり、動作をしたときに見られ、力をぬいてじっとしているときはふるえません。
手のふるえ
- 手足の先の筋肉が主にふるえる場合、もう少し根本の筋肉がふるえる場合があります。
ミオクローヌス
- 振戦と間違いやすいのは、ミオクローヌスという別の種類の不随意運動です。ふるえよりもすばやい短時間の動きで、ふるえと同じように律動性がある場合もありますが、多くのものは非律動性です。