海外渡航のためのワクチン:ワクチンの種類と接種タイミングは?費用は?
更新日:2020/11/11
- 国立国際医療研究センター トラベルクリニック医長の氏家 無限と申します。ここでは、海外渡航に行く前の予防接種について、それぞれのワクチンの必要性や予防接種を受けるタイミング、接種後の注意点などについて解説します。
目次
まとめ
- 海外渡航前に予防接種を受けておくことは、安心かつ安全に海外へ渡航するために重要な取り組みです。
- 予防接種の必要性は、各渡航者によって異なり、たくさんの関連する情報から総合的な判断を必要とするため、トラベルクリニックに受診をして、よく相談することがすすめられます。
- 予防接種の目的別に、規則に基づいて必ず必要となることがある予防接種として黄熱ワクチンなどが、海外渡航先での感染症を予防するための目的としてA型肝炎や狂犬病ワクチンなどが、国内でも常に推奨される予防接種として麻疹(はしか)や風しん、ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)ワクチンなどが典型的なワクチンとして挙げられます。
海外渡航前に受ける予防接種を受ける理由
- 海外では国内に流行のない病気にかかることがあります。
- 病気になった場合には、医療システム、言葉や文化が違う海外で治療を受けることとなり、本人だけでなく、家族や友人、会社の同僚などにも経済的、心理的にも大きな負担となります。
- 事前に予防接種を受けておくことで、海外での健康問題のリスクを減らし、より安心して海外での生活を楽しむことが可能となります。
- 国内での通常の生活においても、接種しておくことが望ましいワクチンもあるため、海外渡航は自分自身に必要な予防接種について見直す良いきっかけとなります。
予防接種の分類
- 「国際保健規則(2005)」という規則に基づき必要となるワクチン、海外での感染予防に必要なワクチン、日本国内にいても必要となるワクチンの3つに分けて説明をします。
規則で必要なワクチン
- 世界保健機関(WHO)は国際的な流行の拡大を阻止すべき特別な感染症を指定して、予防接種等の必要な対策を求めることがあります。
- 黄熱はアフリカや中南米に限局して流行がある感染症ですが、世界保健機関の定める規則に従って、流行国に入国する際や、流行国から別の国に入国する際に、黄熱の予防接種証明書の提示が求められることがあります。
- 他にも、海外における感染症が広がらないための対策もあります。2019年4月時点で、ポリオがそれにあたり、流行地域に長期間滞在した人に対しては、出国する際に予防接種歴が確認されることがあります。
- サウジアラビアでは、メッカの巡礼に参加する人に対して、人が多く集まるイベントで流行しやすく、髄膜炎を発症すると死亡率が高い髄膜炎菌感染症に対する予防接種証明書を入国する際に提示することが義務付けられています。
海外で必要なワクチン
- 海外では地域によって、日本では感染しない、または感染しにくい病気でも、感染のリスクがあったりすることがあります。
- 海外渡航中は、国内での日常の生活とは異なり、普段食べたり飲んだりしないものを摂食したり、通常とは異なる活動をすることで、感染症にかかるリスクも高くなります。
- そのため、事前にかかりやすい感染症について知っておき、予防接種などの必要な予防対策をすることが重要になります。
- 典型的には、A型肝炎、狂犬病、腸チフスなどのワクチンがこれに当たります。
国内でも必要なワクチン
- 子供のころには国が法律で定めた定期接種を受けることが一般的ですが、健康な大人が予防のためのワクチン接種を受ける機会はあまり多くありません。
- 一方で、年齢、職業、妊娠などの体の変化、季節、社会の流行状況などに応じて、必要とされる予防接種は数多くあります。
- 海外渡航先で必要とされるワクチンを検討する際に、国内にいても予防接種を受けておくべきワクチンについて、接種を検討することが重要となります。
- 具体的には、はしかや風しんなどの国内の流行拡大の阻止や妊婦への感染予防を目的としたワクチン、破傷風やインフルエンザなどの定期的な接種が勧められるワクチン、HPVなどの未接種者が多い定期接種のワクチン、帯状疱疹など年齢によって接種が推奨されるワクチンなどがこれにあたります。
国内の承認ワクチンと未承認ワクチン
- 海外渡航の際に接種しておくことが推奨されるワクチンでも、日本国内ではまだ承認されたワクチンがないことがあります。
- 国内で承認されていても、流通量が限られていて予防接種が受けられなかったり、事前に予防接種を完了させるための時間が長いため、海外渡航までの予防接種が間に合わなかったりすることもあります。
- そのような場合には、医師個人が国内に流通していない医薬品を必要とする人のために海外から個人輸入することができる薬監証明制度を利用して、予防接種の機会を提供することがあります。
- ワクチンの安全性や有効性、どの地域で使用されているワクチンであるか、どのように品質管理で輸送され、保管されてきたかなどについては決まりがないため、輸入に責任を持つ医師から詳しく内容を確認する必要があります。
- 国内で承認されているワクチンによる重篤な副作用では、法律にも基づき健康被害救済措置が適応されますが、未承認ワクチンはそのような適応がありません。
- 多くの場合には、ワクチンの輸入業者が独自に保険に加入しているため、万が一、未承認ワクチンにより健康被害が生じた場合には、その保険を適用しての救済を検討することになります。
予防接種にかかる費用について
- 予防接種は健康な人が病気になる前に受ける医療であるため保険診療が適応となりません。
- 必要な費用全額を負担する自由診療であるため、一般に支払い費用が高く、1回のみならず複数回の予防接種を必要とするワクチンもあります。
- 自由診療の場合には、接種を受ける診療機関によって設定されている価格はそれぞれ異なるため、事前に接種を検討しているワクチンの接種費用について確認をしておくことがすすめられます。
海外渡航前の予防接種を受けられる医療機関は?
- 海外を渡航する際に、どのワクチンが必要となるかについては、どの地域に、いつから、どのくらいの期間、何の目的で渡航するのか、接種を受ける人の職業、考え方、健康状態などによっても一人ひとり異なります。
- 様々な情報を総合的に判断し、各海外渡航者に最適な予防接種を計画するための相談は、トラベルクリニックで行うことがすすめられます。
- トラベルクリニックは都市部に偏在する傾向にあり、数も十分には多くないため、インターネットを通じて厚生労働省検疫所のホームページに掲載されている予防接種実施機関の探し方(https://www.forth.go.jp/useful/vaccination02.html )や日本渡航医学会が掲載している国内トラベルクリニックリスト(http://jstah.umin.jp/02travelclinics/)を参考に、受診しやすい近くのクリニックを探します。
どのタイミングで海外渡航前の相談受診をするべきか?
- 海外渡航の目的や渡航先によって、必要とされる予防接種が異なります。
- 場合によって、2回以上の接種が必要となること、接種を受けてから証明書が有効になるのに一定期間を要すること、繁忙期には希望日の相談受診ができないこと等が生じうるため、できるだけ時間的な余裕を持ってトラベルクリニックを予防相談に受診することをおすすめします。
- 具体的には、2回目の予防接種を行うために、ひと月程度の接種間隔を置くことが珍しくないので、少なくともひと月以上の時間的な余裕があることが望ましいです。
- 予防は何もしないよりは、不完全であってもしておいた方が良いです.予防接種を受けない場合でも、適切な知識により感染症にかかったり、重症化したりすることを防ぐことができるため、渡航前直前であっても相談受診を行うことはすすめられます。
どのような副作用が起きることがあるか?
- 海外渡航に際に必要となる予防接種がそれぞれ異なるように、予防接種によって生じ得る副反応もワクチンの種類や、過去の接種歴、接種を受ける人の健康状態によってそれぞれ異なります。
- 自分自身が受けることになる予防接種のリスクについても、接種を行う医師から十分な情報提供を受けることが大切です。
- 一般に、最も頻度の高い副反応は接種部位に、痛み、腫れ、赤みが生じる等の局所反応です。日常生活に支障がなければ、経過観察のみで数日以内に自然に軽快することがほとんどです。
- 学校や家事を休む等の日常生活に影響がある場合には、予防接種以外の原因の可能性を含めて、医療機関を受診してください。予防接種が原因と考えられる場合には、対症療法で様子をみることが一般的です。
- 生ワクチンという、感染した時と同じ過程を経て免疫を獲得するタイプのワクチンでは、その時の健康状態によって重篤な副作用が見られたり、副作用が接種から2~3週間後に遅れて出現することもあるため1か月間は副作用に注意します。
- この1カ月の間は副作用に注意するとともに、次の予防接種を避けたり、女性の場合には妊娠を控えたりすることが必要な場合もあるので、予防接種を実施する医師の指示に従ってください。
- 予防接種による副反応が入院が必要なほど重篤になるなど、生活への影響が大きい場合には、任意の予防接種であっても健康被害救済の適応となることがあります。予防相談を実施した医療機関及び副反応の評価をしてもらった医療機関に相談の上、適応となる制度への申請を行います。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
海外渡航前に必要となる予防接種の国内情報
- 厚生労働省検疫所ホームページ、海外渡航のためのワクチン
- https://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html
- 外務省ホームページ、世界の医療事情
- https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html
海外渡航前の予防接種に関する海外情報
- 米国疾病予防センター 海外渡航者の渡航国別の予防接種リスト
- https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/list
- 英国渡航健康ネットワーク・センター国別情報
- https://travelhealthpro.org.uk/countries