薬剤性顎骨壊死:どんな病気?検査や治療は?完治できるの?
更新日:2020/11/11
- 口腔外科指導医・専門医の柴原 孝彦と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかするとビスホスホネートやデノスマブというお薬を処方され、副作用について調べていらっしゃるのかもしれません。また、しばらく歯医者さんに行っていないことで不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 骨粗鬆症やがんが骨に転移した時に処方されるお薬が原因で、あごの骨が壊死してしまうことがあります。
- この薬剤は骨粗鬆症とがんの骨転移の治療薬としては良い薬ですが、適切な歯の治療を受けていないと、さらに顎骨骨髄炎【がっこつこつずいえん】を引き起こします。
- 予防ができますので、いたずらに怖がる必要はありません。医師と歯科医師の先生方に相談してください。
薬剤性顎骨壊死は、どんな病気?
- 骨粗鬆症とがんが骨に転移した時に処方される、ビスホスホネートとデノスマブという薬が原因で発症します。あごの骨が壊死して、歯やあごの痛みなどがあらわれます。
- もともと歯の感染症があると、さらにあごの骨に炎症が及ぶこともあります。
- 口の中に感染症がなければ、発症しない病気です。
コラム:顎骨壊死の機序
- ビスホスホネートと抗RANKL抗体のデノスマブは、破骨細胞の働きを抑制して、骨のリモデリングを起こさせず、骨密度を上げるお薬です。
- 顎骨も同様に骨密度が上昇し、血管を含めた軟組織の介在は減少していきます。血管新生の抑制、免疫応答作用の遅延などによって、感染には弱い環境となります。
薬剤性顎骨壊死と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- まずはかかりつけの歯科医院に相談して下さい。
- ビスホスホネートまたはデノスマブを処方している医師にも連絡が必要です。
- 歯の周りに骨が出てきた場合、歯の痛みとは違った痛みがある場合、顎の周りに麻痺がある場合はかかりつけの歯科医院で診察を受けて下さい。
- もちろん、出血したり感染したりした場合も同様です。
受診前によくなるために自分でできることは?
- ビスホスホネートやデノスマブを処方されたら、より口の中を清潔に保つことが大切です。
- 歯磨きはもちろんのこと、治療途中の歯も放置せず、治療を受けてください。
- 定期的に歯医者さんに受診することが必須です。
- 痛くなる前、症状が出る前の対策が重要です。
- もともと糖尿病、腎不全、骨paget病などがある場合、ステロイドを服用している場合は特に注意してください。
薬剤性顎骨壊死になりやすいのはどんな人?原因は?
- 糖尿病、腎不全、抗がん剤治療、関節リウマチ、骨軟化症、貧血、骨Paget病などがある方は注意が必要です。
- 肥満の方、お酒をよく飲む方、タバコを吸う方も同様です。
- 抗がん剤、ステロイド、エリスロポエチン、血管新生阻害薬(抗がん剤の一種)などは顎骨壊死を起こしやすいです。
- 歯科治療、不適切な入れ歯、口の中の環境、炎症や感染などが原因となります。
- 骨粗鬆症の薬の中では、ビスホスホネートとデノスマブのみが該当します。その他の治療薬は大丈夫です。
どんな症状がでるの?
- 薬剤性顎骨壊死では、次のような症状があらわれます。ステージという基準があり、重症度を示します。
顎骨壊死の症状
- ステージ0:原因不明の歯やあごの痛みがある。
- ステージ1:歯やあごの痛みに加え、歯の周りの骨が露出してくる。
- ステージ2:歯やあごの痛みがあり、骨が見える。細菌に感染して、膿が出てくる。
- ステージ3:あごの骨の壊死がすすみ、皮膚に穴があく。痛みが強く、感染により全身の状態が悪くなる。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- まずは口や歯と全身の状態を把握することが重要です。
- レントゲンからCT、MRIまで撮影します。
- 血液検査を行い、感染の程度を把握します。
- 処方した医師に連絡し、元の病気の状態、薬をどれくらい飲んでいるかを把握します。
- ビスホスホネートとデノスマブによる副作用ですが、すぐに薬をやめることはできません。処方した医師との連携が、治ることへの第一歩です。
どんな治療があるの?
治療のオプション
- 初期の場合、口の中の洗浄と抗菌薬で治療します。
- もっと病気が進んでいる場合、患者さんの全身の状態が良ければ、壊死した骨を取る手術を行います。一部の周りの骨も一緒に取ってしまった方が予後は良いようです。
- 全身の状態によって手術できない場合もあります。その場合は洗浄しか方法はありません。
ビスホスホネートまたはデノスマブの休薬の判断
- ビスホスホネートまたはデノスマブは、やめた方が予後は良いです。しかし、元の病気の状態によっては、薬をやめることで病気が悪化するなどの不利益が大きく、中止できない場合もあります。
- 患者さんが勝手に薬をやめるのは絶対にやってはいけません。
- 手術を受けていただく場合はいったん薬をやめていただきますが、傷が完全に閉じたら薬を再開します。通常、手術の後2-3か月後に再開します。
- また、別の薬に変えられる可能性もあります。主治医の先生と歯科の先生に状況を伝え、相談してみてください。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 再び症状が現れることが考えられます。定期的にかかりつけの歯科医院を受診してください。
- 元の病気の治療が優先されるべきなので、薬の再開を検討してください。
- 口の中を清潔に保つことを心掛けてください。
- 勝手に薬を止めたり、再開したりしないでください。
- 医師と歯科医師との情報共有をしっかり行ってください。
予防のためにできることは?
- ビスホスホネートやデノスマブが処方される前に、歯の治療を終えておいてください。抜歯が必要な場合や、過去に治療した歯の詰め物の見直しが必要な場合もあります。処置すべき歯が残っていると、それが顎骨壊死の原因になってしまいます。
- かかりつけ歯科医院を作り、適切な歯科治療を受けることが大切です。
- 口の中を清潔に保つよう心掛けて下さい。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- ビスホスホネートやデノスマブが処方されている間は、完全に治すことは難しいです。薬剤性顎骨壊死の患者さん100人のうち、手術で治った方は50人でした。そのため、薬剤性顎骨壊死にならないようにすることが重要です。
- ただし、手術が可能であれば、完全に治ることが期待できます。ですから、定期的に歯科医院を受診していただき、早めに対応することが大切です。
コラム:薬剤性顎骨壊死の治療の歴史
- 以前、「歯科治療はだめ」と提言された時期がありましたが、今では積極的に治療すべきとされています。
- 患者さんが「抜歯難民」にならないよう、医師と歯科医師の連携が求められます。
追加の情報を手に入れるには?
- 柴原 孝彦, 岸本 裕充, 矢郷 香, 野村 武史 :薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死MRONJ・BRONJ 最新 米国口腔顎顔面外科学会と本邦の予防・診断・治療の指針. 第1版, クインテッセンス出版株式会社, 東京, 2016.
- 森川 貴迪, 柴原 孝彦 : ビスフォスフォネート投与患者に対する外科治療 最新情報. 別冊the Quintessence 口腔外科YEAR BOOK 一般臨床家, 口腔外科医のための口腔外科ハンドマニュアル’16. 第1版, 168頁~179頁, クインテッセンス出版株式会社, 東京, 2016.
- 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016;顎骨壊死検討委員会. 日本口腔外科学会, 2016年10月11日.
- https://www.jsoms.or.jp/medical/wp-content/uploads/2015/08/position_paper2016.pdf, Accessed 2016年10月20日.
もっと知りたい! 薬剤性顎骨壊死
顎骨壊死の名称
- 薬剤性骨壊死には名称がいろいろとあります。ビスホスホネートによる顎骨壊死(BRONJ)、デノスマブによる顎骨壊死(DRONJ)、これらをまとめて骨吸収抑制薬による顎骨壊死(ARONJ)、さらに血管新生阻害薬による顎骨壊死も含めた薬剤性顎骨壊死(MRONJ)が一般的です。
- これらは「どの薬によって顎骨壊死が起きたか」によって分類されています。念のため概念図をしめします(図1)。ここに記載されていない薬剤からは顎骨壊死は発生しないこともご理解ください。
図表1 薬剤性顎骨壊死の概念図
ステージ別の対応
At risk category
- 症状:顎骨の露出、壊死を認めないが、経口または経静脈的にビスホスホネートやデノスマブ、血管新生阻害薬の投与をされている。
- 治療:患者の評価を行う。患者教育。
ステージ0
- 症状:骨露出・骨壊死なし。深い歯周ポケット、歯の動揺、粘膜潰瘍、腫脹、膿瘍、開口障害、オトガイ部の知覚異常、歯原性ではない痛み、歯槽骨硬化、歯槽硬線の肥厚・硬化。
- 画像所見:歯槽硬線の拡大と歯根膜空隙の狭窄、骨梁の硬化所見がある。
- 治療:鎮痛薬や抗菌薬投与、局所洗浄により全身管理。
ステージ1
- 症状:無症状で感染を伴わない骨露出・壊死または骨を蝕知できる瘻孔。歯槽骨硬化、歯槽硬線の肥厚・硬化、抜歯窩残存。
- 画像所見:ステージ0と同様。
- 治療:洗口薬の使用。瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄。局所的抗菌薬の塗布・注入。
ステージ2
- 症状:感染を伴う骨露出・壊死または骨を蝕知できる瘻孔。骨露出部に疼痛、発赤や排膿。歯槽骨から顎骨に及ぶびまん性骨硬化/骨溶解の混合像、下顎管の肥厚、骨膜反応、上顎洞炎、腐骨形成。
- 画像所見:骨梁の硬化所見、壊死骨の分離所見がある。
- 治療:上記に加え、鎮痛薬や抗菌薬による全身管理。難治例に対しては、複数の抗菌薬併用、長期抗菌薬療法、連続静注抗菌薬療法、腐骨除去、壊死骨掻爬、顎骨切除。
ステージ3
- 症状:ステージ2に加えて、1つ以上の次の症状を伴う。歯槽骨を超えた骨露出・骨壊死(下顎下縁や下顎枝、上顎洞、頬骨)、病的骨折や口腔外瘻孔、鼻・上顎洞口腔瘻孔形成、周囲骨(頬骨、口蓋骨)下顎下縁や上顎洞への骨硬化/骨溶解進展。
- 治療:上記に加え、腐骨除去、壊死骨掻爬、感染源となる骨露出/壊死骨内の歯の抜歯、栄養補助剤や点滴による栄養維持、壊死骨が広範囲におよぶ場合、顎骨の辺縁切除や区域切除。
治療の補足
- 病期に関係なく、分離した腐骨片は非病変部の骨を露出させることなく一部除去し、閉鎖する。
- 露出壊死骨内の症状のある歯は、抜歯を検討する。