腹痛:原因は?下痢や吐気もあるの?病院に行くタイミングは?治療は?
更新日:2020/11/11
- 消化器病学会専門医の奥村 利勝と申します。
- とつぜんお腹が痛みだしたり、ひどい腹痛が何日も続いたりすると、心配になりますよね。何か悪い原因で起こっているのではないか?と心配されたり、「病院に行ったほうが良いかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、腹痛の一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 腹痛(おなかの痛み)の多くは一時的なもので病院を受診する必要はありません。一方、おなかが痛くなる原因には、自然に治る軽いものから手術が必要になる病気までさまざまあります。そして、必ずしも胃腸が原因とは限らず、心臓の病気からくる場合もあります。
- 痛みがひどい、痛みが悪化する、食事がとれない、痛みなどで動けない、体重の減りが著しいといった場合は、医療機関を受診することを検討してください。また、突然強い痛みが起きた場合や話しかけても反応がない場合、血を吐いた場合はすぐに医療機関を受診してください。
- 食事と関係している場合は、胃腸の病気である可能性が高いと考えられます。
どんな症状?
- 腹痛は、文字通り、おなかに痛みを感じることです。多くは一時的なもので心配いりませんが、時には手術が必要な病気が原因の場合もあります。
- 痛む場所や、性質(キリキリ、差し込むような痛み、鈍い痛み、シクシクなど)、時間経過(どんどん強くなるか、波があるかなど)、どんな時に痛くなり何をしたらよくなるか(食事、トイレなど)、熱や下痢など他にも症状があるか、といったことが原因を知る上で重要です。
こんな症状があったら救急車を!
- 次のような場合は救急車を呼んでください!
救急車を呼ぶべき状態
- 痛みがどんどん強くなり身動きができないとき
- 話しかけても反応がない
- 突然起こった非常に強いがまんできない痛み
- 血を吐いた
どんなときに受診すればいいの?
- 腹痛の多くは、一時的なもので医療機関の受診の必要はありませんが、以下のような場合は医療機関への受診が必要になります。
- 腹痛の時は原因によって治療が変わりますが、食事を抜いて様子を見てもいいです。その際、水分を取ることは問題ありませんが、炭酸飲料水は避けたほうが無難です。
医療機関への受診が必要な場合
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何科を受診すればいいの?
- 腹痛の原因は様々で、内科、消化器内科、循環器内科、精神科など色々な科が関わります。しかし、受診前に原因を特定するのはむずかしいので、まずはかかりつけ医か内科へ受診するのがおすすめです。
- 腹痛の原因を探る手掛かりになるのは、痛みと食事の関連性です。痛みと食事が関係ある場合(食後、脂っこいものを食べた後、逆にお腹が空いている時に痛くなる)は胃腸の病気である可能性が高いです。そのようなときは、内科や消化器内科を受診してください。
- 急に左右どちらかのおなかが痛くなり(背中やわき腹の場合もあります)、数時間で自然によくなる場合、おしっこに血が混じっているような場合は、尿路結石を疑って、泌尿器科、内科を受診してください。
- 心臓の病気の既往がある場合で、お腹の上のほうが痛いときは、心臓の病気の可能性があり、循環器内科への受診が必要になるときがあります。
主な原因とその説明
- 腹痛の原因はたくさんあります。胃や腸などおなかの中の臓器だけではなく、心臓の病気などでおなかが痛いと感じることがあります。
消化管の病気
- 逆流性食道炎:胃から胃酸が逆流して食道の壁が荒れてしまい、胸やけやみぞおちの辺りの痛みを感じます。消化器内科、内科での治療となることが多いです。
- 胃炎:ストレスや痛み止めのお薬などで胃の壁が荒れてしまった状態です。緊急で病院を受診する必要はありません。胃カメラの検査で胃の状態を調べ、その程度によりお薬が必要になることがあります。内科、消化器内科での治療となることが多いです。
- 胃十二指腸潰瘍:胃や十二指腸の壁が一部えぐれてしまった状態です。ピロリ菌が住みついている場合や、痛み止め、血液をサラサラにするお薬を使っている場合が多いです。消化器内科、内科での治療となることが多いです。特に内視鏡のできる医療機関への受診が望ましいです。
- 消化管穿孔:胃や腸の壁にあなが開いてしまい、腸の中身がおなか全体に広がって炎症を起こします。胃十二指腸潰瘍ができている部分が開くことが多いです。消化器内科、内科での治療となることが多いです。特にCT検査や内視鏡のできる医療機関への受診が望ましいです。
- 腸閉塞・イレウス:何らかの原因で腸の動きが悪くなる病気です。強いおなかの痛みと便が全く出ないこと、はき気がだんだん強くなることが特徴です。手術が必要な場合とそうでない場合があります。過去におなかの手術を受けている場合になることが多いです。消化器内科、内科での治療となることが多いです。特にCT検査のできる医療機関への受診が望ましいです。
- 胆石・胆のう炎・胆管炎:胆のうに石ができたり、ばい菌が入ってしまうことがあります。右のわき腹からみぞおちのあたりに鋭い差し込む痛みが出ます。脂っこいものを食べた後になることが多いです。皮膚が黄色くなる、おしっこの色が非常に濃くなる、熱も出る場合は炎症が強いため、病院で治療を受ける必要があります。消化器内科、内科での治療となることが多いです。特にCT検査のできる医療機関への受診が望ましいです。
- 膵炎:お酒の飲みすぎや、胆石が原因となって膵臓が炎症を起こすことがあります。みぞおちや背中に強い痛みを感じます。入院が必要になる場合が多い病気です。消化器内科、内科での治療となることが多いです。特にCT検査のできる医療機関の受診が望ましいです。
- 虫垂炎:「盲腸」という名で知られています。盲腸という部分は袋状になっていて、そこに入り込んだ便やばい菌が悪さをする病気です。典型的にはおなかの右下が痛くなり、熱も出ます。自然によくなることは少なく治療が必要な病気です。消化器内科、外科、内科での治療となることが多いです。特にCT検査のできる医療機関への受診が望ましいです。
- 急性胃腸炎:おなかにばい菌が入り、急におなかが痛くなり、下痢や熱が出ます。場合によってははき気を催し、何度も吐いてしまうこともあります。そういうときは食事はやめて、可能なら少しでもこまめに水分を飲んでください。基本的には数日で自然によくなります。数日でよくならず、どんどん症状が強くなる、全く水分が飲めない場合は病院で治療を受けてください。体から水分がどんどん出ていってしまい、危険な状態になる場合があります。内科、消化器内科での治療となることが多いです。
- 尿管結石:腎臓でつくったおしっこを膀胱まで運ぶ尿管に、不要物のかたまり(結石といいます)ができる病気です。急に左右どちらかのおなかが痛くなり(背中やわき腹の場合もあります。)、数時間で自然によくなることが多いです。とくに石が大きくなって尿管にはまり込むと非常に激しい痛みを感じます。尿管が傷つき、血でおしっこが赤くなることがあります。泌尿器科、内科での治療となることが多いです。
心臓の病気
- 心筋梗塞・狭心症:心臓に栄養を送る血管がつまる病気です。完全につまると心筋梗塞と呼ばれます。階段を登ったり、体を動かしたり、体に負荷をかけた時に起きるみぞおちや胸の強い差し込む痛みが起きます。心筋梗塞の一歩手前(狭心症といいます。)では、痛みは数分以内におさまることが多いですが、数十分以上続く場合は心臓からくる痛みである可能性があります。危険な病気ですのですぐに医療機関(おもおもに循環器内科)へ行ってください。
体にはとくに問題がない場合
- 精神的なストレスや緊張などでおなかが痛くなることがあります。何ヶ月や何年も続き、その程度が同じような場合、この病気の可能性があります。緊急性はありませんが、症状が辛い場合は医療機関(おもに心療内科、精神科)への受診が必要です。
腹痛に対して、よくなるために自分でできることは?
- まずは安静にしてください。例えば、胃十二指腸潰瘍にかかったことがあり、前と同じ症状であれば、水分をとり少し食べるとよくなることがあります。
- 胸やけがあったり、日常生活が送れる程度の痛みであれば、市販の胃薬を飲んでいただいて構いません。可能な限り、身体を休ませ、ストレスを回避してしっかり睡眠をとることが大切です。
お医者さんでおこなわれること
- お医者さんにいくと、まずは腹痛についてくわしく聞かれます。話ができるくらいの痛みであれば、時間を使って話し、原因を絞っていきます。とくに下記の情報を伝えていただけると診療の助けになります。
ご質問とお答えの例
- 初めて感じる痛みですか?→前にも似たような痛みがあった/いつもより痛い。
- どのくらい続いていますか?→数分/数時間/数日
- 痛む場所はどこですか?→みぞおち/へその周り/下腹部/右側/左側/全体
- 痛みの感じ方は?→ズキズキ/しめつけられる感じ/我慢できない/波がある
- 食事、便、月経との関連はありますか?→食べた後に痛くなる/トイレに行くと楽になる
- ほかに症状はありますか?→熱/はき気/おう吐/下痢/便秘/めまい
- 以上の情報を手がかりに原因を考え、診断が正しいかどうか検査で確かめます。
腹痛で行われる検査の例
- 血液検査:炎症があるか確認し、痛みを起こしている臓器を推測します。
- 尿検査:血やばい菌などが混じっていないか調べます。
- 心電図:心臓の病気が原因のこともあります。
- おなかの画像検査:エコー、レントゲン、CT、MRIなど
- 内視鏡検査:カメラのついた管を、口もしくは肛門から入れて、胃や大腸の状態、血が出ていないかなどを見ます。
もっと知りたい 腹痛のこと!!
どんな病気のことが考えられる?
- 腹痛の原因はたくさん考えられます。胃腸の病気だけでなく、心筋梗塞など心臓を栄養する血管が細くなりつまってしまった場合でも、おなかの痛みとして感じることがあります。
以下の病気でも腹痛を来たします
- アルコール性急性肝炎:お酒の飲みすぎで急激に肝臓が傷み、炎症を起こすことがあります。おもに消化器内科、内科で治療することが多いです。
- 帯状疱疹:ピリピリとした痛みが特徴で、痛いところに帯状の赤い発疹が見られます。おもに皮膚科、内科で治療することが多いです。
- 上腸間膜動脈閉塞症:腸を栄養している上腸間膜動脈が詰まってしまい、血流が悪くなり腸が壊死してしまう病気です。突然の非常に強い痛みを、腹部全体に感じます。おもに循環器内科、内科で治療することが多いです。
- 子宮外妊娠:通常おなかの中の赤ちゃんはお母さんの子宮で育ちますが、別の場所(卵管など)で育ち始めてしまうことがあります。子宮以外の場所はせまく、それ以上に大きくなるとまわりを破壊してしまい、おなかの痛みとして感じます。若年女性の患者さんで、月経が遅れていて急に痛みが出た場合、この可能性を考える必要があります。おもに産婦人科で治療することが多いです。
- クラミジア骨盤炎:性行為などでうつるクラミジアという細菌が、子宮や卵巣で炎症を起こしている状態をいいます。ときに腹腔内にも広がったり、不妊の原因になったりします。右側腹部が痛むことが多く、熱も出ます。おもに産婦人科、内科で治療することが多いです。
- 進行がん:段々と痛みは強くなります。食欲低下や体重減少(もともとの体重の10%以上)があったら注意です。それぞれのがんの種類、進行度により何科で治療するかが決まります。例えば、大腸がんでは消化器内科、外科で治療をすることが多く、腎臓がん、膀胱がんでは泌尿器科で、子宮体がん、子宮頸がんでは、産婦人科で治療をすることが多いです。
- 虚血性腸炎:高齢の方に多く、腹痛・嘔吐・血便が見られます。おもに消化器内科、内科で治療することが多いです。
- 大腸憩室炎:大腸の壁にできた憩室(外側に突出する袋状の部屋)に便がたまり、腸内細菌が悪さをして炎症が起きるとおなかが痛くなります。熱も出ます。おもに消化器内科、内科で治療することが多いです。
- 炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎とクローン病を合わせて炎症性腸疾患といいます。数カ月以上持続する腹痛、下痢、血便、発熱、体重減少などが起きます。おもに消化器内科、内科で治療することが多いです。
- 便秘:何日も便が出ていないと、腸の中で硬くなりさらに出づらくなります。おなかが張って痛みがでます。水分をよく取り、腸の動きをよくする 便秘が続く場合は下剤を処方することがあります。おもに消化器内科、内科で治療することが多いです。
- パーキンソン病:パーキンソン病と診断される前から、原因不明の腹痛として症状が現れることがあります。おもに神経内科、内科で治療することが多いです。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 日本消化器病学会ガイドラインを参照してください。
- https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/