吸入ステロイド薬:どんな薬?どういう時に必要?使い方は?副作用は?
更新日:2020/11/11
目次
まとめ
- 吸入ステロイド薬は,喘息の治療薬です.
- 空気の通り道(気道といいます)の炎症を抑え,喘息の症状を起きにくくします.
- 吸入ステロイド薬は,粉末のドライパウダータイプと,霧状のエアゾールタイプの2種類があります.
- 吸入ステロイド薬の副作用として,口の中にカビが生えたり(口腔カンジダ症)や声が枯れることがあります.
どんなくすり?おおよその値段は?
- 吸入ステロイド薬は,空気の通り道(気道)に起きた炎症にステロイドを作用させ,炎症を抑える薬です.
- 炎症とは,体に起きる火事やボヤのようなものです.炎症を抑えるとは,その火事やボヤを消すようなものです.ステロイドは炎症を抑えるために使われる薬で,皮膚に炎症があればステロイドの塗り薬,目に炎症があればステロイドの目薬が使われています.
- 市販薬はなく,医師が処方するお薬のみとなります.
- 値段はまちまちですが,通常の喘息で使う吸入ステロイド薬の1ヶ月の値段は,3割負担で1,600~2,500円程度が一般的です.
どんな目的で使うの?
- 喘息による気道の炎症を抑えて,喘息の症状を起きにくくします.
- 吸入ステロイド薬を毎日続けて使用することで,喘息の症状が起こらないようにし,健康な人と変わらない生活を送れるようにすることが目的です.
喘息ってそもそもどんな病気?
- 喘息は,「気道の炎症」と「気道の収縮(気道が狭くなること)」で起きる病気です.
- 炎症があると,気道表面のバリアが剥がれた状態になり,気道はわずかな刺激でも敏感に反応する状態になっています.また,気道の粘膜なども炎症のためにむくんでおり,空気の通り道は狭くなっています.
- そこへ何らかの刺激があると,さらに気道が収縮して空気の通り道がふさがってしまいます.その結果,喘息の症状が起こるのです.
- 主な症状は,息苦しさ,咳や痰,「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と音の鳴る呼吸(喘鳴【ぜんめい】といいます),喉がイガイガするなど様々です.喘息の症状が急激に悪化すると,呼吸ができなくなることもあり,時には命にかかわることもあります.
- 喘息の症状は,夜間や明け方に起きることが多いです.また,風邪を引いた時,季節の変わり目,疲労やストレスがかかった時,アレルギーを引き起こす物質(ダニ,ハウスダスト)を吸入した時などにも起きやすいです.
- 喘息があるとよく眠れなかったり,働けなくなったりして,日常生活に支障をきたすことがあります.ですから,喘息の症状を起きにくくするために,吸入ステロイド薬を続けていただくことが大切なのです.
どのように使うの?
- 吸入ステロイド薬は,喘息症状がない時でも毎日続けるのが基本です.
- 吸入ステロイド薬は粉末の薬剤を吸入するドライパウダータイプと,霧状にした薬剤を吸入するエアゾールタイプの2種類があり,吸入するタイミングや速度に違いがあります.
吸入方法
- 薬剤を吸入する前に,無理のない程度に息を吐き出します.
- ドライパウダータイプの場合,自分のタイミングで,速く深く吸い込みます.例えていうならば,うどんをすするイメージです.
- エアゾールタイプの場合,薬の噴霧と吸入のタイミングを合わせる必要があります.薬剤は霧状に噴射されるので,ゆっくり深く吸います.深呼吸をするイメージです.
- 吸入後はできれば5秒程度,息を止めます.息止めをすることで,吸入した薬剤が気道に付着しやすくなります.
- 息を止めた後は,鼻から息をゆっくり吐き出すようにしてください.
- 吸入が終わったらうがいをします.うがいをすることで,口の中に付着した余分なステロイドを洗い流し,副作用を予防することができます.
使い始めるときの注意点は?いつまで使うの?自分でやめてよい?
- 吸入器ごとに使い方が違うので,吸入方法をよく理解してから吸入して下さい.分からないことがある場合は,なんでも医師や薬剤師さんに聞いてください.
- 喘息症状が起こらないよう予防するための薬なので,毎日忘れずに吸入してください.治療を止めると気道の炎症が再び悪化し,喘息の症状が出てきてしまいます.
副作用ってよく聞くけど,どんなことが起こるの?治療中の注意点は?
- 吸入ステロイド薬の副作用としては,口の中にカビが生える(口腔カンジダ症),声が枯れる(嗄声【させい】といいます)などが起こります.下記に副作用に対する対策を記述したので参考にしてみてください.
口腔カンジダ症
- 吸入ステロイド薬を使った後にうがいをすることで予防できます.うがいを2回すれば,口の中に残った薬剤を90%以上洗い流すことができます.
- 吸入後に飲み物をとったり食事をしたりして,口の中に残った薬剤を飲み込んでしまう方法もあります.飲み込んだ吸入ステロイド薬は肝臓でほぼすべてが分解されるので,全身に副作用が出る可能性は低いです.
声がれ(嗄声)
- 吸入ステロイド薬の種類を変更してもらいます.
- エアロゾールタイプであれば,スペーサー(筒型の吸入補助器具)を使用することで予防することができます.
患者さんからよく聞かれる質問は?
食事などとの飲み合わせは?一緒に飲まないほうがいい薬はある?
- 飲み合わせが悪い食事や薬はありません.
吸入ステロイド薬は安全なの?
- 経口ステロイド薬(飲み薬)は,長期間飲んでいると全身に副作用を起こす可能性がある薬剤ですが,吸入ステロイド薬は副作用が現れにくいです.
- 吸入ステロイド薬に副作用があらわれにくい理由は,吸入することで気道の悪い部分に直接,薬を到達させることができるため,飲み薬と比べて使用量が少なくて済むからです.
- 1回当りの使用量は,経口ステロイド薬(飲み薬)ではmg単位(1gの1,000分の1),吸入ステロイド薬ではμg単位(1gの100万分の1)で,吸入ステロイド薬の使用量は極少量です.
- 吸入ステロイド薬が血液に入っても,肝臓でほぼすべて分解されるので,全身に副作用が生じる可能性は低いです.
妊婦が吸入ステロイド薬を使用しても大丈夫ですか?
- 吸入ステロイド薬は血液に吸収されにくく,また,胎盤に移っていくことはほとんどないため,お母さん・お腹の赤ちゃんともに安全性が高い薬です.また,吸入ステロイド薬が赤ちゃんに奇形を生じさせる性質はほとんどありません.
- 妊娠中も安全に使用できますので,喘息の発作を予防するために処方されている場合は,続けて使用してください.
- お母さんが自己判断で吸入ステロイド薬を中断した結果,喘息の発作が起きてしまうと,お母さん・お腹の赤ちゃんともに酸素が足りない状態になってしまいます(低酸素状態といいます).低酸素状態は,お腹の赤ちゃんの発達に影響を及ぼす可能性があります.
もっと知りたい! 吸入ステロイド薬の基礎知識
吸入ステロイド薬の種類による違い
吸入ステロイドの粒子径
- 平均粒子径が2〜3μmの薬剤が中枢気道から末梢気道での効果が期待できます.エアゾール製剤の粒子径は約1〜3μmと小さく,肺内への到達率が高いです.一方,ドライパウダー製剤は,エアゾール製剤に比べやや粒子径が大きく,肺内への到達率がやや低い傾向にあります.
プロドラッグ
- シクレソニド,ベクロメタゾンジプロピオン酸は,プロドラッグです.そのままでは薬物活性が低く,肺のエステラーゼで活性代謝物へ変換された後に,気道で効果を発揮します.そのため,口腔内での副作用は少ないです.嗄声の発生率は両薬剤とも2%未満と報告されています.
生物学的利用能
- フルチカゾンプロピオン酸,シクレソニドは1%未満,ブデソニドは11%程度,ベクロメタゾンジプロピオン酸は15%程度の生物学的利用能があります.高用量を長期間使用する場合は,全身性副作用の軽減のため,生物学的利用能の低い薬剤を選択すると良いです.
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 喘息予防・管理ガイドライン2018
- 『すべての医療者のための明日からできる実践吸入指導—指導から支援へ』 吸入療法のステップアップをめざす会