幹細胞移植および骨髄移植:どんな治療? 治療を受けるべき人は? 治療内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 造血細胞移植専門医の藤原 慎一郎と申します。
- このページに来ていただいた方は、担当医から説明を受けた造血幹細胞移植という治療について考えておられるかもしれません。
- あまり聞きなれないことが多くわからないことも多々あるかと思います。造血幹細胞移植を選択する上で役に立つ情報をまとめました。
目次
まとめ
- 造血幹細胞移植は、病気の原因である異常な造血幹細胞を正常なものに置き換えることで、血液の病気を完全に治すことができる治療です。
- ただし、合併症のために命を落とすこともあり、適応は慎重に検討する必要があります。
どんな治療なの?
- 人のからだにある造血幹細胞という血液細胞をつくる細胞に異常が起こると血液細胞のがんである白血病などの病気になります。
- このような異常な造血幹細胞を正常なものに置き換える治療を造血幹細胞移植(以下、移植)といいます。
- 移植には、次に示すように同種移植と自家移植とがあります。この原稿では同種移植について記載します。
造血幹細胞移植の種類
- 自家移植:大量の抗がん剤投与後に保存しておいた自分の造血幹細胞を移植する治療です。
- 同種移植:他人の造血幹細胞を移植する方法です。
どんな目的や効果があるの?
- 病気の原因である異常な造血幹細胞を大量の抗がん剤や放射線照射で破壊し、正常な造血幹細胞と置き換え、血液の病気を完全に治すことを目的としています。
- 造血幹細胞が正常になると血液細胞が増え、また、移植した他人の細胞がからだに残るがん細胞を攻撃し再発を防いでくれる効果(移植片対白血病効果)も期待されます。
どういう人がこの治療を受けるの?
- 代表的な病気が急性白血病で、再発のリスクが高い場合や実際に再発をした場合などが対象となります。
- 再生不良性貧血や、血液のがんになるリスクが高い病気(骨髄異形成症候群【こつずいいけいせいしょうこうぐん】など)も対象となります。
- 移植には合併症により命を落とすことや、合併症により生活の質が低下することがあり、このようなデメリットよりも移植を受けることのメリットが上回る場合に移植を受けるべきです。
- 病気がどれだけ悪性かや、移植する細胞を提供してくれる人(「ドナー」といいます)、患者さんご自身の考えも含めてよく検討することが大切です。
実際には、どんなことをするの?
- 造血幹細胞を採取するには、次の3つの方法があります。
造血幹細胞採取の方法
- 骨髄移植:全身麻酔にてドナーの腰の骨から採取する方法。
- 末梢血幹細胞【まっしょうけつかんさいぼう】移植:ドナーにお薬(造血薬)を使用し献血のようにして採取する方法。
- 臍帯血【さいたいけつ】移植:赤ちゃんが生まれたときにへその緒から採取する方法。
- 移植を受ける患者さんは、移植の前に患者さん自身の造血幹細胞を死滅させ、ドナーの細胞が増えるように抗がん剤や放射線を用いた前処置とよばれる治療を受けます。
- 前処置には、約1週間程度を要します。
- 前処置のあとに、病室で輸血などと同様に点滴によってからだの中に造血幹細胞を入れて移植します。
ほかにどんな治療があるの?
抗がん剤・分子標的薬・抗体薬
- 血液のがんは、遺伝子診断によって、治療後に病気がどのような経過をたどるかをより正確に予測できるようになりました。
- 移植のメリットが少ないと考えられる場合は、抗がん剤やがんに効果があるよう設計された分子標的薬や抗体薬などのお薬によって治療を行うこともあります。
腫瘍特異的T細胞輸注療法
- 患者さんから採取した免疫に関係する細胞(T細胞)の遺伝子に細工をし、体内に戻してがん細胞を攻撃させる治療です。
- 一部の血液がんに対して高い治療効果が期待されます。
輸血療法
- 赤血球や血小板など、足りない血液の成分を補う治療です。
- 完全に治すことはできませんが、症状をやわらげる効果があります。
治療を受けるときどんなことに注意すればいいの?
- 患者さんの年齢上限は65~70歳程度です。
- 心臓や肺といった臓器に異常がなく、全身状態が良好で、患者さんが移植のメリット、デメリットをよく理解し、ご家族のサポートが得られることなどが必要です。
どんなリスクや副作用があるの?
- 移植後、通常、2~4週間でドナー細胞が増えてきますが、その間は、感染症を起こしやすいため無菌室で過ごします。
- 移植した造血幹細胞数が十分ではないと、造血幹細胞が拒絶されることもあります(生着不全)。
- ドナー細胞が増えると、ドナー細胞が患者さんのからだを攻撃する移植片対宿主病【いしょくへんたいしゅくしゅびょう】が生じます。
- 皮膚、肝臓、腸が攻撃される急性型と全身の臓器が攻撃される慢性型があり、予防として免疫抑制剤というお薬を移植後半年ほど使用します。
- 前処置による免疫細胞の減少や免疫抑制剤の使用により感染症にかかりやすくなり、健康な人は、通常、感染しないウイルスやカビが原因菌となることもあります。
- 移植1~2年後には予防接種を行います。
- 移植後にも血液の病気が再発をすることもあります。
治療を受けた後に注意することは?
- 移植後しばらく経った後(晩期【ばんき】といいます)に、次のような副作用が起こることがあります。
移植後晩期の副作用
- 慢性移植片対宿主病に伴う皮膚、口腔、眼、関節などの障害によりQOLが低下することがあります。
- 抗がん剤や放射線の影響により不妊になる可能性が高く、二次性発がんのリスクも生じてきます。
- 不妊については移植前に対策を考えることが重要です。
よくあるご質問
血液型が変わるの?
- 移植後にはドナーの血液型に変わります。血液の性別が変わることもあります。
治療にはどれくらい費用がかかるの?
- 移植は保険適用ですが、医療費が高額なため高額療養費制度への申請をおすすめします。
追加の情報を手に入れるには?
- より詳しい情報や最新のガイドラインなどについては以下のウェブサイトを参照してください。
- 造血幹細胞移植学会
- https://www.jshct.com/
- 造血幹細胞移植情報サービス
- http://www.bmdc.jrc.or.jp/
- 日本骨髄バンク
- https://www.jmdp.or.jp/