捻挫と肉離れ:捻挫と肉離れの違いは?応急処置方法は?受診は必要?
更新日:2020/11/11
- 整形外科専門医の守屋 拓朗と申します。
- 運動中に膝や足などの関節をひねったり、太ももやふくらはぎなどの筋肉が痛くなったりして、痛みが何日も続いたりすると、心配になりますよね。「大きな怪我なのではないか?」と心配されたり、「冷やした方がいいのかな?」「いつになったら痛みがとれるのかな?」「病院に行ったほうが良いかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、捻挫と肉離れの一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまりしられていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 捻挫とは、レントゲン検査の画像では異常がない関節の怪我です。一方、肉離れとは、筋肉の損傷や、筋肉と腱のつながる部分の損傷のことです。
- 捻挫の痛みは幅広く、痛みが強く、ぐらつきが大きい場合には、重度の捻挫や、骨折をしている可能性もあります。一方、肉離れでは、筋肉を伸ばしたときの痛みが特徴的です。軽度から全く動かすことができないほど痛みを伴う重症のものまであります。
- 捻挫、肉離れともに、初期対応は、安静・アイシング・圧迫・挙上の4つです。捻挫が完治するまでには、軽症で数日から1週間程度、重症では2-3ヶ月を要することがあります。重症で関節の不安定性が強い場合には手術が必要となることがあります。一方、肉離れの場合、完治には、軽症で1-2週間、重症では3ヶ月程度かかるものまであります。
- 捻挫・肉離れともに、完治後でも周囲の筋力や機能が低下しているので、筋力訓練やバランス機能訓練などリハビリテーションを行うことが再受傷の予防に効果的です。
どんな症状?
捻挫の症状
- 捻挫をすると、怪我をした関節の腫れと痛みがみられます。
- 捻挫による痛みは怪我の程度とほぼ一致しますが、関節の中の靱帯や軟骨を損傷したときなど、痛みを感じにくい場合もあるので、痛みがないからといって大丈夫というわけではありません。
- 重症の捻挫では、関節のぐらつきが大きくなります。足や膝を捻挫した場合、歩くときに痛みとともに不安定感を感じることもあります。
肉離れの症状
- 肉離れになると、怪我をした筋肉に痛みを感じます。とくに、怪我をした筋肉に力をいれたときや、伸ばすときに痛みを感じます。
- 重症の場合には、怪我をした部分がへこむことがあります。また、太ももやふくらはぎの重症の肉離れでは、足をつくことができないほどの痛みを伴うこともあります。
捻挫の主な原因とその説明
- 捻挫は関節をひねることで起きます。そのため、足・足首・膝・肩・肘・手首・指のすべての関節で起こります。
- 歩行中やスポーツの際に、転倒やぶつけること、無理に力を加えてひねってしまうことが原因です。
- 痛みが強いとき、関節のぐらつきが大きいときには、重症の捻挫や、骨折をしている可能性もあるため、医療機関の受診が必要となります。
足の捻挫
- 歩行中や運動中などに足をひねることで起こります。
- 痛みが強いときには、足の甲を骨折している可能性があります。
足くび(足関節)の捻挫
- 歩行中や運動中に足くびをひねることで起こります。段差に足をついたときや着地のとき、足首を内側にひねることで受傷することが多いです。
- くるぶしを骨折していることもあります。
膝の捻挫
- 運動中に方向を変えようとしたときや着地するときに膝をひねったり、人に乗られて膝を無理にひねることなどで起こります。
- 膝の周りや関節内の靱帯が損傷したり、膝の中の軟骨・半月板の損傷が起こっていることがあります。
肩の捻挫
- 腕や肩をぶつけたり、肩をひねったりすることで起こります。
- 肩を動かすのに支障がある場合には、鎖骨や腕の骨などの骨折や肩の脱臼、腱の損傷が起こっていることがあります。
肘の捻挫
- 転倒したときなどに手を地面について肘を外側にひねり、受傷することが典型的です。
- 痛みが強く、肘の曲げ伸ばしに支障がある場合には、骨折をしている場合や、まれに肘を脱臼している場合もあります。
手くび(手関節)の捻挫
- 転倒して手をついたときに受傷することが多いです。
- 軟骨や靱帯を損傷していることがあります。痛みが強く、手くびの曲げ伸ばしに支障がある場合には、骨折を伴う場合があります。
指の捻挫
- 転倒したときなどに指を地面などについた際、また、スポーツで指をひっかけた際やボールにぶつけた際に受傷することが典型的です。
- 痛みが強く、曲げ伸ばしに支障がある場合には、指の骨がおれたり、腱が切れている場合があります。
肉離れの主な原因とその説明
- 肉離れは運動中に筋肉を伸ばしすぎたときや強く力を入れたときに起こります。
- 痛みが強く、動かすのが困難な場合などでは、重症の可能性があるため、医療機関の受診が必要となります。
ふくらはぎ(下腿)の肉離れ
- 運動中、ふくらはぎに強い力をかけた際に起こります。典型的なのはふくらはぎ内側の肉離れで、テニスレッグとも呼ばれます。
- 受傷時には、「後ろからものをあてられた」「後ろからふくらはぎを蹴られた」と感じることもあります。同様のきっかけで起こる怪我にアキレス腱断裂があります。
太もも裏(ハムストリングス)の肉離れ
- トップスピードに近いランニング中や、ランニング中にバランスを崩したときなどに受傷するのが典型的です。
捻挫と肉離れに対して、よくなるために自分でできることは?
初期の対応
- 捻挫・肉離れに対しては、初期の処置が大切です。怪我をした部位には安静・アイシング・圧迫・挙上(RICE処置)を行ってください。腫れや痛みを最小限に止めることができます。
RICE処置
- Rest(安静):あて木やテーピングなどで損傷部位を固定します。怪我をした部位の腫れをおさえ、痛みも最小限にとどめることが目的です。
- Icing(冷却):ビニール袋やアイスバッグに氷をいれて怪我をした部位を冷やします。15-20分冷却したら外し、また痛みが出てきたら冷やします。これを繰り返します。
- Compression(圧迫):テーピングや包帯で怪我をした部位を軽く圧迫気味に固定します。怪我をした部位での内出血や腫れを防ぐことが目的です。
- Elevation(挙上):怪我をした部位を心臓より高く挙げるようにします。怪我をした部位の腫れを防ぐことと、腫れの軽減を図ることが目的です。
受傷直後に行うことが望ましくないこと
- 怪我をした直後には、痛みを我慢して動かすこと、アルコールを飲むこと、入浴などで体を温めることはやめましょう。
- いずれも腫れや炎症を悪化させてしまいます。
捻挫の再発予防のためにできること
- リハビリテーション:関節周りの筋力訓練・体幹トレーニング・バランス訓練など、多岐にわたります。専門家から指導を受けることをおすすめします。
- テーピング・装具:テーピングや支持付きのサポーターを装着することで、捻挫の再発を予防できることがあります。使用する際はスポーツドクターなど専門家の指導を受けましょう。
肉離れの再発予防のためにできること
- リハビリテーション:スポーツドクターなど専門家の指導を受けましょう。
- ストレッチ、筋力訓練、十分な栄養の摂取: 柔軟性と強さを持った筋肉を作ることが必要です。
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- 下記のような症状があったら、病院にいきましょう。
受診していただきたい症状の目安
- 怪我をした部位の動作に痛みや不安定感があるとき
- 歩けない、もしくは歩くのに痛みを伴うとき
- 怪我の部位より先の部位にしびれがあるとき、または、皮膚の色が悪くなっているとき
お医者さんでおこなわれること
問診
- まずは怪我をした状況、痛みなどのお話を伺います。
- 次のような情報をお医者さんに正しく伝えると、診療の手助けになります。下記の情報を紙などに書いて持参すると喜んでもらえるかもしれません。
診療の助けになる情報
- 怪我をした時間・状況
- どのように動いて怪我をしたか
- 痛い部分はどこか
- どのくらい痛いか
- どのように動かしたら痛いか
- 関節のぐらつきはあるか
- 今までにも同じような怪我をしたことがあるか
診断のための検査
- 触診をして、痛みの場所と痛みの性質を確認します。
- 骨折の可能性があればレントゲンを行うことがあります。捻挫・肉離れが疑われれば、超音波エコーやMRIを行うことがあります。
治療
- 初期対応として、安静・アイシング・圧迫・挙上(RICE処置)を行います。
- 必要に応じてギプスやサポーター、あて木(シーネ)などで固定したり、痛み止めのシップや内服薬を処方します。
- 足や膝の捻挫・肉離れの場合は、松葉杖を使っていただきます。
もっと知りたい 捻挫・肉離れのこと!
どんな病気のことが考えられる?
- 何度も捻挫を起こす場合、運動やスポーツなどでの怪我以外に、もともともっている障害が影響していることがあります。
- 怪我の後に何度も同じような捻挫を繰り返す場合や、力が入らないことで捻挫を繰り返している場合は、専門医の受診を検討してください。
陳旧性靱帯損傷
- 以前に捻挫をして緩くなった関節を再度捻挫することがあります。これは、2度から3度の捻挫後に靱帯の緩みが残ることがあるためです。
- 徒手検査で関節の動揺性・不安定性が著明な場合には靱帯修復術や靱帯再建術などが必要となることがあります。
- 怪我の後に何度も同じような捻挫を繰り返す場合には、整形外科専門医の受診を検討しましょう。
神経麻痺や脳神経内科的疾患
- 神経の麻痺などで、うまく関節を動かすことができずに捻挫を繰り返すことがあります。特に、足・足関節での繰り返す捻挫では、腓骨神経麻痺・腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症・脊髄症や、脳神経内科的疾患がもとにあり、力がうまく入らず関節を正常に動かすことができないことが原因となっていることがあります。
- 力がうまく入らないことで、捻挫を繰り返ししている場合には整形外科や脳神経内科の専門医の受診を検討しましょう。
捻挫と肉離れはどう違うの?
- 捻挫と肉離れは、どちらも痛い怪我ですが、怪我をしている部分が違います。
- 捻挫は関節にある靱帯(骨と骨をつなぐ紐様の組織)や関節包(関節を包む袋)・軟骨などの怪我です。
- 肉離れは筋肉の怪我です。
捻挫は繰り返しやすいの?それを防ぐには?
- 捻挫には、痛めた関節や靱帯の種類によって、治りやすい場合と治りにくい場合があります。また、捻挫の重症度によって、重症の場合には関節の不安定性が残ることがあります。
- そのため、治りにくい関節や靱帯を痛めた場合や、重症の捻挫の場合には、関節のぐらつきが残り、一度治ったと思っても、捻挫を何度も繰り返すことがあります。
- このような場合では、リハビリで対処することも可能ですが、関節や靱帯の種類によっては手術が必要になることもあります。詳しくは専門医にご相談ください。
肉離れは繰り返しやすいの?それを防ぐには?
- 筋肉は修復能力の高い組織ですので、軽症から中等症の肉離れの場合、正確な診断のもとで、適切な治療とリハビリを行えば完治します。しかし、リハビリを十分に行わずに短期間で運動に戻ると、再受傷することがあります。
- そのため、肉離れになってしまった場合は、専門家の診断・指導のもとで、リハビリを施行しましょう。
トップアスリートが受けている治療はありますか?
- 捻挫・肉離れの受傷後早期に、トップアスリートの方は高気圧酸素治療を受けることがあります。高気圧酸素治療は医療用の装置で2気圧以上をかけて行う治療で、腫れの軽減と治癒促進をもたらします。実際に復帰までの期間が短縮されるという報告もあります。
- 高気圧酸素治療は、スポーツクラブや治療院などに設置してある酸素カプセル(1.3気圧程度)とは異なるものです。
- 高気圧酸素治療器をもつ医療機関は限られており、また治療を受ける際には自費診療(健康保険が使えない治療)となります。
冷湿布と温湿布はどちらがよいの?
- 捻挫・肉離れに対しては、冷湿布がよいでしょう。どちらも消炎鎮痛剤を含むので薬としての効果は同じですが、急性の炎症・痛みを抑える目的で使うことが一般的です。
- 温湿布は血流改善により、慢性的な痛みを抑える目的で使用されることが多く、肩こり・腰痛などに使われます。
追加の情報を手に入れるには?
スポーツドクターを調べたい
- 日本スポーツ協会:スポーツドクター検索
- https://www.japan-sports.or.jp/coach/DoctorSearch/tabid75.html
- 日本整形外科学会:専門医を探す
- https://www.joa.or.jp/search_doctor.html
- 日本整形外科スポーツ医学会スポーツ医名簿
- http://www.jossm.or.jp/meibo/index.php
運動器の怪我や疾患について調べる
- 日本整形外科学会:整形外科/運動器 症状・病気を調べる
- https://www.joa.or.jp/public/sick/index.html