肺活量測定:どんな検査?何がわかるの?どんな時に必要?異常があると言われたら?
更新日:2020/11/11
- 呼吸器内科専門医の岩永知秋と申します.
- 「肺活量」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう.肺は私たちが呼吸をする際に空気を出し入れする,いわば箱のようなものですが,肺活量はその空気が出入りする箱の大きさを示すものです.
- 肺活量測定を受けていただくにあたり,知っておいていただきたいことをまとめました.
目次
まとめ
- 肺活量とは,肺の大きさを表す目安です.
- 肺活量測定には,どれくらい息を吸い込み,どれくらい息を吐けるかを調べる検査と,肺への空気の通り道である気管支の開き具合を調べる検査があります.
- スパイロメーターという機械を使って行うため,スパイロメトリーとも呼びます.
肺活量検査とは,どんな検査?
- 肺活量測定には,2種類あります.1つは,ゆっくり最大限に息を吐いた点と,ゆっくり最大限に息を吸い込んだ点との差を測るものです.もう1つの肺活量は,最大限に息を吸った後に,できるだけ早く最大限まで息を吐き出すものです.
- 後者は努力性肺活量といい,気管支の開き具合も調べることができます.
どういう人がこの検査を受けるべき?
- 肺の働きに問題がありそうな方がこの検査の対象となります.
肺活量測定の対象になる方
- 咳や痰が長い間続いている方
- 喘鳴(ゼーゼーヒューヒュー)がある方
- 息切れや呼吸困難がある方
- 気管支や肺の障害が疑われる方(気管支喘息,COPD,肺結核後遺症,間質性肺炎,肺手術後など)
※ただし,喘息の発作がすでに起こっている方や,呼吸に問題がある方は,リスクがあるため検査は避けていただきます.
実際には,どんなことをするの?
- まず,ゆっくりした呼吸で,最大限息を吸ったあとにゆっくり息を最大限吐き出す方法で,通常の肺活量を測定します.
- その後に,力いっぱい吸った後にできるだけ早く最大限息を吐き出す方法で,努力性肺活量を測定します.このとき,1秒間にどのくらいのスピードで,どのくらいの量を吐き出しているか,といった項目も測定しています.
- 正確に測定するためには,息の吸い方,息を吐き出すタイミングが大切です.事前に説明をよく聞いていただいたうえで,検査技師の合図にしたがって,息を吸い,また吐き出してください.最後まで息を吐ききることもポイントの一つです.
検査にかかる時間は?痛みはある?
- 検査時間は説明などを含めて10分程度です.気管支拡張薬というお薬を吸入していただいた後に再検査を行う場合は,全体で30分以上かかることがあります.
- 厳密には3回程度検査を行い,曲線の形を見て一番よい値を採用します.ただし,ご高齢の方や検査による体への負担が大きい方は,検査者が状態を見ながら検査の回数を判断します.
- 痛みはありませんが,力いっぱい吸ったり吐いたりを繰り返していただいたり,また,できるだけ早く吐き出す検査もあるので,それなりのご負担はかかると思います.ご高齢の方は疲れがでないよう,また,気管支喘息の方は発作が起こらないよう注意しながら検査を行います.
この検査からどういうことがわかるの?
- 肺活量測定を行うと,肺活量,努力呼気曲線,フローボリューム曲線,肺年齢といった,肺の状態がわかります.
肺活量
- 肺活量では,実際に測った数値と標準の数値を比較して,標準の数値の何パーセントかを計算します.その割合が80%未満であると,肺が小さい,すなわち肺の換気量が小さいと判定します.
- 標準の数値は,性別(男性か女性か),年齢,身長の3つの要素から,公式にあてはめて計算しています.
努力呼気曲線
- 1秒量,1秒率は,気管支がよく開いているか狭いかの目安です.1秒率が努力性肺活量の70%未満であれば,気管支が狭くなっていると判断します.
- 気管支が狭くなっている場合,気管支拡張薬の効果を見ることがあります(可逆性の検査といいます).気管支拡張薬を吸入していただいた後に,どれくらい1秒量が増えるかを測定し,改善が大きい場合には,気管支喘息やCOPDなどの可能性を疑います.
フローボリューム曲線
- フローボリューム曲線の形や数値を調べることによって,大きな気管支が狭くなっているのか,細い気管支が狭くなっているのか,狭くなっている場所を大雑把に知ることができます.
肺年齢
- 最近では「肺年齢」という言葉も皆さんに知られるようになってきたようです.
- これはスパイロメトリーで測定した1秒量と身長を計算式に代入し,その人と同じ性,身長の人と比べて,その人の1秒量が何歳に相当するかを示すものです.
他にどのような検査法があるの?
- 胸のレントゲン写真を見ると肺の大きさを大雑把に知ることができますが,正確なものではありません.
- 血液の中にどのくらいの酸素が含まれているか(酸素飽和度といいます)を測定する検査もありますが,肺や心臓などの働きが大きく低下しなければ酸素飽和度は低下しません.したがって,この検査でも肺の働きを詳しく知ることはできません.
- 肺の働きを簡単に,かつ正確に知ることができるのは肺活量測定が一番です.
理解しておきたい リスクと合併症
- 検査自体に大きなリスクは通常ありませんが,避けていただく方や事前の準備が必要な方がいらっしゃいます.
- 健康な方でも,検査を何度も行う場合は失神や転倒などに注意する必要があります.
スパイロメトリーを受けるのに注意が必要な方
- 喘息発作がすでに起こっている方,呼吸に問題がある方:スパイロメトリーは避けてください.呼吸が安定した状態で行うべき検査です.
- 気管支喘息のある方:お薬を一定期間中止していただいたのち,肺活量の検査を行います.検査を繰り返すうちに,場合によっては気管支が収縮して発作になることがあるので,注意しながら行います.
- ご高齢の方,体が弱っている方:検査によるからだへの負担が大きすぎると判断される場合は避けていただきます.
- 肺結核やインフルエンザなどの感染症がある方:検査機器を介して他の人に病気をうつしてしまうリスクがあるので,通常は検査を行いません.
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 日本呼吸器学会から出版されている下記の書籍が参考になるでしょう.
- 呼吸機能検査ガイドライン~スパイロメトリー,フローボリューム曲線,肺拡散能力(日本呼吸器学会肺生理専門委員会,2004年)
- スパイロメトリーハンドブック~日常診療で簡単に行える呼吸機能検査(日本呼吸器学会肺生理専門委員会,2007年)
もっと知りたい! 肺活量測定
測定項目について
努力呼気曲線
- 力いっぱいに息を吸って(最大吸気)一気に早く最後まで吐き出す努力性肺活量を調べる検査では,肺活量(努力肺活量)とともに1秒量と1秒率という2つの数値が測定され,努力呼気曲線として示されます.
1秒量と1秒率
- 1秒量とは,最大限に息を吸ったあとにできるだけ速く息を吐く中で,最初の1秒間の間に吐き出される量,つまり1秒間の肺活量です.
- 1秒率とは,最後まで吐き出した時に得られる肺活量(努力性肺活量)に対して,1秒量が占める割合のことです.
- 気管支が狭くなっている場合,息を吐き出すのが簡単ではなく,息を全部吐き出すのに時間がかかります.そうすると1秒間に吐き出せる量(1秒量)は低下し,肺活量に対する割合(1秒率)も小さくなります.
フローボリューム曲線
- 吐き出す空気の速度(フロー)と,吐き出す空気の量(ボリューム)を同時に測るフローボリューム曲線も測定されています.
- 気管支がよく開いていれば,吐き出す息の風速(フロー)は高く保たれますが,気管支が狭くなっていると,吐き出す息の風速(フロー)は遅くなります.