肺炎:原因は?症状は?人にうつるの?予防接種の効果は?治療は?
更新日:2020/11/11
- 呼吸器専門医の青島 正大と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が肺炎になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 肺炎とは、微生物が肺に感染することで起きる急性の炎症です。
- 肺炎のはじめの症状は、風邪と区別がつきません。ですので、もともと病気を持っている方は、早めに医療機関を受診してください。
- 肺炎の原因菌として多い肺炎球菌は、ワクチンで予防ができます。65歳になる年に肺炎球菌ワクチン接種を受けていただくことをおすすめします。
肺炎は、どんな病気?
- 肺炎とは、細菌やウイルスやカビなどの微生物の感染で起きた肺の急性の炎症です。
- 肺炎の原因となる微生物の種類によっては自然に治ることもありますが、多くの場合、微生物を狙ったお薬による治療が必要になります。
コラム:発生場所による肺炎の区別
- 肺炎は、その発生場所により、在宅で介護を受けている人に発生する医療介護関連肺炎、病院で入院している人に発生する院内肺炎、その他の場所で発生する市中肺炎に分けられます。
- それぞれ、原因となる微生物が異なります。
肺炎と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 高い熱がでて、咳や色のついた痰、息苦しさ、胸の痛みなどが出た場合は、肺炎の可能性があります。
- 下記のような場合は、医療機関の受診を検討してください。
かかりつけ医への受診をおすすめする場合
- 風邪薬を飲んでも症状が悪化する場合
- ご高齢の方の場合
- 糖尿病や心臓、肺、腎臓、肝臓、神経などの慢性の病気がある場合
- 免疫を弱くする疾患(HIV感染症など)がある場合や免疫を抑える薬(副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬)での治療を受けている場合
- がんなどの悪性疾患がある場合
救急車を呼ぶ場合
- 息苦しさが悪化する場合
- 酸素飽和度が普段より低いか、90%未満になる場合(自分でパルスオキシメーターを持っている方)
- 意識がもうろうとしている場合
受診前によくなるために自分でできることは?
- 肺炎の場合、早く良くなるためにご自分でできることは原則としてありません。つらい症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
- 余っていた手持ちの抗生物質を自己判断で服薬するのはやめてください。肺炎の診断、特に原因となる微生物の判断を難しくしてしまい、適切な治療ができなくなってしまいます。
肺炎になりやすいのはどんな人?原因は?
- 肺炎になりやすいのは下記のような方です。
肺炎になりやすい方
- ご高齢の方(特に小さいお子さんと同居している方)
- 糖尿病や、心臓、肺、腎臓、肝臓、神経などに慢性の病気がある方
- 慢性の神経の病気があり、口からの飲み込み(嚥下機能)が悪い方:食べたものや唾液が気管から肺に落ち込み、誤嚥性肺炎【ごえんせいはいえん】を起こすことがあります。
- 免疫を弱くする疾患(がんやHIV感染症など)がある方
- 免疫を抑える薬(副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬)での治療を受けている方
肺炎の原因となる微生物
- 肺炎を起こす細菌で多いのは、肺炎球菌、インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジアなどです。ウイルスはインフルエンザウイルスが代表的です。
- 免疫が弱い人では、ニューモシスチスなどのカビ、サイトメガロウイルスなどのウイルスも肺炎を起こします。
- インフルエンザにかかった後に、細菌による肺炎を起こすこともあります。インフルエンザウイルスを持っている人と接触する機会の多い方も注意が必要です。
どんな症状がでるの?
- 肺炎の初期の症状は、かぜの症状と区別がつきません。
- また、ご高齢の方は高い熱が出ず、食欲がなくなる程度のこともあり、発見が遅れることがあります。
肺炎の症状
- 急に高い熱が出る、寒気がする
- 咳が出る
- 色のついた痰がでる:細菌による肺炎では黄色い膿が混じった痰、肺炎球菌による肺炎では鉄さび色、インフルエンザ菌による肺炎では黄緑色の痰が見られます。
- 胸が痛む:肺を包む胸膜に炎症が広がると痛みを伴うことがあります。深呼吸で痛みが強まる特徴があります。
- 息苦しさを感じる:肺炎の広がりの程度によりますが、最初は体を動かしたとき、病状が進むと安静にしていても息苦しく感じるようになります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 肺炎であると診断するには、胸部レントゲン検査と血液検査が必須です。そのほか、次のような検査を行います。
検査の種類
- 胸部レントゲン検査:肺に影が新たに出現したことを確認します。過去のレントゲンがあれば確認がより容易になります。
- 血液検査:白血球の増加や炎症反応の上昇が確認されれば、急性炎症であることの証拠になります。
- 肺炎の重症度を知るための検査:パルスオキシメーターによる酸素飽和度測定、血圧測定、血液検査による腎機能の測定を行います。
- 肺炎の原因となっている微生物を知るための検査:痰の検査やインフルエンザの迅速検査、尿の検査を行います(インフルエンザの迅速検査については「インフルエンザ」の項を参照して下さい。)
どんな治療があるの?
抗微生物薬による治療
- おもに抗微生物薬による治療が行われます。原因となっている微生物の種類によりますが、細菌による肺炎では抗菌薬(いわゆる抗生物質)、ウイルスによる肺炎では抗ウイルス薬が用いられます。
- いずれも肺炎の原因になっている微生物の種類によって効くお薬が異なるため、原因の微生物を突き止めることが大切です。
抗微生物薬以外の治療
- 脱水やお口から食事が摂れない場合には、水分補給の点滴を行います。
- 動脈血中の酸素が低下している場合(呼吸不全)には、酸素吸入や、もっと重篤な場合には人工呼吸が行われることもあります。
- 誤嚥性肺炎の場合には嚥下機能を改善するため、嚥下リハビリテーションを行います。
入院治療の判断について
- 入院して治療を行う必要があるか、通院で治療が可能かは、肺炎の重症度をもとに判断します。入院が必要になるのは次のような場合です。
肺炎で入院治療が必要な場合
- 酸素吸入が必要な場合
- 脱水で点滴が必要な場合
- 意識障害を伴う場合
- ショック状態の場合
- お一人暮らしのご高齢の方:経過観察をかねて入院治療が必要と判断する場合があります。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 通常、肺炎に対して抗生物質で治療が開始されると、大体3日程度で熱が下がります。ただし、抗生物質は解熱薬ではないので、治療開始後すぐには熱が下がらないことは知っておいていただく必要があります。
- 4日以上解熱しない場合には、薬が効いていない可能性があります。再度医療機関を受診していただく必要があります。
- ご自分では気づかない、血液検査で初めてわかるような副作用もあります。治療が始まったら、肺炎の症状がよくなっても自己判断で薬をやめたりせず、指示されたとおり医療機関を受診していただき、治療終了まで確認してもらってください。
抗生物質の副作用
- 薬の種類により異なりますが、頻度が高いものとして下痢と薬疹(皮膚の発疹)があります。ご自分でわかる副作用ですので、これらが出るようなら薬を処方した医療機関に相談しましょう。
- ただし、薬を飲むのを自己判断で中止するのはやめてください。自己判断で薬を中止してしまうと、不完全治療など治療失敗につながります。
うつるの?自分の予防のためにできることは?
- マイコプラズマ、肺炎クラミジア、インフルエンザウイルスは、咳やくしゃみに含まれる飛沫を介して人から人にうつります。
- 他の人へ感染させるリスクを下げるために、咳が出る人はマスクを着用する、咳をするときはハンカチなどで口を覆うなどの咳エチケットを行いましょう。
- また、予防のためにワクチン接種をすることは有用です。免疫が弱いご高齢の方や小さなお子さんは、特にワクチンを接種することが勧められています。
コラム:各種ワクチンの詳細
- 肺炎球菌ワクチン:肺炎球菌による肺炎の予防のため、65歳以上の高齢者や60歳以上65才未満で慢性疾患による機能障害のために日常生活が制限されている人は、23価多糖体肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されます。なお13価結合型肺炎球菌ワクチンの接種は定期接種制度の対象外です。
- 高齢者に対する23価多糖体肺炎球菌ワクチンの再接種については、臨床的な有効性の根拠は十分にあるわけではありませんが、慢性の病気を持つ場合には、初回接種から5年以上あけて再度接種することをお勧めします。なお、再接種は公費による助成はないので、自費となります。
- 小児への肺炎球菌ワクチン(13価結合型ワクチン)の接種で、高齢者の肺炎球菌感染症は減少することが知られています。小児と同居されている場合、小児への肺炎球菌ワクチンの接種も必要です。
- インフルエンザワクチン:インフルエンザにかかると、その後細菌による肺炎を合併することがあるため、インフルエンザ予防のために、インフルエンザシーズンが始まる前にワクチンを打つことが推奨されます。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 原因となった微生物に抗生物質が効けば、7日程度の治療で肺炎の多くは治ります。
- 肺の慢性疾患を持つ場合や、肺炎により肺が化膿している場合(肺膿瘍)、免疫が弱い人に起きた肺炎、薬が効きにくい菌(耐性菌)による肺炎などでは、より長期間の抗生物質治療が必要になる場合があります。
- ご高齢の方や肺の機能がもともと悪い方に起きた肺炎では、肺炎そのものは治っても、活動度が低下してリハビリテーションが必要となったり、肺の機能低下が進んで酸素吸入が必要となるなど、さらに長期間の治療が必要となる場合があります。
追加の情報を手に入れるには?
- 肺炎に関しては下記のページが参考になります。
- 日本呼吸器学会のサイト(市中肺炎、医療介護関連肺炎などについて解説されています。
- http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=2
- 肺炎球菌ワクチンの接種(高齢者)については厚生労働省のサイトに出ています。
- https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/haienkyukin/index_1.html
もっと知りたい! いろいろな肺炎
肺炎にはいろんな種類があります
- 肺の病気には「●●●肺炎」と「肺炎」がつく病名がたくさんあります。「肺炎」とついても、このページで説明した微生物の感染によらない肺炎(例:器質化肺炎、好酸球性肺炎、間質性肺炎、過敏性肺炎など)の場合があります。
- お医者さんの説明を受けたときに、わかりにくければ、「自分はどちらの肺炎なのか」を確認していただくことをおすすめします。