麻痺:どんな症状? 原因やリスクは? 自分で対処する方法は? どんなときに医療機関を受診すればいいの?
更新日:2020/11/11
- 脳神経内科専門医の神田 隆と申します。
- とつぜん麻痺【まひ】になったり、ひどい麻痺が何日も続いたりすると、心配になりますよね。「何か悪い原因で起こっているのではないか?」と心配されたり、「病院に行ったほうが良いかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、麻痺の一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察のなかで、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 麻痺には力が入らなくなる運動麻痺と、感じがにぶくなる感覚麻痺の2つがあり、大脳、脊髄【せきずい】、末梢神経【まっしょうしんけい】、筋肉のどこがそこなわれても運動麻痺は起こります。
- 右半身か左半身の麻痺なら大脳半球、手足先の麻痺なら末梢神経、ふとももや腕の肘【ひじ】から上の部分、首などの麻痺なら筋肉の病気が考えやすいなど、からだのどこが麻痺しているかでどこに原因があるかの大体の見当がつきます。
- 麻痺の原因は専門家に調べてもらうことが必要で、CTやMRI検査、血液検査などがあります。
- 急にでてきた運動麻痺、感覚麻痺は、からだのどこにでてきたかにかかわらず救急処置が必要な病気と考え、急いで病院を受診してください。
どんな症状がでるの?
- 麻痺には、力が入りにくくなる運動麻痺と、感じがわからなくなり鈍くなる感覚麻痺の2種類があります。
- 運動麻痺と感覚麻痺の両方がからだの同じ場所に起こることが多いですが、別々に起こることもあります。
- 脳、脊髄、末梢神経、筋肉のどこがそこなわれても麻痺は起こりますが、からだのどの部分に麻痺があるかで、どこの病気かの大体の見当がつきます。
どんな原因があるの?
- 運動麻痺は、大脳から脳幹、脊髄、末梢神経、筋肉のどこがそこなわれても起こります。
- 感覚麻痺も同じですが、筋肉の病気では感覚麻痺は起こりません。
- どこに障害が起こって生じている麻痺かということがとても重要です。
大脳の病気
- 大脳半球の右半分は左半身、左半分は右半身のそれぞれ感覚と運動をコントロールしていますので、右の大脳半球に病気があると左半身の麻痺(左片麻痺【へんまひ】)が、左の大脳半球に病気があると右半身の麻痺(右片麻痺)が起こります。
- 急に起こった片麻痺では、脳の血管が詰まって血液の流れがさまたげられる脳梗塞【のうこうそく】、出血する脳出血などの脳血管障害が考えられます。
- 左右の大脳半球に大きな病気が生じると、意識がもうろうとするなどの障害がでてくるため、麻痺があるのかないのかよくわからなくなります。
- ゆっくり悪くなっていく片麻痺では、反対側の大脳半球に脳腫瘍【のうしゅよう】や脳膿瘍【のうのうよう】などゆっくりと大きくなってくる病気があると考えられます。
- 脳血管障害を起こした後、後遺症として片麻痺が残ることはめずらしくありませんが、この場合の麻痺はだんだんに悪くなることはなく、麻痺した側がつっぱる痙性麻痺【けいせいまひ】というかたちをとることが多いです。
脊髄の病気
- 脊髄の病気では、上肢【じょうし】(手)よりも下肢【かし】(足)に強い、左右の差が目立たない麻痺が起こり、この両側の下肢の麻痺を対麻痺【ついまひ】とよびます。
- 急に起こってきた対麻痺は救急の病気と考えてください。
- このときみられる下肢の麻痺は、痙性【けいせい】麻痺といってつっぱりの強い歩き方になり、階段の昇りよりも降りが難しくなります。
- 尿がでにくくなるという症状も現れます。
コラム:急に起こる対麻痺の原因となる脊髄疾患
- 悪性腫瘍の脊椎転移
- 前脊髄動脈が詰まって起こる前脊髄動脈症候群
- 頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、黄色靱帯骨化症など慢性に脊髄が圧迫される病気がある患者が、転ぶなどして首を打撲する
末梢神経の病気
- 末梢神経の病気では、手や足先など、からだの中心から遠い部分に運動麻痺や感覚麻痺が起こります。
- 末梢神経の病気でいちばん多いのは糖尿病による末梢神経障害(糖尿病性ニューロパチー)で、何年もかけてゆっくりと進行する手や足先のしびれ感を伴う感覚麻痺が主な症状となり、運動麻痺はかなり重症にならないと起こりません。
- ギラン・バレー症候群や血管炎性ニューロパチーなど、数日の経過で急に悪くなる末梢神経障害は急いで治療する必要があります。
- 末梢神経障害による運動麻痺は、脊髄障害とは逆に、患者さんの筋肉はリハビリの技師さんたちによって抵抗なく曲げ伸ばしでき、弛緩性麻痺【しかんせいまひ】とよばれます。
筋肉の病気
- 筋肉の病気では、腕の肘から上の部分やふともも、首などからだの中央に近い部分を中心に運動麻痺が起こり、感覚麻痺は起こりません。
- 筋肉の病気は筋ジストロフィーのような遺伝性の病気から炎症性の筋炎までいろいろな原因があります。
- 筋肉の病気は治せるものもたくさんありますので、まずは脳神経内科でしっかりと診断してもらってください。
- 夕方になるにつれて運動麻痺が強くなる、飲み込みが悪くなる、目の前の物が2つに見えるなどの症状がある場合は、重症筋無力症が疑われますので、脳神経内科で診断してもらってください。
こんな症状があったら救急車を!
- 次のような症状がある場合は救急車を呼んでください。
救急車を呼んだほうがいい症状
- 急に右半身、または左半身に運動麻痺・感覚麻痺がでてきた
- 最初は足や手の先だけだった麻痺がどんどん広がってきた
- 急に両足が麻痺して歩けなくなった
麻痺に対して、よくなるために自分でできることはあるの?
麻痺で歩きにくいときはむりをせず、人、物の助けを借りる
- ちょっとした段差でつまずいたりすると大けがのもとになりますので、かっこう悪いなどといわず、杖やウォーカーを使うようにしてください。
- 家族や友人に付き添ってもらうことも大事です。
- 感覚麻痺が強いと、自分の足がどこにあるかわからずつまづいたり転んだりする原因になり、また末梢神経障害では足首をそらせる力が弱くなるため、足の指が段差で引っかかりやすくなりますので、自分の足がどこにあるかしっかり見て行動してください。
できなくなったこと、麻痺がでてきたときを、メモする
- 次のようなことをメモしておき、診察するドクターに整理して話すと、とても診断の役に立ちます。
メモをとっておくと診断の役に立つこと
- 頭をシャンプーで洗うことができない、しゃがみ込むと立ち上がれない、小銭の出し入れが難しくなったなど、どんなことができなくなったか
- いつから麻痺してきたか
- どんどん悪くなっているのか、それともずっと同じなのか
- 麻痺をきたす疾患は、症状のスピードが診断の決め手になるものが多いのです。
適切なリハビリ
- 運動麻痺の回復、特に脳血管障害の後にはリハビリは欠かせませんが、専門の理学療法士(PT)、作業療法士(OT)のいる施設で適切なリハビリを受けてください。
- やりすぎて翌日寝込んでしまうような過度のリハビリは避けてください。
- まずは医療機関で診断してもらうことを優先させ、力の入らないところは、むりに動かさないようにしてください。
- 手や足が急に動かなくなったら、すぐに処置しないと命取りになる、または手遅れになる病気かもしれませんので、がまんしないで救急車を呼んでください。
どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 次のような症状があるときはかかりつけ医を受診してください。
かかりつけ医への受診がすすめられる症状
- 右半身または左半身の運動麻痺や感覚麻痺
- 指先、足先の運動麻痺やびりびりする感覚麻痺
- 急に歩けなくなった
- 洋式トイレから立ち上がれなくなった
- 指や手首が伸びなくなった
- バンザイができなくなった
- 手や足が急に痛くなって力が入らなくなってきた
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 身体所見:最初に、どんな麻痺があるかを調べます。
- 病歴:急に起こってきた麻痺なのか、何年もかかってゆっくり悪くなってきたのか、診断のためにとても重要な情報を聞き取ります。
- 画像診断:大脳の病変が疑われた場合は脳のCTやMRI、脊髄の病気が疑われた場合はX線やMRIの撮影を行います。
- 血液検査
- 生理機能検査:末梢神経障害が疑われた場合は神経伝導検査、筋疾患が疑われた場合は筋電図検査を行います。
- 脳脊髄液検査:炎症性の末梢神経障害などが疑われた場合に行うことがあります。
もっと知りたい! 麻痺のこと
どんな病気が考えられるの?
- 麻痺がどのような分布で、どのような速さで起こってきているかで大体の疾患の見当をつけることができます。
麻痺の分布により考えられる疾患
- 急性の片麻痺:大脳半球の症状であることが多く、脳梗塞、脳出血の多くはこのかたちになります。
- 慢性進行性の片麻痺:脳腫瘍や脳膿瘍など、大脳皮質にゆっくり大きくなる病変が考えられます。
- 急性の対麻痺:ギラン・バレー症候群などの急性進行性の末梢神経障害、多発性硬化症や視神経脊髄炎などの自己免疫性脊髄疾患、がんの脊椎転移などが考えられます。
- 慢性進行性の対麻痺:頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、脊髄腫瘍など脊髄の病気が考えられ、頸髄の障害が高い位置にあると(第5〜6頸髄より上)四肢麻痺になることがあります。
- 急性の単麻痺:上膊部での圧迫による橈骨神経麻痺、膝での圧迫による腓骨神経麻痺など1本の末梢神経が圧迫された障害の可能性が考えられ、急性の単麻痺が複数の末梢神経に及ぶとき(多発性単神経炎)は、血管炎の症候であることが多く、速やかな医療機関受診が大切です。
- 慢性の単麻痺:手根管症候群(正中神経)、肘部管症候群(尺骨神経)、足根管症候群(脛骨神経)など、生理的に圧迫されやすい場所で神経が押されることによります。
- 急性の四肢運動麻痺:朝起きたら金縛【かなしば】りにあっていたというような症状は周期性四肢麻痺に特徴的で、ギラン・バレー症候群や筋炎など、また外傷などによる頸髄損傷でも比較的早いスピードで四肢麻痺をきたします。
- 慢性の四肢運動麻痺:末梢神経疾患、筋疾患のどちらかが考えられ、末梢神経疾患では麻痺は胴体から遠いところに強くて感覚麻痺を伴うことが多く、筋疾患では逆に胴体から近いところの筋力低下が強く感覚障害はありません。
脳卒中
- 脳卒中は、脳の血管が詰まる、または脳の血管から出血することで起こります。
- 脳の血管が詰まることで起こる脳卒中を脳梗塞、出血が原因のものを脳出血といいます。
- 大脳に起こると、突然の片麻痺(右半身、または左半身の麻痺)が現れ、朝起きたら右手・右足が動かなくなっていた、というのも典型的な脳卒中の症状です。
- 脳卒中のの症状がみられたら、迷うことなく救急車を呼び、少しでも早く専門医にかかることが、いい治療を受ける鍵です。
慢性圧迫による脊髄症
- 慢性圧迫による脊髄症は、頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症などが原因で起こります。
- 軽症のものでは手のしびれ感を伴う感覚麻痺や軽い運動麻痺が起こりますが、脊髄の圧迫が強くなると、足がつっぱってきて力が弱くなり、歩きにくくなります。
- 階段は昇りよりも降りが難しくなるのが特徴的で、進行するとおしっこや便が出にくくなり、足先に向かって強くなる感覚麻痺も伴います。
- 歩きや排尿に問題が出てきたら手術を考え流ことが必要で、脊髄の手術を専門にしている整形外科か脳神経外科への紹介を考えてください。
ギラン・バレー症候群
- ギラン・バレー症候群は、末梢神経に炎症が生じて運動麻痺が起こります。
- 最初は両足の先から力がだんだんと入らなくなって、次は手というふうに麻痺がだんだん上に上がってくるのが典型例です。
- 重症になると、呼吸をする筋肉にも麻痺が起こって息ができなくなるので、人工呼吸器をつける必要があります。
- 麻痺がおこる数日前に風邪症状や下痢があるのが普通で、麻痺は始まりから2~4週間でいちばん重症になり、その後ゆっくり回復してきます。
- 後遺症なく治る人が多いですが、一生車いすの生活になる患者さんもいます。
- 日ごとに麻痺が強くなってきたら、救急車を呼ぶなどして急いで脳神経内科のある病院を受診し、早い時期の診断と治療を開始してください。
橈骨神経麻痺
- 橈骨神経麻痺は、上腕の外側を通る橈骨神経が圧迫されて起こります。
- ほとんどの患者さんは、お酒を飲んだ翌日に片方の手に運動麻痺が出てきたのに気づいて病院に来られます。
- 片方の手の手関節の背屈(手のひらと反対側に手首を曲げる動き)ができなくなり、指が伸ばせなくなって、手はお化けのように手首でだらりと垂れ下がるかっこうをとるようになります(下垂手といいます)。
- 朝起きて片手がだらっと下がってしまうのでびっくりしますが、足には麻痺がなく肘の曲げ伸ばしが大丈夫なことを確認したら、少し落ち着いてください。
- 圧迫性の橈骨神経麻痺なら数日でゆっくり回復しますが、治りが悪いようなら脳神経内科か整形外科を受診してください。
血管炎性ニューロパチー
- 血管炎性ニューロパチーは、全身性血管炎のために末梢神経を栄養する動脈が詰まって起こり、最初は右足、続いて左足、というように末梢神経が1本ずつ麻痺していくのが特徴です。
- 運動麻痺と痛みを伴う感覚麻痺が主な症状で、発熱や喘息症状がいっしょに出てくることがあります。
- 急いで診断して治療を始め流ことが重要で、脳神経内科のある病院にすぐに紹介してください。
- ステロイドを注射することで病気の進行を食い止めることができます。
筋炎
- 筋炎は、筋肉に炎症が生じて運動麻痺が起こりますが、感覚麻痺は起こらず、筋肉に鈍い痛みがあることがあります。
- ギラン・バレー症候群と違って、手足の胴体に近いところにある筋肉、つまり、肩や上腕、大腿を動かす筋肉が弱くなるのが筋炎の特徴です。
- 筋炎では胴体に近いところにある筋肉の麻痺が起こるので、シャンプーをするときに手が上がらない、電車の網棚に重いものを載せられない、洋式便器に座り込むと立ち上がれない、寝ていて首が持ち上がらないなどの症状がでます。
- 悪性腫瘍や間質性肺炎を一緒に起こすことが多いので、こちらもしっかり検査する必要があります。
- たとえば筋ジストロフィーなど、筋炎以外にも筋肉の病気はたくさん種類がありますので、脳神経内科のある病院で診断をしてもらってください。
- 筋炎は治療でよくなる病気ですので、しっかり診断をつけることが重要です。
周期性四肢麻痺
- 周期性四肢麻痺は、血清のカリウム値が急に下がっておこる病気で、朝起きようとしても手足に力が入らず、“金縛り”にあったようになりますが、感覚麻痺はありません。
- 東洋人の若い男性に多い病気で、前の日に炭水化物を大量に食べた、深酒したなどが原因になります。
- ほとんどの患者さんには甲状腺機能亢進症がみられますが、運動麻痺の発作が起こるまで気づいていない人が大部分です。
- 病歴を聞いて血清カリウム値が低いことが確認できれば診断は簡単ですので、まずは病院を受診してください。
- 特に治療をしなくても夕方にはよくなっているのが普通で、甲状腺機能亢進症を治療すれば再発することもありません。
重症筋無力症
- 重症筋無力症は、末梢神経の中の運動神経と筋肉のつなぎ目のところに炎症が起こる病気で、いちばん大きな特徴は疲れやすいことですが、感覚麻痺はありません。
- 朝は調子がいいが夕方に向かって力が入りにくくなる、だるい、物が2つに見えるようになる、飲み込みが悪くなる、しゃべりにくくなる、といった症状が特徴で、一晩寝て朝になるとまた症状は回復します。
- 全身しっかりと調べる必要がありますので、脳神経内科のある病院への紹介状を書いてもらってください。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 麻痺について追加の情報を手に入れるには、次に示す各種ガイドラインを参照してください。
- 脳卒中治療ガイドライン2015(追補2019)
- https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2015_tuiho2019_10.pdf
- 重症筋無力症診療ガイドライン2014
- https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/mg_00.pdf
- ギラン・バレー症候群・フィッシャー症候群診療ガイドライン2013
- https://www.neurology-jp.org/guidelinem/gbs/sinkei_gbs_2013_01.pdf
- 『多発性筋炎・皮膚筋炎治療ガイドライン』診断と治療社、2015年