パニック症/パニック障害:原因は?症状は?きっかけがあるの?診断は?治療は?薬はあるの?
更新日:2020/11/11
- 精神科専門医の清水 栄司、髙橋 純平と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分がパニック症/パニック障害になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- パニック症(パニック障害)は、胸がどきどきしたり、息がハアハアしたりする体の症状が出ますが、体の病気ではなく、不安の病気(こころの病気)です。
- パニック症では、 「パニック発作」を繰り返し経験し、また起きるかもしれないと思うだけで強い「予期不安」を感じ、電車に乗るのをやめたり、人込みに行くのを避けたりするような「広場恐怖症」が起き、日常生活に支障が出ます。
- 治療は、認知行動療法という方法で、不安になるような考え方や行動の偏ったパターンを見直して、バランスをとるようにしていきます。
パニック症/パニック障害は、どんな病気?
- パニック症/パニック障害とは、突然胸がどきどきしたり、息がハアハアして、死んでしまうかもと思うほどの強い不安や恐怖を感じる「パニック発作」を繰り返し経験し、また起きるかもしれないと思うだけで強い不安を感じる「予期不安」、そしてそのような状況を避ける「広場恐怖症」を持つ病気です。
- またパニック発作が起きるかもしれないと思うだけで強い不安を感じるので、電車に乗るのをやめたり、人込みに行くのを避けたりするような行動の変化が起き、日常生活に支障が出ます。
広場恐怖症とは?
- 広場恐怖症とは、発作が起きても逃げられない場所や助けを求められない状況に恐怖を感じ、そのような場所や状況を避けたり、誰かに付き添ってもらうようになったりするこころの病気です。
- 交通機関(例えば、飛行機、電車、バス)を利用できなくなったり、見知らぬ人に囲まれる場所(例えば、混んだ映画館、交通渋滞)を恐れたり、一人になることができなくなったりします。
パニック症/パニック障害と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 以下のような場合には、精神科へ受診するのをおすすめします。
病院へ行くべき場合
- 一人では電車やバスに乗ることができず、会社や学校に行けなくなくなった場合
- 友人からの遠出や旅行の誘いを断って、家に引きこもりがちな場合
- 胸のどきどきや息のハアハアの発作を繰り返しているが、色んな体の検査をしてもらっても、どこにも異常がないと言われ、病院を何件も変えている場合
受診前によくなるために自分でできることは?
- 病院へ行く前に、パニック症や治療法である認知行動療法に関する本を読んで、対処する方法を学ぶこともよいです(読書療法といいます)。
- しかし、パニック症を治すには、正しい治療を受けることが一番の近道です。パニック症と思ったら、精神科へまずはご相談ください。
パニック症/パニック障害になりやすいのはどんな人?原因は?
- パニック症を発症しやすい年齢は20代~30代です。
- また、女性は男性のおよそ2倍なりやすいです。
- 原因は、脳内のセロトニンなどのバランスの乱れという説、胸のどきどきなどの体の変化に過敏になっているという説などがあります。
どのくらいの人がパニック症になるの?
- 一生の間にパニック症になる人は、100人に1~2人といわれています。
どんな症状がでるの?
- パニック発作は、以下の13個の症状のうち、同時に、4個以上症状がそろい、数分程度でピークに達し、おさまっていきます。
パニック発作の症状
- 胸がどきどきする
- 息苦しい、息がハアハアする
- 胸が痛い
- 汗をびっしょりかく
- 身震い
- 吐き気
- めまい
- 冷たい感じ、あるいは熱い感じ
- うずき
- 窒息する感じ
- 現実ではない感じ
- 自分が抑えられなくなる恐怖
- 自分が死ぬかもしれないという恐怖
- これらの症状は、「このまま、死んでしまうのではないか」と思うほど、恐怖感が強くつらい発作ですが、心臓病や脳卒中のような重い病気の前兆というわけでなく、不安に対する反応として起きているので、死ぬということはありません。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 病院では、自分で回答する質問用紙で、症状の重さを確認したり、患者さんのお話を伺ったりします。
- パニック症の診断は、特別な検査はありませんが、体の病気ではないことを確認するために、心電図や血液検査などを行ことがあります。
どんな治療があるの?
- パニック症の治療には、お薬と認知行動療法という心理療法があります。認知行動療法のほうがお薬よりも効果が高いという報告もあります。
- お薬では、SSRIといううつ病に使われる抗うつ薬を長く飲んだり、ベンゾジアゼピン系抗不安薬という不安を和らげるお薬を症状が出た時に飲んだりします。
- 認知行動療法(精神療法)は、お医者さんや公認心理師さんなどとお話をし、不安を強める考え方や行動のパターンを探し、バランスのとれた考え方や行動に変え、不安を和らげる治療法です。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- お薬を飲んだ後は、副作用に注意してください。
- 抗うつ薬を飲むと、24歳以下の患者さんの中には、イライラして落ち着かなくなったり、死んでしまいたいという気持ちが強くなってしまったりする方がいます。周りの人が特に注意して見守るようにしてください。
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用として、眠気、ふらつき、薬をやめられない依存性などがあげられます。
- その他にも副作用もあります。副作用がひどい場合は、医師にご相談ください。
- 妊娠中や授乳中の方は、お薬の赤ちゃんへの影響について、主治医の先生と十分に相談するようにしてください。
予防のためにできることは?
- 予防のためには、パニック症の認知行動療法に関する本を読むこと(読書療法)も役立ちます。
- パニック発作が1回起きただけならば、パニック症や広場恐怖症にならないように対処することもできるので、病院へご相談ください。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- パニック症は、適切な治療をすれば、4か月から6か月程度で改善することが多いと言われています。
- パニック症の認知行動療法は、毎週1回30分〜50分、全部で12回〜16回程度行うことが多く、4か月から6か月程度でパニック症への対処法が理解できるようになり、4人のうち3人程度は改善するという調査もあります。
- うつ病を合併するなどの場合は、長引くこともあるので、専門の先生にご相談ください。
追加の情報を手に入れるには?
- 厚生労働省の心の健康のホームページにパニック症の認知行動療法の治療者用マニュアルが掲載されていまして、患者さん用の参考資料ものっておりますので、ご覧ください。
- https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000113842.pdf
もっと知りたい! パニック症
お薬の治療について
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬は、うつ病のお薬です。しかし、パニック症にも効果が示されて、お医者さんが出すことができます。神経細胞の間(シナプス間隙)のセロトニンという物質を増やす作用があります。
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬という抗不安薬は、速やかに不安や筋肉の緊張を和らげる作用があります。
認知行動療法について
- パニック症に対する認知行動療法は、十分にパニック症という病気を理解してもらった上で、不安が大きくなるような、自分の考え方の偏りに気づき、考え方を修正していく「認知療法」と、自分ができそうな段階から、不安が高まる状況に身を置いて少しずつ心と体を慣らしていく「行動療法(段階的曝露療法【だんかいてきばくろりょうほう】)を合わせたものです。
認知療法について
- 認知療法は、例えば、胸のどきどきで死んでしまうという極端にネガティブな考え方を、「この動悸は自分が不安を感じているから起きているのであって、突然死のサインではない」という別の(ポジティブな)考え方に変える方法です。
- 具体的には、あえて胸がどきどきするように7階まで階段を上がってみる、息苦しさを感じるために鼻をつまんでストローをくわえ、ストローを通して口で呼吸するなどをすることで、胸のどきどきや息苦しさが突然死につながるものではないことを体感してもらいます。
- ポジティブな考え方になると、突然死にならないようにしていた行動、例えば胸のどきどきするような運動するのをやめること、電車に乗るのを避けること、などといった安全のためにとっていた行動をしなくてよいことが理解できます。
さいごに
- パニック症は、近年認知度が上がり、こういった不安の病気があることを理解されることも増えつつあります。しかし、周りの人がこの病気の大変さを理解してあげることが重要です。家族など周りの方は、患者さんがつらい思いをしていることを理解し、治療のサポートをしていただけると良いと思います。
- パニック症は、治らない病気ではありませんが、無理をしてがんばれば治るわけでもありません。ご本人はもとより、周りの方もこの病気のことをよく理解し、対処する方法を学び、できるところから少しずつマイペースにゆっくりと治療を続けてもらえればと思います。