ペースメーカー植え込み術(装置の説明、適応、安全性など):どんな治療? 治療を受けるべき人は? 検査内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 日本循環器学会循環器専門医の因田 恭也と申します。
- ペースメーカーは脈が遅くて困っている人にとって非常に効果のある治療法です。
- ペースメーカーを装着して日常生活を快適に送っている人は多くいらっしゃいます。
- このページではペースメーカー手術について理解するために役に立つ情報をまとめました。
目次
まとめ
- ペースメーカー植え込み術は、脈が遅い場合の治療法のひとつであり、小さな器械で心臓を刺激して脈を増やします。
- 通常は5 cm程度の切開のみで、1〜2時間の手術時間で、手術後にはほぼ通常の生活ができます。
- 5〜10年後に電池がなくなりそうになったら、ペースメーカー本体を交換します。
- ペースメーカーは磁気【じき】に弱いので、高磁場や磁気を発生する装置には注意が必要です。
どんな治療?
- ペースメーカー治療は、肩の鎖骨下【さこつか】という部分の皮膚の下にペースメーカー本体を植え込みます。
- さらにペースメーカーリード(細い電線)を、静脈を通して心臓の右心房【うしんぼう】と右心室【うしんしつ】という部分(あるいはそのどちらか一方)に装着します。
- 心臓の心拍が遅いときに、ペースメーカー本体からリードを介して電気刺激を心臓に加え、心臓を収縮させます。
どんなはたらきや効果があるの?
- 脈が遅い患者さんの最低の心拍数を保つことで、脈が遅いために生じる息切れ、めまい、ふらつき、失神などが起こらなくなります。
- 最低心拍数(ときに最高心拍数)はからだの外から設定ができ、通常は50〜60回/分を保つようにします。
この治療を受けるのはどういう人?
- 心拍数が遅い患者さんで、ふらつき、息切れ、失神などの症状がある方が適応となります。
コラム:ペースメーカーの適応
- 洞不全症候群や完全房室ブロックがある
- 高度房室ブロックがある
実際には、どんなことをするの?
- 鎖骨の下方を5 cmほど切り開き、ペースメーカー本体を植え込むための隙間(ポケット)を作成します。
- ポケットの近くを走行する腋窩【えきか】静脈あるいは鎖骨下静脈に中空の針を刺し(「穿刺【せんし】」といいます)、ペースメーカーリードを静脈内に挿入し、右心房、右心室の心筋に留置します。
- リードと本体を固定し、本体をポケット内に収納して、切り開いた部分を縫い合わせて終了です。
- 特殊な装置としてリードレスペースメーカーがあり、これはリードがなくきわめて小さなペースメーカー本体を直接右心室に留置するもので、心室刺激のみできます。
- リードレスペースメーカーは、太ももの静脈からカテーテルという特別な器具を用いて挿入します。
ほかにどのような治療があるの?
- ペースメーカーは確立された治療法ですので、脈の遅い方で回復が見込めない場合や、繰り返し脈が遅くなる発作のある方には、第一の治療法としておすすめします。
- ペースメーカー治療以外に、お薬による治療が行われることもありますが、お薬の効果が十分でない場合や、飲み忘れ、お薬の副作用などの問題もあります。
- 確実に心拍数を保つためにはペースメーカーが推奨されています。
どんなリスクや合併症があるの?
- ペースメーカー植え込み術に伴って、次のような合併症が起こることがあります。
- リードを挿入するため静脈に針を刺すときに肺を傷つけ、空気がもれて肺がしぼんだ状態になる気胸【ききょう】や、肺が収まっている胸の空間に血液がたまる血胸【けっきょう】になることがあります。
- リードの挿入時に静脈や心臓の筋肉を傷つけることがあり、心臓に傷がつくと心臓の周りに血液がたまり血圧が下がること(心タンポナーデ)があります。
- ポケット部に血がたまり痛みや腫れが生じることがあります。
- ペースメーカー本体やリードに細菌などがついて感染を起こすことがあります。
- 植え込み後にリード先端が移動してしまうことがあり、その場合にはリードを再度固定し直す必要があります。
- リードを挿入した後に腕の静脈がうっ滞してはれぼったくなることがありますが、多くは自然に治ります。
治療後にはどんなことに注意すればいいの?
- 一般的には、普通の生活ができますが、定期的にペースメーカーのチェックを医療機関で行うことが必要です。
- 最近は、遠隔モニタリングという、自宅からペースメーカーの調子を医療機関などに送信するシステムが導入されています。
- ペースメーカー植え込み後には、ご自身で脈をチェックして脈拍数やリズムを知り、動悸などの症状があるときに脈の違いに気づくことができるようになってください。
- ペースメーカー植え込み後に感染を起こすこともありますので、ペースメーカー本体部などに発赤、腫れ、熱感、痛み、皮膚の色の変化、滲出液【しんしゅつえき】、膿【うみ】などが認められたら、すぐに医療機関を受診してください。
- かゆくてかきむしると細菌が入る原因にもなりますので注意してください。
- ペースメーカー本体は丈夫なケースに収められていますが、その部分に強い力が加わると皮膚を圧迫し傷つける可能性がありますので注意してください。
- ペースメーカーリードは圧迫が加わると切れてしまう(断線する)こともあります。
- 鎖骨と肋骨の間でリードが挟まれ損傷することがありますので、重たいものは持ち上げない、腕を回転させる運動はしないでください。
- ペースメーカーは磁石(磁場)に弱いため、次のような環境に注意してください。
磁石(磁場)に弱いペースメーカー装着者が注意したい環境
- 高磁場となっていることがある大型の器械・モーターの近く
- 強い電場がある高圧電線の近く(実際にはそのような場所には立ち入れません)
- IH調理器や携帯電話のそば(22 cm離せば影響なし)
- MRI検査(条件つきで撮像できるペースメーカーがありますが、古いペースメーカーやリードが入っている場合には検査を受けられません)
- 低周波治療器など電流を流す医療機器のそば
手術費用はどれくらいかかるの? 特別な措置はあるの?
- 医療費の自己負担額が3割の場合におよそ70万円ほどです。
- 一般的には高額医療の限度額を超えますので、患者さんごとの限度額の負担となります。
- ペースメーカーを装着した場合、その適応がクラスⅠ適応(徐脈のためにペースメーカーが必ず必要である状況)であれば、身体障害者手帳1級(心臓機能障害)が認定されます。
- 永久に1級ではなく、3年後に見直しが行われ、ペースメーカー適応基準にかかわらず、心機能障害のため運動能力が2メッツ(身体活動の強さを示す単位。数字が大きいほど強い)未満の場合のみ1級継続、4メッツ未満では3級、4メッツ以上では4級となります。
- 通常の日常生活を送っている患者さんは4メッツ以上の運動能力があり、4級となります。
追加の情報を手に入れるには?
- ペースメーカー植え込み適応に関する最新のガイドラインなどについては以下のウェブサイトを参照してください。
- 日本不整脈心電学会のホームページ
- http://new.jhrs.or.jp/home/
- 日本循環器学会と日本不整脈心電学会合同による「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」
- http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_kurita_nogami.pdf