ノンレム睡眠からの覚醒障害(睡眠時驚愕症型):どんな病気?治療は?
更新日:2020/11/11
- 松澤重行(小児科専門医)、井上雄一(睡眠学会認定医)と申します。睡眠障害専門のクリニックで診療を行っています。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分や子どもが毎夜、夜中に泣き叫ぶが、どうなってしまったの?」と不安でいっぱいになっておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私どもが日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
まとめ
- ノンレム睡眠からの覚醒障害(睡眠時驚愕症型)は、睡眠中に突然泣き叫び、激しい恐怖の表情と興奮、緊張を示し、しかも呼びかけに対する反応が乏しくなるという症状が数分以上続くものです。
- 多くは4〜12歳のこどもにあらわれ、その大半が思春期までになくなりますが、おとなになってみられることもあります。
- 睡眠不足やストレス、音や光などの環境刺激が症状の出現に関係します。
- 症状や経過が典型的でないとき、他の病気との区別が必要なときなどには一泊入院で終夜睡眠ポリグラフ検査を行って診断します。
- 悪化要因を減らす、危険を避けるなどの対応が基本になります。症状の頻度が多いとき、危険を伴うとき、日常生活への影響があるときは、お薬で症状を抑えます。
どんな病気?
- ノンレム睡眠からの覚醒障害(ノンレムパラソムニア)とは、ノンレム睡眠の深い眠りから不完全に起きてしまうために不自然な行動や反応がみられる病気です。
- このうち睡眠時驚愕症型は「夜驚症」とも呼ばれ、寝ている間に突然泣き叫び、激しい恐怖の表情と興奮、緊張を示し、しかも呼びかけに対する反応が乏しくなるという症状が数分以上続くものです。
もっと知りたい!ノンレム睡眠とは?
- ノンレム睡眠とは、眼球が動かない眠りで、ぐっすり眠っている状態です。一方、レム睡眠とは、眠っていても眼球が動いている、眠りが浅い状態のことを指します。
- 一晩の睡眠は、ノンレム睡眠の深い眠り、ノンレム睡眠の浅い眠り、レム睡眠の3つからなり、それらのまとまりを1回約90分で3-5回繰り返しています。
どんな症状?
- 症状は以下の通りです。
症状
|
- これらの症状は、数分以上続くこともあります。
- また、たまに起こることもあれば、一晩に何回も起こることもあります。
主な原因とその説明
なりやすい人
- 好発年齢は4歳から12歳頃の子ども
- その大半が思春期までになくなりますが、おとなになってみられることもあります。
- 親や兄弟にこの病気がある人
- 体質(遺伝的原因)によってこの病気になりやすい人とそうでない人がいます。
原因
- 旅行や慣れない場所などによる睡眠不足、発熱、身体的・精神的ストレス
- 大人になって初めて症状が起こったり、小児期以降なくなっていたのがおとなになって再発したりする方の多くの原因と言われています。
- 睡眠時無呼吸症候群(気道がふさがり、睡眠中に何回も呼吸が止まる病気)、甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンがたくさん出る病気)、片頭痛、頭のけが、脳炎、脳卒中(脳の血管がつまってしまう病気)など
- 音や光、膀胱に尿が溜まるなどの刺激
- 向精神薬(うつ状態や不安を和らげるお薬)
- 炭酸リチウム、フェノチアジン、抗コリン剤、鎮静剤、催眠剤など
- 精神の病気とは関連がないと考えられています。
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- ノンレム睡眠からの覚醒障害と思ったら、以下のようなときは、病院へ受診してください。
病院へ受診した方がよいとき
- お子さんの場合には、回数が多いとき、危険を伴うとき、翌日の日中の活動にも影響するようなとき
- 通常、子どもの頃にみられるものは、正常な成長の過程で起こる現象と考えて良い場合がほとんどです。
- 思春期を過ぎても続くとき
- 大人になってから始まったとき
お医者さんでおこなわれること
- まず病院へ行ったら、症状を詳しく話してください。症状を記録した動画などがあれば、診療で役立ちます。
- 症状が典型的で経過が不自然でなければ、特に検査は行いません。
- ただし、症状や経過が典型的でないときや、てんかんやレム睡眠行動障害(悪夢に伴う異常な行動)などとの区別が必要なときは、脳波を調べる検査や終夜睡眠ポリグラフ検査(一晩にどのような体の活動を行っているか調べる検査)を行います。
- 睡眠時驚愕症をおこしやすくする睡眠時無呼吸や周期性四肢運動障害(寝ている間に手足の異常な動きがおこり、眠りを妨げる)などの睡眠に関係する病気が疑われるときには、終夜睡眠ポリグラフ検査を行います。
もっと知りたい!治療法は?
- 治療は、症状の頻度によって異なります。
- 症状がたまにしかみられず、危険でない場合:特別な治療は行いません。症状を起こさないための予防法、危険を避けるための工夫などを説明し、実施していただきます。
- 症状の頻度が多いとき、危険を伴う場合:この病気のために日常生活に困りごとがあるときは、お薬を使って症状を抑えていきます。
- 明らかな原因がある場合:その原因を取り除くための治療を行います。たとえば、睡眠時無呼吸症候群が原因の場合には、その治療を行うことで睡眠時驚愕症が起こらなくなります。
医療従事者向けコラム:可能性のある病気
- 同じような症状がでたとき、以下の病気ではないか鑑別することが大切です。
- レム睡眠行動障害
- 睡眠中におこるてんかん
- 睡眠関連解離性障害(睡眠中の中途覚醒時に解離症状がみられる)
- アルコール・薬物の影響
- 神経学的または精神医学的な異常を伴っていることはごくまれです。