壊死性筋膜炎:どんな病気?どういう人に起こりやすい?検査や治療は?
更新日:2022/05/20
- 整形外科専門医の姫野 大輔と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が壊死性筋膜炎になってしまった?」あるいは「ご家族や知り合いの方が壊死性筋膜炎かも?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 壊死性筋膜炎とは、急速に広がる手足の腫れと激しい痛みを特徴とする、全身状態が悪くなる感染症です。
- 頻度は低いですが、一度発症すると短時間で重篤な状態になってしまうので、早期に診断し治療を開始することが大切です。
- 糖尿病などの病気を持っている方や免疫を抑える薬を使用されている方などに起こりやすいです。
- 手足に腫れが生じて、その範囲が数分から数時間の単位で、急速に広がったり激しい痛みを生じたりした場合や、気分不快などの全身的な症状を伴った場合は、早急に専門医を受診してください。
壊死性筋膜炎は、どんな病気?
- 壊死性筋膜炎とは、急速に広がる手足の腫れと激しい痛みを特徴とする、全身状態が悪くなる感染症です。
- 壊死性筋膜炎は10万人に5人が発症するといわれている、まれな手足の感染症です。
壊死性筋膜炎と思ったら、どんなときに病院への受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 以下のような症状がある場合は、早急に病院を受診してください。
- 手足が腫れて痛い時の原因としては蜂窩織炎などの比較的緊急性が高くない感染症であることが多いですが、壊死性筋膜炎を発症すると、急激に重篤な状態となってしまう可能性があります。
かかりつけ医や近所のクリニック(医院)への受診がおすすめの場合
- 手足が腫れているが範囲は広がらず、安静にしていれば痛みが強くない場合
救急車を呼ぶ場合
- 手足の腫れが数分から数時間の間にどんどん広がる場合
- 痛みが激しい場合
- 気分不快や意識障害などの症状がある場合
受診前によくなるために自分でできることは?
- 壊死性筋膜炎は診断するのがとても難しい病気です。ご自身の判断で様子をみることは避けてください。
壊死性筋膜炎になりやすいのはどんな人?原因は?
- 壊死性筋膜炎は下記のような人に多い傾向がありますが、それらに全く当てはまらない方がなることもありますので注意してください。
壊死性筋膜炎になりやすい人
- 糖尿病などの病気を持っている方
- ステロイドや免疫抑制剤などの薬を内服されている方
- 最近手術を受けた、あるいは怪我や火傷をした方
どんな症状がでるの?
- 壊死性筋膜炎になった場合、下記のような症状が出る可能性があります。
壊死性筋膜炎の症状
- 手足のむくみ
- 赤い斑点
- 激しい痛み
- 押したときの痛み
- 発熱
- 水ぶくれ
- 皮膚が黒くなる
- 気分不快・意識が悪くなる
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 壊死性筋膜炎を疑う場合は下記のような検査と同時に、処置が必要に応じて行われます。
- 壊死性筋膜炎を診断することはとても難しく、一つの検査ではなく様々な検査の結果を総合的にみることで診断します。
検査の種類
- 皮膚切開テスト:感染が疑われる皮膚をメスで切って、その下にある筋膜を直接みて、壊死性筋膜炎なのかを調べる検査です。
- 血液検査:体全体の状態を調べるために行います。
- CT・MRI検査:特殊な写真を撮り、感染している場所を確認するための検査です。
医療従事者向けコラム:LRINECスコア
- LRINECスコアとは、いろいろな検査値(CRP、白血球数、ヘモグロビン値、血清ナトリウム値、血清クレアチニン値、血糖値)を用いて点数をつけることで、壊死性筋膜炎かどうかを予想するものです。
どんな治療があるの?
- 壊死性筋膜炎では下記のような治療を同時に行います。
壊死性筋膜炎に行われる治療法
- 抗菌薬治療:感染の原因となっている菌に対するお薬を点滴で入れます。
- 手術治療:抗菌薬だけでは壊死性筋膜炎は治りません。壊死性筋膜炎と診断されたら、できるだけ早く手術によって感染した組織(筋膜や皮膚など)を取り除く必要があります。
- 全身の状態に対する治療:壊死性筋膜炎では全身の状態が悪くなってしまうことがあり、全身の状態を保つために気管挿管(のどに管を入れること)や人工呼吸器装着(呼吸をサポートする機械)、昇圧薬の投与(血圧が低くなるのを防ぐ薬)などを行うことがあります。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?食事や生活で気をつけることは?治療の副作用は?
- 治療後、一旦治ったように見えた後も細菌が再び増殖して、病気が再発してしまう可能性が少ないながらあります。
- そのため、十分な栄養・休養をとること、病気を持っている方は十分に治療を行うことで、再発を予防することができます。
予防のためにできることは?
- 糖尿病など免疫力が落ちている人がなりやすいので、下記に気をつけることが予防につながります。
予防のためにできること
- 糖尿病などの病気を持っている方は、その治療を十分に行う。
- 怪我や火傷をした場合は、放置せず受診して治療する。
- 怪我や手術後の傷口にしみ出しや赤み、痛みがある場合は病院を受診し十分に治療を行う。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 専門医のいる総合病院で十分に治療することで、治る可能性があります。
- 数か月にわたる入院治療が必要となります。
- 残念ながら死に至ってしまうことも少なくありませんが、早くに診断され治療を開始することが大切です。
追加の情報を手に入れるには?
- 皮膚軟部組織感染に対する米国のガイドラインです。
- https://www.idsociety.org/practice-guideline/skin-and-soft-tissue-infections/
もっと知りたい! 壊死性筋膜炎のこと
蜂窩織炎と壊死性筋膜炎って何が違うの?
- 比較的多くみられる蜂窩織炎は、皮下脂肪に感染します。一方、壊死性筋膜炎は、皮下脂肪より深い筋膜に感染します。
- 壊死性筋膜炎は、筋膜に沿う形で急速に感染範囲が広がる傾向があり、蜂窩織炎と比べて重篤な状態となりやすいのが特徴です。
ガス壊疽と壊死性筋膜炎って何が違うの?
- ガス壊疽は、筋肉の中まで感染が及び、CTなどの検査で筋肉の中に空気(ガス)を認める病態をいいます。一方、壊死性筋膜炎は、筋肉表面の膜(筋膜)に感染している状態をいいます。
- いずれも重篤な状態となりうる皮膚・軟部組織の感染症で、近年では重篤な状態になりやすい病態として、合わせて壊死性軟部組織感染症(NSTI)といわれています。