首の痛み：どんな症状？原因やリスクは？自分で対処する方法は？どんなときに医療機関を受診すればいいの？

• 整形外科専門医の古矢丈雄と申します。
• とつぜん首の痛みが生じたり、ひどい首の痛みが何日も続いたりすると、心配になりますね。何か悪い原因で起こっているのではないか？と心配されたり、「病院に行ったほうが良いのではないか？」と不安になられたりするかもしれません。
• このページでは、首の痛みのよくある原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについての情報をまとめました。
• 私が日々の診察の中で、「特に患者さんに気をつけていただきたいこと」、「よく質問を受けること」、「知ってほしいこと」について記載をさせていただいています。

どんな症状?

• 多くは首の後ろから肩にかけての痛みです。 頭の後ろも痛い場合や、頭痛、めまい、吐き気なども伴う場合は命にかかわる病気のこともあります。
• 多くは痛みが持続的です。
• 首の位置により痛みが強くなったり、弱くなったりすることがあります。
• 痛みのため首が動かせないことはよくある症状です。また、首を動かすことで症状がでたり、悪くなることもあります。
• 時に症状は肩甲骨の辺りや、腕まで広がることがあります。

主な原因とその説明

• 首が痛い原因はさまざまです。
• 多くは頚椎ねんざや頚椎症と呼ばれる病態で、危険性の少ない病気です。
• まれに、頚髄症、頚椎損傷・頚髄損傷のように危険な病気もあります。
• 首が痛いだけでなく、手足のしびれや痛み、動かしにくさなどの症状があれば、市販の痛み止め薬で様子を見るのでなく、整形外科や脳神経外科へ行ってください。

原因となる病気の詳細

• 頚椎症：頚椎症は、首の骨や骨の周辺の組織の加齢変化です。骨のとげや首の骨同士のつなぎ目の部分に変形が生じ、首の痛みとなって現れます。基本的には安静や鎮痛剤を用いた治療が有効です。症状が長引く場合は整形外科を受診してください。
• 頚椎ねんざ：いわゆる「寝違い」や交通事故の際の「むち打ち」です。首の運動時の強い痛みが特徴的です。寝違いもむち打ちも時間経過と共に自然軽快することが多いですが、症状が長引く場合もあるので、数日様子をみて改善がない場合は整形外科の受診をお勧めします。
• 頚椎椎間板ヘルニア：椎間板組織が突出して神経にさわり、症状を出している状態です。後頚部痛だけのこともあれば肩甲部痛、上肢痛を併発することもあります。脊髄圧迫が強いと脊髄症状を呈することもあります。手足のしびれや運動障害を生じている場合は整形外科または脳神経外科の受診をお勧めします。
• 頚椎症性神経根症 ：頚椎症による骨のとげや飛び出した椎間板により神経の枝 (神経根)が圧迫され症状を呈している状態です。首の痛みに加え、肩甲骨の辺りの痛みや上肢痛を伴うことも多いです。多くの場合は時間経過で症状は自然に回復しますが、回復に時間がかかったり、なかなか回復しない場合もあります。市販薬で回復を待つのもよいですが、改善がない場合は整形外科または脳神経外科の受診をお勧めします。
• 頚椎症性脊髄症：頚椎症により神経の本幹 (脊髄)が圧迫され症状を呈している状態です。首の痛みに加え、手足のしびれや動かしにくさ、歩行障害、時に排尿・排便障害を生じることがあります。多くの場合、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、だんだん悪くなることが多いです。日常生活動作に障害が出る前に整形外科または脳神経外科を受診することをお勧めします。

こんな症状があったら救急車を!

• 交通事故やスポーツでの怪我、日常生活での転落・転倒後で以下のような症状がみられたとき、速やかに病院に行ってください。

速やかに病院へ行ってほしい症状

• 首の痛み
• 手足のしびれ
• 手足が思ったように動かせない

首の痛みに対して、よくなるために自分でできることは？

• 今ある痛みに対してできることは下記のようなことです。

今ある痛みにすぐにできること

• 安静にする
• 入浴などで痛みの部位や体を温める
• 痛みがつらいときには市販の鎮痛薬（ロキソニンなど）をのむ

• また、予防策として下記が挙げられます。

予防のためにできること

• 休養をとる
• 正しい姿勢でデスクワークを行う
• 寝る姿勢に注意する(枕の高さや硬さの調節)
• 普段からの適度な運動やストレッチ

• 注意してほしいことは下記のことです。

行うのが好ましくないこと

• 首を過度に後ろにそらす動作
• 上を向く動作
• 缶ジュースを飲む
• 電球を取り換える
• 高いところのものを取る
• 高いところに洗濯物を干す
• 寝床で腹ばいの姿勢で本を読む・携帯電話を操作する

こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう

• 上記のような症状があったら、整形外科や脳神経へ行きましょう。

かかりつけ医を受診したほうがよい場合

• 数週間続く首の痛み
• どんどん悪化する首の痛み
• 首の痛み以外も肩甲骨の辺り・腕が痛む、しびれる
• 首を後ろにそらす動作をした際に、肩甲骨や腕、体や足にびりっと電気が走る感じがする

お医者さんでおこなわれること

• まず医師が首の痛みについて、いつからか、どんな原因がありそうかなど、詳しくお聞きします。

診断の助けになる情報

• いつ生じたのか？何か原因がありそうか？：「朝起きた直後から」であれば、大抵は「寝違え」です。交通事故後であれば大抵は「むち打ち」ですが、「頚椎損傷」や「頚髄損傷」の可能性も0ではないので注意が必要です。
• 症状は時間と共に良くなっているか、悪くなっているか？：時間と共に悪化する傾向があれば注意が必要です。
• 症状と首の運動は関係があるか？：特定の方向に動かすと痛い、特定の方向に動かすと手足や体に電気が走る、など
• 首の痛み以外の症状は？：熱、めまい、手足のしびれ、手足の動かしにくさがあるか、など

• お話しを聞いた後に、痛みの部位や周囲を触診させていただきます。
• その後、レントゲン検査や、CT、MRIで首（頚椎）の画像を撮影します。

ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには？

• より詳しい情報や最新のガイドラインなどについては以下の書籍やウェブサイトを参照してください。
• 日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会監修　頚椎症性脊髄症診療ガイドライン2020改訂第3版

もっと知りたい頚部痛のこと！！

どんな病気のことが考えられる？

• 首の痛みの原因の多くは自然経過で軽快する、あまり心配のいらない「頚椎ねんざ」や「頚椎症」の軽症例です。しかしながら、頻度は下がりますが下記疾患も「首の痛み」 (頚部痛)の鑑別疾患として挙がりますので注意が必要です。

その他の首の痛みを生じる疾患

• 頚椎後縦靭帯骨化症：レントゲンやCTで後縦靭帯の骨化を確認できます。整形外科または脳神経外科への紹介を検討しましょう。
• 化膿性脊椎炎：発熱を認めたり、採血上、炎症反応が高値で、持続する頚部痛を認める場合は、鑑別疾患に挙がります。整形外科への紹介を検討します。
• 関節リウマチ：関節リウマチの既往を確認します。頚椎のレントゲンで変形が強い場合は整形外科へ紹介します。
• 環軸関節症：環椎 (第一頚椎)と軸椎 (第二頚椎)の間の関節の関節症性変化です。運動時の強い局所痛や後頭部痛 (神経根刺激症状)を訴えます。整形外科へ紹介します。
• 破壊性脊椎関節症：透析患者さんで、遷延する頚部痛があり、頚椎のレントゲンで変形が強い場合は整形外科へ紹介します。
• アテトーゼ型脳性麻痺に伴う頚椎症・頚髄症：アテトーゼ型脳性麻痺を有する患者さんで、遷延する頚部痛があり、頚椎のレントゲンで頚椎症性変化が強い場合は整形外科または脳神経外科へ紹介します。
• Crowned dens syndrome：外傷歴のない急性発症の強い後頚部痛、頚部運動制限の場合、鑑別疾患に挙がります。整形外科へ紹介します。
• 石灰沈着性頚長筋腱炎：外傷歴のない急性発症の強い頚部運動制限、嚥下痛、咽頭痛の場合、鑑別疾患に挙がります。耳鼻咽喉科または整形外科へ紹介します。
• 頚椎奇形：Klippel-Feil症候群や歯突起骨など、生まれつきの奇形が原因で後頚部の痛みを生じることがあります。これらはレントゲンやCTなどの画像検査で診断をつけることができます。整形外科へ紹介します。
• 脊椎腫瘍：原発性の脊椎腫瘍は稀ですが、中年～高齢者の場合、頻度は高くないが見逃してはいけない疾患として転移性脊椎腫瘍があります。問診でがんの既往を聞いておくことは重要です。レントゲンやCTで溶骨性変化を認める場合は整形外科または原発科へ紹介します。
• 脊髄腫瘍：稀な疾患ですが、頚部痛が続く場合、手足の症状が進んでいる場合は鑑別に挙がります。整形外科または脳神経外科へ紹介します。