咽頭癌:原因は?症状は?ステージとは?検査や治療は?治療後の生活は?
更新日:2020/11/11
- 耳鼻咽喉科専門医・頭頸部がん専門医の室野 重之と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が咽頭癌になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 咽頭癌とはのどの辺りに癌ができることで、のどの異常などがでる病気です。
- 咽頭癌はのどの部位によって、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌に分けられます。
- たばこやお酒が主な原因ですが、ウイルスが原因の癌もあります。
- 上咽頭癌では主に放射線治療が、中咽頭癌と下咽頭癌では主に手術治療あるいは放射線治療が行われます。放射線治療では多くの場合、抗癌剤も使います。
- 早期の癌では体への負担が少ない治療が可能ですので、早期発見に努めるよう症状に注意しましょう。
どんな症状?
- 咽頭癌では以下の症状が見られます。
咽頭癌の症状
- のどの痛み・違和感
- のどの腫れ
- 飲み込みにくい
- 息苦しい
- 耳が聞こえづらい
- 鼻血や鼻づまり
- 頭痛
- 物が二重に見える
- 首のしこり
- のどの癌ができる場所によって、症状は異なります。
- 癌が首に広がると首にしこりのようなものができたりします。
リンパ節転移による首のしこり
- 癌が首のリンパ節に転移すると、首のしこりとして自覚されます。
- 上咽頭癌では最も多い症状です。
- 中咽頭癌や下咽頭癌でも多くみられる症状です。
コラム:咽頭癌の種類
- 口を開けた時に見えるのが中咽頭で、それより上の頭側が上咽頭、それより下側が下咽頭です。
- 上咽頭癌では、特に片側の聴力低下や血混じりの鼻水が多く、頻度は低いですが重要なものに頭痛や複視などがあります。
- 中咽頭癌や下咽頭癌では、のどの痛みや異物感、のどの腫れ、飲み込みにくさが主な症状です。大きな癌では呼吸が困難になることがあります。
主な原因とその説明
- 原因としては主に以下があげられます。
咽頭癌の原因
- たばこ
- お酒
- エプスタイン・バーウイルス(EBV)
- ヒトパピローマウイルス(HPV)
- EBVは多くの人が知らずのうちに感染していますので、予防は難しいです。
- お酒ですぐに顔が赤くなる人が飲酒をすると咽頭癌になる確率は高くなります。したがって、鍛えて飲めるようになった人は注意が必要です。
- 最近ではHPVによる咽頭癌が増えつつあります。不特定多数の性活動が原因となります。
コラム:部位によるリスク因子
- 上咽頭癌:エプスタイン・バーウイルス(EBV)が発癌に関与します。多くの人は知らずのうちにこのウイルスに感染していますが、どのような人が上咽頭癌になるのかはわかっていません。
- 中咽頭癌:喫煙および飲酒が原因です。また最近は、喫煙や飲酒に関係なく、ヒトパピローマウイルスが原因となる中咽頭癌が増えています。不特定多数との性活動がリスクとなります。
- 下咽頭癌:中咽頭癌と同じく喫煙および飲酒が原因です。特に、フラッシャーと呼ばれる人の飲酒は、下咽頭癌のリスクを高めます。
咽頭癌に対して、よくなるために自分でできることは?
- 残念ながら、ひとたび咽頭癌になったら自然に治ることはありません。
- のどの痛みが出たら病院へ行くなど、早期発見に努めましょう。
- 胃カメラで咽頭癌が見つかることもあります。
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- かぜとは異なり、鼻やのどの症状が長引く場合は、医療機関の受診をしましょう。
目安となる症状
- のどの痛みや違和感
- のみこみにくさ
- 耳のつまった感じ
- 鼻づまり
- 血混じりの鼻水
- 首のしこり
お医者さんでおこなわれること
検査について
- 以下の検査が行われます。
検査の種類
- 耳、鼻、のどの診察:癌が疑われる箇所がないか調べます。鼻経由の内視鏡検査を行います。
- 組織検査:癌が疑われる箇所がある場合、一部を取って検査をします。
- 超音波検査:首に癌が広がってないかを調べます。
- CT検査:特殊な写真を撮り、癌がどれくらい悪くなっているかを評価します。
- MRI検査:CTと同じく特殊な写真を撮り、癌がどれくらい悪くなっているかを評価します。のどや首の癌の状態を調べます。
- FDG-PET検査:全身の癌の状態を調べます。
- 胃カメラ:食道などに別の癌がないか調べます。
- 血液検査:治療に向けて、肝臓や腎臓の働きなどを評価します。
- 心電図: 治療に向けて、心臓に異常がないかを調べます。
- レントゲン:治療に向けて、肺や心臓に異常がないかを調べます。
- 呼吸機能検査:治療に向けて、肺の働きに異常がないかを調べます。
治療について
- 以下の治療が行われます。
治療の種類
- 放射線治療:放射線と呼ばれる、目に見えない光や粒のようなものを当てて、癌を小さくします。
- 薬の治療:抗癌剤と呼ばれる、癌を小さくする薬を使います。
- 手術治療:癌をとる手術を、広がりに応じて行います。また、首に広がってしまった癌に対して、首のリンパ節をとる手術もあります。
コラム:部位による治療の種類
- 咽頭癌では部位によって治療が異なります。
- 上咽頭癌:放射線治療が主となりますが、抗癌剤を併用することが大半です。
- 中咽頭癌・下咽頭癌:早期の癌では経口的な手術が主となりますが、放射線治療を行うこともあります。進行した癌ではお腹や太ももの組織や小腸の移植を伴う拡大手術、あるいは抗癌剤を併用する放射線治療が行われます。
- 頸のリンパ節転移に対する手術では、リンパ節のみではなく周囲の脂肪組織も含めて摘出する頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)を行います。
どんな病気のことが考えられる?
- 中咽頭癌では、ヒトパピローマウイルス関連の有無によりステージの決め方が異なります。ヒトパピローマウイルス関連か否かはp16の免疫染色により決定されます。
上咽頭癌の治療の場合
- ステージ1:放射線治療を行います。
- ステージ2以上:放射線治療に化学療法を併用します。標準治療は放射線治療にシスプラチンを併用し、その後にシスプラチンと5-FUの化学療法を追加します。日本では、放射線治療を前半と後半に分け、その前、間、後にシスプラチンと5-FUの化学療法を行う交替療法もよく行われています。
中咽頭癌・下咽頭癌の治療の場合
- ステージ1:経口的切除術が主に行われますが放射線治療も行われます。
- ステージ2:経口的あるいは頸部外切開による手術や放射線治療が行われます。放射線治療に化学療法を併用することもあります。
- ステージ3~4:遊離皮弁による再建手術を伴う拡大切除、もしくは化学療法を併用する放射線治療が行われます。シスプラチンによる化学療法が標準治療ですが、シスプラチン、5-FU、ドセタキセルの3剤による導入化学療法が行われることもあります。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 頭頸部癌診療ガイドライン(2018年版)は書籍として販売されていますが、主に医療者を対象としています。
- 国立がん研究センターの「がん情報サービス」には、一般の方向けの、咽頭癌を含めた癌の解説があります。
- https://ganjoho.jp/public/cancer/index.html
もっと知りたい! 咽頭癌のこと
ステージとは
- ステージとは癌がどれくらい悪くなっているかの指標です。咽頭癌は部位分けされていて、それぞれにおいてステージ1からステージ4まであります。
- 咽頭癌の場合、のどの癌の状態、首のリンパ節という場所への転移(広がっている癌)、肺などそれ以外への転移を定められた基準で評価し、それらを総合してステージが決定されます。
治療後の生活
- 咽頭癌では、治療後には定期的な診察が必要です。
- 検査を行い再発があるかどうかや、長い経過での治療の副作用を調べます。
- 早期癌(あまり広がっていない癌)では日常生活に大きな影響はあまりありません。
- 進行癌(とても広がっている癌)ではのみこみにくさが残る場合があり、訓練や食事の工夫が必要となることもあります。また、声が犠牲になることもあります。