おたふくかぜ(ムンプスウイルス):症状は?ワクチンは有効?後遺症は?
更新日:2020/11/11
- 耳鼻咽喉科専門医の鈴木 貴博と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分や子供さんがおたふくかぜになってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- おたふくかぜはムンプスウイルスに感染することで起こる病気です。主に耳の下(耳下腺【じかせん】がある部分です)が腫れたり、痛みが出ます。他にも頭痛、腹痛、男の子では睾丸【こうがん】の腫れ、難聴など様々な症状が起こりえます。
- おたふくかぜには流行があります。3歳〜10歳頃のお子さんがかかることが多いですが、大人になっておたふくかぜになる方もいます。
- おたふくかぜの症状が出てきた後に、体の中で増えたウイルスを抑える薬はありません。そのため、予防としてのワクチン接種をお勧めします。
おたふくかぜ(ムンプスウイルス)は、どんな病気?
- おたふくかぜは、耳の下あたりに位置している唾(つば)を作る臓器(図1、耳下腺【じかせん】といいます)に炎症が起こり、腫れと痛みが出る病気です。流行性耳下腺炎【りゅうこうせいじかせんえん】とも呼ばれています。
- この病気はムンプスウィルスというウイルスが耳下腺に感染して起こります。耳下腺は片側だけ腫れる場合もありますしと両側ともはれる場合もあります。
- なお、髄膜や膵臓、耳の中、睾丸や卵巣にムンプスウイルスが感染し、炎症を起こすこともあります。
- ウイルスによる炎症が現れるのは耳の下だけではありません。下記のような症状が現れることがあります。
- 脳と脊髄を覆う膜(髄膜【ずいまく】と言います)に炎症が起こると頭痛や嘔吐が起こります。
- 膵臓【すいぞう】という臓器に炎症が起きると腹痛が起こります。
- 耳の中に炎症が起こると、聞こえが悪くなります(難聴【なんちょう】と言います)。
- 男性では睾丸【こうがん】に炎症が起きたり、女性では卵巣に炎症が起こることもあります。
図表1 耳下腺と顎下線
おたふくかぜ(ムンプスウイルス)と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 急な発熱や耳の下が腫れるなど、おたふくかぜを疑ったとき、下記のような場合は、医療機関の受診を検討してください。
かかりつけ医への受診がおすすめな場合
- 幼児で、明らかに普段と違う状態で、親であるあなたが受診が必要と考えた場合
- 頭痛や吐き気がある場合
- 急に耳の聞こえが悪くなった場合
- 症状がひどく、水を飲んだり、や食事をすることができない場合
救急車を呼ぶ場合
- 急な発熱に伴って、意識がおかしくなったり、けいれんを生じた場合
- 息をするのが困難と感じた場合
受診前によくなるために自分でできることは?
- 早くよくなるためには下記のことを行うとよいでしょう。
ご自宅でできること
- 体をやすめ、よく眠る
- 体を温かくする
- 水分をこまめにとり、脱水を予防する
- 痛みがあったり、熱でつらいときは、ドラッグストアで購入できる“アセトアミノフェン(カロナール)”などのお薬が有効です。
おたふくかぜ(ムンプスウイルス)になりやすいのはどんな人?原因は?
- 保育所や幼稚園、小学校など子供同士が接触する環境で流行しやすいため、3歳~10歳頃のお子さんにかかりやすい病気です。頻度は少ないですが、成人になってからおたふくかぜにかかる方もおります。
- おたふくかぜはムンプスウィルスというウイルスです。ウイルスに感染した人が咳やくしゃみをするとウィルスを含んだ唾液が飛び散ります。その唾液を吸い込んでしまったり、唾液を触った手から鼻やのどを触ると、ウイルスが感染します。
どんな症状がでるの?
- おたふくかぜにかかった場合、下記のような症状を示します。
おたふくかぜの症状
- 急な発熱
- 耳の下にある耳下腺の腫れ、痛み
- あごの下にある顎下腺の腫れ、痛み
- 全身がだるくなる
- 頭痛がする
- 嘔吐する
- お腹が痛くなる
- 睾丸が腫れる、痛みが出る
- 急に耳の聞こえが悪くなる
- 稀にのどのむくみ、息苦しくなる
- 思春期以降で発症すると、症状がひどくなる傾向があります。
- またムンプスウイルスに感染しても、すぐに症状が出るわけではありません。体の中でウィルスが増えるのには時間がかかるため、症状が出るのは感染したあと2~3週間経ってからです。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- おたふくかぜの特徴的な症状が出ている患者さんが来院されたら、おたふくかぜにかかったことがあるか、予防接種をうけたことがあるか、周りでおたふくかぜが流行していないか、などをお聞きして、診断していきます。
- 血液検査をすることもありますが、血液検査は結果がでるのに数日間かかってしまうため、実際にはあまり実施しません。患者さんのお話と症状をみて診断することが多いです
どんな治療があるの?
- 症状が出た後は、つらい症状に応じて、お薬を飲んでいただくなどの治療を行います。ただし、ムンプスウイルスそのものの活動を抑え込むような治療ではありません。
- 発熱や、頭痛、耳の下の痛み、腹痛に対しては、解熱剤や痛み止めを使い、症状が自然に治るのを待ちます。
- 嘔吐などの症状が出た場合や、症状がひどく飲水や食事が難しい場合は、吐き気止めなどのお薬を使い、脱水を予防するために点滴をすることがあります。
- 急に聞こえが悪くなった場合は、ステロイドホルモン薬や循環改善薬といった薬を使う治療を行うことがあります。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 治療後に注意することや、副作用は特にありません。
うつるの?自分の予防のためにできることは?
- おたふくかぜはとても人にうつりやすい病気です。そのため、周りの人にうつさないように注意をする必要があります。特に耳の下(耳下腺)が腫れ始める2日前から耳下腺の腫れがおさまるまでの間は感染がうつる危険性が高いです。
自分がおたふくかぜにかかってしまったら
- 耳の下(耳下腺)が腫れ始める2日前から耳下腺の腫れがおさまるまでの間は、おたふくかぜをうつしてしまう危険性が高いです。
- 周りの人におたふくかぜを周りの人にうつすリスクを下げるために、下記を行いましょう。
おたふくかぜをうつさないためにできること
- 手を洗う
- マスクをする
- 使用したティッシュなどはできる限り早くふたつきのごみ箱に捨てるかビニール袋に入れて口を結ぶ
コラム:出席停止について
- 学校保健安全法では、「耳下腺、顎下腺又は舌下線の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止」と決められております。
- ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りではありません。
おたふくかぜにかからないようにするためには
- おたふくかぜの症状がある人との濃厚な接触を避けるようにしてください。特に予防接種を受けていない人、おたふくかぜにかかったことのない人はうつりやすいので注意が必要です。
- ただし、感染していても全く症状の出ない人もいて、その人の唾液から移る可能性もあります。
- おたふくかぜが流行するのを防ぎ、また、自分がおたふくかぜにかからないようにするためには、予防接種(ワクチン)を打つことがとても重要です。なお、おたふくかぜにかかった人と接触した後ではあまり効果がないとされているので、まだ予防接種を受けていない方はぜひ早めに予防接種をうけることをご検討ください。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 耳の下の腫れは、ほとんどの方が1~2週間で自然に治ります。ただ、稀にですが、次のような病気が同時に起こったり(合併症といいます)、将来にわたって影響が残ったり(後遺症といいます)することがあります。
おたふくかぜの合併症と後遺症
- 髄膜炎:おたふくかぜにかかった人の中で髄膜(脳や脊髄を覆う膜)の炎症(髄膜炎【ずいまくえん】と言います)を発症する頻度は10人に1人程度といわれております。頭痛や嘔吐などの症状がありますが、後遺症なく治ることがほとんどです。
- 睾丸の炎症と不妊:思春期以降の男性では睾丸の炎症が現れる場合があります。稀に後遺障害として不妊に至ることがあります。
- 難聴:おたふくかぜにかかった人の中で難聴(耳が聞こえにくくなること)になる頻度は数百人~数千人に1人程度といわれております。いったん難聴になるとその程度は重症で、どのような治療を行っても非常に治りにくいです。難聴になった方の多くは片側のみですが、まれに両側とも聞こえなくなる方もおります。
予防接種の重要性
- おたふくかぜの症状が出てしまった後に、ウイルスを抑えるお薬はありませんが、ウイルスに感染する前ならば、ワクチンで予防することができます。
- 過去に予防接種を受けていても、おたふくかぜにかかる方はいます。しかし、病気にかかったとしても軽い症状で済むことが期待できます。
- ワクチンにも副作用の可能性はあり、髄膜炎が数千人に1人程度、難聴は数十万人に1人程度と言われております。いずれも自然に感染した場合でも起こりうる症状ですが、それに比べると非常に少ない頻度です。
- 難聴などの重い障害を残す合併症の危険性を減らすため、また、流行を防ぎ、周りの人にうつさないためにも、幼稚園や小学校など集団生活に入る前に予防接種を受けておくことがとても大切です。もちろん成人の方でも、過去におたふくかぜにかかったことがなければ、予防接種を受けておくことをお勧めします。
追加の情報を手に入れるには?
- おたふくかぜに関しては下記のページを見るとよいでしょう。
- 国立感染症研究所感染症情報ホームページ
- https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/529-mumps.html
- おたふくかぜワクチンに関するファクトシート
- https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000bx23-att/2r9852000000bybc.pdf