口腔がん:原因は?口内炎との違いは?検査や治療は?完治できる?
更新日:2020/11/11
- 口腔がん専門医の柴原 孝彦と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかするとご自分やご家族の方が口腔がんと診断され、どのような病気なのか不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
口腔がんは、どんな病気?
- 口腔がんは、唇、歯茎、頬、口の底、舌、口の天井の部分、そして顎の骨にできるがんのことです。舌に発症することが多く、目で見ることができ、手で触れることができるがんです。
- がん全体の2 -%を占め、発生率は8-9人/10万人と言われていますが、年々増えています。
- 口腔がんは早く発見し、早く治療することで、治ることが期待できます。しかし、他のがんに比べてあまり知られていないためか、早い時期に発見できることが少ないです。
コラム:口腔がんのタイプ
- 口腔がんは、上皮系、非上皮系、血液系のほか、いろいろな細胞から発生します。
- 一番多いのは上皮系の扁平上皮癌で90%以上を占めます。よって、このページでの口腔がんは扁平上皮癌のことを示します。口腔粘膜の表面を覆っている幅約400μmの角化細胞の層が重層扁平上皮をつくり、ここから発生します。まれに顎骨から発生することもあります。
- 40年前と比べ、口腔がんが発生する患者さんは若年化しており、女性の割合も増加してきました(男女比は3:2です)。高齢化率の進んでいる県では、男女比が逆転していることもあります。
口腔がんと思ったら、どんなときに病院への受診したらよいの?
- 初めは痛くも痒くもありません。全く症状がないことが多いです。わずかに色が赤い、白いがポイントとなります。
- 進行して、がんが大きくなると、痛みが生じたり、動きにくさや感覚の異常が起きたりします。首のリンパ節が腫れることもあります。
- まずは、かかりつけの歯科医院を受診してください。口腔がんと診断するためには、病院の口腔外科、耳鼻科、頭頸科で詳しく診察を受けることが必要になります。
口腔がんになりやすいのはどんな人?原因は?
- 60歳以降の男性に起こりやすいと言われています。
- ガンができる原因は一般的に、食生活、生活習慣(お酒とタバコ) 、ウイルスなどが考えられています。口腔がんはさらに口の中の刺激も影響します。
- 口の中に刺激とは、歯並び、不適切な詰め物、治療されていない歯などで、これらが刺激の原因になります。ですから、口の中を清潔に保ち、これらを管理すれば、口腔がんは予防できるはずです。
コラム:口腔がんの原因
- 口腔がんも遺伝子の異常によって起こります。しかし、先天的かつ継承的な遺伝ではなく、後発的な出生後の刺激によって誘発されます。
- 口腔粘膜上皮に損傷が起きると、その直下の基底細胞は分裂を繰り返し、損傷を受けた上皮を修復しようとします。遺伝子の異常は、この遺伝子複製のミスマッチ時に発生します。
どんな症状がでるの?
- 初めに現れる症状は、口の粘膜が赤色や白色に変わることだけです。痛くなる、血が出る、硬くなる、盛り上がるなどの症状はありません。
- 進行したがんでは、様々な症状が現れます。盛り上がったり、へこんだり、また舌が動かしにくくなったり、感覚の異常を起こすこともあります。さらに首のリンパ節が腫れることもあります。
口腔がんの進行
- 口腔がんは突然発症することはなく、前がん病変や前がん状態(今では口腔潜在的悪性疾患と言う)を経由して長い経過を辿ってがん化していきます。
- 前がん病変で見つけるため、定期的に歯科医院でプロのチェックを受けることをおすすめします。
口内炎との違い
- 急に痛くなったり、大きくなったりする場合は、良性の病気や口内炎であり、適切な治療をすれば2週間で治ります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 病理検査:病変の表面をこすって細胞のチェックをする細胞診、麻酔をして米粒大の組織を切り取る組織診があります。
- 画像検査:レントゲン、CT、MRI、超音波検査などを行います。最近では蛍光観察もあります。
- その他の検査:全身に異常がないか確認するため、PET-CTや血液検査などを行います。他の消化器にがんが発症している場合もあるので、内視鏡検査をすることもあります。
どんな治療があるの?
- 学会が主導している治療のガイドラインがあり、外科的な手術が第一選択となります。がんが進行している場合や、手術ができない場合、がんの種類によっては、放射線治療を行うこともあります。化学療法も補助的に行います。
手術治療
- 口の中にできたがんの切除と、首のリンパ節に転移していた場合はリンパ節も切除します。
- 切除範囲が大きい場合は、手術後の見た目や口の機能を回復するための手術も行います。
- がんを切除する範囲を決めるときは、小さながんも見逃さないように、特別な薬品や器具でがんを描出して確認します。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
治療のオプションについて
- 術後1か月後から、嚥下と発音のリハビリを開始します。
- 術後の補助的な治療として抗がん剤治療を行う場合、薬の副作用(感染、貧血、腎臓などの異常、かゆみ、湿疹など)が必ず起こるので、十分な対策を準備しておきます。
術後の定期検診
- がんである以上、再発・転移のリスクがあります。術後1年までは2-3週に1度の診察、3か月に1度の画像検査を行います。それ以降は少しずつ間隔を空けていきますが、少なくとも5年以上は経過を見守ることが必要です。
- 術後の傷やひきつれは、半年ほど残ります。定期的に診察を受けていただき、異常がないか観察することが必須です。
予防のためにできることは?
- 口の中を定期的にチェック:1週間に一度は自分の口をよく観察し、色の変化に気を付けて下さい。そして2-3か月に一度は歯科医院に行き、口を万遍なく診てもらうとよいでしょう。かかりつけの歯科医院を決めて、口の中を清潔に保つように心掛けてください。
- がん発症リスクの回避:偏食は避け、バランスの良い食事をとってください。禁酒と禁煙を徹底してください。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 口腔がんと診断された方が、5年後に生存している確率(5年生存率といいます)は約60%と言われています。
- 胃がんや肺がんなどと比べてあまり知られていないためか、進行した状態のがん(StageⅣ)で発見されることが多いです。
- なお、早い時期に発見できれば、早期に治療ができるので、予後も良いです。
コラム:口腔がん2,082例の病期分類と5年生存率
- Stage I:症例数577、5年生存率 約90%
- Stage II:症例数533、5年生存率 約70%
- Stage III:症例数277、5年生存率 約60%
- Stage IV:症例数745、5年生存率 約40%
- 合計:症例数2,082、5年生存率 約60%
追加の情報を手に入れるには?
- 口腔がん情報サイトとして、一般社団法人口腔がん撲滅委員会があります
- https://www.oralcancer.jp/
- 独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス
- https://ganjoho.jp/public/index.html
- その他、基幹病院や大学病院の担当診療科のHPもご覧ください。
さいごに
- 2017年にWHOが発表した口腔咽頭がんの死亡者数の推移によると、1990年代半ば以降、先進諸国で日本だけが急激な増加を辿っています(図1)。
- 口腔がんが眼で見て触ることができるにも関わらず、進行がんになってから来院されることが多い日本の現状を物語っています。これは、一般開業歯科医院や医療従事者の方にも認識していただきたいことです。
- 口腔がんは早期発見、早期治療が成り立つがんであり、ハイリスク群を見つけて対処すれば予防できるがんでもあります。
- 口腔がんを無暗に恐れることなく、正しく知ってください。かかりつけ歯科医をもっていただき、先手先手で口腔内をチェックしてください。
図表1 口腔咽頭がんによる死亡者の推移