乗り物酔い:どんな症状?どうしておきるの?どうやって対処できるの?どんなくすりがあるの?
更新日:2020/11/11
- 耳鼻咽喉科専門医、めまい相談医(日本めまい平衡医学会)の宇野 敦彦と申します。
- 乗り物酔いが心配になると、遠足や旅行が十分に楽しめませんね。ひどい乗り物酔いで長く気分が悪かったり、何度も吐いたりするとつらいです。何とかできないか?と思われることは当然ですし、何か悪い原因で起こっているのではないか?と心配されたりすることもあるかもしれません。
- そこでこのページでは、どのように乗り物酔いがおきるのかを知っていただくことで、適切な対処法が理解できるように解説しています。とりあえずの対処法をお知りになりたい方は、まずその項目をごらんください。
目次
まとめ
- 乗り物酔いは脳が空間情報の更新に混乱した時におこります。
- 乗り物酔いしにくいようにする対処法があります。
- 医療機関や薬局で処方される薬も有効です。
- 大人になって、これまで問題なかったのに乗り物酔いがひどくなった場合には、他の病気の合併がないか調べるのがよいでしょう。
乗り物酔いは、どんな病気?
- 乗り物酔いはほとんどの人が経験する不快な症状です。
- 車や船での移動中だけでなく、大きな画面で動く画像をみているだけでも気分が悪くなることもあります。
- もっと特殊な例では、宇宙ロケットや宇宙ステーションでの活動でも酔いを起こすことが知られています。
- 気分の悪さから、冷や汗、吐き気、嘔吐の症状を伴うことがあります。
乗り物酔いはどうやっておきるの?どうしておきるの?
- 脳が空間情報の更新に混乱した状態になると、乗り物酔いがおきます。
- 自分が周りの空間の中でどのような状態にいるのかを脳はいつも感じ取っています。それがあるから姿勢を保ったり、自由に空間の中を動いたりできるのです。(空間認知)
- 空間認知は瞬時に更新されていますが、それには目から入ってくる視覚の情報と、耳から入ってくるバランスの情報が特に重要です。
- 耳には音を感じる働き以外に、身体のバランスを感じる働きがあります。耳の中にある三半規管と耳石器という器官は、頭がどのように動いているか、重力がどの方向にかかっているかをつねに感じとっています。
- 脳には、空間認知を更新するパターンがあります。目と耳から入ってくる情報によって、自分は空間のなかでどのような状況になっているか理解しているのです。
- 乳幼児はほとんど乗り物酔いをおこしません。まだこれから新しく、動きにともなって目と耳から入ってくる空間情報のパターンを覚えていく時期で、脳の空間認知のシステムが未熟だからです。
- 小学生ころがもっとも車酔いで困る時期です。歩いたり、走ったり、体操をしたり、どんどん運動ができるようになり、これは脳の空間認知のシステムができてきた証拠でもあります。とはいっても、目と耳から入ってくる空間の情報には、まだ経験していないパターンがたくさんあります。
- 大人になると、目と耳から入ってくる空間情報のパターンをたくさん経験しています。よく車に乗っている人は、ほとんど車には酔わなくなっています。それでも、ひどく曲がりくねった道では車酔いしたり、船では船酔いになってしまいます。
乗り物酔いを克服するにはどうすればいいの?
- 究極的には、乗り物に何度ものって移動することを繰り返すと、その乗り物にのっている間に目と耳から入ってくる空間情報のパターンをたくさん経験し、酔わなくなります。
- これが乗り物酔いの慣れです。乗り物の種類によって動きの特徴がありますから、それぞれに慣れていけば、その乗り物での酔いはおこさなくなります。
- できるだけ乗り物酔いをおこしにくくする対処法としては、揺れの少ない条件を選ぶ、目と耳の情報の不一致を少なくする、体調や環境を整える、薬を使うことです。
- 移動を楽しめなくなりますが、寝てしまうのも有効です。
- どうやっても吐き気が強くなってきたら、がまんせずに嘔吐してしまう方が楽になります。
乗り物酔いを起こしにくくする対処法は?
揺れの少ない条件を選ぶ
- 乗り物の中の揺れの少ない席を選ぶ:車外前方の景色がみえる席は、車の動きを予測できるため、頭の揺れを減らします。車や船なら低い位置、船なら中央に近い位置、飛行機なら翼の上が、揺れの中心に近く、揺れの少ない席です。
- 条件の悪い移動ルートを避ける:車ならカーブの多い道、船なら波の荒い海、飛行機なら低気圧の近づく空などを避けると良いです。
目と耳の情報の不一致を少なくする
- 遠くの景色をみる:遠くの何かをみていると、頭が揺れても視線は安定した状態が保たれます。外が全くみえなければ、近くをずっとみているよりは目を閉じた方が乗り物酔いには有利です。
- 頭の揺れをへらす:運転する人は、これからの動きに合わせて揺れを減らすよう自然に身体を傾けています。助手席で前方をみていてもある程度はできますので有利です。周りが見えない席なら、頭を背もたれにつける、できればより低い位置、シートに頭をつけた方が揺れは少なくなります。
体調や環境を整える
- 体調のよい状態を保つ:脳がつかれていると簡単に乗り物酔いが起きます。旅行の前日にはよく寝ておくと良いです。胃腸の調子も、吐き気のおきやすさに影響します。
- 楽しく過ごす、よい香りで気分よく:乗り物酔いの不快な記憶はしばしば匂いと結びつけて記憶されています。嫌な匂いをかいだり、思い出したりするだけで気分が悪くなります。
医療機関・薬局で相談する
- 乗り物酔いをおさえる薬は古くから研究され、その効果が証明されています。完全に乗り物酔いをおさえることのできる薬はないのですが、薬をのんだという安心感も、乗り物酔いが起きないことに大きな効果のあることが知られています。
乗り物酔いがおきてしまったらどうしたらいいの?
吐き気が強くなればがまんしない
- 吐き気が強くなれば嘔吐してしまった方が楽になります。嘔吐すると吐き気は一旦リセットされます。
寝てしまう
- 移動は楽しめなくなりますが、完全に寝てしまうと脳も休んでいますので乗り物酔いはおきなくなります。
乗り物からおりたら運動する
- いったん乗り物酔いになると、乗り物からおりてもしばらく吐き気が続きます。あまり気分の悪いときは安静に過ごすのもよいですが、体操をしたり、身体をよく動かすことで乗り物酔いが解消されます。
もっと知りたい 乗り物酔いのこと!!
あまりにひどい乗り物酔いは他の病気のせいではないの?
- 乗り物にのっている時にひどい乗り物酔いがおきても、乗り物をおりてしばらくして全く回復するのであれば、それ以上の病気ではありません。
- メニエール病や良性発作性頭位めまい症は耳の異常でおきる代表的なめまい疾患です。
- 脳に関わるめまいでは、脳腫瘍や神経変性疾患の始まりの症状ということもありますし、不安症、うつ病の症状としてみられることもあります。
- 貧血や甲状腺機能異常がめまいの原因になることもあります。
- めまいの病気がある方では、乗り物酔いもおこしやすい傾向にあります。
- いつもふらついているような感じがしていたり、これまでは何でもなかった動きでも気分が悪くなったり、いつもの乗り物なのに乗り物酔いしやすくなっているなどの症状があれば医療機関(内科、耳鼻咽喉科)に相談してください。
乗り物酔いの薬はだれでものんでいいの?副作用は?
- 乗り物酔いに処方される薬は、基本的に脳に作用しますから、用法・用量をよく守って使うことが大事です。
- ほとんどのものに眠くなる成分が含まれていますので、運転する方は服用できません。
- 市販薬でも、小学校前の乳幼児には、安全性の面で心配な成分が含まれる場合があります。小さいお子さんには、乗り物酔いの薬は注意が必要です。
- 眠気以外には、口が渇く副作用がよくみられますが、これはあまり心配いりません。水分はとってかまいません。
追加の情報を手に入れるには?
- 日本めまい平衡医学会のホームページ
- http://memai.jp
- めまい相談医のリスト
- http://memai.jp/sodan-i/list2018.html
- 国際的なめまい疾患の診断基準
- http://www.jvr-web.org/ICVD.html
- 宇野敦彦.めまい頻用薬の選び方・上手な使い方 動揺病.ENTONI 200:57-61, 2016.