メタボリック・シンドローム:診断基準は?食事や運動は?薬は必要なの?
更新日:2020/11/11
- 健康診断の結果などでメタボリック・シンドローム(メタボ)を指摘されると心配になりますよね。「何か悪い原因で起こっているのではないか?」と心配されたり、「特に症状はないけれど、病院に行ったほうが良いのかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、メタボリック・シンドロームとは何なのか、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に説明したいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- メタボリック・シンドロームとは、内臓脂肪がたくさんあることで、糖・脂質の代謝に異常がおこり、血圧が高くなるなどの異常を合併した状態です。
- メタボリック・シンドロームをそのままにしておくと、糖尿病や脂質異常症、高血圧となり、さらに心筋梗塞、脳梗塞といった心臓や脳の血管の病気になる可能性も高くなります。
- メタボリック・シンドロームから抜け出すためには、第一に内臓脂肪を減らすことです。そうすることで、病気になるリスクを一網打尽に改善できる可能性があります。
メタボリック・シンドロームになるとなぜよくないの?
- メタボリック・シンドロームであるということは、狭心症・心筋梗塞、脳梗塞・脳出血などの命に関わる病気になるリスクが高い、ということだからです。
- 糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病にもなりやすくなります。
- また、大腸癌、乳癌、子宮体癌など、一部のがんになりやすくなるとも言われています。
メタボリック・シンドロームの基準って?どうして腹囲なの?
- メタボリック・シンドロームでは、まず内臓脂肪が問題になります。内臓脂肪はおなかの中にあり、外からさわれる皮下脂肪とは違います。
- ウエスト周囲長(腹囲)を測ることで、内臓脂肪の面積を推定することができます。
- メタボリック・シンドロームの基準を下記にまとめました。
メタボリック・シンドロームの診断基準
- 必須項目として、ウエスト周囲長(腹囲)が男性85cm以上、女性90cm以上。女性は皮下脂肪が男性より相対的に多いため、そのぶん長くなっています。内臓脂肪面積では男女とも100cm2に相当します。
- 上記に加え、①空腹時血糖が110mg/dl以上(空腹時高血糖)、②トリグリセリド150mg/dl以上 かつ/またはHDL-コレステロール40mg/dl以下(高トリグリセリド血症・低HDL-コレステロール血症)、③収縮期血圧130mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上(血圧高値)のうち、2つ以上に当てはまる。
ウエスト周囲長(腹囲)の測定方法
- ウエストのくびれたところ(一番細いところ)ではなく、おへその高さが測る場所です。
- まっすぐに立って、メジャーは地面と水平になるように巻いてください。
- 空腹時に、軽く息を吐き終わったタイミングで測ります。
コラム:内臓脂肪がメタボリック・シンドロームにつながるメカニズム
- 内臓脂肪は腹腔内に存在する脂肪組織で、門脈を介して肝臓の上流に位置します。そのため、内臓脂肪の過剰蓄積は直接肝臓の代謝異常に影響します。
- また、脂肪組織はアディポサイトカイン/アディポカインという内分泌因子を産生し、血流にのって肝臓・筋肉などの遠隔臓器や動脈に直接作用します。
- 内臓脂肪蓄積時のアディポサイトカイン産生異常が、メタボリック・シンドロームの病態メカニズムとして重要です。
メタボリック・シンドロームはどんな病気につながるの?
- メタボリック・シンドロームは、以下の病気につながるといわれます。
狭心症・心筋梗塞
- 血液の中の脂質が多くなると、血管の内側に脂質などがたまって動脈硬化(プラーク)を起こします。プラークはストレスや寒さなどである日突然破れることがあります。
- 心臓につながる動脈(冠動脈)にプラークができると、心臓に流れる血液が少なくなって狭心症となります。プラークが破れると、血栓で血管が詰まって心筋梗塞になり、命に関わります。
脳梗塞・脳出血・くも膜下出血
- 脳につながる血管が動脈硬化でつまると脳梗塞が、破裂すると脳出血が起こります。動脈瘤の破裂がくも膜下出血となります。
- これらが起きると命に関わります。また、命が助かっても、麻痺などの重大な後遺症を残すことがあります。
糖尿病
- 内臓脂肪が増えるとインスリンの効きが悪くなり、高血糖に至ります。
- 動脈硬化のほか、網膜症(→失明につながります)、腎症(→腎不全・透析につながります)、神経障害(→しびれ・足の壊疽につながります)といったさまざまな合併症が引き起こされます。
脂質異常症
- 肝臓の代謝が異常になり、中性脂肪が上昇し(高トリグリセリド血症)、善玉コレステロール(HDLコレステロール)が低下します(低HDL-コレステロール血症)。
高血圧
- 高インスリン血症から腎臓のナトリウム再吸収が増え、結果的に高血圧に至ります。
- 脳の細動脈硬化につながり、脳出血を起こすリスクとなります。
コラム:メタボリック・シンドロームと一緒に起こりやすい病気
- 高尿酸血症・痛風:比較的若い方でも起こることから、痛風の発作は“メタボリック・シンドロームの警鐘”として重要です。
- 睡眠時無呼吸症候群:寝ている間に息が止まってしまい、日中のがまんできない眠気で気づかれます。太っている方で起こりやすいです。高血圧や心筋梗塞・脳卒中を起こすリスクが高くなります。
メタボリック・シンドロームの原因は?
- 食生活の偏り(食べ過ぎ、脂肪の多い食事など)、運動不足や、体質(遺伝などの素因)からくる内臓脂肪の蓄積が、メタボリック・シンドロームの原因です。
- 睡眠不足やストレスなども、メタボリック・シンドロームを悪くする因子として重要と言われています。
- 特に、20歳を超えてから体重が10kg以上増加した方は、BMIが25未満であっても内臓脂肪がたまっていることが多いので注意が必要です。
メタボリック・シンドロームと診断を受けることはどんな意味があるの?
- 心臓や血管の病気になるリスクがあり、かつ内臓脂肪がたまっている方がメタボリック・シンドロームと診断された場合、内臓脂肪を減らしていただくことで、心臓や血管の病気になるリスクを減らすことにつながります。
- 糖尿病、脂質異常症、高血圧の方は、それぞれの疾患に対する対処が必要です。内臓脂肪がたまっているかどうかによって、対処法を分けることができます。
- また、喫煙されている方や、高LDL-コレステロール血症(家族性高コレステロール血症含む)の方は、心筋梗塞、脳梗塞といった心臓や脳の血管の病気にかかるリスクが高くなります。メタボリック・シンドローム対策とあわせて対処していただく必要があります。
メタボリック・シンドロームを解消するために自分でできることは?
- 内臓脂肪を減らすことです! まずは体重を3-5%減らすことを目標としていただきます。
- 食事療法を基本として、運動療法を併用していただくと体重減少効果が大きいでしょう。
内臓脂肪を減らすためにできること
- 食事:食べる量を減らすことが基本で、脂っこいものをとりすぎないようにします。血圧が高めの方は、塩分をとりすぎないようにします。腹8分目、よく噛むことが大事です。
- 運動:週3~5回以上でトータル150分以上の有酸素運動(ジョギング、速歩、水中歩行など)がすすめられています。週2~3回、筋トレもするとよいと言われています。座っていることが多い人は意識して立つようにしてみてください。
- 睡眠:睡眠時間が短い、寝る時間が遅いと、生活習慣のずれにつながり、内臓脂肪が増える原因になります。
- 健康記録をつける:毎日体重や血圧を測り記録します。生活習慣の振り返りにも重要で、生活習慣の改善に効果があります。
健康診断はどのくらいの目安でうけるべき? 病院・クリニックに行くべきなのはどんなとき?
- 健康診断は毎年受けてください。症状のないうちに、ご自分の身体の状態を知っておくことが重要です。
- 健康診断の結果によっては、病院への受診がすすめられます(血圧140/90mmHg以上、空腹時血糖126 mg/dl以上、LDL-C 140mg/dl以上など)。
- メタボリック・シンドロームを見つけるための特定健診というものもあります。結果に応じて、お一人お一人に合った生活習慣の改善方法を相談することができる、特定保健指導を受けられます。
メタボで病院に行くと何をするの?
- 医師の診察により、メタボリック・シンドロームが生活習慣によるものなのか、他に原因となる病気が隠れていないかをくわしく調べていきます。
- また、検査を通して、ご自身の身体の状態を詳しく認識していただきます。
- たまった内臓脂肪を減らすことを目指し、具体的な生活習慣の改善策について、一緒に検討します。
- 生活習慣の改善策を2~3か月行っていただきます。改善が見られない場合は、お薬による治療も考慮されます。重症の場合は、すぐにお薬の治療が検討される場合もあります。
コラム:糖尿病を疑う場合の検査
- 血糖が高値だった場合は、HbA1cの測定や糖負荷試験を行います。糖尿病の有無やインスリン抵抗性・分泌能など、詳細な検討がなされます。
- 糖尿病と診断された場合は、尿検査(尿たんぱく、尿アルブミン)、眼科受診、神経学的診察なども行って、合併症があらわれていないか検査を行います。
コラム:血管や心臓の病気を疑う場合の検査
- 必要度に応じて、頸動脈エコーで血管の詰まり具合をみます。また、PWV検査で血管の硬さを調べ、動脈硬化の状況を確認します。
- 心エコーや運動負荷テストにより、虚血性心疾患の検査が検討されます。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 追加の情報は、以下のガイドラインおよび厚労省のページを参考にしてください。
- 肥満症診療ガイドライン2016 編集 日本肥満学会 ライフサイエンス出版
- 糖尿病診療ガイドライン 2016 編集 日本糖尿病学会 南江堂
- 厚生労働省健康局:標準的な健診・保健指導プログラム【平成30年度版】
- https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000194155.html