神経膠腫:症状は?ステージとは?検査は?治療は?完治できるの?
更新日:2020/11/11
- 脳腫瘍専門医の阿部 竜也と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかするとご自身やご家族の誰かが「神経膠腫になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 神経膠腫【しんけいこうしゅ】はできる場所によっていろいろな症状がでます。てんかんで起こることもあります。
- 正常な脳とのさかい目がはっきりしません。手術だけでなく、放射線を使った治療や抗がん剤による治療が必要になります。
- 治療の方針はそれがどれくらい悪い性質を持っているかによって異なります。
神経膠腫は、どんな病気?
- 脳から発生した腫瘍【しゅよう】です。つまり、患者さんの脳自体が腫瘍に変わっていきます。
- 神経に沿って広がります。正常とのさかい目がはっきりしないため、手術で腫瘍のすべてをとるのが難しいのが特徴です。
- 腫瘍がどれくらい悪い性質を持っているか(悪性度【あくせいど】といいます。)のめやすとしては4段階あり、グレードで表現されます。
- 悪性度が低い腫瘍(星細胞腫【せいさいぼうしゅ】や乏突起膠腫【ぼうとっきこうしゅ】などがあてはまります)はグレードII、いちばん悪性化した腫瘍(膠芽腫【こうがしゅ】があてはまります)はグレードIVになります。
- 手術でできるだけ多くの腫瘍を取り除き、残った腫瘍に対して放射線を使った治療や抗がん剤を使った治療を行います。
どんな症状がでるの?
- 神経膠腫ができる場所によって、さまざまな症状が出現します。
- 症状のスピードもゆっくりのものから、急に悪くなるものまでいろいろです。
- 神経膠腫によって頭の骨の内側の圧力が高くなって起こる「頭蓋内圧亢進症状【ずがいないあつこうしんしょうじょう】」と、神経膠腫ができたことによって脳の機能が障害されたことによって起こる「局所症状【きょくしょしょうじょう】」にわけられます。
頭蓋内圧亢進症状
- 脳は固い骨(頭蓋骨【ずがいこつ】といいます)によって囲まれています。腫瘍によって頭の骨の内側の圧力が高まり、頭が痛くなったりや吐き気がしたりします。特に朝起きた時の頭の痛みは、神経膠腫をはじめとする脳の腫瘍に特徴的です。
局所症状
- 脳の機能はどの部位が担当するということが地図のように決まっています。神経膠腫がどの部位に発生したかによって、どのような症状が出てくるかが決まります。
神経膠腫が発生した部位による症状
- 前頭葉:手足の力が入らない、言葉が出にくい、性格が変わった、ものを覚えられなくなった、てんかん発作が出る
- 側頭葉:言葉が理解しにくい、目の見える範囲が狭い、てんかん発作(胸やけがする、変なにおいがするなど)が出る
- 頭頂葉:手足の感覚がおかしい、計算ができない、読み書きが苦手になる、片方の物にぶつかりやすい
- 後頭葉:目の見える範囲が狭い
- 小脳:細かい動きができない、ふらつく、めまいがする、うまく歩けない
- 脳幹:物が二つに見える、むせやすい、ふらつく、めまいがする、手足に力がはいらない、手足がしびれる
神経膠腫と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
近くの脳神経外科、脳神経内科への受診がおすすめな場合
- 頭の痛み、忘れっぽい、手足の力が入りにくい、しびれる、しゃべりにくいなどの気になる症状があるとき
救急車を呼ぶ場合
- 顔や手足がばたばたふるえ、意識がなくなったとき(てんかん発作のことです)
神経膠腫になりやすいのはどんな人?原因は?
- 肺がんや大腸がん、乳がんといったような体のがんと比べると、神経膠腫になる人の数は非常に少なく、まれながんといわれています。
- 神経膠腫ができる原因はさまざまですが、からだがエネルギーを作るときにはたらく体の中の酵素の遺伝子に異常があるかないかによって、大まかに分類されるようになりました。
- ほとんどの患者さんの神経膠腫は親から遺伝するような遺伝子の異常がなく、発生します。その場合、子どもや孫に遺伝することはありません。
- 非常にまれですが遺伝によって遺伝子に異常がある場合、神経膠腫ができてしまうこともあります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 神経膠腫を含む脳の腫瘍の疑いがあるとお医者さんが判断した場合はCTやMRIなどの画像検査を行います。腫瘍の部位や大きさを確かめるために腫瘍をより分かりやすくうつすための点滴からの薬(造影剤【ぞうえいざい】といいます)を使用することもあります。
- また、腫瘍に栄養を与えている血管や、周りの正常な血管との関係を知るために、動脈から細い管(カテーテルといいます)を入れて造影剤を入れる検査(脳血管造影検査【のうけっかんぞうえいけんさ】)を行うこともあります。
- また、特殊なMRI検査では、脳の血液の変化をみることで、手足の動きや言葉を担当している部位を調べることができます。神経膠腫とそれらの部位との位置関係がわかるため、手術をするときに参考にします。
どんな治療があるの?
- 手術でとった腫瘍細胞を詳しく検査して、どれくらい顔つきの悪い細胞があるかを調べます。腫瘍細胞の顔つきによって悪性度が決まります。また、原因となる遺伝子異常も調べます。
- どのような治療をするかは、患者さんの年齢や全身の状態と、腫瘍細胞の悪性度によって、決めていきます。
手術
- 手術でできるだけ取り除くことを目指します。しかし神経膠腫は正常の脳に染み出すように広がっているため、無理して取り除くと、手足が動かなくなるなどの後遺症【こういしょう】を残します。そのような場合は一部だけ取り除いたり、それを詳しく調べたりします。
- 残った腫瘍に対しては放射線治療や抗がん剤を使った治療を行います。
放射線治療
- どの時点で放射線治療を行うかは、腫瘍細胞の悪性度によってかわります。
- ふつう、神経膠腫の細胞が染み出していると予想される範囲に放射線をあてます。当て方や当てる量によって、治療の期間は変わります。
化学療法
- 一般的にはいわゆる抗がん剤の治療のことです。
- 腫瘍細胞の悪性度によって、いつから化学療法を始めるか、放射線治療と同時に行うか、などが決まります。
- テモゾロミド(テモダール(R))やベバシズマブ(アバスチン(R))、といった薬剤が医療保険内で使えます。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 手術したところの皮ふはとても弱くなっています。かいてしまったり、けがをしたりして傷がついたりしたときは、すぐに病院へ連絡してください。
- 放射線治療や化学療法後、外来で化学療法をつづけているときは、体の病気とたたかう力が落ちています。無理をしない範囲で生活するように心がけてください。人が集まる場所に行くときはマスクを着用し、帰ってきたら手洗いをするなど心がけてください。
- また、放射線治療の一般的な副作用としては、頭の皮膚の炎症、毛が抜けてしまう、全身がだるい、ご飯を食べたくないなどの症状があげられます
- てんかん発作の予防の薬を飲んでいるときは、アルコールは飲まないでください。アルコールによって薬の効果が変化します。疲れや寝不足が続くとてんかん発作が起きやすくなります。規則正しい生活が大切です。
コラム:テモゾロミド(テモダール(R))の副作用
- 全身のだるさや吐き気などを生じます。吐き気止めなどを使うと症状を軽くすることができます。
- 白血球(なかでもリンパ球)や血小板などの値が低くなります。特殊な肺炎を起こしやすくなったり、歯ぐきから出血しやすくなったりします。これらのことがあったときは担当の先生に言ってください。
コラム:ベバシズマブ(アバスチン(R))の副作用
- 血圧が高くなることがあります。このお薬を注射しているときは、自宅でも血圧を測るようにしてください。
- 病院においてある血圧手帳に記録して、担当の先生にみせるようにしてください。その日の体調や体温なども記録してください。
予防のためにできることは?
- 神経膠腫は日常生活の中で予防できる方法はありません。また、いま現在で国がおすすめしている決まった検診はありません。
- 症状のない健康な人が脳ドックとしてMRIをうけ、たまたま神経膠腫が見つかることがあります。
- 気になる症状がある場合は、脳神経の専門のお医者さんに行ってください。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 神経膠腫はまだまだ治療が難しい病気です。長いこと病気が進行しなかったのに、ある時突然にもう一度起こってしまうこともあります。
- ほかの臓器のがんと違って、“5年たったら大丈夫”といったことは言えません。
- 神経膠腫ができた部位、病理検査の組織像、遺伝子の異常があるかないか、悪性度などによって予後は異なっています。いったん治療がうまくいっていても、担当の先生の指示にしたがって定期的な検査、受診を続けてください。
追加の情報を手に入れるには?
- 神経膠腫に関しては下記のページを見るとよいでしょう。
- 日本脳神経外科学会のサイト(脳神経外科疾患情報ページ)
- http://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/204.html
- 国立がん研究センターのサイト(がん情報サービス)
- https://ganjoho.jp/public/cancer/glioma/index.html
もっと知りたい! 神経膠腫のこと
国の支援ってなにがあるの?
- 神経膠腫の治療では医療費が高くなります。そのような場合、国の高額療養費制度【こうがくりょうようひせいど】があります。
- 神経膠腫によるてんかん発作に対して薬の治療を受けている場合は、自立支援医療制度【じりつしえんいりょうせいど】が使えます。
- 経済的な心配をなくすことも大事なことです。担当の先生に相談してください。また、がん診療連携拠点病院【しんりょうれんけいきょてんびょういん】にはがん相談支援センターがあります。そちらでも相談にのってくれます。