リンパ浮腫:どんな病気?マッサージの効果は?治療法はあるの?
更新日:2020/11/11
- 形成外科専門医でリンパ浮腫治療を専門にしている山本 匠と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかすると「自分がリンパ浮腫になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- リンパ浮腫の検査・治療はどんどん進歩しているため、リンパ浮腫の治療を専門に行っている医師の診察・検査を受けることが大切です。
- “むくみ”の有無・程度ではリンパ浮腫の評価はできないため、リンパ管造影などのリンパ浮腫専用の検査を行っている病院を受診することが大切です。
- 圧迫療法が最も大切な治療です。通院マッサージ(リンパドレナージ)治療は持続的な効果がありません。
- 圧迫療法だけではリンパ浮腫の進行はとめられないため、状態が悪くなってきている場合は手術治療も検討する必要があります。
リンパ浮腫は、どんな病気?
- リンパの流れが悪くなることで“むくみ”が起こる病気です。“むくみ”のほか、免疫が低下することで感染症になり熱が出るなどの症状がでることがあります。
- 日本では多くの場合、がんの治療でリンパ節をとったり、放射線治療を受けたりした後になります。
- ほかにも、原因不明のむくみで、リンパの流れに異常が起きるものがあります。
- 残念ながらリンパ浮腫は治らない上に、時間とともに悪くなり続けるやっかいな病気です。
リンパ浮腫になりやすいのはどんな人?原因は?
がん治療後の“むくみ”の場合
- 子宮がん・乳がんなどでリンパ節をとったり、放射線治療をうけたりした方は、リンパ浮腫になる可能性があります。
- “むくみ”がある場合は、医師の診察・検査が必要です。
- “むくみ”の症状がなくても、リンパの流れをみる検査で異常が分かることがあり、この場合でも放っておくと重症になってしまいます。
- がん治療後のリンパ浮腫が心配な場合は、がん治療の半年後くらいに一度リンパ浮腫を専門としている医師の診察・検査を受けるのがいいです。
原因不明の“むくみ”の場合
- まずは内科で“むくみ”が起きる病気について検査してもらう必要があります。
- 内科での診察でも“原因不明”とされた場合は、リンパ浮腫の治療を専門にしている病院を受診してください。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
“むくみ”に対する一般的な検査
- 詳しくお話を聞き、むくんでいる所のサイズをはかり、採血・画像検査などを行います。
- “むくみ”のほとんどはリンパではなく静脈が原因となっているため、超音波などを使って静脈の検査も行います。
リンパ浮腫専用の検査
- 最も大切な検査が、リンパの流れを調べる画像検査(リンパ管造影)です。いくつか種類があります。
- むくんでいる所に特殊な薬を注射して、時間をかけて観察する検査です。
- この検査で異常が見られたら“リンパ浮腫”と診断され、専用の治療が始まります。
どんな治療があるの?
手術以外の治療法
- 最も大切なのが圧迫療法です。リンパ浮腫専用のストッキングやグローブなどを着用し続けることになります。包帯は巻き方が難しく、間違えると悪くなってしまうため、専門的な研修を受けた人しかやってはいけません。
- 圧迫療法をしながら運動することも有効です。疲れを感じない程度の運動が良いです。圧迫しないで運動するのはよくありません。
- リンパドレナージというリンパ浮腫専用の特殊なマッサージがありますが、通院で行う場合は効果がありません。入院した上で専門スタッフにより毎日行われる場合は有効です。
- これらの治療では、根本的にリンパ浮腫を治すことはできず、生涯にわたり治療し続けることが必要となります。また、多くの場合はこれらの治療をしていても徐々に悪くなるため、手術を行うことになります。
手術治療
- リンパの流れをよくする治療もあり、症状が軽いうちに手術した場合は治ることもあります(圧迫療法が必要なくなる)。
- 現在、大きくわけて3種類の手術があります。リンパ管細静脈吻合術【りんぱかんさいじょうみゃくふんごうじゅつ】、リンパ節移植術、脂肪吸引術の3つです。
手術の種類
- リンパ管細静脈吻合術:局所麻酔で日帰りでもできる最も体の負担の少ない手術で、リンパ管を静脈につなぎます。主に症状が軽い方に効果があります。
- リンパ節移植術:全身麻酔でリンパ節を別の場所から移植する手術です。症状が重い方でも効果があります。
- 脂肪吸引術:むくみのある所の脂肪を取る手術です。しかし、手術の後はリンパの流れがより悪くなってしまうため、とても強い圧迫療法が生涯にわたり必要になってしまいます。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
手術以外の治療の場合
- 6割以上の方が、適切な治療を行っても徐々に悪くなってしまいます。
- 手術を行っていない場合は、定期的に(半年から1年に1回)リンパの流れの検査をして、状態が悪くなっていないか調べることが必要です。
手術治療の場合
- 手術の内容によって注意点が異なるため、医師に指示された通りの圧迫療法を行うことが大切です。
- 手術の後の経過が良い場合、徐々に圧迫療法を弱めていくことになります。その場合はリンパの流れが良くなっていることを検査で確認して、慎重に弱めていくため、勝手に圧迫療法をやめないようにしてください。
予防のためにできることは?
- リンパ浮腫の発症を予防するためにご自身でできることは残念ながらありませんが、リンパ浮腫の進行を予防することはできます。
- 医師に指示された、リンパ浮腫専用のストッキングやグローブなどを日中に着用し続けることが最も大切です。
- しかし、それでも徐々に悪くなる方のほうが多いため、定期的にリンパの流れを検査することが必要です。
- そのほか、体調をくずさないようにする、むくみのある手足をけがしないよう清潔に保つ、よく観察し赤みや熱っぽさがあるなど異常がある場合は主治医に連絡することが大切です。
- 温泉・海水浴・プールなどは感染症を起こす可能性があるため、なるべく控えるか短時間とし、浸かったあとはシャワーなどの流水で、むくみのある所をよく流しておくと良いです。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- リンパ浮腫は基本的に一度発症すると治りませんが、早い時期に発見してすぐ手術治療を行った場合は治ることもあります。
- “むくみ”がひどくなってからでは遅いため、早く発見するためには、がん治療の半年後くらいにリンパの流れを検査することがおすすめです。
- 手術の後の経過が良い場合、リンパの流れが良くなっていることを検査で確認してから、半年から1年程度かけて徐々に圧迫療法を弱めていくことになります。
- 圧迫療法をやめられた後も、定期的に検査して悪くなっていないか調べる必要があります。
追加の情報を手に入れるには?
- リンパ浮腫の検査や治療法などにつき、より詳しい情報が知りたい場合は下記のサイトを見ると良いでしょう
- 国立国際医療研究センター 国際リンパ浮腫センターのサイト
- http://silc.ncgm.go.jp/