ギラン・バレー症候群:どんな病気?難病なの?検査や治療は?後遺症は?
更新日:2020/11/11
- 脳神経内科専門医の楠 進と吉川恵輔と申します。
- このページに来ていただいた方は、ギラン・バレー症候群に関して「どのような症状が出るの?」、「治る病気なの?」といった漠然とした不安を抱えておられる方が多いかと思います。
- そのような不安を少しでも解消できるよう、日々の診療の中で頂く質問をもとに皆様のお役に立てる情報をまとめました。
- また、すでにギラン・バレー症候群と診断された方のお役にも立てるよう治療法や予後、後遺症の可能性など、患者さんに知って頂きたい内容も含めました。
目次
まとめ
- ギラン・バレー症候群は、本来は自分の身体を守る役割である免疫機能がおかしくなり、自身の手足の神経を攻撃してしまうことによっておこる病気です。
- 手足の力が入りにくくなったり、しびれ感がみられたりします。
- 神経の症状がでる1~3週間前に風邪を引く、下痢をするなどの感染の症状を経験することが多いです。
- 症状は1か月以内にピークを迎え、その後は悪化することはなく徐々に改善しますが、10~20%の方に後遺症が残ります。
- 治療として免疫グロブリンの点滴または血漿交換が行われます。リハビリも大切です。
ギラン・バレー症候群は、どんな病気?
- ギラン・バレー症候群とは、急速に主として手足の感覚がおかしくなり、力が入らなくなる病気です。約70%の患者さんは、このような症状が出る1~3週間前に風邪の症状や激しい下痢を経験しています。
- これは、自分を守るはずの免疫がおかしくなって、自分の神経(末梢神経といいます)を攻撃すること(自己免疫といいます)によっておこります。
- 発症から数日以内に、あれよあれよという間に症状が悪化して、寝たきりになったり、息がしにくくなって人工呼吸器が必要になったりする場合もあります。
- 症状は1か月以内にピークに達し、それ以後は悪化することはなく徐々に回復していきます。
ギラン・バレー症候群と思ったら、どんなときに病院に受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 下記にまとめたような症状がみられる場合には病院を受診をして下さい。
かかりつけ医への受診がおすすめの場合
- 風邪を引いた、激しい下痢をしたなどの1~3週後に、力の入りにくさやしびれ感を自覚した場合。
救急車を呼ぶ場合
- 日を追うごとに力の入りにくさやしびれ感が悪化して、立ったり歩いたりができなくなった場合。
- 息が苦しい場合。
- 動悸(胸がどきどきする)、めまい、起立性低血圧(起き上がった時に立ちくらみがする)が起こった場合。
医療機関の選び方
- ギラン・バレー症候群の専門は神経内科なので、神経内科を受診してください。
受診前によくなるために自分でできることは?
- 特にありません。なるべく早く神経内科の専門医を受診してください。
ギラン・バレー症候群になりやすいのはどんな人?原因は?
- ギラン・バレー症候群になりやすい人の特徴はいまだに分かっていません。
- ギラン・バレー症候群は、人口10万人当たり年間で1~2人というまれな病気です。患者さんは子供からお年寄りまでおられ、男女比は3:2と、男性にやや多くみられます。
- ギランバレー症候群は、何らかの病原体に感染した1~3週間後に発症しやすいと言われています。その病原体の多くはカンピロバクター、サイトメガロウイルス、マイコプラズマなどが挙げられます。
コラム:糖脂質に対する抗体
- ギラン・バレー症候群の約2/3の例では、神経の細胞表面にある糖脂質という物質に対する抗体が血中にみられ、この抗体が神経を攻撃して病気を引き起こすと考えられます。
- 1~3週前の感染が引き金になって、そのような抗体ができると考えられています。
- 一方、糖脂質に対する抗体が検出されない残りの1/3の例の原因はまだよくわかっていません。
どんな症状がでるの?
- ギラン・バレー症候群の代表的な症状を下記にまとめました。
ギラン・バレー症候群でよくみられる症状
- 立てない、歩けない、走れない、バンザイができない
- 手先や足先に力が入りにくい(ペットボトルのフタが開けられない、つま先立ちができない)
- 手先・足先がジンジンあるいはビリビリとしびれた感じがする
- 物が二重に視える
- 目が閉じられない、口から水が漏れる
- しゃべりにくい、飲み込みにくい
- ふらつく
- 動悸がする
- 息が苦しい
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- まず医師は患者さんのお話を伺い診察をして、ギラン・バレー症候群が疑わしいか判断します。そして、より正確な診断のために、下記のような検査を追加します。
- 神経伝導検査:神経を刺激してその働きをみる検査です。
- CTやMRIなどの画像検査:脳や脊髄の病気を除外するために行います。
- 脳脊髄液検査:腰の背中側に細い針を刺して、脳脊髄液をとって異常がないか調べます。
- 血液検査:神経を攻撃する抗体が血液中にみられないか測定します。
どんな治療があるの?
- 歩けなくなった患者さんには免疫治療が行われます。免疫治療には、血漿交換療法と免疫グロブリン療法の二つの治療法があります。いずれも有効性に差はなく、患者さんのご希望や病院の設備などに応じて治療法を選びます。
ギラン・バレー症候群の代表的な治療法
- 血漿交換療法:患者さんの血漿(血液の液体成分)を除去し、代わりに新鮮な血漿を入れる治療です。これを行うことで、患者さんにとって有害な物質や抗体を除去することができます。
- 免疫グロブリン療法(IVIg):免疫グロブリンというタンパク質を注射する治療です。血漿交換療法に比べて簡便で、患者さんの負担も少ないことから、こちらが選ばれることが多いです。
- 症状が悪化して呼吸しづらいなどの症状が見られたときは、入院をして、人工呼吸器などを用いて治療します。また、脈がみだれたり血圧が不安定なときには、集中治療室で管理をします。
- 入院中に関節が固まったり、血栓ができたりするのを防ぐ目的で、リハビリが行われます。症状の早い回復のためにも、リハビリは行われます。
- 治療でいったん症状が良くなっても、症状が悪化することがあります(治療関連性変動といいます)。その場合は、追加の治療が必要になることもあります。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 血漿交換療法や免疫グロブリン療法などの治療後には、さまざまな副作用が起こります。
血漿交換療法の場合
- 血圧の低下
- 蕁麻疹・アレルギー
- 吐き気・嘔吐
- 低カルシウム血症
免疫グロブリン療法(IVIg)の場合
- 肝機能の異常
- 頭痛・発熱
- 吐き気・嘔吐
- 皮膚の異常
予防のためにできることは?
- ギラン・バレー症候群自体は感染することはない病気です。ですから、具体的な予防法はとくにありません。
- 感染症にかからなければよいわけですが、日常生活をする上でそれは不可能と思われます。ただし、少しでも発症のリスクを減らしたいと思われる方は、カンピロバクターを保菌している可能性のある鶏肉などを加熱不十分な状態では食べないことをお勧めします。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- ギラン・バレー症候群は1カ月以内に症状のピークを迎え、徐々に回復していく病気です。
- 大部分の方で社会復帰が可能ですが、10~20%の患者さんは、後遺症のために発症1年後の時点でも歩くのに助けを必要とし、家庭や社会生活に障害が残ります。
ギラン・バレー症候群は一度かかったら、もうならないの?
- ギラン・バレー症候群は基本的に何度もかかる病気ではありません。
- しかし、まれに再発する場合もあり、その頻度は2~5%と報告されています。どのような方が再発しやすいのかは未だ十分にはわかっていません。
追加の情報を手に入れるには?
- ギラン・バレー症候群に関して、より多くの情報を知りたい方は下記のページを見るとよいでしょう。
- 日本神経学会のサイト
- https://www.neurology-jp.org/guidelinem/gbs.html