遺伝子検査:がんや肥満体質…何が分かるの?受けるべきなの?費用は?
更新日:2020/11/11
はじめに
- 臨床遺伝専門医の山本 俊至と申します。
- このページに来ていただいた方は、遺伝子検査を受けるかどうか悩んでおられるかもしれません。
- 遺伝子検査を受けるにあたり、それがどのような意味を持つものかについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています。
まとめ
- 遺伝子検査には、インターネットなどで市販されているものと、病院で行われるものがありますが、目的はまったく別になります。
- インターネットなどで市販されている遺伝子検査はDTCと言われますが、病気の診断が目的ではなく、体質を占うのが目的です。ほかの人に比べて1.2倍なりやすい、と言った程度の遺伝子を調べています。
- 病院で行われる病気の診断のために行われる遺伝子検査は、それだけで診断を100%確定することができるものです。
遺伝子とは?
- 私たちの体は精子と卵子が受精した、たった1個の細胞が60兆個にまで増えてできています。細胞の中には46本の染色体がありますが、精子と卵子を介してお父さんとお母さんから半分ずつ受け継いでいます。
- 遺伝子はこの46本の染色体の上にあるわけですので、基本的に遺伝子のタイプはお父さんとお母さんから半分ずつ受け継いでいます。
- 血液型も遺伝子で決められています。たとえばA型の人はお父さんかお母さんのどちらかからA型の遺伝子を受け継いでいるのです。
遺伝子検査って何?
遺伝子検査の特徴
- 血液型が途中で変わることがないのと同じで、遺伝子の型は生涯変わることがありません。
- 遺伝子は全て両親から受け継いでいるので、家族で同じ型を共有しているという特徴があります。
遺伝子の調べかた
- 細胞の中の染色体はDNAという物質でできています。このDNAを分析することで遺伝子の型を調べることができます。
- 私たちの体の細胞は全てたった1個の受精卵が分裂して増えたものですので、遺伝子の型は体のどの細胞でも同じです。つまり、からだのどこの細胞でも調べることができます。
- 病院では採血した血液中の白血球を用います。
- 一方インターネット通販などで行われる遺伝子検査は唾液などが使われる場合が多いです。
インターネットの遺伝子検査と病院の遺伝子検査の違い
- 遺伝子検査には、インターネットなどで市販されているものと、病院で行われるものがありますが、目的はまったく別になります。
- インターネットなどで市販されている遺伝子検査はDTCと言われますが、病気の診断ではなく、体質を占うのが目的です。体質がわかるとは言え、ほかの人に比べて1.2倍なりやすい、と言った程度の遺伝子を調べています。
- これに対して、病気の診断のために行われる遺伝子検査は、それだけで診断を確定することができるもので、病院で行われます。
遺伝子検査の「市販キット」について
- インターネットなどで病院を受診することなく気軽に受けられる遺伝子検査「市販キット」の広告を見かけることがあります。
- この「市販キット」を申し込むと、唾液などを採取する容器などが郵送されてきます。これを送り返すと遺伝子検査の結果が戻って来るしくみです。
- このような手順で調べられる遺伝子検査は、ほかの多くの人にも見つかりやすい遺伝子配列の変化のうち、体質との関わりが科学的に証明されたものだけを調べるもので、誰でも持っている可能性のあるものです。
- たとえば肥満に関連したものなど、通常数百程度の項目をセットにして市販されています。
- 病院ではないので、保険は効きませんので、全て実費になります。
- 多くの場合、結果によってサプリメントやダイエット食品を薦めるための導入の検査となっています。
遺伝子検査の特徴は?
市販の遺伝子検査の的中率
- 遺伝子検査の「市販キット」では、数百程度の遺伝子の型を同時に調べます。
- すると、ある遺伝子型の結果からは、ほかの人に比べて何倍肥満になりやすい、などという結果が得られますが、別の項目では肥満になりにくい、という反対の結果を示す場合があります。
- 私たちはこのように実に多くの遺伝子型を持っているので、それぞれの遺伝子型がお互いに影響するとどういう結論になるかは、本当はわかっていません。
- 「市販キット」を売り出している会社は、多くのお客さんからのアンケート結果を取り込んで、少しずつ結果のとらえ方を直しているようです。つまり、「市販キット」によって得られた結果に正解はないのです。
遺伝子検査の結果は100%正しいのか
- 現在の技術では、遺伝子型は100%きちんと判定できます。
- ただ、その遺伝子型によってどのような影響があるかどうかは、遺伝子によってまったく異なります。糖尿病や高血圧等になりやすいといった体質に関わる遺伝子型は、せいぜいほかの人より1.2倍程度高まる程度です。
- その一方、遺伝子型によって100%規定されるものもあります。血液型などがそれにあてはまります。
病院で行う遺伝子検査はどう違うの?
がん細胞の遺伝子は同じように調べられるのか
- 私たちの体の遺伝子は、生まれながら親から受け継いだもので生涯変わることがありませんが、がん細胞は別です。
- がんは、体の一部の細胞の遺伝子が変化して細胞の性質が変わってしまい、無限に増殖するというような特性を持つようになったものです。
- がんの種類によって変化を示す遺伝子型が異なります。それを調べて、治療の方針を決める「がんゲノム医療」が普及してきています。
- これは基本的に手術で切除したがん細胞を調べるので、病院でしか受けることができません。
病院で行う遺伝子検査は何が違うのか
- 人の病気の中には遺伝子診断を行うことで初めて診断できる病気がたくさんあります。
- 厳密に言えば染色体検査になりますが、たとえばダウン症候群も検査で初めて診断が確定します。
- このような病気の診断に直結する遺伝子検査は、医師の判断のもと、病院でなければ受けることができません。
- 遺伝子検査の結果は生涯変わることがありませんし、血の繋がった家族も同じ型をもっている可能性があります。そのため、必要に応じて臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを通じてきちんと検査の意味を理解して受ける必要があるのです。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 以下の日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」では医療における全ての遺伝学的検査について規定しています。
- http://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.html
- ヒトゲノム・遺伝子を研究として解析する場合は、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に従い、倫理委員会、インフォームド・コンセント、遺伝カウンセリング等に関する規定を順守するよう求められています。
- http://www.lifescience.mext.go.jp/bioethics/hito_genom.html