胃炎:症状は? 原因は? 検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- 消化器内科専門医の北條 麻理子と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分が胃炎になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 胃炎とは、胃の壁がただれている状態をいいます。
- 胃炎は、急性胃炎と慢性胃炎に分けられます。
- 急性胃炎は、みぞおちの痛みが急に起こり、胃もたれやはき気なども現れます。痛み止めのお薬やお酒、辛い飲食物などが原因となって生じます。原因を取り除き、胃酸をおさえるお薬や胃の壁を守るお薬で治療します。
- 慢性胃炎は、胃粘膜が長期間にわたってただれ、変化してしまった状態で、一般に症状を感じることはありません。胃に住みつくピロリ菌という細菌によって引きおこされることが多く、これを取り除くことが治療になります。
- 原因となる病気がないのに、痛みや胃もたれなどの症状が6か月以上にわたって続く場合、以前は慢性胃炎と診断されましたが、今は「機能性ディスペプシア」と診断されるようになりました。
胃炎は、どんな病気?
- 胃炎とは、胃の壁(胃粘膜といいます)にただれができた状態をいいます。
- 胃炎は、なんらかの原因によって急にただれてしまった急性胃炎と、長期間ただれている状態が続き胃の壁が変化してしまった慢性胃炎の2つに分けられます。
- 急性胃炎は、みぞおちの痛み、胃のもたれ、はき気などの症状が起こります。
- 慢性胃炎は、症状がないことがしばしばです。
- 急性胃炎は痛み止めのお薬(NSAIDsなど)が原因のことが多いです。一方、慢性胃炎はピロリ菌という胃に住みつく細菌が最も多い原因です。
- 原因となる病気がないのに、痛みや胃もたれなどの症状が6か月以上にわたって続く場合、以前は慢性胃炎と診断されましたが、今は「機能性ディスペプシア」と診断されるようになりました。
胃炎と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
急に症状が生じた場合
- 急に、みぞおちの痛み、胃もたれ、はき気などが強く出た場合は病院を受診してください。
- これらの症状は、胃炎以外の病気でも起こりますので、症状がそれほど強くなくても気になる場合は病院を受診するようにしてください。
- 胃の壁のただれが強く、ただれたところから出血することがあります。口から血をはく、黒い便が出る(タール便といいます)などがあった場合は、大至急病院を受診してください。このような症状が出た場合は、救急車を呼んだほうがよいときもあります。
- 痛みや胃もたれ、はき気などの症状とともにおう吐がある場合は、食事や水分をとる量が減って脱水状態になることがあります。とくに幼児、妊娠中、心臓や腎臓に重い病気がある場合、高齢の方などは注意が必要ですので、ぜひ病院を受診してください。
慢性的に症状がある場合
- (急にでてくるのではなく)慢性的に症状がある場合も病院で調べてもらってください。
- とくに症状がなく胃カメラなどで胃炎といわれた方で、ピロリ菌がいるかどうか調べたことがない場合、一度病院で検査されるとよいと思います。
ピロリ菌とは
- 胃に住みつく菌で、胃の壁を変化させてしまいます。
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因であり、慢性胃炎も起こします。胃癌とも関連があります。
受診前によくなるために自分でできることは?
- 痛み止めのお薬(NSAIDsなど)を飲んでいる場合は、空腹時ではなく食後に、決まった量だけ飲むようにしてください。
- 痛み止めのお薬を飲んでいるときは胃の壁がただれやすく、胃酸でさらに壁が傷んでしまいます。症状があって胃薬を一緒に飲んでいない場合は、病院に相談してください。
原因は? 胃炎になりやすいのはどんな人?
急性胃炎の原因
- 下記のような誘因が重なると、胃炎になりやすいといわれています。とくに、ピロリ菌が感染している方が痛み止めのお薬を飲むと、出血性の急性胃炎が生じやすくなります。
急性胃炎を起こしやすくする原因
- 痛み止めなどの薬
- 度数の高いアルコールや香辛料などの飲食物
- ピロリ菌などの感染
- 死別の体験、震災などの精神的・肉体的ストレッサー(ストレス)
- 手術など身体に負担をかける治療
慢性胃炎の原因
- 慢性胃炎の原因のほとんどはピロリ菌の感染です。ピロリ菌は長期にわたり胃粘膜のただれを引き起こすため、ピロリ菌にずっと感染している方は慢性胃炎と診断されます。
- ピロリ菌に感染したことがある方の場合、今は胃の調子が悪くなくても、胃透視や胃カメラで検査をすると胃炎・慢性胃炎と診断されることがあります。ピロリ菌によって生じた粘膜の変化は長く残るからです。
どんな症状がでるの?
- 急性胃炎では次のような症状が出ます。ただし、ご高齢の方は症状がない場合もありますので、より注意が必要です。
急性胃炎の症状
- みぞおちが痛い
- 胃もたれ
- 胸やけ
- げっぷが多い
- はき気
- おう吐
- 血をはく
- 黒い便が出る
※咳と一緒に血が出る場合は、ほかの病気を考えます。
- 慢性胃炎では、一般に症状を感じることはありません。
- 慢性胃炎でも、ときに症状が出ることがありますが、ピロリ菌を取り除くと改善します。
- ピロリ菌を取り除いても症状が残る人は「機能性ディスペプシア」と考えられます。
コラム:機能性ディスペプシア
- 機能性ディスペプシアとは、症状の原因となる病気がないにもかかわらず、慢性的にみぞおちの痛みや胃もたれなどのみぞおちを中心とする腹部症状がある状態をさします。
- 欧米では、(1)症状の原因となる病気がないこと、(2)6か月以上前から症状があり、最近3か月間は症状が続いていること、(3)つらいと感じる食後のもたれ、食事の途中におなかがいっぱいになり普通量の食事を食べることができない、食事に関わらずつらいと感じるみぞおちの痛みや焼けた感じがある、以上3つのいずれかの症状があることで初めて、機能性ディスペプシアと診断されます。
- 日本では、症状の具体的な持続時間や診断のために必要な症状などは定めていません。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
急性胃炎の場合
- 問診:からだ全体の状態を確認し、原因を調べます。
- 血液検査・尿検査:貧血や脱水になっていないか調べます。胃炎以外の病気がないかも調べます。
- おなかのエックス線、超音波、CT検査:画像で胃の壁の様子を調べます。
- 上部消化管内視鏡検査:通称「胃カメラ」と呼ばれるこの検査は、口(鼻)から管を入れて胃の壁を直接見る検査で、患者さんにとっては負担がある検査です。しかし、貧血がある場合や、血をはいたり、黒い便がある場合は、検査を行います。そのような症状がない場合は、内服薬で経過をみることもあります。
- 心電図検査:心臓の病気がある場合、心臓の痛みを、みぞおちの痛みや胸やけといった症状として感じられることがあります。心臓の病気が隠れていないか調べます。
慢性胃炎の場合
- 上部消化管内視鏡検査:胃透視で胃炎・慢性胃炎と言われた場合は、胃カメラの検査を受けていただきます。
- ピロリ菌検査:胃カメラで胃炎・慢性胃炎と言われた場合は、胃にピロリ菌がいるか調べます。調べ方はさまざまあり、吐いた息や便、血液で検査したり、胃カメラで胃をみるときに壁の一部を取ってきて調べたりします。
どんな治療があるの?
急性胃炎の場合
- 治療の基本は、原因を取り除くことです。
- 自然に治る場合もありますが、通常お薬を使って治します。胃酸をおさえるお薬や、胃の壁を守るお薬を使います。
- 痛みが強い場合は、痛みをおさえるお薬を使います。
- はき気・おう吐がある場合は、はき気止めのお薬を使います。
- 血をはいたり、黒い便が出たりした場合、胃から血が出続けていることがあります。胃カメラで出血の場所がわかった場合は止血をします。
慢性胃炎の場合
- ピロリ菌がいる場合にはお薬を使って取り除きます。
- ピロリ菌を取り除くためのお薬の種類や量は決まっており、いずれも保険治療で行うことができます。
コラム:ピロリ菌を取り除く
- まず、プロトンポンプインヒビターと2種類の抗生物質を7日間服用します。
- 初回の除菌でピロリ菌を退治することができなかった場合、1種類の抗生物質を変更して再度7日間服用します。
- 上の2回の除菌治療でほとんどの人は除菌に成功します。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは? 食事や生活で気をつけることは? 予防のためにできることは?
- 胃炎の原因となったと思われることはできるだけ避けてください。
- 痛み止めのお薬を飲むときは医師の指示に従って、飲みすぎないようにしてください。
- アルコール度数の強いお酒は飲みすぎないように注意してください。
- 辛いものは食べすぎないように注意してください。
- ピロリ菌が住みつくことで胃癌になる可能性が上がります。除菌に成功した場合でも、定期的に胃カメラ検査を受けてください。
治るの? 治るとしたらどのくらいで治るの?
急性胃炎の場合
- 原因を取り除けば、症状は1週間以内になくなります。
- 胃の壁のただれが強い場合でも、1か月もすれば完全によくなります。
慢性胃炎の場合
- 治療後もしばらくは胃カメラなどで「慢性胃炎」といわれ続けることがありますが、胃の壁の変化が残ってしまっているだけなのであまり心配しなくて大丈夫です。
- 万が一胃癌になってしまった場合、早期に発見できるように定期的に胃カメラを受けることをおすすめします。
追加の情報を手に入れるには
- 日本消化器病学会による患者さんとご家族のための機能性ディスペプシアのガイドを以下のページで見ることができます。
- http://www.jsge.or.jp/guideline/disease/pdf/01_fdr.pdf