鼓腸と腹部膨満:原因は? 病院受診のタイミングは? 検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- 肝臓・胆嚢・膵臓をふくむ消化器の病気を専門としている大久保 秀則と申します。
- お腹がはって苦しくなることはどなたでも経験するでしょう。ですが、中には悪い病気が隠れている場合もあります。
- そこでこのページでは、鼓腸と腹部膨満の一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」とけど本当は説明したいことについて記載をさせていただいています。
まとめ
- 鼓腸【こちょう】とは、腸の中にガスが異常なほどにたまってしまっている状態です。
- 腹部膨満【ふくぶぼうまん】は、おなかが張って苦しい症状のことです。
- 腹部膨満の原因となる病気には、器質的疾患、機能性疾患、蠕動【ぜんどう】障害などがあります。
- 腸の中にガスがたまる原因としては、口から空気を飲み込んでしまうこと、および小腸の中の細菌が異常に増えてガスを発生させることがあります。
鼓腸や腹部膨満ってなんのこと?
- 鼓腸【こちょう】とは、腸の中に(主に)ガスが異常なほどにたまってしまっている状態です。
- 腹部膨満【ふくぶぼうまん】は、おなかが張って苦しい症状のことです。
- 鼓腸になるとほとんど全員に腹部膨満の症状がでますが、腹部膨満の人全員に鼓腸がみられるわけではなく、鼓腸がなくても腹部膨満の症状がでることはあります。
- 腹部膨満には、おおもとの原因となる病気がある場合と、原因がはっきりしない場合があります。
腹部膨満の原因にはどんな病気が考えられるの?
- 腹部膨満の原因となる病気を次にまとめました。
腹部膨満の原因となる病気
- 器質的疾患:実際に腸の通りが悪くなる病気で、大腸がん、クローン病、結腸軸捻転【けっちょうじくねんてん】、腸閉塞(絞扼性【こうやくせい】イレウス)などがある。
- 機能性疾患:腸の知覚過敏によって腹部膨満を感じてしまう病気で、慢性便秘症、過敏性腸症候群、機能性腹部膨満などがある。
- 蠕動【ぜんどう】障害:腸の動きが悪くなるために「ガス」が停滞する病気で、慢性偽性腸閉塞症、巨大結腸症などがある。
器質的疾患
- 大腸がんは、大腸の中に腫瘍(できもの)ができて徐々に大きくなる病気です。クローン病は腸が炎症を起こし、その瘢痕(傷などのあと)で腸が狭くなる病気です。結腸軸捻転は大腸がねじれてしまう病気、絞扼性イレウスは腸がねじれて壊死してしまう病気です。もしこうした病気が原因としてあったら絶対に見逃してはいけないものです。
- 大腸がんでは、腸がそれほどつまっていないときには鼓腸はあまりみられません。ある程度以上つまってくると、次第におなかの膨満症状がではじめ、ほとんどがつまってしまうと鼓腸と腹部膨満の両方がみられるようになります。
- 結腸軸捻転、絞扼性イレウスなどは腸が完全につまってしまうので、鼓腸と腹部膨満が同時にみられます。
機能性疾患
- 腸などの内臓が刺激に対して過剰に反応してしまう知覚過敏が主にかかわっています。
- 慢性便秘症や過敏性腸症候群ではふつうは鼓腸はみられませんが、機能性腹部膨満は鼓腸がみられる場合とみられない場合があります。
- 器質的疾患と違って、命に直接かかわることはありませんが、腹部膨満の原因の大半を占める、よくみられる病気です。
蠕動障害
- 慢性偽性腸閉塞症や巨大結腸症は、腸の動きが極端に悪くなるために腸内のガスが停滞して鼓腸となってしまう状態で、まれですが重大な病気です。
- 慢性偽性腸閉塞症は主に小腸が、巨大結腸症は大腸が動かなくなる病気です。
- 慢性偽性腸閉塞症は、長期にわたって小腸が正常にはたらかなくなるので、栄養障害や感染症で命にかかわることも少なくありません。
どうしてガスがたまるの?
- 腸の中にガスがたまる原因としては、口から空気を飲み込むこと、および小腸の中の細菌が異常に増えてガスを発生させることがあります。
空気を飲み込む
- 人間は、食べ物と一緒に空気を飲み込みますが、通常はゲップとしてからだの外に出すはたらきが備わっています。
- 空気の飲み込みが多い人やゲップをうまく出せない人は胃や腸に空気が多くたまってしまい、鼓腸や腹部膨満を生じることになります。
小腸の中の細菌が異常に増える
- 人間の腸には500〜1,000種類の腸内細菌がいます。
- 細菌の数にはかたよりがあり、胃にはほとんどいませんが、空腸(小腸の前半部分)、回腸(小腸の後半部分)と進むにつれて細菌の数は爆発的に増え、特に大腸では計100兆個の腸内細菌がいるとされています。
- 腸の中では善玉菌、悪玉菌、日和見菌【ひよりみきん】(ふだんは無害だが、悪玉菌が増えると悪い影響を及ぼすようになる)が一定のバランスを保つことで人間と共生し、人間のからだにメリットを及ぼしています。
- 一般に腸内細菌は、腸の中の栄養素(糖質)を分解して短鎖脂肪酸【たんさしぼうさん】という物質に変え、同時に水素やメタンといったガスを発生させます。
- 短鎖脂肪酸は血液によって全身に運ばれ、炎症を抑えたり、エネルギーを消費させたり、いろいろなはたらきをもっています。一方、水素ガスやメタンガスはからだにとって不要なため、「おなら」として体外に排出されます。
- 大腸は腸内細菌の数が多いため、どんな人でも大腸内に一定量のガスがみられますが、小腸では腸内細菌の数が少ないため、ガスが発生することはほとんどありません。
- 腸の動きが悪くなる病気(特に慢性偽性腸閉塞症など)では小腸内にも細菌が棲みついて繁殖しやすい状態となるため、小腸内でもガスが発生するようになります。腸の動きが悪いため、発生した小腸のガスはその場に止まってしまい、やがて鼓腸となってしまうのです。
病院ではどんな検査をするの?
- 病院では次のような検査を行います。
腹部膨満の主な検査
- ガスがどの程度たまっているかを調べる:レントゲン検査、CT検査など
- 器質的疾患があるかどうかを調べる:CT検査、内視鏡検査、消化管造影検査など
- 腸の動きが低下しているかどうかを調べる:動画MRI、消化管造影検査など
- 腸内細菌が増えているかどうかを評価する:腸液採取、水素呼気検査など
- まず行うのはレントゲン検査やCT検査で、腸にガスがたまっているかどうか、CTでは器質的疾患がないかどうかもあわせて調べます。
- 内視鏡検査や消化管造影検査を必要に応じてうまく組み合わせ、大腸がんやクローン病などがないかを調べます。
- 最近では、動画MRI検査で小腸の動きを直接観察することもできますが、実施できる施設は限られます。
- 小腸の中で細菌が異常に増えているかどうかを調べるには、内視鏡で腸液を採取して腸内細菌数を直接測定する方法や、はく息の水素ガスを測って腸内細菌が増えているかどうかを間接的に推測する方法(水素呼気検査)があります。いずれの検査もメリットとデメリットがあり、広く普及しているわけではありません。
どんな治療法があるの?
器質的疾患の場合
- 実際につまっている部分を治すことが必要です。
- 通常、大腸がんや絞扼性イレウスの場合は外科手術、結腸軸捻転の場合は内視鏡を使ってねじれた部分を元に戻す整復術、クローン病により狭くなっている場合は内視鏡を使って拡げる(拡張術)もしくは手術が行われます。
機能的疾患の場合
- 主に排便のコントロールを中心としたお薬を使います。
- 浸透圧性下剤のお薬(マグネシウム製剤、ラクツロース、モビコールなど)に、必要に応じて、小腸での水分の分泌を増やさせることで排便しやすくするお薬(上皮機能変容薬:アミティーザ、リンゼス、グーフィスなど)を併用して用います。
- 腸を刺激して排便を促す刺激性下剤は続けては使いません。あくまでも症状がでたときに飲む頓服【とんぷく】として使用します。
蠕動障害の場合
- 消化管の蠕動を活性化するお薬(大建中湯やモサプリド、メトクロプラミドなど)を内服します。
小腸内細菌異常増殖が疑われる場合
- 抗菌薬(いわゆる抗生物質)を用います。
- 耐性菌の出現を防ぐため、通常は数種類の抗菌薬を一定期間ごとにローテーションして用いることが普通ですが、明確に決まった内服期間はなく、患者さんごとに個別の対応を行っているのが現状です。
日常生活ではどんなことに注意すればいいの?
低FODMAP食
- 腸内で発酵して腹部膨満の原因となる糖類をFODMAP(Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, and Polyols)といいますが、これらを避けた次に示すような低FODMAP食が腹部膨満の改善に効果があるとされています。
低FODMAP食の例
- 米
- 牛肉
- 豚肉
- 鶏肉
- 野菜類 (レタス、ニンジン、ホウレン草、大根、ナスなど)
- 果物類(オレンジ、イチゴ、バナナ、ブドウなど)
規則正しい生活
- 睡眠中は副交感神経が活発になり腸が動きやすいため、人間は睡眠中に無意識のうちにおならをしてからだの外にガスを排出しています。
- 以上のことから、睡眠時間を十分に確保すること、低FODMAP食を心がけること、排便/排ガスは我慢せずにきちんと出すことが、ご自身でできる重要なことです。