感染性心内膜炎:どんな病気?どういう人に起こりやすい?検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- 循環器専門医の大原 貴裕、中谷 敏と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分(または家族)が感染性心内膜炎になってしまった?」もしくは「感染性心内膜炎にかかりやすいのではないか」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 感染性心内膜炎は、心臓に細菌が感染することによって生じる病気です。
- 感染性心内膜炎は、治療をしないでおくと、心臓の弁が細菌によって破壊されて心不全を生じたり、全身に細菌の塊が飛んで脳梗塞を起こしたりして命にかかわることもある危険な病気です。
- もともと弁膜症や生まれつきの心臓病をお持ちの方は通常の方よりも感染性心内膜炎にかかりやすく、自分で知っておく必要があります。
- 以前に感染性心内膜炎にかかったことがある方、手術で自分の弁を人工弁に置き換えた方、生まれつきの心臓病がある方の中でも唇の色が青くなっている(チアノーゼといいます)方の場合は、感染性心内膜炎になりやすいだけでなく、なってしまうと重症になり命にかかわることもあるので特に注意が必要です。
- もともと心臓に病気がある方が熱を出し、感染性心内膜炎を疑う場合には早急に病院を受診してください。熱以外に症状のない状態が続く場合にも、感染性心内膜炎やその他の病気の可能性がありますので病院を受診してください。
- 治療では抗菌薬の投与が基本です。重症な場合には手術を行う時もあります。
感染性心内膜炎は、どんな病気?
- 感染性心内膜炎は、心臓に細菌が感染することによって生じる病気です。
- 細菌が心臓の弁を破壊して心不全を起こしたり、細菌の塊が血管に詰まってしまって脳梗塞など重い病気を引き起こしたりします。
- めったにある病気ではありませんが、心臓弁膜症の方や心臓弁膜症の手術で人工の弁等が入っている人、以前に感染性心内膜炎を起こしたことがある人、チアノーゼ性先天性心疾患の人、体内にペースメーカなどの機械が入っている人は感染性心内膜炎を生じやすいために注意が必要です。
- 咳や喉の痛みなどの他の感染症の症状を出さないことが特徴ともいえるため、原因のわからない熱が続く場合には医療機関を受診することが望ましいです。
感染性心内膜炎と思ったら、どんなときに病院への受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 手術で人工の弁等が入っている方、以前に感染性心内膜炎を起こした方、弁膜症や先天性心疾患をお持ちの方、体内に人工弁やペースメーカなどの人工物の入っている方は、そのことを知っている医療機関にかかることをおすすめします。
- 初めての医療機関にかかる場合には、自分がそのような病気を持っていることを伝えてください。
- 原因のはっきりしない熱が続いていて、下記の症状が出現した場合には、感染性心内膜炎とそれによる合併症の可能性があります。
救急車を呼ぶ場合
- じっとしていても息が苦しい、あるいは苦しくて横になれない場合
- 手足が動かない、言葉が出ないなどの症状の出た場合
- 胸が痛いなどの重い症状が出現した場合
感染性心内膜炎になりやすいのはどんな人?原因は?
- 下記のような人は感染性心内膜炎になりやすいと言えます。
感染性心内膜炎になりやすい人
- 人工の弁等が体内に入っている方
- 以前に感染性心内膜炎起こして治療をした後の方
- チアノーゼ性先天性心疾患を持っている方
- 心臓弁膜症の方
- チアノーゼ性以外の先天性心疾患を持っている方
- 上記のうち上3つは感染性心内膜炎を起こしやすいだけではなく、起こしたときに重い状態になりやすいため特に注意が必要です。
- 上記のうち上3つがなくとも、心臓弁膜症や先天性心疾患を持っている人は、通常に比べて感染性心内膜炎を生じやすいです。
- 大雑把に言うと「心雑音」が聞こえるといわれたことがある方は、感染性心内膜炎を起こす危険性が普通の方よりも高いと思って注意してください。
- 抜歯などの血の出る処置をうけたり、けがなどをした際に不潔なままにしておいたりすると、血液内に細菌が多く存在する状態になり、心臓で菌が繁殖すると感染性心内膜炎を生じます。
- 虫歯や歯槽膿漏があり、口の中が汚い状態になっている方も同様なので、口の中の健康に努めてください。
- アトピー性皮膚炎などの皮膚病が悪化すると、体の外から体内へ細菌が入りやすくなる場合もあります。
どんな症状がでるの?
- 感染性心内膜炎では下記のような症状が出ます。
感染性心内膜炎の症状
- 発熱
- 寒気や震え
- 食欲不振
- 体重減少
- 疲れやすい
- 手のひらや足の裏の痛みのない紅い発疹、あるいは痛みを伴う皮膚の病変
- 手のひらや足の裏の小さな点のような内出血
- 爪の下の出血
- 咳や痰などの症状がないのにいつまでも熱が続きます。38度以上になることが多いですが、それ以下の場合もあります。
- 細菌の塊が全身の血管に詰まることによって、胸、お腹、背中の痛みが出ることもあります。
- 若い方で突然手足の麻痺が出てきた場合などは、その原因として感染性心内膜炎があることがあります。
- 子供の感染性心内膜炎は大人よりもまれとされています。しかし、先天性心疾患やその手術後のお子さんの場合には感染性心内膜炎を起こす危険性が通常よりも高いです。
- 子供の場合は熱が38度に至らないこともしばしばあります。胃腸炎のような症状や、関節が痛い、筋肉がいたいという症状を出すことがあります。小さなお子さんでは、元気がないことや食事や哺乳の量が少なくなることで気づかれることがあります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 感染性心内膜炎を疑うには下記のような検査をすることになります。
検査の種類
- 採血検査:実際に感染症が起きているかを調べるために行います。
- 尿検査:尿路感染症などのほかの感染症がないかを調べます。
- 胸部レントゲン検査:肺炎などほかの感染症がないかを調べるために行います。
- 血液培養検査:採血した血液中に細菌がいないか、細菌が増えてこないか検査します。2~3回異なる場所から採血します。結果がでるまでに数日かかります。
- 心臓超音波検査:心臓の中を観察することができる検査です。心臓の中にくっついた細菌の塊を見つけることができます。よく見えない場合には、胃カメラのような形をした超音波の器具を飲み込んでもらって食道側から心臓を観察することもあります(経食道心エコー)。
- 頭部MRI検査:感染性心内膜炎では血管に細菌の塊が詰まることがあります。脳の血管が詰まると手足が動かないなどの症状がでます。感染性心内膜炎では麻痺などの症状がない場合にも脳梗塞を起こしている可能性があるため頭部MRIが撮られます。
- 血液培養を行う前に抗菌薬を飲んでしまうと、血液培養で細菌が出てこないことがあります。
- 特に感染性心内膜炎を起こしやすいことが分かっている人、感染性心内膜炎が疑われる人は、熱が出て抗菌薬を使う前に血液培養を行っておくことが大切です。
- 心臓超音波検査で診断がつけられず、それでも感染性心内膜炎が疑われる場合には、心臓CT検査、心臓MRI検査、ガリウムシンチグラフィー、PET検査などが行われることがあります。
どんな治療があるの?
- 感染性心内膜炎の治療としては薬物治療と手術治療があります。
薬物治療
- 薬物治療では抗菌薬による治療が必要になります。
- 原則的に入院し、抗菌薬を点滴することが必要になります。
- 心臓に感染した細菌には抗菌薬が効きにくく、長い期間の治療が必要となります。4週間から6週間、場合によってはそれ以上の期間の治療が必要となることがあります。
手術治療
- 抗菌薬による治療が終了する前にも、心臓手術によって細菌の塊を除去したり、弁を修復したり、人工弁に置き換えたりすることが必要になることがあります。
- 息が苦しいなどの心不全の症状が出てきた場合には緊急手術になることがあります。
- 抗菌薬が効きにくい菌の場合、 細菌の塊が大きくて全身の血管に詰まる可能性が高い場合などは、数日以内に手術をすることもあります。
- 抗菌薬の治療だけで治療できる場合もありますが、急に手術になったり、合併症への対応が必要となる場合もあります。
- そのような場合には、心臓の内科、外科、感染症科、神経内科、脳外科、放射線科、歯科などの多数の診療科があり、感染性心内膜炎の治療の経験が多い病院に移って治療する場合もあります。
脳梗塞を合併した感染性心内膜炎の治療の場合
- 細菌の塊が頭の血管に詰まって脳梗塞を起こすことがあります。
- 頭の血管に感染して動脈瘤を作り、動脈瘤が破裂して脳出血を起こすこともあります。
- したがって、通常の脳梗塞で行われるような血液の塊を溶かす治療(血栓溶解療法)は行わない方がよいとされています。
- もともと不整脈などがあり脳梗塞を起こしやすく、予防のために血液をさらさらにする薬剤(抗凝固薬)を飲んでいる場合には薬をそのまま続けた方が良いとされていますが、脳出血を生じた場合には中止することになります。
- 細菌の塊が頭の血管に詰まって脳梗塞を起こした場合や感染性動脈瘤を生じた場合には、カテーテルを用いた血管内治療や頭を開けて手術を行う場合もあります。
- 心臓の手術中には、血液をサラサラにする薬を大量に使う必要があるために出血を起こす危険性があります。
- 感染性心内膜炎で脳梗塞を起こした場合でも、急な心臓の手術が必要になったら早期に手術した方がよい結果が得られるとされています。
- 一方、感染性心内膜炎で大きな脳出血を起こした場合には、可能であれば1か月くらい心臓の手術を延期したほうが成績がよいと考えられています。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 感染性心内膜炎の治療は基本的には入院して行います。
- 抗菌薬による治療が順調にいっている場合にも様々な合併症があり、対処が必要になることがあります。
- 息が苦しい、動悸がする、気が遠くなるなどの症状が出た場合にはすぐに伝えてください。
- 薬剤のアレルギーにより皮膚にブツブツが出ることもあります。薬剤の変更が必要になることがあります。
- 点滴の抗菌薬の刺激で血管炎を起こすこともあります。感染を来すこともあり、点滴の部位の痛みなどがあったらそれも伝えるようにしてください。
予防のためにできることは?
- 感染性心内膜症の予防のためには、感染性心内膜炎を起こしやすい病気を持っているかどうかを知っておくことが重要です。
- お子さんの場合にはご両親が知っておいてください。そのような病気を持っている場合には、かかりつけの先生にもそれを伝えてください。
- 口の中の衛生状態をよくするように心がけてください。定期的に歯科にかかり、歯垢の除去などの処置をしてもらってください。
- 抜歯などの血が出る処置を受ける時には細菌が血液中に入り、感染性心内膜炎を生じることがあります。
- 危険度の高い人が抜歯などの処置を受ける際には予防的な抗菌薬を出してもらい、抜歯の前に飲むようにしてください。
- アトピー性皮膚炎などの皮膚の病気の状態が悪い場合には、細菌が体内に入り感染性心内膜炎を起こすこともあります。危険度が高い人は注意してください。
- けがをした時などは、放っておいて膿んだりしないように、早めに処置をしてください。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 抗菌薬による治療は4~6週間継続する必要があります。基本的には入院しての治療が必要となります。
- 手術を行った場合も、抗菌薬による治療を継続する必要があります。手術前も含めて全部で4~6週間の治療が必要となります。
- 手術の有無にかかわらず、一度感染性心内膜炎にかかった人は、いったん治療が終了した後も、また感染性心内膜炎にかかる可能性が通常の人よりも高いので、ずっと注意していく必要があります。
- 口の中の衛生状態をよくしたり、抜歯などの血が出る処置を行う前の抗菌薬の予防投与を行ったりなどが必要となります。
- 原因の分からない発熱を生じた場合には、早めに医療機関を受診し、感染性心内膜炎の再発ではないか確認する必要があります。
追加の情報を手に入れるには?
- 感染性心内膜炎に関しては日本循環器学会のガイドラインが2018年3月に発刊されています。
- https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/05/JCS2020_Izumi_Eishi_0420.pdf