脳炎:どんな病気?原因は?うつるの?注意することは?
更新日:2020/11/11
- 脳神経内科専門医で、日本における脳炎の診療ガイドラインをまとめた亀井 聡と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると「自分やお子さんが脳炎になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 脳炎とは脳の炎症のことをいいます。
- 乳児から大人までかかります。
- 脳炎の症状は主に発熱にともなって意識障害・けいれん・精神症状などをおこします。
- 頭痛を伴う場合も多いです。
- 脳炎はウイルス・細菌・結核菌・カビなどの感染や脳の神経細胞に対して攻撃する抗体を産生することで起こる脳炎、ワクチン接種後やウイルス感染後に脳が障害される脳炎など様々な原因でおこります。
- 脳炎では早期の抗菌薬や抗ウイルス薬、時には脳のむくみや炎症を抑える治療(ステロイド薬)が必要です。
- 重症の場合には命に関わります。
- 良くなっても後遺症も残す場合があり、この病気を疑ったら直ちに医療機関を受診することが必要です。
脳炎は、どんな病気?
- 脳炎とは脳の炎症です。
- 稀な病気ですが、小児から成人と幅広く発症します。
- 脳炎を起した原因がつかめたウイルス脳炎の中では単純ヘルペスウイルスが最も多く、日本では年間500名程度発症しています。
- このウイルスの場合には直ちに抗ウイルス薬による治療が必要です。
- この他のウイルスとしては水痘帯状疱疹ウイルスやムンプスウイルス、日本脳炎ウイルスなどさまざまなウイルスで起こります。
- 一方、細菌・カビの感染などでも発症します。
- 発症のはじめは、発熱と頭痛など風邪と同様な症状を呈しますが、意識障害やけいれんを起こし、救急車で搬送される場合が多いです。
- 脳炎は適切な早期治療が必要であり、命に関わる場合もありますので、基本的には直ちに医療機関を受診することが必要です。
コラム:感染症新法について
- 日本では感染症新法により「脳炎」は届け出での対象となっています。
- 基準として、発熱および突然の意識障害を呈し、熱性けいれんや代謝性疾患、脳血管性疾患、脳腫瘍、外傷などが除外された場合となっています。
脳炎と思ったら、どんなときに病院・クリニックへ受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 脳炎は入院して直ちに治療することが必要です。
- 脳炎が疑われる場合には、地域の基幹病院または大学病院の専門の先生(脳神経内科・小児科・脳外科など)への受診がすすめられます。
救急車を呼ぶ場合
- 意識障害やけいれんが出現した場合
- 急に精神症状や錯乱を認めた場合
脳炎になりやすいのはどんな人?原因は?
- 基本的には脳炎になりやすい人はいません。
- 原因として頻度の多いのはウイルス感染で、ムンプスやエコーウイルスなどによる流行性の感染が最も多いです。
- 非流行性のウイルス脳炎では、ヘルペスウイルスが最も多いです。
- このウイルスには水痘・帯状疱疹ウイルスや単純ヘルペスウイルスが含まれ、適切な抗ウイルス薬による治療が必要です。
- 一方、脳の神経細胞に対して攻撃する抗体を産生する自己免疫性脳炎では、若年成人女性に多い抗NMDA受容体脳炎が最も多く、卵巣奇形腫に関連することが知られています。
- ワクチン接種後やウイルス感染後に脳が障害される急性散在性脳脊髄炎は、小児から成人まで発症します。
どんな症状がでるの?
- 脳炎では下記のような症状が現れます。
脳炎の症状
- 発熱
- 意識障害
- けいれん
- 精神症状
- 勝手に手足が動く不随意運動
- 頭痛
- 嘔気・嘔吐
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 脳炎を疑うと、下記の検査を行います。
検査の種類
- 髄液検査:腰から針をさして脳の中を循環している液(髄液)を取る検査です。検査結果で髄液の細胞数や蛋白濃度が高値であれば、脳炎である可能性が高くなります。しかし、脳炎でもこれら髄液所見が異常を示さないが場合もあります。
- 頭部CT:頭の構造の異常がないかを調べます。
- 頭部MRI:CTと同様に頭の構造の異常がないかを調べます。早期に脳炎の病巣を検出する場合も多く、その検出された病巣部位などから原因を推定します。
- 脳波検査:脳から出る電位を読み取り、異常がないかを調べます。
- 髄液所見や頭部のMRI所見および脳波所見をもとに、脳炎を起こした原因を推定して、早期に確定診断を待つことなく治療を開始します。
どんな治療があるの?
- 治療としては、薬物治療をすることになります。
- 単純ヘルペスウイルスによる脳炎を疑った場合には、直ちに抗ウイルス薬の点滴治療をおこないます。
- 一方、自己免疫性脳炎や急性散在性脳脊髄炎の場合には、まずはステロイド薬の点滴をします。
- 自己免疫性脳炎で治療効果が得られない場合には、γグロブリン大量静注療法や免疫抑制剤による治療を行う場合もあります。
- いずれにしても、脳炎は医学的な緊急事態であり、迅速な診断のもと適切な治療が重要です。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 稀ではありますが、再発することがあります。
- 再度、発熱を伴った精神症状やけいれんや意識障害など同じような症状がみられた場合には、直ちに脳炎を診て頂いた医療機関で診察を受けてください。
うつるの?自分の予防のためにできることは?
- 一般に脳炎の多くは、うつることはありません。
- ただし、脳炎の一種でウイルスよりも小さいプリオンという蛋白質でおこるプリオン病では患者の血液や体液を介してうつる場合もあり、患者の管理には注意が必要です。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 脳炎は原因により異なりますが、基本的に治療で治りうる病気です。
- 治療期間は脳炎の原因、重症度により異なります。数週間で良くなる場合もありますが、数ヶ月、時には1年以上の治療を要する場合もあります。
- 重症になると命を落とす場合や後遺症を残す場合もあります。
- 単純ヘルペス脳炎の場合の後遺症には、症候性てんかん(けいれんや一過性の意識消失)、認知機能障害などを残す場合もあります。
追加の情報を手に入れるには?
- 脳炎については、下記のページをみると良いでしょう。
- 単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017(日本神経感染症学会・日本神経学会ホームページから)
- http://www.neuroinfection.jp/pdf/herpes2017.pdf
- https://www.neurology-jp.org/guidelinem/herpes_simplex_2017.html
- インフルエンザ脳症の診療戦略(日本医療研究開発機構より)
- https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/influenzaencephalopathy2018.pdf
もっと知りたい! 脳炎のこと
脳炎と脳症の違い
- 脳症は脳の炎症ではなく、さまざまな原因による脳障害です。
- 例えば、インフルエンザにかかり脳症(インフルエンザ脳症)を呈することがあります。
- これはインフルエンザウイルスによる脳への感染ではなく、インフルエンザにかかることにより脳内で本来自分を守る身体の免疫反応が過剰に反応することによりおこると考えられています。