複視:ものが二重に見える原因は?何か病気が隠れていない?治療法は?
更新日:2020/11/11
- 脳神経内科専門医の城倉 健と申します。
- ものが二重に見えることを複視といいます。複視は視覚を大きく損なうため、他に症状がなくても日常生活の質を大きく低下させます。また、例えば脳動脈瘤の切迫破裂などの重篤な疾患が隠れていることもあります。
- 本項では、複視の原因や対処法などについてまとめてみました。
目次
まとめ
- ものが二重に見えることを複視といいます。眼の動きに不具合が生じ、両方の眼で同時に1つのものを見ることができなくなった状態で、両眼で見た時だけ症状が出ます。
- 複視は眼を動かす神経や筋肉が麻痺することで起こります。なかには脳卒中など危険な病気が隠れていることもあります。
- 複視があらわれた場合は、かかりつけ医とご相談のうえ、脳神経内科や神経眼科相談医の受診を検討してください。
- 原因の疾患を治療しても、複視が後遺症として残ってしまうことがあります。そのような場合は、リハビリとして眼のトレーニングを行いますが、6か月以上続く場合は手術も検討します。
複視はどんな仕組みで起こるの?
- ものが二重に見えることを複視といいます。眼の動きに不具合が生じ、両方の眼で同時に1つのものを見ることができなくなった状態です。ですから、両眼で見た時にだけ症状が出ます。
- 眼球は、脳幹からの指令が脳神経(動眼神経、滑車神経、外転神経)により眼球を動かす筋肉(外眼筋)に伝えられ、動いています。複視は脳から眼窩内に至る様々な部位の障害で生じます。
- 複視は視覚を大きく損なうため、他に症状がなくても日常生活の質を大きく低下させます。また、例えば脳動脈瘤の切迫破裂などの重篤な疾患が隠れていることもあります。
コラム:片眼でものが二重に見える場合
- 片方の眼を隠してもものがダブって見える場合(単眼性複視)は、眼の動きに不具合が生じているのではなく、乱視や緑内障など眼球自体に問題があることを意味しています。
どんな症状?
- 複視とは、見ているものが二重に見えることを言います。見え方によって、さまざまな疾患が隠れていることが予想されます。また、一日の中で症状が変化することもあります。
物が左右に二重にみえる
- 眼が外側・内側を向く動きが障害されていることが予想されます。
- ふつう左右どちらかを向くと複視が強くなるため、それを防ぐために症状が強くなる方と反対側に顔を向けようとします。
物が上下に二重にみえる
- 眼が上下を向く動きが障害されていることが予想されます。
- 垂直方向に眼球を引っ張る筋肉は斜め方向についているため、釣り合いが取れなくなると眼球の上下方向のずれに、回旋方向のずれ(ねじれ)が加わります。
- このため、どちらかに頭を傾けると複視が強くなることが多く、それを防ぐために反対方向に頭を傾ける姿勢をとったりします。
1日の症状の変化
- 朝は症状が軽く、夕方や疲労時に症状が強くなる場合には重症筋無力症の可能性があります。
- 朝症状が強ければ甲状腺眼症の可能性があります。
気を付けてほしい複視以外の症状
- 瞼が下がっているかどうか(眼瞼下垂)、ものがまぶしく感じるかどうか(羞明感)、眼がとびだしているかどうか(眼球突出)、目が充血しているかどうか(結膜血管拡張)、頭痛や眼痛を伴っているかどうか、などにも気を付けておく必要があります。
主な原因とその説明
- 複視の主な原因となる疾患を下記にまとめました。
動眼神経麻痺
- 動眼神経麻痺では、片方の眼球が上を向く動き、内側を向く動き、下を向く動きが不可能になり、まぶたも下がります(眼瞼下垂)。
- 糖尿病の合併症として発症する場合:瞳孔は正常であることが多いです。
- 脳の動脈瘤による圧迫で生じた場合:瞳孔が開いている(散瞳)ことが多いです。
滑車神経麻痺
- 滑車神経麻痺があると、反対側(正常な眼の方向)や下を見ると強くなる上下方向の複視をきたします。
- このため、正常な眼の側に頭を傾け、やや顎を引いた姿勢をとるようになります。
- 糖尿病や外傷などで生じます。
外転神経麻痺
- 外転神経麻痺では片方の眼の外を向く動きが障害されます。このため、麻痺のある眼の方向を見ると増強する左右方向の複視をきたします。
- それを防ぐために顔をやや麻痺がある眼の側に向ける姿勢をとるようになります。
- 糖尿病や外傷や髄膜炎、稀に腫瘍による圧迫などでも生じることがあります。
核間性眼筋麻痺
- 核間性眼筋麻痺では片方の眼球の内側を向く動きが障害されます。
- この麻痺は、脳の内部にある内側縦束という部位の障害で生じます。
- 最も多い原因疾患は脳梗塞ですが、多発性硬化症でも生じます。
斜偏倚
- 斜偏倚とは、片眼ずつだと眼球は正常に動くのに、両眼で見ようとすると左右の眼球が上下にずれる状態をいいます。
- 症状は上下方向の複視になりますが、同じように上下方向の複視をきたす滑車神経麻痺と異なり、仰向けに寝ると症状が軽減します。
- 脳梗塞などの脳の疾患で生じます。
眼窩や外眼筋の疾患
- 重症筋無力症:眼瞼下垂(まぶたが下がる症状)を伴う複視を生じます。症状が夕方に強くなる傾向があります。
- フィッシャー症候群:複視と強い歩行障害が比較的急速に進行する場合には、フィッシャー症候群の可能性があります。発症1~2週間前に風邪などの先行感染があることがあります。
- 眼球突出:片眼であれば眼窩内の腫瘍や炎症、両眼であれば甲状腺疾患が原因の甲状腺眼症の可能性があります。甲状腺眼症では朝症状が悪化します。
機能的疾患
- ストレスなどによる精神的な原因で内斜視になることもあります。
- 無意識に「より眼」になってしまう状態で、瞳孔が小さくなる現象を伴います。
こんな症状があったら救急車を!
- 瞳孔がいつもより大きくなっていたり頭痛を伴っていたりした場合には、脳動脈瘤の切迫破裂による動眼神経麻痺のことがありますので、速やかに脳卒中専門機関を受診してください。
- 核間性眼筋麻痺は脳梗塞が原因である可能性が高いため、速やかに脳卒中専門機関に受診する必要があります。
- 急にあらわれた斜偏倚も脳梗塞の可能性が高いと考えられます。
- その他、複視に加え、ろれつが回らなくなったり手足に麻痺やしびれが生じた場合にも、脳の疾患が原因と考えられるので、急にあらわれた場合であれば直ちに救急車を呼んでください。
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- 複視に気づいた時は、症状が軽くてもかかりつけ医と相談し、必要に応じて専門医を受診してください。
- 現在、日本神経眼科学会で認定している「神経眼科相談医」が参考になると思います。一覧は下記で確認できます(http://www.shinkeiganka.com/)。
複視に対して、よくなるために自分でできることは?
- 複視があらわれたら、まずは医療機関で原因の疾患に対する治療をうけてください。ただ、原因の疾患が治療できても、後遺症として複視が残る場合があります。
- 複視に対するリハビリは、大きく分けると動かない眼を動かすトレーニングと、両眼で見ることを上手に行うトレーニングになります。
- 眼の動きが悪い場合、眼を動かすトレーニングは有効ですが、眼を動かす仕組みとして「脳からの命令は両方の眼に同じ量が伝わる」という性質(へリングの法則)がありますので、動かない眼だけトレーニングすると、良い方の眼の動きが過剰になってしまいます。それを防ぐため、両眼で見るトレーニングも必要です。
- 複視が6カ月以上残存する場合には、手術で眼位を治すことも考えます。
お医者さんでおこなわれること、検査は?
- 専門医の先生は、眼の動きの診察だけで概ねどこが障害されているかがわかります。障害部位がわかったら、それに応じて必要な検査を行っていきます。
複視に対して行う検査
- 画像検査(MRI,MRA,CT):脳の疾患、眼球を動かす神経の障害、眼を包む眼窩内の病変が疑われた際に行われます。腫瘍や炎症が疑われる場合には造影画像検査を行うこともあります。
- 血液検査:重症筋無力症やフィッシャー症候群などの免疫系が関与する疾患では、患者の血中にその疾患の原因となる抗体があるかどうか調べます。
- 電気生理学的検査(反復刺激検査、神経伝導検査など):重症筋無力症やフィッシャー症候群が疑われる際に行われます。
- 甲状腺機能検査:甲状腺の疾患が疑われる際に行われます。
- エドロホニウムテスト:重症筋無力症で、薬の効き具合で診断する検査です。
- 眼科的検査(視力検査、視野検査、眼位のずれの記録、眼底写真など):眼の見え方や視力に異常がないかどうか、眼球の中に疾患がないかどうかを確認します。