肩の脱臼:原因は?症状は?応急処置は必要?検査や治療は?後遺症は?
更新日:2020/11/11
- 肩関節専門医の松木 圭介と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかするとご自身やご家族の肩が脱臼してしまい、どうなるのだろうかと思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 肩の脱臼とは、腕の骨が肩甲骨の受け皿から外れてしまった状態のことです。けがで起こるものと、生まれつき関節が柔らかいために起こるものがあります。
- 一度脱臼したあとに脱臼を繰り返すようになる場合があります。
- 脱臼したときには速やかに整復することが必要です。脱臼を繰り返す場合には、手術が必要なこともあります。
肩の脱臼とは?
- 肩の脱臼とは、腕の骨(上腕骨【じょうわんこつ】といいます)が、肩甲骨の受け皿(関節窩)から外れてしまった状態のことで、多くの場合、けがによって起きます(外傷性脱臼といいます)。
- 生まれつき関節が柔らかい人はけがをしなくても起こることがあります。けがの場合は上腕骨が前に外れますが、関節が柔らかい人はさまざまな方向に外れます。
医療従事者向けコラム:脱臼の種類
- 反復性脱臼
:一度脱臼がおきた後、脱臼を繰り返しやすくなる脱臼のことです。 - 習慣性脱臼
:関節が柔らかい人で起こる、特定の動作で肩がずれるなどの症状が出る脱臼のことをいいます。 - 随意性脱臼
:自分の意思で外せるようになる脱臼のことをいいます。
肩の脱臼と思ったら、どんなときに病院への受診したらよいの?
- 脱臼が自然に治らない場合:速やかに救急車を呼ぶなどして、病院に行ってください。
- 脱臼が自然に治った場合:肩を動かさないよう安静を保ちながら、病院を受診してください。
- 脱臼が繰り返し起きている場合にも、病院を受診することをおすすめします。
肩の脱臼になりやすいのはどんな人?原因は?
外傷性脱臼の場合
- 外傷による肩の脱臼は、格闘技やラグビーなどの接触を伴うスポーツや、スノーボードなど転倒しやすいスポーツを行う方で生じることが多いです。
- 典型的には、腕を横に上げた状態で後ろにひねられるような動作で生じます。
反復性脱臼の場合
- 一度脱臼がおきると、上腕骨を支えている軟骨や靱帯が損傷されます。また、肩甲骨関節窩や上腕骨の骨が損傷されることもあります。これらの損傷のために、脱臼を繰り返しやすくなります。
- また、中年以降で脱臼した場合は腱板という組織が断裂してしまうことも多く、これも反復性脱臼の原因となります。
- 初めて脱臼した年齢が低いほど、反復性脱臼になりやすいとされています。
習慣性脱臼の場合
- 生まれつき関節が柔らかい方がなりやすいです。
- エーラス・ダンロス症候群などの全身的な病気に伴うこともあります。
- 習慣性脱臼は年齢が低い方に多く、年をとると外れにくくなることが多いです。
どんな症状がでるの?
- 通常、肩を脱臼した時には痛みがあり、肩が変形してしまいます。
- まれに肩の周辺を通る神経が麻痺し、肩や腕に力が入りにくくなることがあります。
- 反復性脱臼の場合には、肩を動かした時に肩が外れそうな不安感があります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 肩のレントゲン写真を撮り、脱臼していることを確認します。また、骨折を伴っていないか確認します。
反復性脱臼の場合
- CT:肩甲骨や上腕骨の骨の状態を詳しく調べます。
- MRI:軟骨や靱帯の状態を調べます。関節内に生理食塩水または造影剤を注入して撮影する方がより詳細な検査が可能です。
どんな治療があるの?
初めて脱臼した場合
- 外れた腕の骨を元の位置に戻します。このとき、麻酔をかけて行った方が、安全かつ確実です。
- 骨同士をもとの位置に戻した後、肩の安静のために三角布などで固定します。再脱臼の危険を少なくするために、3週間ほど固定を続けたほうがよいです。
- 肩を外側に開いた状態で固定した方が再脱臼を予防しやすいとの報告もあります。
反復性脱臼の場合
- 外傷性の反復性脱臼を完全に治すためには、手術が必要です。さまざまな手術法がありますが、関節鏡を用いた手術が一般的に行われています。
- 再脱臼のリスクが高い場合には、肩甲骨の一部(烏口突起)を関節窩に移植する手術も行われます。
- 手術後はリハビリテーションを行って、肩の可動域や筋力などの回復を図ります。
習慣性脱臼の場合
- まずはリハビリテーションなどで対処します。改善されない場合には、手術を検討します。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 腕の骨を元の位置にもどした後は、固定して肩の安静を保ちましょう。再脱臼の危険を減らすために、3週間程度は必要です。
- 治療後、肩や腕に力が入りにくい、しびれると感じた場合は遠慮せず、早めに主治医にご相談ください。
手術治療の場合
- 術後のリハビリテーションやスポーツ復帰に関しては、主治医の指示に従ってください。
- 手術にともなうリスクとしては、感染、神経や血管の損傷、血栓が血管に詰まる深部静脈血栓症・肺塞栓などがあります。
- 外傷性の反復性脱臼に対する手術後の再脱臼率は、5%前後とされています.
予防のためにできることは?
- 肩の脱臼は偶発的に生じるので、残念ながら予防は困難です。
- 格闘技やラグビーなどのスポーツを行う方の場合は、タックルの技術を向上することなどである程度予防が可能です。
- 反復性脱臼の方にとって、筋力強化などのリハビリテーションはあまり効果がありません。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 脱臼は外れてしまった腕の骨を元の位置に戻すことで治ります。痛みもすみやかに良くなります。安静期間の後に、肩の可動域の制限が残ることもありますが、リハビリを行うことで、数週間程度で改善します。
- ただし、繰り返し脱臼が起きる反復性脱臼に移行してしまうこともあります。
反復性脱臼の場合
- 手術方法によっても異なりますが、術後3ヶ月程度で軽作業や軽いスポーツの開始が可能になります。スポーツや重労働への復帰は、術後6ヶ月程度からになります。
- ほとんどの方が手術で完治しますが、約100人に5人くらいの確率で再び脱臼が起こる可能性があります。
追加の情報を手に入れるには?
- 肩関節専門医がいる病院の受診し、話を聞いてみてください。