血液透析:どんな治療?治療を受けるべき人は?治療内容や代替手段、リスク、合併症は?
更新日:2020/11/11
- 腎臓・透析専門医の中川 洋佑、深川 雅史と申します。
- このページに来ていただいた方は、腎臓の機能の低下についてのお悩みがあり、将来は腎臓の代替療法(透析療法)について考えておられるかもしれません。
- たとえ腎臓の機能が落ちても、自分らしく有意義な人生を長く送ることができるような治療方法を選択するために、役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 血液透析とは、血液を体の外に取り出して、透析器(ダイアライザ)に通し、そこで老廃物(体に必要ないもの)や余分な水分を除き、その血液を再び体の中に戻す治療法です。つまり、腎臓の代わりをします。
- 末期腎不全で、日常生活が障害されたり、お薬では血液検査異常のコントロールができなくなったりした場合に、血液透析が必要となります。
- 頻度は週3回(月水金または火木土)、1回4〜5時間です。
どんな治療?
- 血液透析とは、働きが衰えた腎臓の代わりに、機械で体に必要のない老廃物や余分な水分を取り除く、透析療法の1つです。透析療法には、ここでご説明する「血液透析」のほかに、「腹膜透析」があります。
- 血液透析は、血液を体の外に取り出して、透析器(ダイアライザ)に通し、老廃物や余分な水分を取り除いて血液を再び体内に戻す治療法です(図1)。
末期腎不全の症状
- 末期腎不全とは、腎臓の機能がほぼなくなった状態のことです。
- 末期腎不全になると、老廃物が腎臓から十分に排泄されなくなり、体内にたまって、尿毒症になってしまいます。
- また、水分がたまって血圧が高くなったり、全身がむくんで体重が増えたり、心臓や肺に水がたまって呼吸困難などの症状もあらわれてきます。
図表1 血液透析のしくみ
どういう人がこの治療を受けるべき
- 末期腎不全の方で、以下のような場合に血液透析の開始が必要となります。
血液透析の開始が必要な方
- 血圧が高くなる、体重が増加する、呼吸が苦しいなどの症状で日常生活が障害される場合:末期腎不全になって老廃物や水分が体内にたまると、全身に様々な症状が出ます。
- お薬では血液検査異常のコントロールができなくなった場合:体の中のバランスが崩れ、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)の異常やアシドーシス(体のpHが酸性に傾く)、貧血など血液検査に異常が生じます。
表 末期腎不全の症状、血液検査異常
- 尿毒症症状:全身倦怠感、食欲不振、嘔気・嘔吐、頭重感、むずむず足症候群、意識障害
- 体液貯留の症状:血圧上昇、浮腫、体重増加、呼吸困難(心不全、肺水腫、胸水)、腹部膨満感(腹水)
- 血液検査異常:電解質異常(低ナトリウム血症、高カリウム血症、低カルシウム血症、高リン血症)、アシドーシス、貧血、出血傾向
どれくらいの頻度で行うの?
- 血液透析は、週3回(月水金または火木土)、お近くの透析クリニックに通っていただいて行うのが基本です。
- 1回の透析時間は4〜5時間です。前後の着替えなどを含めるとさらに1時間は追加となります。
血液透析はどんな時間に行うの?
- 多くの病院が午前と午後の2クール制を取っています。
- 最近は日中に仕事がある方を考慮して、夜の部を設けている病院も増えてきました。ライフスタイルに合わせて病院を選んでください。
血液透析をするための準備は?
- 血液透析をするための準備として、腕の動脈と静脈をつないだ「シャント」を作り、静脈に大量の血液が流れるようにし、静脈を太くして血管に針を刺すことを可能にする必要があります。
- シャントを作る手術をして、すぐに血液透析ができるわけではありません。針が刺せるようになるまで血管が発達するのを待つ必要があります。2〜4週間はかかるので、末期腎不全の症状や血液検査の異常が出る前にあらかじめ準備するのが望ましいです。
コラム:
- 血液透析を行うためには、1分間あたり150〜250 mL程度の速度で血液を取り出す必要があるためシャントを作ります。
- シャントは、動脈と静脈を直接縫い合わせる方法が一般的で、1時間程度の局所麻酔による小さい手術によって作ります。
- もともとの血管が細い場合は、人工血管(グラフト)を利用することもあります。
- また、どうしてもシャントの作成が難しい場合は、血管内に入れたカテーテルを使って血液透析を行うこともあります。
費用はどれくらいかかるの?
- 血液透析を受けることになると、「特定疾病療養受領証」をもらうことができます。これによって、医療費の自己負担の限度額が月1〜2万円になります。
- また、じん臓機能障害1級を取得し、「身体障害者手帳」をもらうことができます。これによって色々な福祉制度が利用でき、医療費をもらったり、所得税や住民税を減らしたりすることができます。
理解しておきたい リスクと合併症
- 血液透析の合併症は、開始して間もない時に現れるものと少し経ってから現れるもの(慢性期)に分けられます。
- 血液透析を開始して間もない時期には、老廃物が急激に除かれることで、「不均衡症候群」が起こることがあります。症状は、頭痛、吐き気、吐くなどです。予防するためには、初回は透析の効率を落として行い、短時間の血液透析で回数を多くし、徐々に慣らしていきます。
- 慢性期の合併症には、血液透析中の血圧低下や終了後の起立性低血圧があります。これを予防するためには、まずは塩分や水分の摂取を控えて、透析間の体重の増加を少なくすることが重要です。それでも改善しない場合には、昇圧剤(血圧を上げる薬)を使用したり、血液透析の方法を変更したりして対応します。
コラム:合併症の血圧低下についてさらに詳しく!
- 合併症である血圧低下は、全身のだるさや、立つことや歩くことの障害の原因となり、日常生活の妨げとなります。
- また、血圧低下は、設定した至適体重(ドライウェイト)を目標に水を取り除く(除水)際、除水を困難にし、ドライウェイトを達成できません。
- これが長く続くと急性心不全をきたす可能性もあるため、血圧に注意しながら慎重に除水を進める必要があります。
血液透析導入後も食事療法は必要なの?
- 血液透析を開始してからも、食事療法は変わらず重要です。特に注意していただきたいことが3つあります。
塩分と水分の制限
- 塩分や水分の摂取は控える必要があります。
- 透析間の体重の増加を少なくするためです。
カリウムの制限
- 生野菜や果物など、カリウムを多く含む食品を摂りすぎないようにしていただく必要があります。
- 末期腎不全の患者さんはカリウムをあまり外に出せず、高カリウム血症になりやすいです。カリウムが多くなると、致死性不整脈の原因になります。
リンの制限
- リンは蛋白質に多く含まれるので、蛋白の制限が基本となります。また、加工食品にも無機リンが多く含まれているので、注意が必要です。
- 末期腎不全ではリンもあまり外に出せず、高リン血症になりやすいです。リンは血管の石灰化を進行させ、骨折や心血管の病気のリスクを高めます。
- しかし、蛋白をたくさん制限してしまうと栄養不足になるので、リン吸着薬を使って食事療法を行うことになります。
血液透析を始めたらやめることはできないの?
- 末期腎不全のために血液透析を開始したら、腎臓の代わりになっているので、途中でやめることは命にかかわります。
- ただし、腎移植を行えば血液透析をやめることができます。