尿崩症:どんな病気?脳の病気なの?検査は?治療は?完治できるの?
更新日:2020/11/11
- 内分泌代謝科専門医の岩間 信太郎と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかすると「自分が尿崩症になってしまった?」と思って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- この資料では、尿崩症のなかでもとくに中枢性尿崩症【ちゅうすうせいにょうほうしょう】について、「気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」などをまとめました。
目次
まとめ
- 中枢性尿崩症は、尿の量を調節するホルモンである抗利尿ホルモン(ADH)の合成・分泌の障害により、腎臓での水の再吸収が低下する結果、尿量が著しく増加する疾患です。
- 症状として、尿量の増加、のどの渇き、たくさんの水分を摂取することなどが認められ、1日の尿量は3L以上になります。
- 治療は、デスモプレシンという薬で行います。デスモプレシンにはADHと同じような作用があるため、尿量を減らすことができます。
- 中枢性尿崩症は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
尿崩症とは、どんな病気?
- 中枢性尿崩症とは、下垂体後葉からのADHの分泌が低下するために、血液中のADHが少なくなり、尿量が著しく増加する疾患です。
尿量の調節とADH
- 尿の量は、頭の中にある下垂体後葉【かすいたいこうよう】という部位から分泌されるホルモンであるADHによって調節されています。
- ADHはバソプレシン(AVP)とも呼ばれます。血液中のADHが少なくなると尿量が増加し、ADHが増えると尿量が減少します。
- 例えば、のどが渇くような脱水状態では血液中のADHは増加して体に水分を保つように働き、水分を多くとった時はADHが低下して余分な水分を尿として出すことで、体の水分量は調節されています。
- 中枢性尿崩症は指定難病であり、自己負担分の治療費の一部または全部が国または自治体により賄われることがあります。
尿崩症と思ったら、どんなときに病院・クリニックへ受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 尿量が増え、のどが乾き、たくさんの水分を摂取するようになったときは、内科を受診してください。
- 中枢性尿崩症について検査する必要があると判断された際は、内分泌内科を受診してください。
中枢性尿崩症になりやすいのはどんな人?原因は?
- 中枢性尿崩症は、原因により以下の3つに分類されます。
中枢性尿崩症の分類
- 特発性:原因が不明のもの。
- 続発性:脳の中の視床下部から下垂体後葉という部位に別の病気があり、その病気に伴って発症するもの。原因として、胚細胞腫や頭蓋咽頭腫などの脳腫瘍、脳外科手術、炎症などが挙げられます。
- 家族性:ADHの合成、分泌に関わる遺伝子に変異があるために発症するもの。子へ遺伝する確率は50%です。
どんな症状がでるの?
- 中枢性尿崩症を発症した場合、下記のような症状が認められます。
中枢性尿崩症の症状
- 尿量の増加
- のどの渇き
- たくさんの水分を摂取する
- 多い場合は一日10Lの水を飲み、10Lの尿が出ることもあります。夜間にも尿がたくさん出るため、尿意で何度も目が覚めます。大量に水分をとるため、食欲の低下、体重の減少が生じることもあります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 病院では、まず血液検査と尿検査を行います。また、視床下部から下垂体後葉にかけて病気がないかを調べるために頭部MRI検査を行います。
- 中枢性尿崩症が疑われる場合、詳しく調べるために入院してさらに検査を進めます。入院では、以下のような項目を中心に調べます。
検査入院で調べる項目
- 血液検査:血清ナトリウム濃度、血清浸透圧(血液の濃さ)、血漿ADH濃度など
- 尿検査:尿浸透圧(尿の濃さ)、蓄尿検査(1日に出る尿量を調べます)
- 負荷試験:5%高張食塩水負荷試験(5%と濃い濃度の食塩水を2時間点滴しながら30分毎に採血を行い、血清ナトリウム濃度、血漿ADH濃度を測定)、水制限試験(飲水を制限し、尿浸透圧を測定)
どんな治療があるの?
- 増加した尿量を減らすため、デスモプレシンという薬を使用します。デスモプレシンはADHと同じように尿量を減少させる作用を持っています。
- 以前は鼻腔に投与する薬しかありませんでしたが、最近では飲み薬も使用できるようになりました。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
デスモプレシンと水中毒
- デスモプレシンを必要以上に使用すると、体に水分が溜まり、水中毒と呼ばれる状態になる可能性があります。水中毒では、低ナトリウム血症が生じ、倦怠感、頭痛、悪心、嘔吐などの症状が認められます。
- 水中毒を避けるため、一日の中でデスモプレシンの効果が切れる時間(尿量が増加する時間)を確保することが大切です。
- デスモプレシンの効果が切れると、尿量が増加します。尿意を我慢すると膀胱に尿がたまった状態が続き、膀胱の機能低下や尿路感染症が生じることがあります。そのため、尿意を感じたらなるべく速やかに排尿することが大切です。
- デスモプレシンの使用量が決まった後も、量の調整が必要になることがあります。体に水が溜まると体重が増加します。水中毒を避けるため、体重を毎日測定することが大切です。
渇感の障害
- まれですが、脳の視床下部という部位に病気がある方では中枢性尿崩症に加え、のどの渇きを感じる感覚(渇感)に障害が生じることがあります。
- この場合、体の水分不足に応じた飲水行動が認められず、著しい脱水となる可能性があります。
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 中枢性尿崩症が改善することはまれです。そのため、デスモプレシンによる治療を続ける必要があります。
追加の情報を手に入れるには?
- 中枢性尿崩症に関しては、下記のページが参考になります。
- 公益財団法人難病医学研究財団が運営(厚生労働省補助事業)する「難病情報センター」のサイト
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/3988
- 中枢性尿崩症(CDI)の会
- http://www/cdinet.jp