偽膜性腸炎:どんな病気?どうやって感染するの?検査や治療は?
更新日:2020/11/11
- 感染症専門医の森 伸晃と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかするとなかなか治らない下痢で悩んでおられ、「偽膜性腸炎」という病気を知って不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 偽膜性腸炎とは、細菌を殺す抗生物質を飲んでいる方や、お年寄りの方、腎臓の病気を持っている方に多い腸の炎症で、下痢や発熱、おなかの痛みが起こります。
- 医学用語では。クロストリジウム(またはクロストリジオイデス)・ディフィシル感染症(CDI)と呼ばれます。
- 原因の菌に効くお薬がありますので、下痢などの症状が続く場合はお医者さんにご相談ください。
偽膜性腸炎は、どんな病気?
- 偽膜性腸炎とは、細菌を殺すお薬である抗生物質を飲んでいる方や、2ヶ月以内に飲んでいた方に多い腸の炎症です。
- 重症になると、大腸に偽膜という小さい円形の膜を作るため、偽膜性腸炎と呼ばれています。
- 医学用語では、クロストリジウム(またはクロストリジオイデス)・ディフィシル感染症(CDI)と呼ばれます。
偽膜性腸炎と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?
- 下痢や発熱などが続いて、とくに下記にあてはまる場合は、病院にご相談ください。
かかりつけ医への受診がおすすめの場合
- 抗生物質を飲んでいる方
- 下痢が止まらない方
- 65歳以上の方
- 腎臓や腸に病気がある方
- 免疫が弱くなる病気(HIV感染症など)がある方
- 水を飲むのが難しい方
救急車を検討いただいた方がよい場合
- おなかの痛みが激しい
- 意識がもうろうとする
- 水も飲めず、動けない
受診前によくなるために自分でできることは?
- 病院に行く前にご自分でできることとして、脱水にならないよう、水分を少しずつ、こまめにとるようにしてください。
偽膜性腸炎になりやすいのはどんな人?原因は?
- 偽膜性腸炎の原因は、抗生物質やほかの病気の治療によって、腸の中の菌のバランスが変化し、クロストリジウム・ディフィシルという菌が増えることです。
- 偽膜性腸炎になりやすいのは下記のような方です。
偽膜性腸炎になりやすい方
- 抗生物質を飲んでいる、または2ヶ月前まで飲んでいた方
- 65歳以上のお年寄りの方
- 入院したことがある方
- 腎臓や腸に病気がある方
- 胃の酸を抑える薬を飲んでいる方
- 今までに偽膜性腸炎にかかったことがある方
- 腸の手術を受けたことがある方
- 鼻から栄養を入れるための管を入れている方
どんな症状がでるの?
- 偽膜性腸炎にかかると、下記のような症状があらわれます。
偽膜性腸炎の症状
- 下痢になる(やや硬め~水っぽい便)
- 熱が出る
- おなかが痛くなる
- 吐き気がする
- お尻から血が出る
- うんちが出ない(重症になるとなります)
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
お医者さんに行ったら行う検査
- うんちの検査
- 血液検査:どのくらい脱水しているかを調べるために行います。
- レントゲン:おなかにガスがたまっているかを見るために行います。
- 大腸内視鏡検査:お尻の穴からカメラを入れて検査をすることがあります。
コラム:便の迅速検査
- 便の迅速検査では、クロストリジウム・ディフィシルという菌と毒素の存在を調べます。
- 検査精度の問題から、迅速検査の結果は100%正しいわけでなく、症状や経過から医師が診断することもあります。
- 一般的な便培養検査では、この菌は発育しないので、専用の培養検査を行うことがあります。
どんな治療があるの?
- 治療として、抗生物質を飲んでいる場合は、それを飲むのを止めることで症状がよくなることがあります。ただし、抗生物質を止めるかは医師が決めますので、ご自身の判断でお薬を飲むのを止めないでください。
- また、偽膜性腸炎をひきおこす菌(クロストリジウム・ディフィシル)をやっつける薬を飲みます。飲み薬と点滴があります。
- 何度も偽膜性腸炎をくりかえしてしまう方には、予防のために注射を打つことがあります。
- 腸の動きや下痢を止める薬は飲んではいけません。
- 他に、下痢の症状をよくするための整腸剤を処方することもあります。
コラム:偽膜性腸炎の治療に用いられる薬剤
- フラジール:クロストリジウム・ディフィシルに対して効果のある抗生物質です。10-14日間飲んでいただきます。
- バンコマイシン:クロストリジウム・ディフィシルに対して効果のある抗生物質です。10-14日間飲んでいただきます。
- アネメトロ:フラジールやバンコマイシンが内服できない場合に使われる点滴のお薬です。
- ダフクリア:近年使われるようになったお薬で、再発しやすい方に使われることがある飲み薬の抗生物質です。
- ジーンプラバ:再発を予防するため、治療中に使われる注射薬です。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?治療の副作用は?
- 治療後に注意することとして、おなかの痛みや、水分不足による症状(頭痛、吐き気、意識がぼーっとするなど)がひどいときは、医師にもう一度診てもらってください。
- また、出されたお薬によっては、下記のような副作用と注意点があります。
フラジールを飲む場合
- お酒と一緒に飲むと、おなかが痛くなったり、吐いたり、顔が赤くなったりします。このお薬を飲んでいる間はお酒を飲まないでください。
- おっぱいに薬の成分が出るとされています。この薬を飲んでいる間は、赤ちゃんにおっぱいをあげるのを止めてください。
- 手足がしびれる、ふらつくなどの症状がある場合は、医師に相談してください。
バンコマイシンを飲む場合
- 薬を飲んだ後に吐き気や下痢、めまいなどがしたら、病院にご相談ください。
うつるの?自分の予防のためにできることは?
- 偽膜性腸炎は、便に含まれる原因の菌が何らかのきっかけで口から入ることで感染します。
- 予防のためには以下のことが効果的とされています。
偽膜性腸炎を予防するためにできること
- 偽膜性腸炎の患者さんやお世話をした方は、石けんを使って手を洗う
- うんちで汚れた場所や、偽膜性腸炎の患者さんが触った場所(特にトイレの便座、手すり、ドアノブなど)は、次亜塩素酸ナトリウムで拭く
治るの?治るとしたらどのくらいで治るの?
- 治療をしてから7~10日で治ります。
- 治療をしてから2~3日でうんちの回数が減り、健康な状態のうんちに近づいてきます。
- 下痢やおなかの痛みが激しい場合は、入院が必要なことがあります。
- およそ5人に1人が偽膜性腸炎をくりかえすと言われています。
追加の情報を手に入れるには?
- 日本化学療法学会、日本感染症学会のClostridioides(Clostridium)difficile感染症診療ガイドライン(2018年発行)が参考になります。
もっと知りたい! 偽膜性腸炎のこと
偽膜性腸炎のときの便の色は?
- 偽膜性腸炎に決まって出る便の色はありません。
下痢がなくても偽膜性腸炎のときがありますか?
- 下痢が症状になくても偽膜性腸炎のことがあります。偽膜性腸炎では症状が重くなると、腸の動きがにぶくなって(イレウスと言います)、便秘やおなかのはりが起こります。
偽膜性腸炎のときの食事はどうしたらよいですか?
- ご飯が食べられるときは、消化の良い食べ物(やわらかく、油っぽくないもの)がおすすめです。
- ご飯が食べられなくても、水分はしっかりととることが大切です。
- 冷たいものはなるべく控えてください。
- 水分・ミネラル・糖分をいちどに摂れる、経口補水液やスポーツドリンクがおすすめです。