慢性リンパ性白血病:どんな病気?検査や治療は?完治できるの?
更新日:2020/11/11
- 血液専門医の山崎 悦子と申します。
- このページに来ていただいたかたは、もしかすると突然「慢性リンパ性白血病病」と告げられ、どうしていいか分からず、どうなってしまうか分からず、不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方や、まさにつらい症状を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 慢性リンパ性白血病は血液がんの一つで、がんになった白血球がゆっくりと増えていく病気です。日本では、白血病の中で慢性リンパ性白血病は最も少なく3%程度です。
- 慢性リンパ性白血病は50歳以上で発症しやすく、多くの患者さんは65歳以上です
- 経過がゆっくりのため、治療が必要ない患者さんもたくさんおられます。
- 治療が必要になったときは抗がん剤などを使います。ただし完全に治すことは難しく、症状をコントロールすることが目的になります。
慢性リンパ性白血病は、どんな病気?
- 慢性リンパ性白血病(CLL)とは、血液がんの一つで、骨髄やリンパ節の中でがんになった白血球(Bリンパ球)がゆっくりと増えていく病気です。
- 約半数の患者さんが、症状のない初期の段階にみつかっています。健康診断やほかの病気の経過中などに、白血球の値が高いことをきっかけに発見されることが多いです。
- 初期の段階では、特に治療を行う必要はありません。中には10年以上も治療を行わず、経過観察のみをする患者さんもいます。
- CLLが進行すると、貧血、血が止まりにくくなる、感染症にかかりやすくなる、首やわきの下などのリンパ節が腫れる、肝臓や脾臓が大きくなるといった症状があらわれます。
- CLLでは赤血球と反応を起こす抗体ができることによって赤血球が破壊される「自己免疫性溶血性貧血」を併発することもあります。
慢性リンパ性白血病と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの?医療機関の選び方は?
- 慢性リンパ性白血病 (CLL) は、ゆっくりと進行する病気であるため、初期の段階で自覚症状が出ることはほとんどありません。多くの患者さんは、健康診断などで白血球の値が高いことを指摘されて、診断につながっています。
- 白血球の高い状態が続くようでしたら、血液内科のある病院を受診してください。
慢性リンパ性白血病になりやすいのはどんな人?原因は?
- 慢性リンパ性白血病は50歳以上で発症しやすく、多くの患者さんは65歳以上です。30歳未満の若い方にはほとんど見られません。また、男女比は約2:1で男性に多く発症しています。
- 慢性リンパ性白血病の原因は、まだ解明されていません。欧米の方に比べて日本人で少ないことはわかっているのですが、なぜ差があるのかの理由も不明です。
コラム:CLLの欧米と日本における発病率
- CLL は、日本では白血病の中で最も少なく、全白血病の約3%、年間の発症者は300人程度と推測されています。一方、欧米では白血病の中で最も多く、発症率は日本の約10倍です。
どんな症状がでるの?
- 慢性リンパ性白血病 (CLL) の腫瘍細胞は、血液細胞の工場である骨髄でゆっくりと増殖していきます。
- 本来、骨髄で作られるべき正常な血球が作れなくなることにより起こる症状、がん細胞がリンパ節や臓器で増えることで起こる症状があります。
正常な血球が減ることによる症状
- 正常な白血球が減ると、感染症にかかりやすくなり、よく熱が出るようになります。
- 赤血球が減ると、貧血になり、だるい、疲れやすい、息切れ、めまい、耳鳴り、頭痛などがおこります。
- 血小板が減ると、あざができたり、歯ぐきから出血しやすくなります。
がん細胞が増えることによる症状
- 首、わきの下、足の付け根などのリンパ節が腫れ、しこりが出たりします。
- 脾臓や肝臓が腫れて、おなかの圧迫感が出たり、食欲がなくなることがあります。
- 身体の中でがん細胞が増えることで、体重が減る、寝汗をかくようになる、38度以上の発熱がでることもあります。
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 慢性リンパ性白血病(CLL) の検査は、診断のためと治療方針を決めるため、2つの目的で行われます。
診断のための検査
- 診察:患者さんが気になっていることを伺い、全身の状態を確認します。リンパ節が腫れていないかもここでチェックします。
- 血液検査:血液を採らせていただき、がん化した白血球が増えていないかなどを確認します。
治療方針を決めるための検査
- 骨髄検査:骨髄の中に含まれるがん化した細胞の割合を調べます。同時に、治療が効きにくい染色体の異常がないかも確認します。特定の染色体に異常があると(17番染色体の一部欠損)、治療が効きにくいことが分かっています。
- CT検査:リンパ節や臓器が腫れて大きくなっていないかを調べます。
コラム:CLLの血液検査の詳細
- 血液中のリンパ球数が5000/μL以上が3か月以上続いていることを確認します。
- 腫瘍細胞の表面にCD5, CD23などの抗原(細胞の種類別マーカー)が出ていることを確認します。これは細胞表面マーカー(フローサイトメトリー)検査で行います。
コラム:慢性リンパ性白血病の病気分類
- 慢性リンパ性白血病の病期(進行度)は、改訂Rai分類とBinet分類の2種類が用いられています。
治療はすぐに始めなくてもよいの?
- 慢性リンパ性白血病は経過が長く進行も穏やかなため、経過を観察することも多いです。ある程度病気が進行した時点で治療を開始することが勧められます。
- 治療を開始する基準は、国際ワークショップで示されています。貧血が悪化したり、脾臓が腫れてきたりするなど、基準に当てはまることがあれば、治療を始めることを考慮します。
コラム:CLLの治療開始基準
- 進行性の骨髄機能低下による貧血や血小板減少の進行・悪化
- 左肋骨弓下6㎝以上の脾腫、進行性または症候性の脾腫
- 長径10㎝以上のリンパ節塊、進行性または症候性のリンパ節腫脹
- 2か月以内に50%を超える進行性リンパ球増加、6か月以下のリンパ球倍加時間
- 副腎皮質ステロイドやほかの標準治療に反応の悪い自己免疫性貧血や血小板減少症
- CLLに起因する以下のいずれかの症状のある時
- 意図的な減量によらない過去6か月以内の10%以上の体重減少
- 労働や日常生活が困難である(ECOG PS2以上の)倦怠感
- 感染症の所見なしに2週間以上続く38度以上の発熱
- 感染症兆候の無い寝汗
どんな治療があるの?
- 慢性リンパ性白血病(CLL)では、おもに症状を改善することを目的として、お薬を使う治療(薬物療法)、放射線を当てる治療が行われます。
- お薬は、患者さんの体力や病気の進行度に応じて、抗がん剤、分子標的治療薬などを組み合わせて使用します。
- 放射線治療は、大きく腫れたリンパ節や脾臓/肝臓を小さくするために行われます。
- CLLの完治を目的とした造血幹細胞移植という治療もあります。身体への負担が大きいため、この治療を受けられる方は限られます。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは?
- 慢性リンパ性白血病の治療中は、どの治療法を選択しても、感染しやすい状態になっています。ですから、感染を予防するのが最も大事です。
感染予防のポイント
- 食事前やトイレ後の手洗いやうがいを習慣付けてください。
- お風呂にはできるだけ毎日入ってください。シャワーでもよいです。
- 外出時にはマスクをつけてください。
- 食事は新鮮なもの、加熱したものを摂るように心がけてください。
治療の副作用はあるの?
- 慢性リンパ性白血病の化学療法では、吐き気がする、吐いてしまう、毛が抜ける、食欲がなくなる、便秘や下痢になる、関節が痛む、熱が出る、呼吸が苦しくなるなどの副作用があります。
- ご自身のお薬によって出やすい症状が異なりますので、詳細は主治医の先生にご相談ください。
追加の情報を手に入れるには?
- 慢性リンパ性白血病(CLL)に関しては、下記のページをお勧めします。
- 国立がん研究センターのサイト
- https://ganjoho.jp/public/cancer/CLL/index.html
もっと知りたい! 慢性リンパ性白血病
慢性リンパ性白血病の治療に使われる薬剤
- 慢性リンパ性白血病の薬物治療には、抗がん剤と、分子標的薬が使われます。
抗がん剤
- 抗がん剤は白血病細胞の数を減らし、症状をコントロールするお薬です。通常は数種類の抗がん剤を組み合わせて、4~6回程度繰り返して投与します。
- 抗がん剤の種類や組み合わせ(プロトコルといいます)は、患者さんの年齢や身体の状態(合併症がないか、心臓、肺などの臓器が治療に耐えられるか)などを考慮して決定します。
抗がん剤のプロトコル
- 標準治療が可能な比較的体力のある患者さん:フルダラビンとシクロホスファミド(FC療法)、リツキシマブを併用するFCR療法が、国際的な標準療法です。
- 高齢や合併症などで標準治療が難しい患者さん:減量FCR療法やベンダムスチンにリツキシマブを併用したBR療法などを行います。
- 多剤併用療法が難しい患者さん:ベンダムスチン療法、フルダラビン療法、シクロフォスファミド療法など、単剤治療を行うこともあります。
分子標的治療薬
- 分子標的治療薬には、特定の分子に結合してがん細胞を障害する抗体薬や、がん細胞の増殖に係るタンパク質(チロシンキナーゼ)に作用して、がん細胞の増殖を抑制するチロシンキナーゼ阻害薬などがあります。
- 抗体薬には、リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)、アレムツズマブ(抗CD52モノクローナル抗体)などがあります。
- チロシンキナーゼ阻害薬には、イブルチニブ(ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬)があります。
薬物療法の副作用
FCR療法/FC療法の副作用
- 骨髄抑制のため、白血球、赤血球、血小板が低下します。特に白血球減少による感染症には注意が必要です。
- 吐き気・嘔吐、脱毛も比較的頻度の高い副作用としてみられます。
BR療法の副作用
- 骨髄抑制、吐き気・嘔吐、食欲不振、便秘がみられます。
イブルチニブ治療の副作用
- 下痢、吐き気、好中球減少、関節痛がみられます。
- まれに間質性肺炎や心房細動、出血傾向がでることもあります。
抗体治療の副作用
- インフュージョン・リアクション(輸注関連反応)として、血圧低下や発熱、呼吸困難などがあらわれることがあります。2回目までの治療時に出やすいとされています。
造血幹細胞移植の適応条件
- 慢性リンパ性白血病を完治させるために行われる造血幹細胞移植が行えるかどうかは、下記のような条件で検討されます。
造血幹細胞移植の適応条件
- 再発難治であること
- 比較的年齢が若いこと
- 予後不良の染色体異常または遺伝子異常があること
- HLA一致のドナーがいること