気管支拡張薬:どんな薬?どのような種類があるの?飲み方や注意点,副作用は?
更新日:2020/11/11
- 気管支拡張薬専門医の山路 義和,松永 和人と申します.
- このページに来ていただいた方は,気管支拡張薬についてのお悩みがあり,気管支拡張薬の処方を希望されておられるかもしれません.
- 気管支拡張薬を始めるにあたり,それがどのような薬であるのかについて役に立つ情報をまとめました.
- 私が日々の診察の中で,「特に気を付けてほしいこと」,「よく質問を受けること」,「本当に知ってほしい」ことについて記載をさせていただいています.
目次
まとめ
- 気管支拡張薬とは,空気の通り道(気道)を広げる作用をもつお薬です.
- 気管支拡張薬の種類には,β2刺激薬と抗コリン薬の2種類があります.
- 作用時間にも違いがあり,短時間作用性と長時間作用性の2種類があります.
- 吸入薬のほか,貼付薬や飲み薬もあります.
- 主に,喘息とCOPDの治療に使用されます.医師の指示にしたがって,正しく服用してください.
どんなくすり?おおよその値段は?
- 気管支拡張薬とは,気道の筋肉(気道平滑筋)に働きかけて,空気の通り道である気道を広げるお薬です.
- 気管支拡張薬の種類には,薬が働きかける仕組みによって主にβ2刺激薬と抗コリン薬の2種類があります.
- 作用する時間の長さで,短時間作用性と長時間作用性の2種類があります.
- 値段は,薬の種類,効果の持続時間,薬剤の剤形によってまちまちです.3割負担で計算すると,短時間作用性気管支拡張薬の50回分で250円程度,長時間作用性気管支拡張薬は1ヶ月で1,000〜2,400円程度,貼付薬は1ヶ月で500円程度です.
コラム:気管支拡張薬の作用機序
- β2刺激薬:気道平滑筋のβ2受容体(薬の受け皿)に結合して,気道平滑筋を弛緩(ゆるめ)させます.
- 抗コリン薬:気道平滑筋のM3受容体(薬の受け皿)に結合し,アセチルコリンという気道収縮物質の働きを阻害することで,気道平滑筋を弛緩(ゆるめ)させます.
コラム:気管支拡張薬の作用時間
- 短時間作用性気管支拡張薬:短時間(1〜10分)で効果を発揮し,効果持続時間(4〜8時間)は短いです.
- 長時間作用性気管支拡張薬:効果が出るまでの時間は遅いですが,気管支拡張作用が長時間持続する薬(12時間〜24時間)です.
どんな目的で飲むの?
- 主に,喘息とCOPDの症状を改善させるために使用します.
- 気道平滑筋を拡張させ,空気の流れを良くし,息苦しさを軽減します.
- 短時間作用性気管支拡張薬は発作時(急激に息苦しくなった時)に使用します.
- 長時間作用性気管支拡張薬は症状を長期間コントロールする目的で使用します.
COPD(慢性閉塞性肺疾患)について
- 主にタバコ煙などの有害物質を長期間吸入することで発症する慢性呼吸器疾患です.
- 肺は弾力のある小さな袋(肺胞)の集合体ですが,有害物質により肺胞の壁が破壊され,壊れた肺胞と肺胞が繋がり,弾力のない伸びきった風船のようになることで,袋の中の空気をうまく吐き出せなくなります.また,気道には炎症が起こり,痰や粘液が分泌されることで気道が狭くなり,ますます空気が吐き出しにくくなります.
- 主な症状は,慢性の咳・痰,動いた時の息切れ(労作時呼吸困難),体重減少などです.
- 労作時呼吸困難を回避するために,動こうとしない生活になり(身体活動性低下),筋力や心肺機能が低下し,ますます動くことが困難となります.
- 息切れの増加,咳や痰の増加,膿性痰の出現など安定期の治療の変更あるいは追加が必要となる状態をCOPD増悪といいます.COPD増悪があると,呼吸機能や症状が悪化し,生命予後も悪化します.
吸入薬はどうやって使うの?
- 気管支拡張薬の吸入薬は,粉末の薬剤を吸入する「ドライパウダー」タイプと,霧状にした薬剤を吸入する「エアゾール」タイプ,大きく2種類に分かれ,服用の仕方が異なります.
- 「ドライパウダー」タイプは自分のタイミングで薬を吸入することができます.「エアゾール」タイプは薬の噴霧と吸入のタイミングを合わさなくてはなりません.
- 以下,疾患ごとに服用の仕方について詳しくご説明します.
喘息(短時間作用性気管支拡張薬)
- 喘息発作時(急激に息苦しくなった時)は,短時間作用性β2刺激薬を吸入します.
- 効果が不十分な場合は,20分おきに吸入し,3回吸入しても(1時間経っても)呼吸困難が続くなら,すぐに病院・診療所を受診して下さい.
- 苦しくて横になれないくらい息が苦しい場合は,3回の吸入を待たずにすぐに病院・診療所を受診して下さい.
- 短時間作用性β2刺激薬は苦しい症状を速やかに改善させるので,頻繁に使われやすいようです.しかし,頻繁に使用していると薬が効きにくくなり,喘息死のリスクを高めてしまいます.上記の用法を守って使用してください.
喘息(長時間作用性気管支拡張薬)
- 喘息の症状が起こらないようにする長期管理薬として,吸入ステロイド薬と併用で長時間作用性β2刺激薬を使用します.
- 長時間作用性抗コリン薬も使用できます.
- 定期的に決められた回数を吸入して下さい.
COPD(短時間作用性気管支拡張薬)
- 軽症のCOPD患者さんが体を動かした時の症状改善のため,短時間作用性β2刺激薬の使用がすすめられています.
- 長時間作用性気管支拡張薬を定期的に使用しているCOPDの患者さんの場合,運動する前に短時間作用性β2刺激薬を使用することで,運動時の呼吸困難を予防でき,身体活動性を上げることができます.
- COPDが悪化したときは,短時間作用性β2刺激薬の吸入がすすめられます.吸入方法が簡単なネブライザー(薬液を持続的に霧状にする機械)での吸入が好まれます.
COPD(長時間作用性気管支拡張薬)
- COPDの薬物治療の基本です.長時間作用性抗コリン薬または長時間作用性β2刺激薬の吸入薬のどちらか単剤で治療を開始します.
- 単剤で効果不十分な場合に,長時間作用性抗コリン薬と長時間作用性β2刺激薬を併用で治療します.
- 症状が強い人,増悪のリスクの高い人,手術前で早急に呼吸機能を上げたい場合は,初回から長時間作用性抗コリン薬と長時間作用性β2刺激薬を併用で治療します.
- 長時間作用性抗コリン薬は,「排尿困難を伴う前立腺肥大症」と「閉塞隅角緑内障」がある人には使用できません.ただし,コントロールできている「前立腺肥大症」の人には使用できます.
- 吸入薬の使用が困難な場合,長時間作用性β2刺激薬貼付薬(貼り薬)が有用です.貼付薬は,吸入薬より気管支を広げる効果が弱いのですが,夜間などの症状を改善するのに役立ちます.
飲み始めるときの注意点は?いつまで使うの?自分でやめてよい?
- 吸入器ごとに使い方が違うので,吸入方法をよく理解してから吸入して下さい.吸入方法が分からない場合は薬剤師や医師に聞いていただければ,練習していただくこともできます.
- 短時間作用性気管支拡張薬と長時間作用性気管支拡張薬は,使用する目的が異なります.よく理解してから使用してください.
- 基本的に毎日使用することで効果がある薬なので,ご自身の判断で勝手に止めないようにして下さい.
副作用ってよく聞くけど,どんなことが起こるの?治療中の注意点は
- β2刺激薬と抗コリン薬で,あらわれる副作用が異なります.
- β2刺激薬の副作用は,動悸(心臓がドキドキする),不整脈(脈が乱れる),手の震え,頭痛,吐き気などです.
- 抗コリン薬の副作用は,喉の渇き,尿が出にくくなる,緑内障などです.
- 副作用が出現したら,すぐに主治医に相談してください.
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- 喘息予防・管理ガイドライン2018
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2018〔第5版〕
- すべての医療者のための明日からできる実践吸入指導—指導から支援へ
患者さんからよく聞かれるご質問
一緒に飲まないほうがよい薬はある?
- はい,あります.不整脈の治療に使われる薬のβ受容体拮抗薬の一部で,β2刺激薬の作用が低下することがあります.
- 不整脈の治療を行っている方は医師にご相談ください.
吸入薬を使用していますが,効果がありません.どうしてでしょうか?
- 吸入手技を間違えていたり,吸入器がご自身に合っていないために,お薬を正しく吸入できていない場合があるようです.
- 医療者(医師,薬剤師)に相談していただき,正しく吸入器を使えているか確認してもらったり,ご自身に合う吸入器に変更してもらうとよいでしょう.
吸入器が上手に使えません.
- 医療者(医師,薬剤師)に吸入の仕方を確認してもらってください.
- 吸入器がご自身に合っていないことがありますので,医療者に相談し,ご自身に合う吸入器に変更してもらうことも良い方法です.
吸入器のゴミはどのように捨てればよいでしょうか.
- 各自治体によって異なります.一般廃棄物,プラスチックゴミ,医療廃棄物などに分類されています.
- 調剤薬局または各自治体に相談してください.
もっと知りたい! 気管支拡張薬の基礎知識
気管支拡張薬の種類で作用に違いはあるの?
ホルモテロール
- 長時間作用性β2刺激薬のホルモテロールは,気管支拡張効果発現までの時間が1分程度と短く,短時間作用性β2刺激薬の効果発現の速さに匹敵します.
- ホルモテロール含有の吸入薬は,長期間の症状コントロールだけでなく,発作治療薬としても使用できます.
シムビコート®
- 長時間作用性β2刺激薬のホルモテロールと吸入ステロイド薬のブデソニドの合剤です.
- ホルモテロールの気管支拡張効果発現の速さと抗炎症効果のあるステロイドを同時に吸入することで,喘息発作時に有効に作用します.
- 定期吸入以外に発作時にも使用するこの治療方法をSMART(スマート)療法(Symbicort Maintenance and Relivere Therapy)と呼びます.