未破裂脳動脈瘤:原因は? 手術をしないと破裂する? 術後の再発はあるの?
更新日:2020/11/11
- 脳神経外科医専門医の柴田 碧人、栗田 浩樹と申します。
- このページに来ていただいた方は、もしかするとたまたま行った検査で突然「未破裂脳動脈瘤が見つかりました」と言われて、非常に強い不安を感じておられるかもしれません。
- いま不安を抱えている方に役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」についてまとめました。
目次
まとめ
- 未破裂脳動脈瘤のほとんどは、症状がでません。
- 未破裂脳動脈瘤は必ず破裂するとはかぎりませんが、破裂した場合は命にかかわる状態になることがあります。
- 未破裂脳動脈瘤の治療は、破裂を予防するための治療になります。
- 未破裂脳動脈瘤にどのような治療が適しているかを正確に判断するには、詳しい検査が必要となります。
脳動脈瘤は、どんな病気?
- 未破裂脳動脈瘤【みはれつどうみゃくりゅう】とは、脳の動脈にこぶ状のふくらみができている状態(すなわち、破裂していない脳動脈瘤)のことです。
- どなたにでも見つかる可能性のある病気ですが、破裂するとクモ膜下出血の原因になる病気の1つです。クモ膜下出血が起きると命にかかわるため、脳動脈瘤を完全に閉鎖することが治療となります。
- ほとんどの場合、症状はありませんが、こぶ状のふくらみが大きくなると破れやすくなったり、まわりにある神経を圧迫して、物が二重に見えるなどの症状を引き起こしたりします。
脳動脈瘤と思ったら、どんなときに病院・クリニックを受診したらよいの? 医療機関の選び方は?
- 次の場合は、早急に治療を受けてください。救急車を呼ぶこともご検討ください。
救急車を呼び、早急な治療を必要とする可能性がある場合
- 突然、今までに感じたことのない激しい頭痛を感じた
- 突然、物が二重に見えたり、まぶたが上がらなくなった
- 熱はないが、突然、頭痛やはき気を感じた
- 次の項目にあてはまるものがある方は、まずは脳の血管に動脈瘤がないか検査を受けることをおすすめします。
脳動脈瘤の検査を受けていただくことをおすすめする場合
- 中高年の方で、一度も頭のMRI検査を受けたことがない
- 家族の中に脳梗塞、脳出血、くも膜下出血になったことがある人がいる
- 高血圧や肥満があるといわれたことがある
- 長年タバコを吸っている
- 次の項目に当てはまる方は、専門病院で治療を受けることをご検討ください。
早めに専門病院での治療をおすすめする場合
- 30、40代で脳動脈瘤があるといわれた方
- 脳動脈瘤の大きさが5 mm以上あるといわれた方
- 脳動脈瘤の形がでこぼこしているといわれた方
- 脳動脈瘤の形が急速に変わっているといわれた方
治療を行う専門病院の選び方
- 治療方法が充実しており、実績の多い病院がベターです。まずは相談のために受診して、何でも話せる主治医のいる病院を見つけてください。
- 頭の手術はリスクもあるので、別の病院で治療方針を聞いてみるのもよいでしょう(セカンドオピニオンといいます)。
脳動脈瘤になりやすいのはどんな人? 原因は?
- 日本人は未破裂脳動脈瘤になる方が多いとされています。
- また、高血圧のある方や大酒飲みの方、女性に多い傾向があります。遺伝的要因として、ご家族に脳動脈瘤を指摘されたことがある方は、検査が勧められます。
どんな症状がでるの?
- 未破裂脳動脈瘤は、ふつう何の症状もありません。
- こぶが大きくなったときや、破れて出血してしまったときには、下記のような症状が出ます。
脳動脈瘤による代表的な症状
- 物が二重に見える
- 視野に欠けているところがある
- まぶたが上がらない
- 突然、激しい頭痛が生じる
- 突然、吐き気が出て、吐いてしまう
お医者さんに行ったらどんな検査をするの?
- 頭痛の検査や人間(脳)ドッグでは、MRI検査を行って、未破裂脳動脈瘤がないかを調べます。
- 未破裂脳動脈瘤があった場合、正確な大きさや形などを調べて治療の必要性があるかを判断するために、より詳しい造影CT検査や脳血管造影検査を行う必要があります。
- これらの検査は専門病院でしか行えない場合がほとんどです。治療を勧められた場合は紹介状をもって、早めに専門病院で検査を受けてください。
どんな治療があるの?
- 未破裂脳動脈瘤に対する治療は、あくまで「脳動脈瘤が破れるのを予防する治療」であることをご理解ください。患者さんの年齢や健康状態、こぶの場所・形、破裂するリスクなどから、十分に説明と話し合いを重ねたうえで治療を決定していきます。
- 治療には開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術の2通りがあります。患者さんのご希望を十分に考慮したうえで、脳動脈瘤の特徴にあわせて治療を選択します。
- なお、未破裂脳動脈瘤が小型の場合は、経過観察という選択肢もあります。
開頭クリッピング術
- 頭蓋骨を開けて、脳動脈瘤の根元を洗濯ばさみのようなクリップで挟み、脳動脈瘤の中に血流が入らないようにする手術です。
- 血管内コイル塞栓術に比べると体への負担が大きいですが、確実に治ると言われています。
血管内コイル塞栓術
- 身体の表面の近くを通る太い動脈から柔らかい管を入れて、脳動脈瘤まで進めます。さらに極めて細い管を使って脳動脈瘤の中にコイルを詰め、内部を血の塊(血栓)にしてしまう手術です。
- 開頭クリッピング術に比べるとやや再発のリスクがあがります。体への負担は少ないですが、手術後は定期的に画像検査を受けていただく必要があります。
コラム:手術の後遺症について
- 未破裂脳動脈瘤の手術は、脳動脈瘤が破裂するリスクと比べて、手術による後遺症のリスクが十分に低い場合にのみ、勧められることになっています。
- 手術後は何事もなくご自宅へ退院できることがほとんどですが、3-5%程度の確率で後遺症を残す可能性があります。重篤な場合もあり得ます。
- 症状は障害を受けた部位にもより様々ですが、軽度の半身麻痺、軽度の半身感覚障害、失語症、一部視野欠損などが起こる可能性があります。
お医者さんで治療を受けた後に注意をすることは? 治療の副作用は?
- 治療を受けていただければ、脳動脈瘤の破裂は高い確率で防ぐことができます。ただし、まれに残った動脈瘤が再び大きくなることもあり、治療を受けた後もしばらくは検査が必要になります。また、治療法により治療後の注意点が異なります。
- 開頭クリッピング術では手術した部分にばい菌が入ってしまうことや、けいれんが起こることがあります。
- 血管内コイル塞栓術の場合、血液をサラサラにするお薬を飲み続けていただくことが必要になる場合があります。血がとまりにくくなるため、ケガなどに注意して過ごしていただかなければなりません。
予防のためにできることは?
- 残念ながら、未破裂動脈瘤ができることを予防したり、できた動脈瘤をなくすお薬は現在のところありません。また、未破裂動脈瘤の破裂を予防するための治療は、現在のところ手術以外にありません。
- クモ膜下出血の予防には、脳ドッグなどを受けていただいて、脳動脈瘤を破裂する前に発見することが重要です。
- 未破裂脳動脈瘤が発見された場合は、増大・破裂のリスクを下げるために、高血圧の治療と禁煙は必ず行ってください。
治るの? 治るとしたらどのくらいで治るの?
- 多くの場合、手術で完全に治ります。ただし、数パーセントの方は、もう一度治療が必要になることがあります。
- 手術後、合併症などの問題がなければ、1週間程度で退院できます。日常生活の制限もありません。
追加の情報を手に入れるには?
- 未破裂動脈瘤に関する専門的な情報は、日本脳神経外科学会のページをお薦めします。
- https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/102.html
- 高額療養費については、厚生労働省のサイトが参考になります。
- https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
もっと知りたい! 未破裂脳動脈瘤
治療費はいくらくらいかかるの?
- 未破裂脳動脈瘤の手術のために10日前後入院した場合、平均で180万円程度かかると算出されています。
- 患者さんはそのうち1〜3割を負担されることになりますが、高額療養費を申請していただくことで、最終的なご負担額は10万円以下になることが多いです。
- 高額療養費とは、ひと月にかかる医療費の自己負担が一定額を超えると、超えた分が約3か月後にご本人に払い戻される制度です。