便失禁:原因は?対処法は?何科で治療するの?
更新日:2020/11/11
- 大腸肛門病専門医の安部 達也と申します。
- とつぜんうんちを我慢できなくなったり、漏らしてしまう便失禁が続いたりすると、心配になりますよね。何か悪い原因で起こっているのではないか?と心配されたり、「病院に行ったほうが良いかな?」と不安になられたりするかもしれません。
- そこでこのページでは、便失禁の一般的な原因や、ご自身での適切な対処方法、医療機関を受診する際の目安などについて役に立つ情報をまとめました。
- 私が日々の診察の中で、「特に気を付けてほしいこと」、「よく質問を受けること」、「あまり知られていないけれど本当は説明したいこと」について記載をさせていただいています。
目次
まとめ
- 便失禁【べんしっきん】とは、自分の意思に反して、社会的・衛生的に問題となる状況で、液体状または固形の便が漏れることです。
- 便失禁の原因は肛門の筋肉の衰えや排便の不調などさまざまですが、下着が少しだけ汚れる程度ならば、心配はありません。しかし、日常生活や心と体の健康に影響が出ている場合は、病院で診察を受けていただくとよいでしょう。
- 治療は肛門の筋肉の衰えが原因の場合は筋肉を強化する訓練を行い、排便に異常がある場合は便の形状を整えるお薬などを飲んでいただきます。それでも良くならない場合は手術を検討します。
- 原因や症状の重さに応じてさまざまな治療法がありますので、お悩みの場合は医療機関を受診してください。
便失禁ってどんな症状?
- 便失禁【べんしっきん】とは、自分の意思に反して、社会的・衛生的に問題となる状況で、液体状または固形の便(うんち)が漏れてしまうことです。ガス(おなら)だけが漏れる場合はガス失禁といいます。
- ガスが漏れたり、液体状の便が漏れる場合は比較的軽症と考えられますが、固形の便を漏らしてしまう場合は重症と考えられます。
コラム:便失禁の3つのタイプ
- 便失禁の症状には3つのタイプがあります。
- 便意(うんちをしたい気持ち)がなく、気付かないうちに漏らしてしまうタイプ(漏出性便失禁【ろうしゅつせいべんしっきん】といいます)、便意を感じるが、トイレまで我慢できずに漏らしてしまうタイプ(切迫性便失禁【せっぱくせいべんしっきん】といいます)、これら両方の性質をもつタイプ(混合性便失禁【こんごうせいべんしっきん】といいます)があります。
便失禁の主な原因は?
- 便失禁にはいろいろな原因が考えられます。主な原因として、以下のようなものがあります。
加齢
- ご高齢の方で便失禁に悩む方は多いです。
- 年をとることで、肛門を閉じる筋肉(肛門括約筋【こうもんかつやくきん】といいます)の力や、お尻の感覚が衰えることが、便失禁に影響していると考えられます。
妊娠・出産
- 妊娠で子宮が大きくなると、骨盤の筋肉や神経に負担がかかります。また、腟から出産した際に、肛門括約筋が切れることもあります。これらのことから、出産が大変だった方、何回も出産を経験した方ほど、便失禁になりやすいです。
- 出産の直後から便失禁になる方も、年をとってから症状が出る方もいます。
便の異常
- 下痢をすると、便を我慢しにくくなり、便が漏れやすくなります。
- 便秘になると、便をきちんと出せずに残った便が漏れやすくなります。また、下剤を飲み過ぎている方も、便がゆるくなって漏れやすくなります。
直腸肛門部の手術
- 直腸を手術で取った方は、便をためておくことが難しくなります。
- 切れ痔などの痔で手術をした方は、肛門括約筋がダメージを受けることがあります。
神経の病気
- 脳卒中、認知症、精神の病気、ヘルニアなどの脊椎の病気、糖尿病の方は、肛門括約筋をコントロールする神経がうまく働かなくなるために、便が漏れてしまうことがあります。
痔(じ)の病気
- いぼ痔、直腸脱がある方は、下着が汚れることがあります。
便失禁に対して、よくなるために自分でできることは?
- 食事に気を付けて便通を整えることは、ご自分でもすぐに始めることができます。また、肛門の締まりが悪くなってきたと感じる方には、肛門括約筋を鍛える体操が効果的です。
食事に気を付ける
- お腹が冷えやすく下痢になりやすい方は、飲み物はなるべく温かい物を摂るようにし、冷たい飲み物は室温にしてから飲むとよいです。
- また、ご自分が下痢を起こしやすい食品がわかっている方は、その食品を控えてください。
- 下痢の予防のために気を付けていただくとよい食品を下記にまとめました。
下痢を予防するための食生活
- 下痢を起こしやすい食品:香辛料、揚げ物、乳製品、糖分、アルコール類、カフェイン飲料、炭酸飲料などがあります。これらは避けていただいた方がよいでしょう。
- 下痢を起こしにくい食品:白米、豆腐、大豆などがあります。便が柔らかすぎて便失禁を起こしている方には、和食中心の食生活をお勧めします。
骨盤底筋体操(肛門括約筋訓練)
- 肛門の締まりが悪くなってきたと感じる方は、治療の一環として、肛門括約筋を含む骨盤底筋【こつばんていきん】を鍛える体操をぜひ行っていただきたいです。
骨盤底筋体操
- 立ってでも、座ってでも、仰向けでもよいので、肛門の穴を意識してギュと締めます。
- 5秒間締め、5秒間休みます。これを10回くらい繰り返します。徐々に10秒くらいまで、締める時間を延ばしていきます。
- 毎日3回くらい行うと良いです。2-3ヶ月継続して行うと、肛門の締まりが良くなってきます。
- なお、肛門括約筋が弱っている方は、おしり、太もも、お腹などに力が入ってしまいがちです。これらの場所に力を入れないように、肛門括約筋だけを締めるようにして行うと、非常に効果的です。
こんな症状があったらかかりつけ医を受診しましょう
- 便失禁があることで、日常生活や心と体の健康に悪い影響が出ている場合は、かかりつけ医にご相談ください。
病院へ行くべき症状
- 便が多く漏れてしまい臭いが気になる
- 洋服が汚れるので着替えを持参しないと外出できない
- 肛門の周りの皮膚がただれて痛い
- 膀胱炎を繰り返す
- 外出するのが怖くなって引きこもりになる
- 症状が軽ければ、かかりつけ医で、生活習慣のアドバイスを受けたり、お薬を出してもらえたりします。
- 症状が重かったり、直腸や肛門の病気が原因の場合は、消化器科や肛門外科などを紹介してもらうことになります。
お医者さんではどんな検査をするの?
- お医者さんではまず、患者さんのお話を問診で伺います。その後、肛門を診察し、必要に応じて便失禁の原因を知るための検査を行います。
問診
- 問診では、下記のような情報があると、診療の助けになります。お医者さんにかかる際、紙に書いて持っていくと喜んでもらえるかもしれません。
診療の助けになる情報
- どういう時に便が漏れるか?:寝ている間/知らない間に漏れてしまう/便意を感じてトイレに駆け込んだが間に合わなかった/など
- どういう時に気になるか?:普通に排便した後に下着が汚れている/いつも肛門が濡れている感じがする/肛門が締まらない感じがする/など
- 1週間あたりの排便の回数は?
- 便の形や硬さは?
- 便はスムーズに出る?出にくい?
- 下剤を飲んでいる?
- 気になる食事習慣はある?:下痢を起こしやすい飲食物(糖分、脂肪分、アルコール類やカフェイン飲料など)を取り過ぎていないか
- 今までにかかった病気は?:直腸や肛門の手術をしたことがあるか/脊椎疾患を治療したことがあるか/出産をしたことがあるか(とくに異常分娩や高度の会陰裂傷)/など
- 現在治療している病気はある? その治療薬は?
肛門診察
- 問診に続いて肛門部の診察を行います。まず目でみて、手術や会陰裂傷の傷跡がないか、痔や皮膚のただれがないかを見ます。これを視診【ししん】といいます。
- 続いて直腸の中を指で触り、直腸の中に便が残っていないか、肛門括約筋の緩みはないかなどをみます。これは直腸指診【ちょくちょうししん】といいます。
便失禁の検査
- 専門病院では、さらに肛門内圧検査や肛門管超音波検査、排便造影検査などを行って、便失禁の程度を評価したり、便失禁の原因を確認することがあります。これにより、適切な治療法を選ぶことができます。
- 例えば肛門内圧検査で、括約筋の収縮力が低下していることがわかり、肛門管超音波検査で括約筋が切れていることが見つかった場合には、括約筋を修復する手術を行えば、便失禁の症状がよくなる可能性が高いことが分かります。
どんな治療があるの?
- 便失禁の原因や重症度がわかったら、それに基づいて適切な治療法を選んできます。実際には、患者さんと相談しながら以下の方法をいくつか組み合わせて治療を進めていきます。
カウンセリング
- 食事・生活・排便習慣を伺って、問題があれば改善策をお伝えします。例えば便が軟らかいために漏れやすい方には、便の形を整える効果がある食物繊維を多く摂るようにお勧めします。
- 肛門がただれる方には、スキンケアの方法をお伝えします。
薬物療法
- 便の状況に応じて必要なお薬を処方することもあります。
- 軟便や下痢便には、便を固める効果のあるお薬(ポリカルボフィルカルシウムやロペラミドなど)が効果的です。
- 便秘で便が出し切れないために、直腸に残った便が漏れる場合には、下剤や浣腸、坐剤などが有効です。
バイオフィードバック療法
- 骨盤底筋体操をより効果的に行うために、肛門括約筋の動きを見ながら訓練する方法です。おもに専門の病院で行います。
アナルプラグ
- ポリウレタン製の装具を肛門に入れ、栓をすることによって便失禁を防ぐ治療法です。
- 8〜12時間効果があります。使った後は布製のヒモを引いて抜きます。
手術
- お薬や骨盤底筋体操などを行っても症状が良くならない場合は、手術を行うことも検討します。
- 例えば、肛門括約筋が大きく切れている場合には、肛門括約筋をつなぐ手術を行います。
- また、腰にバッテリーを埋め込み、便失禁にかかわる神経(仙骨神経【せんこつしんけい】)を刺激し続けることで症状をよくする治療もあります(仙骨神経刺激療法【せんこつしんけいしげきりょうほう】といいます)。この方法は肛門括約筋が断裂していない症例にも効果が期待できます。
コラム:糞便塞栓症による溢流性便失禁の治療
- 寝たきりのお年寄りの方などに多い糞便塞栓症による溢流性便失禁は、摘便や浣腸、坐剤などで直腸を空にすると症状が改善します。
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どんな病気のことが考えられる?
- 特にご高齢の方では、便失禁の原因として「糞便塞栓症【ふんべんそくせんしょう】」が重要です。
糞便塞栓症
- 健康な方でも、年をとると直腸や肛門の感覚が低下し、便意を感じにくくなります。そうすると徐々に便が直腸の中に溜まり、いわゆる「糞詰まり」の状態になってしまいます。
- 患者さんは肛門が重苦しいので何度もトイレに行きますが、便の本体は硬くなって出すことができず、少量の液体状の便が少しずつしか出ません。このため、下痢と間違われることもあります。
- 大きな便の塊で肛門が開き気味になると、便の汁がいつもダラダラと漏れる「溢流性【いつりゅうせい】便失禁」となります。これは寝たきりのお年寄りの方などに多い症状です。
- 溢流性便失禁は、定期的に直腸指診を行い、便の塊がつまっていないかをチェックすることで予防できます。
ガイドラインなど追加の情報を手に入れるには?
- より詳しい情報や最新のガイドラインなどについては、以下の書籍をお勧めします:『便失禁診療ガイドライン 2017年版 』(編集:日本大腸肛門病学会)
- 潜在的な患者数が500万人ともいわれる便失禁について、基本的事項から診療の概要をエビデンスに基づき系統立てて解説したガイドラインです。一般臨床医から看護師、介護士まで広く役立つ一冊です。
おわりに
- 便失禁はニオイやよごれ、恥ずかしさから人に相談しにくい症状かもしれません。「もう歳だから」と、あきらめてしまっている方も多いでしょう。
- でも、便失禁の多くは、お薬で排便を整えることでよくなります。お悩みの方は、是非かかりつけ医にご相談ください。