降圧薬:どのような作用があるの?飲み合わせは大丈夫?副作用は?
更新日:2020/11/11
- 高血圧専門医の下澤達雄と申します。
- このセクションでは、最も患者さんの多い病気、高血圧の治療薬について、皆さんの疑問を氷解するべく解説させていただきます。
目次
まとめ
- 降圧薬とは、血圧が高い人や心臓病などで血圧を下げたい人が飲むお薬です。毎日忘れず飲み続けることで、安定した血圧を保つことができます。
- ご家庭でも血圧を測っていただき、自分の血圧を知ることが大切です。
- 薬の量の調節は主治医と相談していただき、必要に応じて変更してもらいましょう。季節や生活習慣の変化などで、お薬を変更することもよくあります。
- 生活習慣を改善することは薬を減らしたり、辞めたりするために大変大切なことです。減塩、運動、禁煙など心がけると良いでしょう。
どんなくすり? おおよその値段は?
- 降圧薬とは、血圧を下げる薬のことです。
- 血圧は、心臓からどのくらい血液が流れるか、そして血液が流れる血管にどれくらい抵抗があるかで決まります。血圧が高いときは、心臓から流れる血液の量が多い、または、血管が細くなり、血液が流れにくくなっている状態です。
- ですから、現在広く使われている降圧薬は大きく分けて、心臓から流れる血液の量を減らす薬と、血管の抵抗を下げる薬の2種類になります。ただし、どの薬も多かれ少なかれ両方の作用を持ち合わせています。
高血圧学会が推奨している高血圧治療薬の最初の一歩
- カルシウム拮抗薬:主として血管を広げるお薬です。副作用はしいて言えば急な血圧の低下によるドキドキ感、めまい、立ちくらみや、歯茎がはれる、便秘になりやすいという傾向があります。
- レニンアンジオテンシン系阻害薬:血圧を上昇させるアンジオテンシンというホルモンを抑制するお薬です。なお、胎児や乳児の腎臓に悪影響を及ぼすので、妊娠の希望がある女性や妊婦さんには処方しません。また、夏の暑い時期に利尿薬と一緒に内服していると、熱中症になりやすくなる、やる気がなくなると言った副作用があります。この系統のお薬の1つであるACE阻害薬では、咳が出る副作用があります。
- 利尿薬:主として取りすぎた塩分を尿に出すことで、血管内を流れる血液量を減らすお薬です(貧血とは違って水分が減ります)。内服開始後数日は尿量が増えます。ただ、体の中のカリウムが減ってしまう薬がありますので注意が必要です。また、尿酸が上がりやすくなり、ときには痛風の発作を起こします。稀ではありますが、日光に肌が弱くなることもあります。
- これらの薬はいずれも深刻な副作用が少なく、安全に、かつ効率よく血圧を下げることができます。また、尿たんぱくを減らしたり、心不全を予防したりといった多くの有用な作用が報告されているため、まず使う薬として推奨されています。
その他の高血圧治療薬
- β遮断薬:狭心症や心不全、心筋梗塞を起こした方に、内服用量を注意しながら使います。副作用として、量が多すぎるとかえって心臓の機能が抑制されてしまうこと、ぜんそくが悪くなること、脚の血液の流れが減ってしまうことがあります。
- α遮断薬:血管の抵抗を下げる点でカルシウム拮抗薬と似ていますが、前立腺の肥大を抑える作用もあります。しかし、立ちくらみが強く出ることもあり、注意が必要になります。
- これらの薬は血圧を下げることによる心臓、腎臓、神経などの保護効果が限定的であるため、内服が勧められる方は限られます。
お薬の値段に関してお伝えしたいこと
- 値段は1錠20円くらいのものから200円しないくらいのものまであります。
- 2種類の作用を一つの錠剤にした合剤と呼ばれるものもあります。これにすると、別々に薬を買うよりは安くなります。
- ジェネリックもありますが、最近では降圧薬のジェネリック薬剤に発がん性物質が混入している事例があり、大きな問題になっています。
血圧を下げることと健康の関係
- 第二次世界大戦後、世界各国で行われた健康調査の結果から、血圧が高いことと脳出血、心筋梗塞、腎不全など死に至る重大な病気との関連が明らかになりました。
- その後、血圧を下げることにより、これらの重大な病気を予防したり、進展を遅らせることができるようになりました。
どんな目的で飲むの?
- 高血圧の方に、血圧を下げる目的で飲んでいただきます。
- ただし、腎臓に障害があり、タンパク尿がある場合、心不全傾向にある場合、脳梗塞を起こしている場合、糖尿病がある場合、ご高齢の方の場合では、それぞれ最初に使う薬が異なり、また血圧をどこまで下げるかも変わってきます。
- 主治医と相談して、血液検査、心電図、心エコーなどの検査を行い、大きな病気にならないように適切な薬を選んでもらいましょう。
どのように飲むの?
- 多くのお薬で、1日1回飲めば翌日まで効果が続きます。血圧は通常、日中(仕事中)に高く、睡眠中は低くなりますので、朝1回の内服で血圧をコントロールできることが多いです。
- ただし、早朝に血圧が極めて高くなる方など、夕方に飲むことがすすめられる場合もあります。
- どのタイミングで飲めばよいかは、家庭での血圧を測りながら主治医とご相談ください。
降圧薬とのよい付き合い方
- 毎日続けて飲んでください:血圧が上がったり下がったりするのは脳、心臓、腎臓に負担をかけることになります。安定した血圧を維持するために、飲み忘れをしないようにしましょう。
- 飲んでいるお薬はすべて主治医にお伝えください:お薬はお互いに作用し合って効果が弱くなったり、強くなったりすることがあります。特に風邪薬や痛み止めを飲んでいる場合は、降圧薬の効果が弱まることがあります。
- グレープフルーツジュースの力を借りてみる:カルシウム拮抗薬はグレープフルーツジュースと一緒に飲むと効果が強く出ます。ですので、グレープフルーツジュースと一緒に飲むと薬の量を減らせることがあります。主治医と相談し、なるべく少ない薬で血圧をコントロールしましょう。
ご注意いただきたいこと
- 自己判断で薬の量を変更しないでください:家庭で測定した血圧値から、自己判断で内服量を変えてしまうと、せっかくの病気の予防効果が失われることがあります。家庭血圧の記録は主治医と一緒に見て、薬の量や種類、飲むタイミングを相談してください。
飲み始めるときの注意点は?いつまで使うの?自分でやめてよい?
- 高血圧の薬は基本的にはずっと飲み続けていただくお薬です。飲み始めたら、まずはしっかり薬を続けて血圧を安定させてください。
- ただし、一生飲み続けなくてもいい場合があります。特に生活習慣がよくなって塩分の摂取量が減れば、利尿薬が要らなくなることもよくあります。
- なお、薬を辞めるための判断には1年以上かかります。自己判断でやめることはせず、主治医と相談しながら、内服量を調整してもらってください。
副作用ってよく聞くけど、どんなことが起こるの?治療中の注意点は
- 副作用とは、目的としている効果以外に出る症状を言います。降圧薬でいえば、血圧を下げる以外に現れる良くない効果です。自覚できる副作用を下記にまとめました。
自覚できる降圧薬の副作用
- 乾いた咳:ACE阻害薬
- むくみ:カルシウム拮抗薬
- 便秘:カルシウム拮抗薬
- 歯茎の腫れ:カルシウム拮抗薬
- 日光に肌が弱くなる:利尿薬
- だるさ:夏にレニンアンジオテンシン系阻害薬と利尿薬を併用した場合
- 痛風の発作:利尿薬
- 立ちくらみ:カルシウム拮抗薬、α遮断薬
- 上記は薬の影響でなくても起こることがありますので、気になる症状が出た場合は、早めに主治医に相談してください。
- また、肝臓や腎臓に副作用があらわれることがあります。これらはご自分では気づけませんので、血液検査や尿検査を定期的に受けていただくことが大切です。
血圧を上げる他の薬剤、降圧薬との組み合わせ
- 内科以外のお薬にも、組み合わせによって降圧薬の作用を変えてしまうものがあります。使っているお薬はすべて主治医にお伝えください。
組み合わせで降圧薬の作用が変わる薬の例
- 甘草を含む漢方薬、抗がん剤の一部:血圧を上げる副作用があります。
- 目薬の一部:一過性に血圧が上がるものがあります。
- 痛み止めを長期に使う:降圧薬の効果が弱まることがあります。
よくある質問
食事などとの飲み合わせは?一緒に飲まないほうがいい薬はある?
- 塩分摂取量が多いと、降圧薬の効果は弱まってしまいます。塩分は控えめにしてください。
- グレープフルーツなどの柑橘系の果物では効果が強まるので、注意が必要です。
- かぜ薬、痛み止め、漢方など、降圧薬の効果を変えてしまう薬があるので、他に飲んでいる薬があれば必ず医師に相談しましょう。
家庭で血圧を測定する際の注意点は?
- 家庭血圧は、お薬を飲む前、薬の効果が一番消えているときに測定してください。
- その値が目標に達していない場合は、薬の飲み方を医師と相談しましょう。
追加の情報を手に入れるには?
- 日本高血圧学会が、2019年に医療従事者向けの新しいガイドラインを発行しました。一般の方向けには、動画で解説が配信されています。
- https://www.jpnsh.jp/info_movie02.html
降圧薬の基礎知識
- 新型コロナウイルスがACE阻害薬やARB服用と関連する可能性が危惧されていましたが、現時点では影響がないことが明らかになっています。
カルシウム拮抗薬
- ジヒドロピリジン系が最もよく使用されています。
- 確実な降圧と安全性から高齢者にも安心して使用されています。
- また、ARBとの合剤を用いることでアドヒアランスを上昇させることもできます。
- ジルチアゼムとジヒドロピリジン系の薬剤の併用、グレープフルーツジュースとジヒドロピリジン系との併用は薬物血中濃度を上昇させるため、投薬量を減らすことができる場合があるので有効に活用すべきでしょう。
利尿薬
- サイアザイド、サイアザイド類似薬、抗アルドステロン薬が降圧利尿薬として用いられています。
- 前2者と抗アルドステロン薬は作用機序が全く異なり、前2者は遠位尿細管のナトリウム交換輸送体を抑制するのに対し、抗アルドステロン薬はアルドステロン受容体を抑制します。
- よって副作用は前2者は低カリウム血症であるのに対し、抗アルドステロン薬では高カリウム血症、女性化乳房になります。
- 最近では女性化乳房が認められない薬剤も使われています。
- 利尿薬は塩分摂取量の多い日本人には適した薬剤であり、また心不全傾向のある患者では積極的に使用されています。
レニンアンジオテンシン系阻害薬
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)があります。
- 前述の抗アルドステロン薬もアルドステロンがアンジオテンシンにより刺激されることから、本系統に含める考え方もあります。
- ACEi, ARBとも尿たんぱくが陽性の慢性腎臓病、糖尿病患者では臓器保護効果が示されており、積極的に用いられます。
- またACEiは血圧値にかかわらず心不全の患者では心保護のために用いられます。
- 催奇形性があるため妊婦には禁忌となります。